三題噺   作:高々鷹々

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お題『鎧』『百合』『クリームソーダ』

 駅前の、やや小さめな噴水の前に、青年が立っていた。シャツにスキニータイプのパンツというシンプルなスタイルながら、芋臭さを感じさせない装いで、誰かを待っている様子だった。けれどスマホを見るでもなく、町行く人々を眺めている。

 少しして、彼はこちらへと向かってくる一人の女性を目に留めた。シースルー生地の白いブラウスに、桜色のワイドパンツ。首から下げたスマホに視線を向けながら歩く彼女は、白い有線のイヤホンをして、まるで周囲に目を向けていなかった。

 彼の視線に気付いたのか、低いヒールを響かせながらやや足早に歩いてくる。

「お待たせ。久しぶり」

「久しぶりだね。そんなに待ってないよ」

 イヤホンを外しながらの言葉に、青年は微笑みで返した。その反応に、彼女は目を細めて不満を露わにする。

「・・・・・・なんか、言うことないの?」

「今日もとっても可愛らしいね。言うまでも無いことだけど」

「そういうの、ちゃんと口に出さないと伝わらないから」

 不機嫌そうにそう言って、彼女はスマホの電源を落としてバッグへと放り込んだ。

「じゃ、行こうか」

 青年の差し出した手を、彼女は躊躇無く取って頷く。なんなら、食い気味に握っていた。

「エスコート、よろしく」

「もちろん」

 そして歩き出して、繋ぎ方が不満だったのか彼女は一度手を離し、彼の手を開かせて指を絡ませるようにしてから、再び歩き出した。

 

 二人が向かったのは、オシャレなカフェだった。木造の、白が多く使われている外観に、飾り文字で記された店名。都会らしい、いかにもなお店の扉を、青年は押し開ける。

 外装もオシャレなら、内装もオシャレだった。テーブルや椅子は白く、壁紙はレンガ風になっていてシックな空気感を作っている。窓は鎧戸になっていて、外の景色こそ見えないものの、店内のシックな雰囲気に合っていた。

「外、見れないんだね。残念」

 だが、彼女はそうは思わなかったらしい。日光すら殆ど通さない窓を、少し残念そうに眺めている。

 間もなく店員に案内されて座ったのは、店のちょうど真ん中あたりの席だった。

 対面に座った彼女はメニューを手に取り、真っ先にドリンクのページを開いた。二つあったので、彼も手に取ろうとすると、隣へと移動してメニューを見せてくる。

「ここ、クリームソーダが美味しいんだって」

「あー僕、炭酸飲めない」

「そうだっけ。じゃあどうする? コーヒー?」

「カフェインも摂らないようにしてる。トイレ近くなるから」

「もー、何なら飲めるの? 紅茶?」

「紅茶の味、苦手」

「・・・・・・お冷やでも頼む?」

「正直、そうしたい」

 こちらに呆れるような目線を向けてくる彼女に、苦笑で返す。結局、無難なウーロン茶を頼むことにした。店員さんを呼んで、注文を済ませる。彼女は目玉商品のクリームソーダにしたようだ。

