石を投げればヴィランに当たる   作:るるる

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自己解釈を多く含みます


012

 諦めて目を閉じかけた時、モノクロの世界に緑色の閃光が走る。その光は俺の命を刈り取ろうとしていた脳無を吹き飛ばして見せた。

 

「僕が……来た!!!」

 

 あぁ、くそ。かっけぇな。不覚にも涙が出そうだわ。

 

「怨響さん、大丈夫?」

 

 右腕はもう力が入らないのかだらりと下げて、痛みで顔を引きつらせながらも、精一杯の笑みと優しげな声を乗せて俺に左手を差し伸べて来た。

 ここまで必死な様子を見せつけられて、下から見上げてるだけなんて性に合わねぇ。

 

「だー!! 余裕ですけどなにか!!」

 

 右手で鼻血を拭い、左手で緑ヘアーの手をバシッと掴んで立ち上がる。

 頭のてっぺんから足の先までふらっふらだが、気合いがあれば何とかなる!!

 

「怨響さんって、そんなかっちゃんみたいな」

「口が悪くてすみませんでしたねぇ!!」

「そ、そういう意味で言ったんじゃなくて」

「なに、勝手に盛り上がってんだ?」

 

 緑ヘアーと話している最中に、キモキモマンが割り込んできた。

 

「もしかして参加したいの~? でも残念、定員オーバーです!」

 

 不正解だったようで、めっちゃ首を掻きむしり始めた。うわぁ、きもい。

 もう少し煽ろうとした時、空間が歪んで物理的にもやもやしたヴィランが現れた。ホントにヤダー、敵が多すぎてまじで萎える。つーか、始まりの街にラスボス御一行が来てんじゃねーよ。即刻、お帰りやがれ下さい!

 

「死柄木弔」

「黒霧、13号はやったか」

「行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして。一名逃げられました」

「は?」

 

 相手が会話に集中しているからいいけど、少しでも動きを見せれば殺しにかかってくると思う。俺らが虫の息だから多少放置しても問題ないと判断されているだけ。

 

「緑ヘアー」

 

 今の俺らじゃ勝てない。吹き飛ばされた脳無が戻ってきたら、完全にジ・エンド。

 戦うなんて選択肢は無くて、逃げ一択なんだけど……残念ながら逃げれる確証はゼロっていうわけで。笑うから楽しいが座右の銘でも、流石にむりやわぁ。

 

「僕のこと?」

「お前以外に誰が居るんだよ」

 

 ヴィランから目は逸らさず、小声で言葉を交わす。

 

「僕が来たって、もしかしてオールマイトのインスパイア?」

「え、えっと、そうだけど」

 

 少し小っ恥ずかしかったのか、しどろもどろになる緑ヘアーに向かって笑いかける。

 

「クソかっこよかったぜ?」

 

 心の底からそう伝えれば、緑ヘアーが場違いなことに顔を赤く染めた。

 

「あぁ、くそ、ゲームオーバーだ」

「帰れキモキモマン!」

「……お前だけは殺して帰る」

「やべっ、選択ミスった」

 

 激情したキモキモマンがこちらへ手を伸ばしてきた。直感がビビッと告げてくる。あの手に触れたら100%ただじゃすまないって。

 逃げる動作に入ろうとした瞬間に横から小汚い捕縛布が伸びて、見事にキモキモマンの腕を絡めとって見せた。

 

「俺の生徒にこれ以上手出しはさせん」

 

 不潔先生が俺たちを守るように、キモキモマンと対峙する。ヤダァ、俺達の担任がイケメン過ぎる。

 

「怨響、補修覚悟しておけよ」

「ひぃぃぃぃ!!」

 

 ヴィランより怖いよこの人!!

