三題噺   作:高々鷹々

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お題『充電器』『海』『柴犬』

 海と言えば、青い空に白い砂浜、なんてフレーズがよく使われるけど。ここまで人が多いと、どっちもよく見えないな、なんて思った。

 砂浜にはまるで陣取り合戦のようにいくつものパラソルやシートが置かれているし、海の浅瀬は割って入らないといけないほどに混雑している。というか、全体的に人が多い。

「もうなんか、見てるだけで疲れてくるね。人混みに酔っちゃいそう」

「だから言ったじゃん。時期をズラしてオフシーズンに来ようって」

 人の波から逃れるようにパラソルの一つへと入れば、そこには海に来てまで携帯ゲーム機で遊んでいる、幼なじみの姿があった。

「だって、海と言えば夏でしょ。冬に来たって寒いだけだよ」

 わたしがそう言い返せば、彼女は呆れたように一度目を閉じて、ゲーム画面に視線を戻した。その隣に、腰を下ろす。

「こんなところに来てまでゲーム?」

「君が言ったんじゃん。『何してても良いから一緒に行こう』って」

「まさか、ホントにゲームするとは思わなくって」

 水着を着た人でごった返す海に視線を向ける。わたしと幼なじみは、どちらも上着を着ていてあまり肌を晒していなかった。わたしのはラッシュガードだけど、彼女は元より水に入るつもりがなかったのか、普通のパーカーだ。

「上、脱がないの? 暑くない?」

 ちらり、と幼なじみがこちらを見た。無言の空気を気まずく思ったんだろうか。や、相手はわたしだし、多分ただの雑談かな。

「日焼け止め、テキトーに塗っちゃったから。脱いじゃうと、後でまだら模様だよ」

「そう。熱中症とかならないでね、ウチ介抱とかできないから」

「もしそうなったら、ライフセーバーさん呼んでね」

「なんて? ライトセーバー?」

「違うよ。フォースの力があったら活かせるかもしれないけど」

 冗談かと思って彼女の顔を見てみると、どうやらホントにわかってないらしかった。ダメだこりゃ、とわたしは肩をすくめる。

 それから暫く、お互いに無言だった。ビーチは色んな人の声がして、静けさとは縁遠い。でもこうして一緒に涼んでるだけで、なんとなく心が落ち着くを感じた。

 幼なじみを置いて、一人で遊んでみたけど、あんまり楽しくはなかった。まだ意外と身体を動かせて嬉しかったけど、それだけだ。

「・・・・・・」

 海に来て浮き足立っていた気分が落ち着いてくると、色々と考えそうになる。学校のこととか、将来のこととか、家族のこととか。だから、目を逸らすためにお隣さんに話しかけた。

「ねぇ。なんで海に付き合ってくれたの?」

 幼なじみはカチカチとゲーム機のボタンを押しながら、首を傾げる。一緒に、ゲーム機も傾いている。

「うーん・・・・・・なんとなく?」

「なんとなくって・・・・・・ホント、猫みたいだよね、あなた」

 気まぐれで、マイペース。こっちから距離を詰めようとすると遠ざかるのに、遠ざけたい時は近くに来る。今回だって、断られると思って誘ったのに。

「そういう君は、犬みたいだよね。柴犬かな、忠犬ハチ公みたいな感じで」

「なにそれ。悪口?」

「別に、ただそう思ったってだけだよ。むしろ褒めてる」

 忠犬とか言われて喜ぶ乙女はあんまりいないと思う。

「あと、ハチ公は柴犬じゃなくて秋田犬だよ」

「いーじゃん、細かいことは」

 雑談で気が散ったのだろうか。「あ、」と彼女は声を漏らし、渋い顔を作る。どうやら、ゲームの状況が良くないらしい。そのまま、電源を切った。

「あー、疲れた。てか暑い」

 そう言って、彼女はシートに身を投げ出す。特に動いてもないのに疲れただなんて、よく言うよ。このパラソルも、設置したのはわたしだし。

「ホントにね。人が多いからかな」

「・・・・・・ちょっと人口ダイエットしようよ。太りすぎ」

「全体の数じゃなくて、ここに集まってるのが悪いんじゃない?」

「じゃあ入場制限。チケット制にしてさ、一日に入れる量を少なくするの。

 あれ、けっこういいじゃん。ウチ天才か?」

「でもそうしたら、わたしたちも入れないかもよ?

 ヤじゃない? チケット取れなくて海に行けないの」

 彼女にならって、わたしもシートに寝転がる。砂が熱されてるのか、思ったよりも暑い。あと、人の歩く音がよく聞こえる。

「海ごときがUSJみたいになるの、なんか癪だな」

「うわ、ホントに嫌そうな顔してる。あなたの中で、海の立場ってどれだけ低いの」

 そう言って、軽く笑い合った。どちらともなく、身体を起こす。

「・・・・・・逆に聞きたいんだけどさ」

「なに?」

「なんでウチを海に誘ったの?」

 急に真顔になって、彼女はこちらの目を見つめてくる。

「ビックリした。USJの話をするかと思ったのに」

「や、ウチも話題を遡りすぎた感はあるけど。

 でも気になったから仕方ないじゃん」

 ホントに、マイペースだ。だからこそ話を逸らそうとしても上手くいかないだろう。だから、誤魔化すことにした。

「特に理由はないよ。強いて言うなら、なんとなく?」

「真似すんな」

「いや、ホントに理由とかなくって・・・・・・そこに海があったから?」

「なんだそれ。せめて山でしょ」

 馬鹿らしくなったのか、彼女は笑ってまたゲーム機を取り出した。そして、「あ」と声を漏らす。

「・・・・・・充電器、借りてくる」

「ウソでしょ、どんだけやってたの」

「いいじゃん、海に来てもなにすればいいかわかんなかったの!」

 怒ったように言って、彼女は海の家へと駆け出した。ああいうのって、基本はスマホ用なんだろうけど。

「・・・・・・なんで海に誘ったの、か」

 もちろん、理由はある。言わなきゃいけないことがある。伝えたいことがある。でも、今日まで伝えられなかった。

 膝を抱えて、パラソルの下から空を見上げる。海に誘ったのは、気晴らしのためと──普段と違う場所でなら、言えるかもしれない。そう思ったからだ。

 でもこの様子だと、今日も言えそうにない。幼なじみとしての距離感は心地よくて、それを壊したくない。

「はぁ・・・・・・」

 溜め息を一つ、足の間に落とす。いつになったら、言えるんだろうか。

 

 その後、「充電器、全部貸し出し中だった! モバ充貸して!」と全力疾走してきた幼馴染みのお陰で、憂鬱な気分は一気に吹き飛ばされた。

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