石を投げればヴィランに当たる 作:るるる
辺り一帯が火の海と化した場所で、尾白猿夫は己の身一つでヴィランと戦っていた。
(くそっ、どうなってんだ。みんなは無事なのか?)
強靭な尻尾とそれを利用した機動力、身につけた体術を軸としたヒット&アウェイ戦法で、かろうじて対応することができている。
それでもすぐ近くで物が燃えているというのは、苦しいほどの熱さが伴う。尾白の額からは滝のような汗が流れていた。
服にも滴っていくが、見た目はただの道着でも中身はヒーロースーツ。すぐに汗は蒸発し涼しささえ感じさせる特殊構造で、気持ち悪さに思考を遮られる事なく、自慢の尻尾と手足をヴィラン相手に振るっていく。
「尻の青い小僧がちょこまかと!! さっさとくたばりやがれ!!」
汗ばんだ視界に慣れない対人戦。いつ終わるのかわからない状況に、一瞬だけだが緊張の糸が途切れ、踏み込む足が一歩遅れてしまった。
その隙を逃してくれるほどヴィラン達は優しくなく、炎を纏った拳が眼前へと迫る。
(避けられない!!)
恐怖で表情が歪むけれど、次につなげるために痛みを覚悟して歯を食いりばり――。
「どうもこんにちはー!!」
脅威はお気楽な声と共に殴り飛ばされていった。ニカっと笑った彼女は、尾白を守るようにヴィランの前に立ちふさがる。
軍服テイストのヒーロースーツを着込み、青みがかった長髪を靡かせ、藍色の瞳でヴィラン達を見渡す。見覚えのある姿に、嬉しさいっぱいに彼女の名前を呼んだ。
「怨響さん!」
名前を呼ばれた彼女は、目線はヴィランの方を向きながら声を出す。
「助太刀しといてあれだけど、お前誰? なんで名前知ってんの?」
「尾白です! 尾白猿夫! クラスメイトだから知ってる!」
「噓だろ」
怨響は振るわれた炎を纏った鞭を、地面に付きそうなほど深くしゃがみ込んで回避。立ち上がる勢いのまま、ヴィランにアッパーをぶち込んだ。
ぶち込みついでに、尾白の方をチラッと見る。
「ヒーロー科の割にはなんというか、パッとしないというか……普通」
「う゛、普通」
「隣失礼しまーす」
接近していたヴィランを蹴り飛ばし、ボーリングのピンのように他のヴィランも巻き込んで転倒させる。彼女が一歩踏み込むだけで相手との距離を一瞬にして詰め、胴体を殴り、たったそれだけで数メートル程吹き飛ばす。
フォームは拙く素人丸出しではあるものの、圧倒的なパワーとスピードのゴリ押しにより、無慈悲にもヴィランがやられていく。ここに居るヴィランの多くは炎の個性を操る。それでも、服や体に引火出来ないほどのスピードで殴り飛ばしてしまえば、ちょっと顔をしかめるだけで勝てるのだ。最悪引火しても風で吹き飛ばせいい。
炎の個性以外はただのチンピラ並みの体力と技量。その程度の相手に怨響が後れを取る理由がない。
(つ、つえぇー……)
自分が一人相手している間に、二人、三人と相手にしている事実に目が奪われる。
「尾白さん集中してもらってもいいですか?」
「ごめん!」
ハッと意識を戻し、負けじと尻尾を振るう。
怨響程の力と速さは無くとも、今まで培ってきた技術を最大限に活用し、着実に攻撃を当てていく。
「てめぇらの血は……何色だぁああ!!」
「あべしっ!」「ぶぎゃあ!!」「ぐふっ!」
「力こそが正義! いい時代になったものだぁ!!」
……若干無駄な要素を挟んでいるかもしれないが、尾白が一人で戦って苦戦していたのがウソのように、あっという間に気絶させていき、
「ラスト一人ゲットー!!」
振るった拳がみぞおちに入り、最後の相手が唾を飛ばしながら地面に転がっていく。
勝負は決まり、立っている者は怨響と尾白だけだ。
「強すぎるってのも、罪なもんだぜ」
「そうだね……?」
「……ちょっと熱が入りすぎた」
少し顔を赤らめて、視線を逸らした。
「あと、これ使っていいよ」
彼女はポケットの中から取り出したものを尾白に投げ渡す。
「えっと?」
「汗拭きシート。多少はマシになると思うんで。遠慮せず、ガンガン使って良し」
「――っ! ありがとう!!」
多少安心できる状況になったとはいえ暑いことには変わらず、そこに放り込まれた冷えたものは尾白にとってダイヤモンドより輝いて見えた。
降ってわいた幸運に満面の笑みを浮かべ、躊躇なく2,3枚取り出す。
「いやー、偶には爆発ヘアーも役に立つなー」
「爆発ヘアー?」
「あー、気にすんな。こっちの話」
何の事かは分からないが、尾白は露出して火照っている肌を拭っていく。暑さが消えて、気持ちの良い冷たさに口元を緩めた時、視界の隅で何かがキラリと反射する。