「そういえば、お冷やって元々水商売で使う言葉だったんだって」

「・・・・・・それ、私が言って直ぐに言う?」

「え、ごめん。嫌だった?」

「ちょっと、ムってなった」

 言いながら、片足を青年の足に絡ませてくる。足と足を交差させた形だ。

「そっか。気をつけるよ」

「別にいいよ。面白いし。それで、何でそれが浸透したの?」

「ごめん、そこまでは・・・・・・」

「あっそ」

 大して興味もなかったのか、彼女はそう言って会話を打ち切る。彼自身、会話の中でなんとなく聞いただけだったから、詳しく知らないのだ。

 肩にもたれかかってくる彼女に、彼は再び苦笑する。

「で、どうなの? そっちは。大学、上手くやれてる?」

「まあまあかな。来年からゼミとか始まるし。就活とかやらなきゃだし」

「あー、そうじゃんメンドくさっ。就職とか、誰か勝手に決めてくれないかなー」

「それで合わない仕事させられたら嫌がるんでしょ?」

「当たり前じゃん」

 何とも理不尽だが、そんなものだろう。自分で決めるのは面倒なのに、誰かに押しつけられるのも嫌い。誰だってそうだ。

 洋服に頭を擦りつけるようにしながら、彼女は彼の目を覗き込むようにして見る。

「ねー私、どんな企業が向いてると思う?」

「君なら、どんなところでもやっていけそうだけど」

「そういう話してるんじゃない」

「わかってるって。

 そうだなー、コミュニケーションが重視されてる会社、とか」

「社風の話もしてないー。それに人と話すのとか、面倒だし」

 自身の憂鬱がそのまま態度に出たように、ぐでーっと机に身体を預ける。その直後、頼んだ飲み物が届いて、彼女は慌てて身体を起こした。

「そう言えば私、アイス苦手なんだよね」

「だよね。なんで頼んだの?」

「食べて?」

「そんなことだろうと思った」

 彼女はカトラリーボックスからティースプーンを取り出し、アイスをすくって青年へと差し出す。彼はそれを躊躇無く食べた。

「ん、美味しい」

「なら良かった。こういうのって、混ぜる前提で手抜きされてるのかと思ってたから」

「それを食べさせてきたんだ・・・・・・。

 飲み方は人それぞれだし、別々に楽しむ人もいるんじゃない?」

「私たちみたいに?」

「そういう別々って意味じゃ、んぐ」

 都合が悪いからか、アイスを突っ込むようにして食べさせられる。やや危険を感じたが、悪戯っぽい笑みの前にどうでも良くなって、青年はアイスを味わった。

「ねぇ、お腹空かない?」

「アイス全部食べさせた後によく言うよ」

「だって、私は食べてないし」

 そう言って、ただのメロンソーダになったクリームソーダを飲んだ後、寄りかかりながら彼女はメニュー表を開いた。

「あ、ハンバーガーあるよ。ハンバーガー」

「ホントだ。美味しそう」

「それ以外にしてね」

「えー?」

「白い服だから、汚したくないの。察して」

「もし汚すとしたら、君が横から食べようとするからだよ・・・・・・」

 そう言いつつ、青年はハンバーガーのページをめくって次を開いた。

 あーでもない、こーでもないと言いながら、メニューが決まったのは暫く経ってからだった。

「え、ねぇ、カップル専用メニューとかあるよ。頼む?」

「飲みにくそうだし、これ炭酸っぽいんだけど」

「食後のデザートこれで良くない?」

「話を聞いて欲しいんだけどなぁ」

 注文するまでに、更に五分ほど使って、彼らは店員を呼んだ。青年はパスタ、彼女がフレンチトーストだ。

 少しすると料理が届き、二人はようやく食事を始める。

「あ、ごめん」

 食べながら、青年の肘が彼女に当たってしまった。というのも、右利きである彼の右隣に彼女が座っている上、足と足が触れ合うほど近距離にいるからなのだが。

 彼の言葉に、彼女は半眼を向けた後、にんまり笑った。

「えいっ」

 左手を彼の右手の内側に通し、絡める。腕の可動域が狭まって食べにくかったが、彼は苦笑するたけだった。

「君、いっつも笑ってるよね。なに、笑顔ポイント貯めていつか交換するの?」

「それ、百合わせても何も交換できなそうじゃない?」

「じゃあ千貯めて、良い感じの景品と交換して私に送ってよ」

「渡せるの、いつになるんだろうなぁ」

 学生である二人は、中々こうして二人で出かける時間を作れずにいた。講義をサボればできないことは無いが、一度そうやって学業を疎かにしたら歯止めが効かなくなると、自覚しているのだ。

「楽しみにしてるから。よろしくね」

「なら今年の誕生日あたりに渡そうかな」

「プレゼント二つってこと?」

「欲張りすぎだよ」

「えー、良いじゃん別に。ほら、分けてあげるからさ」

 そう言いながら、彼女は切ったフレンチトーストをフォークに刺してズイッと差し出す。先程もそんなやりとりをしたことを思い出しながら、彼はトーストを食べた。

「ん、美味しい」

「ねね、私、そっちのパスタも気になってたんだよね」

「じゃあ、ちょっと食べる?」

 言いながら、パスタの皿を彼女の前へと僅かに滑らせる。彼女はわざとらしく不服そうな顔をした。

「そーゆーことじゃない」

「冗談だって。はい、どうぞ」

 青年は自身のフォークにパスタを巻き付け、同じように差し出した。彼女は機嫌良く微笑んで、パスタをしっかりと口に含む。

「え、待ってメッチャ美味しい。もうちょっと食べていい?」

「いいけど、そんなに食べられる?」

「食べきれなかったら、私の分食べてくれるでしょ」

「そりゃ、残すのは抵抗あるし食べきるけどさ・・・・・・」

 何度目かわからない苦笑をする青年を尻目に、彼女はパスタを自分のフォークで食べ始める。時折、思い出したかのように彼の方を向いて待ってみれば、青年は黙ってパスタを巻いて差し出すのだった。

「ふー、美味しかった」

「それなら良かった」

 結局、彼女は彼のパスタと自身のフレンチトーストも食べきった。青年もちょっと驚くほどの健啖家っぷりだった。

「ごめんね、思ったよりも食べられちゃった。追加でなんか頼む?」

「いいよ。デザートで何か食べるから」

「それと、カップル専用メニューもね」

「忘れてなかったかぁ・・・・・・」

 彼女は知っている。困ったように苦笑する彼が、結局は自分のワガママを許してくれることを。さっきパスタを食べきったのだって、彼だったら気にしないとわかりきっているからだ。予想以上に美味しかったのも、本当だが。

「あ、このティラミス美味しそう」

「まだ食べるんだ・・・・・・」

「スイーツは別腹だよ。

 とはいえ、流石にお腹が厳しいから、ちょっと食べて欲しいけど・・・・・・」

「僕、まだ食べられるから、三つくらいなら頼んでいいよ。ちょっとずつ摘まんでいいから」

「ホント? じゃあ遠慮無く頼むね。すみませーん!」

 その後、スイーツを五つほど頼んだ彼女だったが、青年は苦笑しつつも全部食べきるのだった。

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