石を投げればヴィランに当たる   作:るるる

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 平凡ボーイに背負われ揺れる視界の中、はっきり見えたのは劣勢の不潔先生。

 

「もう少し、広場よりに。多分、そっちの方がいい」

「分かった」

 

 騙すつもりはないけど、ちょっとね。ホントにちょっと様子が気になるから近づくだけで、特に理由はないんだけどね。

 うわぁ……改め見ると悲惨だな。有象無象ヴィラン共も厄介っちゃ厄介。でも、手を全身に張り付けているキモキモマンが一番ヤバそうだな。個性は把握できてないけど、ヴィランの親分をやれるほどの器だから強個性なのは確実か。身体能力強化系なら分があるけど……本当にそれだけか?

 

「これ以上行かない方が良くないか? 中央のヴィラン達に見つかるかもしれないよ?」

「いいや、もっと近づいて」

「怨響さん?」

 

 体力はさっきよりちょぴっと回復したけど、全然万全じゃねーし。喉はからっからで、漏らしそうなほどにビビり散らかしてる。

 本音を吐いちまえば、痛いのが嫌だっていう気持ちは変わってないし、この場から尻尾巻いて逃げ出したい。それでも助けられるなら……いや、傲慢だよな。先生に対して助けるなんて上から目線は。

 ただ、あの人はここでやられていい人じゃない。思い返してみても怒られるばっかでいい記憶何て一つもないけど、それが足を止める理由にしたくない。

 

「お前の背中借りるぜ!」

 

 肩に手をかけ、尾白の背中を踏み台に一気にかっとぶ! 

 

「なっ!!!?」

 

 踏み台にした衝撃で地面に転がっていった平凡ボーイは、こちらを啞然とした表情で見ていた。

 

「どけやゴミカス共ーーー!!!!」

 

 俺に気が付きアホ面を晒すヴィラン共と不潔先生。

 着地したと同時にヴィランに殴りかかると見せかけて、不潔先生の腕を思いっきり掴む。めっちゃ充血した目で凄まれて、無いものがヒュンっと縮んだがガン無視万歳。

 

「怨響!!?」

「補修追加で勘弁して下さい!!!」

 

 左脚を軸にして思いっきり回転し、尾白の方へと思いっきり投げつけた。先生もろくに体力がなかったのか、受け身も取れずに尾白にぶつかる。二人共、ゴロゴロ転がっていき、何なら水辺にドボンと落ちた。

 ……。やっべえぇ、やり過ぎた。今度回らない寿司屋奢るから許して。

 

「誰だお前?」

 

 意表をうまくつけたようで、ヴィラン共は様子を窺うばかりで攻撃はしてこない。

 

「見た目は美少女。中身は三十路。その名も名探偵ミレン!! 真実はいつも――」

 

 キモキモマンに向かってビシッと人差し指を突きつける。

 

「――1つ!!!」

 

 クッ、決まった。毎年映画は見に行ってるからな。完璧にポーズ、ナレーションが脳裏に浮かぶぜ。もう見れないけれど、今年は何分以内に爆発が起きてるのかな。

 

「あぁ……バカか」

「はあ!? バカじゃねーよ! 入試の筆記試験1位合格なんだぞ!」

「……噓だろ」

 

 顔に手を付けているというキモキモ仕様で表情は分からないけど、絶対うっそーんみたいな顔してんだろーな。確信はない! ただの直感です!

 

「雄英に潜入できたんだから、それぐらいは知ってろよJK」

 

 ついでに中指をたてて、煽っとく。

 

「あ゛? お前ら、こいつをぶっ殺せ」

「口が悪い奴はモテないですよーだ。もしかしてDT?」

「殺す」

 

 何だよ図星かよ。その格好だと一生彼女出来ないから、卒業は永遠にお預けかなーww。

 

「あっぶね!」

 

 横から来た飛来物を避ける。今、会話の途中だってのに、殺気が高いヴィランだこと。

 

 それはさておき……さぁ! これからが本番だ。これが永久睡眠にならないことを祈りながら、息を吸ってニカっと笑う。

 

「黒装!!!!」

 

 心臓がドクンと跳ねたのが始まりの合図だ。

 

 

 

 

 相澤と尾白は緑谷達の横を通り過ぎて、水難ゾーンに着水を果たした。

 

「相澤先生!!」

 

 溺れる前に引き揚げて様子を確認すると、完全に気絶してしまっているようで、肩を叩いても声掛けをしても反応がない。

 

「ご、ごめ、おぼぼぼ、俺も助けて……」

 

 尾白も下手な足ひねり方をしたせいで、若干溺れかけた上に忘れ去られかけていたが、蛙吹の舌の巻き付きによって助けられた。

 

「僕、怨響さんのところに行ってくる」

 

 倒れた担任とクラスメイトを見て、緑谷は決意のこもった声を発した。

 

「待って! 相澤先生を起こすのが先だわ!」

「そ、そうだよ緑谷。お前まで行く必要はないだろ」

「一人であの人数に対応するのは大変だからせめて僕だけでも! それに相澤先生がいなくなった今、怨響さんに万が一があったら助けられるのは僕らしかいないんだよ!」

「だったら尚更、相澤先生を起こす事を優先すべきよ。ここで言い争ってる暇はないわ。お願いだから緑谷ちゃん、無謀なことをしようとしないで」

「俺も緑谷と一緒に行くよ!」

「尾白ちゃんまで……」

 

 加勢したい緑谷と尾白、止めた方がいいという蛙吹と峰田。小声ではあるものの言い争いはヒートアップしていき……。

 突然峰田が口を閉じて、広場の方を凝視した。

 