 

「弔、ここはもう引きましょう」

「ああ゛? 何もやらずに引けと? そもそもお前がへまをするから計画がぐちゃぐちゃになったんだろ。俺に指図するな」

 

 捕縛布を塵にしたキモキモマンが味方と仲違いしてる。

 え、てか、あの手に触れてたら、今頃俺は粉塵になってたって事? うっそだろw

 

「俺が2人を抑える。どうせ逃げろと言っても逃げないだろうから言うが、お前らはあの化け物を抑えろ。無理に倒そうとするな。必ず生きて帰るぞ」

「「はい!!」」

 

 不潔先生にはYESorはいしか選択肢はないのでね! 大人しく頑張りますよーだ。

 

「殺れ、脳無」

 

 キモキモマンの言葉を合図に、勢い良く脳無が登場。

 何の迷いもなくこっちに勢い良く振りかぶってきやがった。死ぬ気で避けるけど、まじでやってられん!

 

「緑ヘアーはあのパンチ何発打てる!?」

「えーっと」

 

 力の制御どうこうブツブツ呟いている。

 目の前で即死級のパンチが怒涛の勢いで振るわれ、命がけで避けながらも俺の脳みそがフル回転して結論をはじき出す。要はあれか、動かない右腕を見るに、ぐっ俺の右腕がうずくっ。ぐあ! 力が制御しきれない! 俺に近寄るな! 系だな、オケオケ。

 

「左手は使えるか!?」

「左手ならいけると思う!」

「よし、じゃあ俺が――」

 

 いつの間にか眼前に脳無の拳があって、

 

「やべっ、俺死んだ」

 

 死を覚悟した刹那、後ろに身体が引っ張られた。視線を下げれば、腰に舌が絡みついている。

 

「梅雨ちゃん!! 愛してる!!」

「油断大敵よ。ケロッ」

 

 今日のMVPは絶対梅雨ちゃん。誰が何と言おうとも梅雨ちゃんだ!

 

「俺だって逃げたくないんだ!!」

「行け平凡ボーイ! 技量に関してはお前の方が上だ!」

「へ、平凡ボーイ」

 

 脳無に尻尾を振るったが、残念ながらノーダメージ。そのままカウンターパンチを食らい空中にぶっ飛ばされたけど、姿勢を立て直して着地してみせた。

 またタゲがこっちに向かってきた。瞬きをする余裕も無いほどに脳無の一挙一動に凝視して、死ぬ気で避け続ける。

 俺がさっき黒装を纏った状態でバチバチに殴り合い、緑ヘアーの自己犠牲パンチのダメージが積み重なったおかげか、初登場したときよりかは格段にスピードが落ちている。だから瀕死状態の俺でも避けられてるけど、後3分くらいたったら死ぬと思う。いや冗談。後1分だわ。

 今更諦める気はないけど、普通に死んじゃいそう。

 

「オイラも!!!」

 

 水辺から紫のムニッとしたボールが飛んできて、脳無の踏み込もうとしている先の地面にくっつく。それを踏んだことで脳無の足裏に見事にくっついたが、瓦礫ごと足を上げて見せた。それでも隙は貰えたので、そのうちに大きく距離を取る。

 

「ナイスボール!!」

 

 いや待てよ。あれがくっつく個性だとしたら、もしも触れたらバイヤーじゃね。至近距離顔面タコ殴りにされちゃわない?

 ストップをかける前にさらに2つ投げ込まれ、脳無の胸にピタッと付着。

 

「「「……」」」

 

 一瞬、世界が凍ったと錯覚するほどの静寂が訪れる。

 脳無さえも止まったのは、攻撃を受けたと判断したからだとは思うんだけど……脳無が自分の胸を見て、え? みたいな雰囲気を醸し出してる。表情とか1ミリも動いてないから、錯覚だろうけど。

 

「くっふふ」

 

 自分の肩がプルプル震えて、耐えきれなくなって息が漏れたら、歯止めが利かなくなった。

 

「パイオツカイデーじゃねぇか!! だはははは!!」

 

 こんな極限状態で起きる事かよ! サイコーだぜ全く!!

