三題噺 作:髙橋孝之
身体が重い。だるさとかだけじゃなくて、物理的に。アラームで目を覚ましたわたしは、何かが乗ったままの身体を無理やり起こした。
「あ、きもーら・・・・・・おはよう」
わたしに乗っかっていたのだろう。ベッド上のキモーラに挨拶し、身体を伸ばす。キモーラは「キモッ」と挨拶を返してくれた。
寝る姿勢が悪かったのか、キモーラのせいか、節々が痛い。身体を労りながらベッドから降りて支度を始めた。
「えっと、時間割は昨日準備したから・・・・・・あっ、キモーラ! 服で遊ばないのっ」
「キモッ」
顔を洗って部屋へ戻ったら、キモーラはわたしが脱いだままにしていた服を更に散らかしていた。どうせ選択するからいいけど、噛んだりするのはやめて欲しい。なんとか服を取り返して、洗濯に出した。
リビングに向かうと、珍しく兄が起きていた。うわ、面倒くさい。
兄は不健康そうな顔でこちらを振り返った。目が合う。
「・・・・・・おはよ」
「・・・・・・ん」
兄はそれだけだった。妹相手に、挨拶もできないのか。苛立つわたしに気付かないまま、兄の視線はキモーラへと向かった。
「・・・・・・ソイツ、いつまで家に置いとくつもりだよ」
早くどっかやれ。言外に示しながら、兄はうんざりしたような眼をキモーラに向けた。
「ずっとだけど?
あと、そいつじゃなくてキモーラだから」
「名前まで付けてるのかよ。キメェ」
「キメェじゃなくてキモーラ」
「・・・・・・」
舌打ちを一つして、兄はキッチンを出た。去り際に、キモーラのことを本気で睨み付けながら。
「なにあいつ。そっちの方がキメェっつーの。
ねー、ヒドいよね、キモーラ?」
「キモッ」
キモーラは何も理解していないような雰囲気で相づちを打つ。お気楽でいいなぁ、と思いつつ朝ご飯の準備を始めた。と言っても、テキトーにトーストを焼いてバターを塗るだけだ。
トースターに6枚切りを2枚入れたタイミングで、スマホが揺れた。通知を見れば、友人が写真を送ってきてくれたらしい。写真には、ピースした彼女と、キモーラとよく似た姿が映っていた。彼女はわたしのキモーラと同じように、『アルタイル』という子と一緒に居るのだ。
『アルタイル、今日めっちゃ元気なんだけど!』
続けて、そんなメッセージが届いた。
『アルタイルも可愛いね!』
『でも聞いてよ、うちのキモーラがぜんぜん話聞いてくれないの』
『ひどくない?』
『それなら般若心経でも読み聞かせたら?』
『キモーラにも優しさが芽生えるかもよ』
『無理だよ!』
『わたしが読めないもん』
『ちなみにウチもやってない』
『読めないし』
『じゃあ駄目じゃん』
相変わらずな友人に、ちょっと笑ってしまった。彼女とは、キモーラたちのお陰で仲良くなれたのだ。あれはそう、・・・・・・? あれ、いつだっけ?
「え、わたし何か忘れてる?」
違和感が、口を突いて出た。なんか、変。でも、なんだろう。よくわからない。あたまがぐるぐるする。
「キモッ」
纏まらない思考は、キモーラの声に遮られた。続けて、トースターがパンの焼き上がりを告げる。キモーラが教えてくれたみたいだ。
「ありがと、キモーラ」
「キモッ」
トーストの片方をキモーラに差し出す。キモーラのことはよくわからないけど、別にどうでもいっか。キモーラと過ごすのは楽しいし。わたしはキモーラと一緒に居たい。
わたしはそうして今日も、遅刻ギリギリまでキモーラと過ごすのだった。