三題噺   作:高々鷹々

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お題『校門の前』『翡翠』『叩く』

 約束の時間の十分前を告げるアラームが鳴ったのを聞いて、俺は家を出た。向かう先は、待ち合わせ場所の学校だ。家からは五分とかからないため、遅れることは無いだろう。

 そう思って普段通りのペースで歩いて向かうと、ソイツは校門の前で顔を顰めて仁王立ちしていた。

 

「遅い」

 

「まだ約束の五分前なんだけど」

 

「でも、アタシは待ってたの。なら言うことがあるんじゃないかしら?」

 

「・・・・・・? よほど楽しみにしてたんだな」

 

「っ、そうだけど! そうじゃなくて!」

 

 ソイツは『私、怒ってます』と主張するように顔を赤くして声を上げる。怒りの理由がわからなかった俺が首を傾げると、はぁ、と諦めたようにため息をつかれた。

 

「ま、いいわ。行きましょ」

 

「ああ」

 

 頷いて、どちらともなく歩き出す。ここからバス停に向かい、バスに乗って行く先は博物館。なんでも、コイツが見たい展示があるらしく、一緒に行かないかと誘われたのだ。

 

 バスに十分ほど揺られて目的地に辿り着き、受付を済ませて入場する。そして化石模型や大昔の昆虫などの他のコーナーなんて目に入らない様子でズカズカ進んでいくコイツに置いて行かれないように付いていくと、少し開けた暗い場所に出る。

 

「見て見て! 凄いわよコレ!」

 

 目当ての展示品を前に興奮しているのか、バシバシ腕を叩いてくるコイツに少し顔を顰めた。周りに他のお客さんが居ないのが幸いだ。

 そこにあったのは、色んな種類の石だ。天然石、と言うんだったか。宝石として加工される前の、自然のままの形をした石たち。石に関心の無い俺でも、圧倒されてしまう迫力が、そこにはあった。

 

「すっご・・・・・・!」

 

 夢中のあまり自分の世界に入って石を見ているソイツを放置して、俺も俺でショーケース越しに石を眺める。光を複雑に反射し様々な色を見せる原石に、思わず深い息が漏れた。煌びやかな結晶になっているものだけでなく、曇ったような、路端の石と見間違えそうな石も並んでいる。それはそれで味わい深い。

 

 特に気に入ったのは翡翠の原石だ。俺の知っている翡翠とは異なり、まだ磨かれていないそれは灰色の部分が多く、その中からわずかに覗く緑色が、曇り空の雷みたいで面白い。

 

「どう? 来て良かったでしょ?」

 

 俺が翡翠を見つめていると、自慢げな顔のソイツが隣に居た。素直に「そうだね」と頷くと、ますます得意げになった。鼻が高いあまり怪我しないと良いが。

 

 他の展示もほどほどに見て回った、帰り道。バスの中でふと気になっていたことを訊いてみる。

 

「そういえば、何で俺を誘ってくれだんだ? 今まで、一緒に出かけたことなんて無かったのに」

 

「別に理由なんか無いわよ? なんとなくアンタを誘おうって思ったのと、どうせアタシと一緒でヒマだろうと思っただけ」

 

 そんなものか、と俺は頷いた。コイツの言う通り、暇ではあった。自分以外いない家ですることなんて、読書か昼寝くらいしかない。

 

「あ、そうだ。また来週どこか出かけましょうよ。家でゴロゴロしてるより、アンタと出かけてる方が楽しいし」

 

 たったいま思いついたのだろう。無邪気にそう笑うコイツに、俺は少し苦笑する。とは言え、悪い気はしない。

 

「良いな。またどこかに行くか」

 

「なら決まりね! 今から来週が楽しみだわ!」

 

 上機嫌になるコイツに、少し安請け合いしたかな、と思うが、問題ないと結論付ける。だって、俺も今から楽しみに思っているからだ。

 

 

 これってもしかしてデートだったのでは、と気づいたのは、電気を消してベッドに入った後だった。




執筆日 八月二十二日
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