太陽が真上から少し落ち、ちょうど間食が欲しくなる時間帯。東京の街を、二人の青年が歩いていた。
「地図の方向、本当にこっちで合ってる?」
「合ってるって。任せろ」
「それで過去に何回間違えてると思ってるのさ」
相方の疑うような視線に、自信満々に笑って返す茶髪の青年。その耳元では、大学生になってから付け始めたピアスが光っている。
「オレも成長してんの。お前は知らねぇーかもしれないけどさ」
眼鏡の青年は、そう言って地図を譲らない彼に目を向けつつ、
「間違えてたら、君には倒立でもしてもらおうかな。一分くらい」
「止めろ。さっき食べたマックが出る」
「マクドナルドは出てこないよ。ハンバーガーとかポテトだったものは出てくるかもだけど」
「細けぇーなぁ!?」
わかっているだろうに、あえて指摘する意地の悪さに、茶髪の青年は辟易とした顔になる。その様子に、ふふんと鼻を鳴らす眼鏡の青年。やはり、いい性格をしている。
「でも、もし遅刻したりしたら、ほぼ確実に怒られるよ。僕イヤだからね、あの子に怒られるの」
「わぁーかってるって」
今日は青年たち共通の幼馴染みの、初めての主演舞台なのだ。大学生になってから繋がりの薄くなってきた青年達を繋げているのは、彼女だった。彼女に二人で劇を見に来て、と言われて、かなり久しぶりに言葉を交わしたくらいなのだから。初めて主役を貰えたから、二人に見て欲しい、と。
「・・・・・・なに考えてるんだろうな、アイツ」
「僕らを観劇に誘ったこと?」
「カンゲキ? 劇を見て感激するのはこの後だろ」
「・・・・・・劇を観ること、で観劇だよ」
見ない間にIQ下がってるな、と眼鏡の青年は思った。
「あー、そうそう。そっちな。何でわざわざ二人で、って言ってきたんだろーな」
「本人に訊いてみたら?」
「訊けるかよ。アイツに直接理由を訊くなんざ、ナンセンス極まりねぇだろ」
己の矜持が許さない、と目で語る茶髪の彼に、へぇ、と感嘆する。
「君、ナンセンスなんて言葉使えたんだ」
「バカにしてんのか?」
「馬鹿だとは思ってた」
「このヤロー」
脅かすように歯をむいて笑って、彼は続けた。
「オレも色々と成長してんのさ」
「へぇ。具体的には?」
「最近、カノジョができた」
「へぇ。彼女・・・・・・彼女!?」
今日初めて驚いた顔をする眼鏡の青年に、してやったりと彼は笑う。
「え、彼女!? 彼女ってあの彼女!? 恋人とかガールフレンドの!?」
「おう。その彼女だ」
「馬鹿な・・・・・・」
目を白黒させる彼に、ピアスの青年はハッ、と笑い声をあげる。ここまでビックリさせられるとは、隠した甲斐があった。
「え、誰!? 僕の知ってる人!?」
「いんや? 多分知らねぇだろ」
その返事に、ほっとした様子の彼。ほぉ?と青年は眉尻を上げる。
「そーいうことか。安心しろって! オレがあんな脳天気で我が儘なポジティブシンカーに惚れるようなことねぇから!」
「な、何の話かサッパリわからないな。まるで、全然」
「いやーそっかそっか。そりゃ怒られたかーねぇよなー」
ニヤニヤと笑みを浮かべる彼に、眼鏡の青年は思い切り目を逸らした。
「何を思い違いしているのかわからないけど、勘違いじゃないかな? 君によくあることだ」
言及を避けるようにはぐらかす彼だったが、ふと足を止めた。
「・・・・・・そろそろ着かないと、おかしくない? 看板くらい見えそうなものだけど」
「あ? えーっと、ちょい待ってなー」
地図へ目を落とし、あ、と声を漏らす彼に、眼鏡の青年は冷や汗を流す。
「やっべ、途中で右に曲がるの忘れてた」
「君って奴は!? 本当、君って奴は!!」
「うーし、走るか!」
言うなり後方へ駆け出す茶髪の青年に、慌てて彼も足を動かす。
「あの子に怒られたら、君のせいだからな!」
「あっはっは! そうならねぇように走れ!」
その後、開演ギリギリに駆け込むことになった二人は、劇が終わった後でこっぴどく怒られることになるのだった。