「ア、ああ……アアアアアア゛!!!!」

 

 耳をつんざく叫び声が聞こえ、全員が一斉にそちらの方へ視線を向けると――黒い化け物へと豹変した怨響が居た。

 身長は人間の枠を超え、手足には鋭利な鉤爪。表情の無い能面の顔に浮かぶ空虚な瞳と歪んだ口元が見え、緑谷は思わず唾を飲み込む。

 

「なに、あれ……」

 

 誰が言ったか分からない呟きに、誰もが返事をすることが出来ずにいた。

 ソレが軽く腕を振るっただけで、突風が巻き起こり血しぶきが舞う。どちらがヴィランか分からない惨状に、戦意が削がれていく。あれほど助けに行くと叫んでいた緑谷は一切動かず、他の面々は呼吸すらうまくできていなかった。

 

「なぁ、あれに加勢しに行ったら、オイラ達の方が……」

 

 恐怖心から皆が唾をのむ中、それでも緑谷だけはその場から立ち上がった。

 怖くないと言ったら嘘になる。膝は震え、現状から目を逸らしたい衝動に駆られる。

 だけど、それでも、彼は見てしまった。あの表情はきっと人を屠る快感に歪んだものではなく、必死に助けを求めている泣きそうなものだって。

 

「ごめん、やっぱ僕行ってくるよ!」

「待て……緑谷」

「「「相澤先生!!!」」」

 

 気絶から目覚めたばかりだというのに、状況を完全に把握し緑谷に対してストップをかけた。

 

「今行くな。もう少し経った後にしろ」

 

 緑谷は言い返したい気持ちが強いけれど、蛙吹と違ってプロのヒーローからの言葉はそう簡単に反抗できるものではない。それでも足先が広場の方に向いているのは、助けたいという気持ちの強さの表れか。

 

「怨響の攻撃に当たったら、お前じゃ一溜まりもない。本当に助けに行きたいんだったら、怨響の個性が切れた瞬間に行け」

「相澤先生は未練ちゃんの個性について知っているの?」

「入試の際に一度見たきりだが」

 

 入学するにあたって個性の詳細を提出する決まりがあり、それに目を通したものの役に立つような情報は載っていなかった。個性”黒装”。黒色の何かを装備し防御力と攻撃力を上昇させる。その程度の説明。それプラス、入試の時に0pロボットを破壊するほどの力があるということだ。

 今はまだ死人は出ていないが、このまま放置したらヴィラン側に確実に犠牲者が出る。けれど、今下手に殴り込めばこちらが傷つき、クラスメイト間で確執が生まれるだろう。

 あの状態になった彼女を押さえつけるほどの力を持っているのは、オールマイトくらいだ。

 

「いつでも飛び出せる準備をしておけ」

 

 選んだのは静観。それが吉と出たか、凶と出たか。

 

「な、なんだよあれ」

 

 そのオールマイトを倒しに来たのがヴィラン連合だ。

 

 

 後はキモキモマンだけになった時、筋肉モリモリマッチョマンの変態が現れた。脳みそ丸出しで体は紫色で、お世辞にも健康そうな体付きですね、何て口が裂けても言えない。

 ま、ゆうて、俺と身長変わらないくらいだし、不気味さで言えば俺の方が勝ってるっていうか。負ける道理が一ミリも見当たらないっていうか。

 なーんて、油断していた時期もありました。

 

「あああああああああああああああああ!!!!?」

 

 ぐしゃぐしゃ潰され行くような嫌な音が聞えてくる。俺のスピードを上回り、ボコスカ蹴ったり殴られたりして、絶賛踏みつぶされております!! 結論、もうすぐ死ぬ! 

 最初はね、良かったんだよ。拳がボスボス入って、手ごたえもしっかり感じてた。でもなんかこいつ、爪で切り裂いて絶対致命傷だろっていう攻撃を受けても、瞬きしたら何事もなかったかのように元通りなりやがって、マジでやってらんねーなおい。時間が経つにつれて消耗していく俺と、無限復活マンが対峙したらどうなるかって? ご覧の通りですよ馬鹿野郎。

 アイタタタタタタタタ!!! 黒装の負荷とマッチョマン圧迫セットでお買い得♪ ……じゃねーんだよ!! 本気で痛い!! 足し算ブチ超えて累乗レベル! あ、でも、若干気持ちいい……なワケあるか!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……!!! 

 

「先生が用意してくれた、対平和の象徴、改人”脳無”」

「ぐあ、あ……」

「子供用じゃないんだけどな。他が弱すぎた」

 

 せっかくここまで追い詰めたってのに。控えめに言って死んじゃうよ!?

 黒装が装甲になってくれてるおかげで、辛うじて圧迫による苦しみしかないけど、時間がたつにつれて俺本体もぐしゃぐしゃされる。

 

「脳無、さっさと踏み殺せ」

 

 今まで手加減していたかと錯覚するほどに強い力が背中に加わる。

 

 あ、ダメだ、死ぬ。

 

 完全に力が入らなくなって黒装がドロドロと溶けていく。

 

「助けて……」

 

 自分の耳にやっと届くかというほどの小さな声を吐き出してから、自嘲するように薄く笑った。

 助けにはならなくてもチョーゼツパワーでゴリ押せば何とかなるなんて、今思い返してみればびっくりするほどあっさい考え。

 まぁ、俺が死んだところで困るような人間は居ないだろ。なんならここで死ねば保険とか法律とかでババアに金が入る。サイコーとは言わなくても、自分の過失で死んだ前世よりはマシだな。

 痛いのは多分一瞬。大丈夫、大丈夫。

 

 大丈夫だから




メリークリスマス
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