次の任務は、政府要人の護衛らしい。一時間ほど前に聞かされた。そして五分もせずに支度をして、今は移動用車の中だ。うちの傭兵会社は時間厳守なのだ。もう少しルーズでもいいと、時々思う。
「さて、君の番だよ? 後輩くん」
「・・・・・・ちょっと待ってください」
先輩の言葉に、俺は顔を顰めつつ答えた。視線の先にあるのは、先輩の持つ二枚のカード。どちらかがジョーカーで、どちらかは俺の持つカードとのペアだ。端的に言えば、ババ抜きの最中だった。ボックス席のように向かい合う形の座席に座った俺と先輩は現在三位決定戦の最中である。先に一位抜けした後輩は、退屈そうに座席に寝転んでいた。
「セ~ンパ~イ、ヒマなんでとっとと負けてくださいよ~」
「まだ負けるとは決まってないだろ!」
「じゃあクイズです。センパイは今、何連敗中でしょ~か!」
「えっと、四連敗中だったかな?」
「先輩、大正解です!」
「ぐぅ・・・・・・」
何とかぐぅの音は出す俺と、パチパチ~と拍手する後輩。本当に暇なのが伝わってきたので、考えるのをやめて先輩のカードの片方、右側を引き抜く。
「ゲッ!?」
引いたカードは当然のようにジョーカーだった。俺の顔と声からそれを察した後輩が愉快そうに笑い声をあげる。
「センパイって、ホンット最高ですね~! 期待を裏切らない!」
「くっそ、なんでいつも二分の一を引くんだ・・・・・・!」
この時の俺は知らないことだったが、俺はいつも二択では右を選ぶらしい。随分後になって後輩から笑いながらそう言われた時は、本当に驚いた。
車に備え付けられたテーブルの下で二枚の手札をシャッフルする俺を、後輩はニマニマと嫌ったらしい笑みを浮かべながら足でつついてきた。
「えいえい。どうせ負けるんですから早くしてください~」
「ちょっ、やめろって!?」
脇は良くない、脇は。俺の数少ない弱点だ。他には首とか膝とか足裏くらいしかない。
それはさて置き、次の手番で先輩にスペードの3を引き抜かれ、何度目かわからないビリとなった。
「後輩くんもまだまだだね」
「なんでこんなに負けるんだ・・・・・・?」
「トランプも飽きてきましたね~。何か他のゲーム無いですか、センパイ」
そう言いつつ、俺の持参している娯楽の入ったトランクを物色し出す後輩。うちの会社は仕事さえすれば他は自由、といった社風なので、こうしていつもトランプやオセロ、チェスなどをしてリラックスしている。
しばらくそうしていると、先輩が「あ」と声を上げる。どうやら車窓から目的地が見えてきたらしい。
「護衛対象、どんな人だっけか」
「なんでも、兵器の設計士さんらしいですよ~。最近は移動要塞を作る計画を立ててるとか」
「移動要塞ぃ? 上手くいかなそうだな・・・・・・」
後輩の説明に、思わず眉を寄せる。俺がモチベーションを下げたと思ったのか、先輩が「まぁまぁ」と宥めてくる。
「結構な額を払ってくれてるし、お客さんとしては有り難い存在だよ」
「そうですよ~、成金バンザイ! ボーナスでなに買おっかな~!」
もう既に仕事を終えた気でいる後輩に、先輩と顔を見合わせて苦笑しながら。俺たちは仕事の準備を始めた。と言っても、娯楽の類いを仕舞うくらいだが。
さぁ、お仕事の時間だ。