はらはらと、空から雪が舞い落ちてくる。二月も中盤に差し掛かった雪の朝。思わず漏れた息も白く染まり、宙に溶けていった。
僅かに雪の積もった中、古びた電灯の影で、一人の少女が塀に背中を預けて佇んでいた。高校の制服に身を包み、その上からマフラーを巻いている。同じ色の手袋をした両手を寒そうに擦り合わせて、はぁ、と息をかける。その様子は、誰かを待っているような様子だった。
彼女の背後から、ざくざくと、雪を踏んで歩く音が聞こえてくる。それを耳にした彼女は緊張するように背筋を伸ばした。
「おはよう」
「お、おはようございます」
予想と期待の通りの声に、どもりつつも挨拶を返す。歩いてきたのは、彼女と同じ高校の制服を着た青年だ。彼女とは同じクラスの生徒でもある。
「朝から寒いね」
「そ、そうですね」
「マフラー、あったかそうだね。僕も持ってくれば良かったかな」
待ち合わせをしたわけでは無いけれど、そのままの流れで並んで歩き始める。少し歩いたところで、「あ、」と思い出したように少女が声を出す。
「どうかした?」
「えっと、一緒に登校しても、良いですか・・・・・・?」
上目遣いに、請うように確認する。もう歩き出しているのだから今更だが、彼女にとっては大事なことなのだろう。
「別に、確認しなくてもそのつもりだよ?」
「そ、そうでしたか。ありがとう、ございます・・・・・・」
「え、えへ・・・・・・」と照れたようにはにかむ彼女に、青年は大げさに感じたのか苦笑した。
「そういえば、なにか待ってたみたいだったけど、大丈夫?」
「へぅっ!?」
笑って油断していたのか、ビクッと変な声を出す彼女に、彼は不思議そうな目を向ける。その彼の瞳の透明さに、彼女は目が回りそうだった。
「い、いえ! そちらは解決しましたのでっ!」
「そう? ならいいんだけど」
やたらと必死になって否定する少女に、青年は深く考えずに引き下がる。
「・・・・・・雪、止まないね」
「そ、そうですね」
「このペースなら、昼休みには雪だるま作れるかな?」
「ど、どうでしょう。お昼前には止むって予報で言ってましたけど」
「そっか。ちょっと残念」
本当にちょっとだけ残念そうに、呟くような大きさで彼は言った。
「つ、作りたかったんですか? 雪だるま」
「ちょっとだけね。せっかく積もるなら、学校で雪だるま作りたかった」
「な、なるほど・・・・・・」
雪だるまが好き、というより、学校で作る、という非日常に興味があるのだろう。少女は心のメモ帳に記入する。
雑談をしながら歩き続けていると、軽く雪化粧した校門が見えてくる。周囲の生徒の目も増えてきた。立っている先生に挨拶しつつ、学校の敷地に入る。
「あ、あの・・・・・・」
「うん?」
靴を脱いで下駄箱から上履きを取り出したところで、少女は青年におずおずと話を切り出そうとする。
「え、えっと・・・・・・その。・・・・・・すみません、なんでもないです・・・・・・」
しかし、彼女の言葉は続かなかった。すぐ隣を上履きを履いた生徒が通り抜けていったのも、理由だろうか。「そっか」と、青年は気にした様子なく流す。
尚も何か言いたそうにしている少女に、今度は彼から切り出した。
「もし良かったら、明日も一緒に登校しない?」
「!? い、いいんですか!?」
「いいも何も、僕からお誘いしてる訳だし」
そう苦笑する彼に、少女は先程の言葉が自分の勘違いや幻聴でなかったことを理解する。
「は、はい! 喜んで!
よろしくお願いします!」
「うん、よろしく」
嬉しそうに頷いて表情を緩ませる彼女に、やはり大げさに感じたのか、青年は苦笑した。