石を投げればヴィランに当たる   作:るるる

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 季節は春。桜が散り水辺に浮けば、自然の絨毯が出来上がる。そんな河川敷の周りに、運良く俺を含めても少ない人しかいない。いつもはごった返すとはいかないけれど、家族連れでにぎわっているというのに。

 一陣の風が吹き、肌をなでる感触がなかなかに気持ちいい。何の気なしに、近くにあった石を川に向かって一投してみちゃったり?

 

「それー」

 

 何の力も入れずに投げた石が、放物線を描いて地面に落ちる……ことはなく、重力を知らずに水平に進んでいく。瞬きをすれば、対岸にいた人にぶつかって跳ね返り、ぽちゃんと川へ沈んだ。

 

「おっふ」

 

 うっすらとしか顔は見えないが俺には理解できた。絶対めっちゃくちゃ怒ってる。何なら当たった人の隣にいる小さな子供が、お前何してんのみたいな雰囲気でこっちを見てる。

 

「……すみませんでしたぁ!」

 

 反応を見ることなく必死に駆け出す。全身の穴という穴から汗が噴き出て止まらない。捕まったら慰謝料請求? による1日中説教?

 いやだ、マジでそんな現実受け入れたくない。

 

「待てやゴラァ!!!」

「ひぃ!?」

 

 反射的に振り返ったのを後悔するほどの形相と、空を飛ぶ個性なのかご立派な翼が生えておられる。

 そう、個性。俺にもあって現代を生きる人間のほとんどに備わっているもの。いやー、初めて個性が発動したときはびっくりしたよね。その拍子に前世を思い出しちゃって? イキり卍男子高校生が、原付をウキウキで運転してたらトラックに引かれましたーww。もー、死角に入っちゃダメってあれほど言われてたのにーww。

 

「じゃねーよ!」

「んだとゴラァ!!?」

「ひぇっ、違います! すみません!」

 

 今のはあまりの現状の悲惨さに走馬灯を見て、その内容があまりにもひどすぎて思わずに声に出しちゃっただけなんです。

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

 あっはは、だめだこりゃー。怒り心頭でいくら命があっても足りねーわ。ハイハイ乙乙、本日は閉店ご苦労様でしたー。

 周りの人たちの視線が冷たく、誰も助けてくれる人がいない。当たり前ですね、こっちが加害者ですもんね、すみません。何なら動画を取ってる人もいるし、コォレは確実にお説教コース。でも逃げないと追いかけてきてるこの人に、際限なくボッコボコにされる未来しか見えないんだよな。つまりどっちにしろ逃げた方が良し!

 視線を飛ばして見つけた路地に入り、建物の壁に向かってジャンプ。建物間の狭さを利用して、反対の壁に着きそうってタイミングでもう一回ジャンプ。いわゆるマ〇オさんの壁キックの要領で、最上階までジャンプジャンプ。

 

「まてっつってんだろ!」

 

 飛行相手になにばかなことしてんだって思うだろ? ところがすっとこどっこい、今まで逃げてきて分かったけれど、相手の個性は思いっきり飛行というより滑空タイプ。力強く翼を振るえば上がることもできるけど、結構疲れるっぽい。それを利用して、俺は相手の上を取る。

 推測だけど、飛行タイプは上を取られるということには慣れていない。だってそうだろう? 戦うときに真っ先に飛ぶことを選んだ奴が、背中を取られることに対応できるわけがない。たぶん……きっと、恐らく。

 

「隙あり!」

 

 完全に上を取った瞬間、追いかけてきていた男が驚きで俺を見上げてる。近くで見てわかったけど、首と顔とかにも羽がついていて、いわゆる異形型だったっぽい。だからどうしたって話なんだけどネ。

 

「てめぇ――」

「協力感謝する!」

 

 は? いつの間にか目の前に筋肉モリモリマッチョマンがいて、え!? そいつが羽男の首をつかんで地面にたたきつけたぁ!

 わっつはぷん? あぇ、もしかしてナンバーワンヒーローのオールマイト様!?

 驚き口をあんぐり開けた俺に、みんな(ヴィラン)が悲鳴をあげるムキムキスマイル。おぅ、ファンサが過ぎませんか。プロヒーロー。

 

「背中いたぁ!?」

 

 とか考えてたら、受け身を取ることを忘れて地面を強打。思わずギャ〇マンガが出てしまった。

 

「シット! 私としたことが済まない。少女なら受け身をとれると誤解してしまったよ!」

「い、いえ、大丈夫です」

 

 はー、リアルで見ても顔面の影の比率えぐいなー。こうなんていうか、骨格がムキムキしてるせいで、凹凸がはっきりしてるから? そういえば、いろいろ焦りすぎて大切なことを忘れていた。

 

「その羽マン。何かしたんですか?」

 

 だってオールマイトが追いかけるほどの相手ってことでしょ? 石を投げたところで通報されたとしたのなら、俺を狙ってくるだろうしなんで。

 