「危ない!!」
「ぶぼらっ!?」
咄嗟に勢いよく怨響を抱きしめながら地面に転がっていくと、さっきまで居たところを赤く発光したナイフが二本通り過ぎた。
もしも気付かなかったら心臓辺りを突きさされていた事実に、冷や汗が頬を伝う。
「すごいねぇ、最近の高校生は。見惚れちゃうねぇ」
カツカツと靴を鳴らしながら大層な態度で出てきたのは、ボロボロのタキシードにハットを被った30代くらいの男。
「誰だお前!」
素早く立ち上がり、警戒態勢をとる尾白。
「どどど、どういう状況!? ちょま、熱いって、燃えてるって!?」
立ち上がったのはいいものの、転んだ場所が悪かったせいでマントが燃え必死に消火する怨響。しかし、格闘した甲斐もなく延焼するマントを脱ぎ棄てた。
「だー! まだ下して数回しか着てないのに! つーか、誰だよお前!」
「くくっ、君たちに名乗るような名はないよ」
「え? ノーネーム、ノーライフ?」
「違うわ! お前らに名乗るほどの格が無いって意味での嫌味だわ!」
「はー、やっぱ俺は神に等しい存在という」
「だから違うわ! 真反対だわ!」
「えー」
気取った態度をかなぐり捨て、肩で息をしながらキレッキレのツッコミを繰り出してくる。最初の登場は何だったのかと言いたくなるほどダサいが、それぐらい怨響にむきになっているということでもある。
(今なら、相手の隙をついて)
踏み込むために腰を落とそうとした時、怨響に服を掴まれ行動が阻止される。
怨響の方を見れば、口元は笑みを浮かべているが、目は笑っていない。
「まぁいい。君たちは光栄に思うといい。この僕の最初の犠牲者となれるのだから」
「ありがとうございます」
「だーかーらー褒めてねぇわボケ!!」
「バラ科の落葉低木。高さ2メートル。枝にとげがあり、葉は楕円形で緑のギザギザのある」
「え? 急に何の話?」
「木に瓜と書いて
「知らんわ!!!」
「……よし」
「あ゛?」
ボケ倒していた怨響の雰囲気が一転、凛とした眼差しで左手を相手に向ける。
「黒装縛封!!」
「は?」
心臓から左腕を伝って一直線にヴィランの方へ伸びて行き、華麗に絡めとって見せた。
「よっしゃ! 尾白さん。みんなのところに合流しようぜ!」
気絶したことを確認すると、手についたほこりを払う。
ヒュー! 我ながら名演技だった。黒装縛封がどのタイミングで発動できるか分からず、とりま時間を稼いだらこんなうまく行っちゃうなんて。天才ここに極まれりってな、ガハハッ。
「……俺居る必要あったかな」
「確かに! ほぼほぼ俺がヴィラン蹴散らしてたし」
「ぐっ」
すっげぇ辛気臭い様子で言うもんだから思わず同意すると、割とガチでショックを受けてしまっている。適当に肯定するもんじゃねーな。
「冗談に決まってんだろ? つーか、さっき飛んでくるナイフから庇ってくれたじゃねーか。尾白さんが居なかったら、今頃心臓にグサッといってたかもだぜ?」
「縁起でもないこと言うなって。でもそっか、それならよかったよ」
こんな灼熱地獄に居られるか、俺はクーラーガンガンのマイホームに帰らせてもらうぜ。
疾風ダッシュをしようとしたら、足をもつれさせて転倒した。何てこったい、だっせぇ。
「大丈夫か!?」
「ヘーキヘーキ、大丈夫」
手をついて立ち上がろうとするも、力が思うように入らず地面にセカンドダイブ。熱々なコンクリートでマシュマロほっぺが焼きマシュマロになっちまう。
「大丈夫じゃないだろ!」
「個性を使うと、体力の消耗が、激しくて」
平凡ボーイが手を差し出してきてくれるが、握ってんだか乗せてんだかわかんないくらい力が出ない。左手は痙攣してるし、呼吸もうまくできない。まだ気絶していないのは、目を閉じたら死ぬぞ的な恐怖心からくるもので、いつまでもつかどうか。
くっそ、ポケットに入るモンスターじゃねぇけど、からげんきが使えたら良かったのに。
「いったんここで休憩を」
「それよりも、みんなと合流した方が、安全だ。わりぃ、俺の事背負って走れるか?」
「問題ない、まかせろ!」
尾白が俺を背負い込んで立ち上がる。尻尾の安定感がなかなかいいなぁ。恐竜とかに背負われたらこんな感じなんかな。
「座り、ここち、いいな」
「そ、そうかな?」
尾白の顔が耳まで赤くなってる。そりゃこんだけ熱いところに居たら、頭が沸騰しちゃうもんな。
とりあえず、ゆけ、平凡ボーイ! 安全地帯にレッツゴーだ!