木枯らしの吹く校庭の隅を、僕は後輩と共に歩いていた。校庭の中央やコートでは、運動部が声を張り上げて身体を動かしている。
僕含め三年生が活動を終えた中で行われる部活動は、人数が減っているのもあってどこか活気が少なく見える──というのは、僕の願望が混じっているからかもしれない。三年生が居なくなった後の方が元気だったりしたら、ちょっとショックだから。
だから、ちょっと後輩に訊いてみることにした。
「写真部のみんな、元気にしてる?」
「今まで通りですよ?
というか何ですか、その何年も会ってないみたいな聞き方」
「や、別にそんなつもりは無かったんだけど」
今まで通り、という返事に、僕は安心すると同時に寂しさを覚える。どう答えて欲しかったんだろうか、僕は。
「あ、この辺りです」
「ここで良いの?」
その場所は、簡素なベンチが一つあるだけの、あまり写真を撮るのに向かない場所に見えた。奥には簡単な植物園があり、その中の方が写真が映える。
「はい、ここが良いんです」
しかし、後輩がそう頷くなら僕から言うことは何もない。大人しく彼女の前に立ち、言われるがままに位置を調整する。
しかし、感慨深いものだ。入学した当初はスマホですら撮影しないくらい写真とは縁が無かった後輩が、今は一眼レフとまでは行かないでも立派なカメラを構えている。それで撮ろうとしているのが僕なのは、ちょっと疑問だが。
「よし、撮りますよー」
「いやゴメンちょっと待って」
「え、どうかしましたか先輩」
「いや、ちょっとね」
別にどうもしてないが、ちょっと心の準備をしたかった。いつも写真を撮る側だったので、被写体としての覚悟が僕にはない。いや、そんなもの必要ないんだろうけど、ちょっと時間が欲しかった。
「もういいですか? 撮りますよ」
「あ、うん。よし。いいよ」
気の短い後輩め、と心の中で思いつつ、腹をくくってレンズへと目を向ける。そして、後輩の「はい、チーズ」という声と共に目線を校庭へと移した。
「・・・・・・あの。何で目を逸らすんですか」
「や、ごめん。なんとなく・・・・・・」
なんとなく、見つめられなかったのだ。レンズの奥にある、後輩の瞳が。気恥ずかしいのもあるが、彼女に直視されてると思うと、どうしてか身体がむず痒くなる。
「もう、しっかりしてくださいね。私と先輩の、数少ない思い出になるんですから」
「思い出、ね・・・・・・」
そう言われると、もうすぐこの高校を去る身としては素直に従うしかなくなる。
・・・・・・そう言えば、このベンチで何回か後輩と会話したことがあったっけ。それもまた、思い出だ。
「もう一回撮りますよ。はい、チーズ」
今度はしっかり後輩の方を見つめ、しっかりと撮られる。我ながら完璧なポーカーフェイスだったと思う。いつか写真を見返した時に、恥ずかしがってる自分を見るのは嫌だった。
「・・・・・・先輩、意外と写真映り良いですね。卒業した後も被写体としてお呼びしてもいいですか?」
「え、やだよ恥ずかしいし」
僕が即座に断ると、後輩はとても恨みの籠もった瞳を僕に向けてくる。なんでだ。
「何で僕はそんな目で見られてるのか、訊いてもいい?」
「理由は逆恨みなので訊かない方がいいですよ。ええただの逆恨みなので」
その言いっぷりは僕に非があるんだろうなぁきっと。見当も付かないから黙っておくけど。
「では用事も済みましたし帰りましょうか。ほらさっさとしてください寒いので」
「えぇ・・・・・・理不尽・・・・・・」
口ではそう言うものの、本当にそう思ってる訳ではないので歩き出した後輩にそのまま付いていく。確かに少し肌寒くなってきた。
校舎へと戻る道すがら、ふと後輩が振り返る。
「あ、先輩。卒業式では制服の第二ボタン取られないようにしてくださいね。私が貰うので」
「別にもう着ることは無いだろうし良いけど・・・・・・」
ボタンなんか貰ってどうするんだろう。自分の予備とか? でもサイズ合わないしな・・・・・・何かのおまじないだろうか。
首を傾げる僕にわざと聞こえるようにか、大きくため息をつく後輩と共に、僕は後もう何回も来ないであろう校舎へ入っていった。
執筆日 八月三十日