船体が揺れ、アラートが鳴り響く。エラーメッセージで視界が赤く染まる中、操縦桿の必死に動かすも、手応えは感じられない。墜落、の二文字が脳裏をよぎる。いや、墜落ならまだマシだろう。このまま船の機能が停止して、助けが来るかもわからないまま宇宙を漂うことになりかねない。こんな未開拓の宙域に一人で来るんじゃなかった、と舌打ちする。
モニターにも異常が発生しているのか、外の状況は全くわからない。わかるのは、何かに引き寄せられている、ということだけ。ブラックホールでないことは確かだ。もしそうだったら、とっくに吸い込まれてペチャンコになっている。
そうして足掻き続けていると、不意に振動が収まり、視界が明瞭になる。先ほどまでけたたましく明滅していたエラーも鳴りを潜め、モニターも回復する。
「急に何だ・・・・・・?」
この宇宙船の持ち主である青年は、突然正常に戻った宇宙船に、額の汗を拭いつつぼやいた。異常が直ったなら良いが、そうなるとさっきまでみっともなく足掻いていたのが滑稽に思えてしまう。
調子の戻ったモニターから外の状況を確認してみると、どうやらどこかの星に着地したようだ。そのくせ、不時着の衝撃も無ければ、エンジンも不自然に停止している。稼働させようとキーを回すも、動く気配もなかった。偶然の出来事ではないと察した彼は、これから起きる事態を思い、頭を抱える。
どうしたものかと唸っていると、手首に巻かれたブレスレットのような電子機器が目に入る。最新の宇宙服であるソレが開発されて、どれほどの年月が経ったのだったか。彼の身につけている旧式の物でさえ、身体のどこかに触れさせておくだけで宇宙空間での活動に耐えられるようになる優れものだ。仕組みはよく知らないが。
人類が宇宙に進出して、かなり経つ。今や、ちょっとドライブに行くような感覚で宇宙に出られるようにまで、文明は発展していた。
「はぁ・・・・・・とりあえず、出てみるか」
ハッチを開き、宇宙船のコックピットから外に出る。青々とした土や岩ばかりの視界に眉をしかめる。空は、強いて言うなら曇りだ。薄暗い中、船を見失わない程度の範囲を歩いてみる。けれど、同じような景色が続くばかりで、何もわからない。
「どうなってるんだ、ここ」
何度目かわからないぼやきと共に、彼は額を抑えるようにして自身の目元を手で覆う。そして長く息を吐いて、手を下ろすと──
「──は?」
目に映るのは、全く知らない空間だった。
周囲に広がっているのは、薄く青い液体。それが、膝まで浸かっている。なのに、何の感触も無かった。
その下にあるのは、ただの暗黒。地面があるのかすら、何故自分が立っていられるのかもわからない。
後ろを振り向くも、宇宙船は見当たらない。辺り一面、水平線の彼方まで、この謎の液体が続いているようにすら見える。
「・・・・・・・・・・・・」
彼が言葉を失いただ呆けていると、その青い液体の一部が盛り上がり、彼と同じくらいの高さになり──彼と全く同じ姿を取った。それも、全裸の状態で。
「・・・・・・もう、驚く元気もねぇな」
彼が思わずそう漏らすと、眼前の存在は人間味を感じさせない無表情のまま、首を傾げる。
「あー、取りあえず。コレ着てくれない?」
そう言って彼は目をそらしつつ、自分の着ていたジャケットを差し出す。自分のものとはいえ、全裸のままで居られると、気まずく感じたのだろう。
彼と同じ姿をしたその存在は、ジャケットを受け取り首を反対側に傾げると、口を大きく開けて取り込もうとする。
「いや待て待て! 食い物じゃねぇから!?」
慌てて止めに入る青年。これからどうすればいいのかはサッパリわからないが、まずは服という物とその着方を教えることにした。
執筆日 十月一日