 

「僕たちにもくっつくからこれ以上投げないで!」

「わ、わりぃ」

「いひーっ、ひひひ、ぶはははは!!! むりぃ、むりぃ、ひーひー、死ぬ、別ベクトルで死ぬ!!」

 

 笑っていると脳無がボールがくっついてない方で強く踏み込んで、胸元をブルブル震わせながらこっちにぶっ飛んできた。ちょまっ、止めて。物理攻撃を食らう前に笑い死ぬ自信があるんだが。

 笑いすぎて腹がつりそうになるけど、攻撃はしっかり避ける。装甲の無い自分はサクッと死んじゃうんでね。

 脳無が更に攻撃しようともう片方の足で踏み込もうとしたが、ブニッとしたせいで頭から地面に勢い良く突っ込んだ。あれ? 結構強くね?

 自爆を願って眺めていたら、自分の足を引きちぎって投げ捨て自己再生をした。わーお、ダイナミック。

 

「平凡ボーイ!! もう数秒だけ時間稼げる!!?」

 

 攻撃を受けた腕が痛そうだけど、無理を承知で頼み込む。

 

「分かった! でもその平凡ってやめてくれないか!?」

「絶対にいやだああ!!!」

 

 不服な平凡ボーイが脳無の前にわざと飛び出し、攻撃させることで無理やり俺からタゲを奪い取った。いくら俺にご執心でも、目の前に現れた障害物は無視できないもんね。ダメージは与えられなくても、サイコーの囮になってくれている。全部の攻撃が体に触れそうなほどにすれっすれで、見てるだけで冷や汗が止まんないけど、さっきと違って当たってない。

 

「緑ヘアー!!!! 俺が脳無を捕まえるから、お前のありったけをぶちこめ!!!」

 

 力強く頷いたのを見て、少し肩の力を抜いた。

 

「ふぅ……これが上手くいったら、ビッグサイズのハーゲン食うんだ」

 

 逆死亡フラグを立ててから、冷静に目の前の状況を見定める。それから、無理やり口角を吊り上げた。

 

「黒装ォ!!!!」

 

 内臓がひっくり返るようなクソキメェ感覚を覚えると同時に、許容量を超えたせいで口からドバドバと血が溢れ出る。鼻からも出てたせいで顔面血まみれですよ、可愛くない。なんだか涙も出て来た。

 

「未練ちゃん!?」

 

 梅雨ちゃんが目を真ん丸にしながらこっちを見てくる。わかるよー、その気持ち。美少女が顔面血まみれになったら、見たくなっちゃうよねぇ。

 

「縛封っ!!!!!!」

 

 自分の心臓から伸びた黒紫色の手が脳無に一直線に飛んでいく。平凡ボーイが避けて、その先に居る脳無の胴体を纏い締め上げる。強い抵抗に口から更にダバダバしちゃうけど、たぶん大丈夫!!

 一度口の中に溜まった血を勢い良く吐き出して、酸素を勢い良く吸い込んだ。

 

「決めろヒーロー!! ラストダメージボーナスは譲ってやらあ!!」

 

 俺を救った緑色の閃光が横を通り過ぎ、脳無の頭上へ。

 

「SMAAAAAAAAASH!!!!!!」

 

 あぁもう、本当にサイコーだな。

 

 緑ヘアーの拳が脳無の脳天に綺麗にぶち込まれ、木々とか色々なぎ倒しながら目視出来ないほど遠くまで吹き飛ばされる。掴んでいた俺も一緒に引っ張られるけど、直ぐに黒装の効果が切れて、地面にダイナミックキッス。今更痛いという感情が湧くことなく、無理やり顔だけ上げる。

 

「ハハッ」

 

 モノクロの世界で唯一色を持った存在を視界にいれ、俺はにへらと笑ったまま意識を落とした。

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