ベルの音と共に授業が終わり、教師が教室を後にする。そうして室内がざわめきを帯びる中、それを見計らったかのように、机の上にうつ伏せになって眠っていた少女が顔を上げた。
と言ってもまだ意識は完全ではなく、瞳は半開きで宙を見つめている。頬には枕にしていた制服の袖の跡がっくっきりと付いており、黒く伸びっぱなしの髪の毛の一部を食んでいる。
「ふぁ・・・・・・」
あくびにも満たないほど軽く息を吐き、酸素を取り込んで徐々に夢の世界から現実へとチャンネルを合わせていく。
目を擦りながら彼女が自分を把握した頃、前の席に座っている女子生徒が、眠たげな様子に微笑みながら話しかけてくる。垢抜けている彼女は、色の抜けた金のロングで、シャツのボタンを二つも開けている。手首に付けられた水色のシュシュが、それとなく存在感を放っていた。
「おはよー。随分とグッスリだったね」
「うん・・・・・・何でか授業が終わると起きられるんだけど」
「あはは。ちょっとわかるかも」
授業の終盤になると何故か眠りから覚める、というのは、金髪の彼女も覚えがあったらしい。
会話をしながらも再び「ふわぁ」とあくび未満の呼吸をする黒髪の彼女に、金髪の少女は楽しげな笑みとも苦笑ともとれる笑顔になる。
「まだ眠そうだね。寝不足? それとも、なんか良い夢でも見てた?」
「なんか、魔法のブーツがあって、それを履くと、雲の上を歩けるようになるの」
「それだと雲の上に行くのが大変じゃない?」
「うん。だから富士山登った」
「めちゃくちゃ大変じゃん」
「ううん。エスカレーターあったから。快適だったよ」
「富士山に? めちゃくちゃ便利じゃんそれ!
・・・・・・うちの通学路にもできないかな」
「あったら便利だよね」
「階段も全部エレベーターにしちゃってさー。あ、それだと混んじゃうか」
閑話休題。
「それで・・・・・・雲の上を歩いてたんだけど」
「うんうん」
「日差しが気持ちよくて、雲の上でお昼寝したくなって」
夢の中でまで昼寝しようとする彼女に、金髪の少女は小さく笑いながら続きを促す。
「それで? 寝心地良かった?」
「できなかった」
「え?」
「ブーツじゃないと雲の上に立てないから、寝転がったら落っこちちゃって・・・・・・」
「あちゃー・・・・・・」
「そしたら目が覚めた」
「夢で良かったね」
現実ではあり得ない前提ではあるが、それでもクラスメイトの無事に安堵する金髪の彼女に、黒髪の少女は「いい人だな~」となんとなく思った。
そのまま会話は雑談へと移行し、最近どんな夢を見ただとか、夢診断というものがあるだとか、夢トークに花咲かせていると、あっという間に休み時間が終わる。
そして授業で使うプリントを教師が配布し、金髪の少女が後ろへ回そうと振り返ると、
(って、また寝てる──!?)
どんだけ昼寝が好きなんだろう、と思いながら、彼女の目を覚ますべく、金髪の少女はその黒い髪の中心部に、えいやっと手刀を落とした。
執筆日 九月二十八日