夜の街で、スーツ姿の男が、花束を持っていた。彼はその鮮やかな花々を眼の前の女性に差し出しながら、腰を九十度に曲げて言う。
「先輩、好きです! 僕と、付き合ってください!」
「ダメ。やり直し」
告白された彼女は顔を赤らめるでもなく、時計を見ながらそう切り捨てる。
「そ、そんなぁ・・・・・・」
「時間帯を夜にしたのはいいわ。でも、仕事が終わって会社から出てすぐに告白、だなんて風情の欠片もない。
せめて高級イタリアンのレストランとか、夜景の綺麗な展望台とか、イルカもペンギンもいる水族館でなきゃ」
まるでテストの模範解答を提示するかのように、女性はスラスラと自分の好みの告白スポットを並べていく。
「あと、花束を渡すなら一日くらい隠し通しなさい。渡す相手にバレてるんじゃ意味ないじゃない」
「そんな、朝一番に来て隠してたのに・・・・・・」
どうやらバレていたらしい。前回は自分の机の引き出しに隠してダメだったから、社員用のロッカーに入れておいたのだが、それでもダメだったなんて。
落ち込んで花束を下ろす男性に、女性は「ん」と右手を出す。
その意図がわからずじっと手入れされている綺麗な手を見つめていると、焦れたように彼女は手を揺らす。
「なにしてるの。もらってあげるからさっさとよこしなさい」
「え、だってさっき意味ないって・・・・・・」
「いらないとは言ってないでしょ」
そう言ってのける彼女に、戸惑いながらも花束を差し出す。それを受け取った彼女はその香りを嗅ぐと、満足そうに笑った。
「百合の花、ね。及第点ってとこかしら」
その花言葉を知る彼女は彼から自分がそう見えているのだろうと予想し微笑む。しかし、綺麗だからという理由で購入していた彼は、そんなに百合が好きだったのかと勘違いした。
「じゃあ、そういう訳だから。前回よりも良かったわよ?」
「また、フられたんですね、僕・・・・・・」
「あら、私はフッてなんかないわよ? だってそれ以前の問題だもの。
告白として成立してないわ」
彼女の言葉に、がっくり項垂れる男性。しかし、それで折れていたら何度も告白していない。即座に顔を上げ、彼女の目を見て宣言する。
「僕、諦めませんからね!」
「えぇ、そうして頂戴」
はてさて、彼は気付いているのだろうか。彼女は告白方法の良し悪しを語れど、告白そのものについては一切口にしていないことに。はてさて、彼はいつ気付くのだろうか。毎回、告白される度に、彼女が嬉しそうに口元を綻ばせて、それを慌てて隠しているのに。