「ん?」

「え? ……やっべ」

「まさか――」

「さーてと、今晩のご飯はコスパ最強『KAYU』にしわの素敵な梅干を添えて、かな」

「少女?」

 

 何も言わないでくれオールマイトさん。正直貴方からサインを貰って、メル〇リに転売してがっぽり小遣いをもらいたいと思ったけど、やむにやまれぬ事情があるんです。ここは見逃して下さ――。

 

 

 

 

 

 その日、人類(子供)は思い出した。巨人()に支配されていた恐怖を。

 

「やれやれ」

 

 しびれ切った足を震わせながら根気と気力で足を組み、そっと俺はノスタルジーに浸る。今思い返しても感動が絶えないほどに、あの作品は名作だった。特に最後の映、おっとぉネタバレネタバレ。

 やっぱ、あれよな。完結した後に転生できて良かった(しみじみ)。

 だからさ、もう忘れることにしよう? あのオールマイト様とか、巨人にこってり絞られたこととかさ。今回は厳重注意で終わらせるけど、次は無いって宣言されたときは、14歳という事実を忘れて失禁してしまいそうだったさ。HAHAHA。

 さーてと、ニュースでも見ようかな。こんな時にも情報入手を怠らない俺まじめ。

 

『速報です』

 

 いつも地元の事ばかりを上げてる、地方ニュース。どうせ速報とか言っても野菜の値段がさらに高騰とかそこらへんだろ? またマザーがキレそう。

 

『本日10時頃、異形型ヴィランに襲われていた少年をオールマイトが救出』

 

 は、は? いやでも超常社会だし、オールマイトなんてどこもかしこにも出没するし気のせいよな。

 

『その際、女子中学生と協力したそうです。彼女のとっさの機転が被害拡大を未然に防いだといえますね。 事件現場の近くにいた人からお話を――』

 

 オーマイゴッドマーザー。神はオレを見捨てた。

 あっとちなみに言い忘れてたけど、ただの転生じゃなくてTSの方ね。あーww、ホントに草も生えない俺の人生。これからいったいどうなっていくのやら。

 

「チクショウメー!」

「うるさいっ」

「本当に大変申し訳ございませんでした!」

 

 いくつになっても親には逆らえないってね。これ自然の摂理。

 

 

 

 

 

 時は流れて冬真っ盛り。受験当日がやってきました。そしてなんと俺は、雄英高校に来てます。イエーイ!

 

「なんで……」

 

 周りに人もいるから、本日は小声でお送りしております。

 何故こんなところに俺はいるのだろうか。それはそう、あの羽マンの事件から一夜。まぁ案の定、有名になったわけですよ。結構派手に暴れましたからね。

 次に学校に登校したとき進路希望調査を提出しようと、雄英高校経営科と書いたってわけ。そしたらなんかどっかから湧いて出てきた緑頭が、ヒーロー科なんてすごいね! 僕と違って……みたいなこと言いやがって。よく見ろぉ! 経営って書いてあるだろうがぁ! そしてあれよあれよにうわさが広がり、普通に提出したはずがヒーロー科に訂正されてました☆

 本人の意思尊重って大事だと思うんだよね。いくら有名人になったからって理想を押し付けないでほしい。俺だって君らと同じ人間じゃんか。

 まぁ、案の定マッマの耳に入り、訂正する機会を完全に失い、ここに至ってるってお話。だがしかしまだ道はある。フツーに落ちればいいだけの話。だって倍率300とかっしょ? できなくてもあーあ、まぁ雄英だしねぇと言われて終わるだけや。そしてそのまま経営科に入学。

 今の世はヒーロー飽和時代。ヒーロー自身より、支える方が儲かるってもんよ。20代前半をバリバリ働いて、後半からは貯金で遊びたい放題暮らしてっていう、俺の人生計画。

 今、この瞬間からスタートするんだ!

 

「あっ」

 

 視界がスローモーションに映る。もしかしなくても道端の石ころに躓いたらしい……何かと石に縁があるな。だがしかーし、ただで倒れるほどやわじゃないぜ。倒れる寸前、その勢いを利用してバク転!

 

「ドヤァ」

「何してんの?」

 

 声につられて振り返れば、長い耳たぶの少女がいた。身長は小柄で俺より小さく、ボブカットに三白眼(さんぱくがん)。めっちゃタイプな女子に話しかけられ、さっきまで海底3万マイルだったテンションがブチ上がる。

 

「アクロバティック三回転さ」

 

 思わず気取って言ってしまったのは許してほしい。ほら、あるだろ? 好きな女の子に気取りたくなる奴! だからそんな冷たい目で見ないで!

 

「へー」

 

 一回転だろとかいうツッコミもなく、そそくさと撤退されてしまった。俺もさっさと会場行こう……心が痛い。

 

 

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