石を投げればヴィランに当たる 作:るるる
グッドモールニング。おはよう世界。
今日は本来登校日ではあるが、俺は名誉の負傷中。それ故に、本日は休んでいいことになっている。傷も大半治っていてすこぶる快調だが、休めるんだったら休むよなぁ?
そして休んでいるこの暇なタイミングで、やりたいことがある。怪我をしたことで大量にプレゼントされた包帯。それを手に取って、指先から肘までに巻いていく。ある程度までいったら片結びでしっかり締めて、鏡の前に立った。
暗黒ノートに記された記憶を想起し、このポーズ、この角度、このセリフで。
「漆黒の力が今……」
「未練、さっさとご飯……」
扉が勢い良く開かれ、ババアと目が合う。
「「……」」
俺の顔がハチャメチャ熱を帯びて。
「いやああああああああああ!!!!」
ヴィランに会った時よりも、腹の底から悲鳴をあげた。
さっきの記憶は腹の奥底まで仕舞っておこう。何もなかった、いいね?
そんなこんなで俺は今、通学路をのほほんと歩いている。けっして、家に居たら精神的に殺されるからと言うわけではない。わけではないけど、猛烈に首を掻きむしりたい衝動に襲われている。これじゃあ、キモキモマンと一緒じゃないか。
キモキモマンと言えば、オールマイトをぶっ殺しに来ました、イェイ! とか言ってたのになんか普通に捕まった。風の噂によれば脱獄したらしいけど、んまぁ、デマでしょ。マジの情報だったら号泣するわ。再会しようものなら、「先日はどうも~、お命頂戴しに来ました。死ね」ってなるよなぁ。不潔先生が居たからよかったものの、タイマンで戦うことになったら、物理攻撃特化の俺とか不利以外の何物でもない。死、あるのみってか。笑えねぇ。
視界の隅に公園の時計を捉えた。このペースで歩いて行ったら、学校着いても暇を持て余しちゃうな。せっかくなんで、コンビニに寄って紙パックの鉄分チャージを購入。先日、死ぬほど血を吐いたのでその分をチャージしないと。
備え付けのストローを引っぺがし、アルミの張った飲み口にぶっ刺して一口。
「まっず!?」
ぐぇえ、何だこの血液を無理やり飲まされている気分。人間が飲むもんじゃねぇ。
「美味しくねぇ……」
でも捨てるはもったいないので、口呼吸で一気飲み干し、買った時にもらったビニール袋に突っ込んだ。
うぇ、口の中に若干味が残ってるぅ。
文句を垂れ流しながら歩いているうちに、我らが雄英高校の校門が見えて来た。
現在時刻は朝のHRが始まる数十分前。コンビニ寄ってもこんだけ時間があるのは、早々に家を出た結果だけど……だぁあ! 首をめっちゃ掻きむしりたい!!
「なに突っ立ってんの?」
後ろから声をかけられて振り返る。
「おや? 耳郎さんじゃないですか。おはこんハロチャオー」
「何その挨拶?」
「伝説のトカゲが居る国の挨拶」
微妙な視線を受ける。俺も最初にこの挨拶を聞いた時、同じ表情したわ。うわっ、詰め込みすぎだろって。でもまぁ、今となってはハチャメチャ気に入っている。
それはさておき、口の中に残っている味、何とかならないか。
「あのさぁ、何か美味しいジュース持ってない? 今、口の中が血まみれで」
「大丈夫!?」
近づかれたことで目と鼻の先にドストライクの顔面が。
「ち、ちがって、鉄分チャージ飲んだら、血に近い味がして、それが残ってるだけで」
「はぁ……そうゆうこと。心配して損した」
「心配されて得した」
今日一の笑みで言えば、無言でこっちを見てくる。そのままゆらりとプラグが浮き上がり、こちらに狙いを定めてくる。
「刺すよ」
「またまた~」
「……」
「冗談じゃないの!?」
危うく刺されそうになったが、ジュースを奢るといったら許してくれた。やれやれだぜ。
ついでに買った『オレ、イチゴ』を片手に、教室の扉をガラッと開けると、大半のクラスメイトが揃っていた。皆さん、真面目でいらっしゃる。
「怨響さ――」
「ズーーーーー」
残っているのがあとちょっとだったので、思いっきり吸ったら緑ヘアーの声をかき消した。
「大丈夫やった――」
「ズズ、ズーーーーー」
ボール投げ無限ガールが何か言ったけど、よくわからん。
「心配したんだ――」
「ズズッズズズ」
メガネが腕をカクカクしながら言ってきた言葉をかき消した。
「話聞く気ないでしょ」
「いえ、そんなつもりは無いですよ。ただ、心配の言葉は耳が腐るほど聞いたので、いい加減飽きたなと思いまして。私がこうして元気に立ってる。それだけで良くないですか?」
「屁理屈こねてないで、耳腐らせなよ」
「えぇ……」
あまり反抗的な態度を取ると、プラグで刺されるか、何か買わされるかの二択。
渋々、みんなと言葉を交わしていく。パイオツと口走ろうとした紫ボーイを沈め、口調について指摘してきた平凡ボーイに
そんなこんなで、緑ヘアーの前まで来た。
「おはようございます」
「あ、お、おはよう」
女性への(以下略
「傷の具合は?」
「うん、大丈夫」
緑ヘアーは手のひらをグーパーさせて見せた。小さな擦り傷はあれど、動作に問題なさそう。
「それは良かったですね」
あんなチョーゼツパンチを出した割には、平気そうだな。良かった良かった。これで後遺症でも残っていようものなら、殴れと指示をした俺の胃が死ぬところだった。
「あの時、怨響さんが敵の動きを止めてくれたからだよ」
「そうですか」
俺が止めるまでも無く、隙さえ出来ればもう一発殴ってそうだったけどな。
「私も助かりました。あの時、緑ヘ……緑谷さんが助けてくれなかったら、臓物垂れ流して退学していたと思うので」
「その表現は怖いに!?」
無限ガール、ナイスツッコミだ。心の中でサムズアップをプレゼント。
「だから本当にありがとうございました」
「怨響さん?」
それ以上は何も話さずに自分の机に向かった。
応接室というか、尋問室。
「それで怨響」
「はぃ」
「言いたいことは分かるな」
「ハイ」
ヴィラン共の間に乱入して不潔先生を水辺にぶち込んだこととか、水を床にぶちまけたとか、№1ヒーローの個性の秘密を知ってるとか……。心当たりが多すぎてどれか分からないけど、どちゃくそ怒られることだけは分かってる。
ドバドバ汗を流しながら、膝上に置いた拳が震える。というか、全身が震えあがってる。額から汗が流れて、握り拳の上に落ちた。
「ふ……相澤先生!! お……私は如何なる処分も受けるつもりです!! どうか脳みそを開いて記憶操作だけはやめてください!!」
「どうしたらそういう発想になるんだ。するわけないだろ」
よ、よかったぁ~。
「これから一ヶ月、教室掃除をして貰う」
い、一ヶ月かぁ。地味に辛いけど、まぁまぁまぁ、大丈夫よな。
「で、なんであんな行動に出た?」
「いやぁ、ええっとぉ」
不潔先生の傷付くのを見たくなかったとかをドヤ顔で言えるな良いけど、正直なんであの行動に出たのかはよく覚えてない。俺の事だから、自分に酔ってた可能性が一番高いというかなんというか。正直言って、あの戦いは黒歴史的な部分が多くて、あんまり思い出したくない。黒装だけにってな!! ……は?
「まぁ、いい」
不潔先生が若干の呆れを含みながらも、何とか飲み込んでくれた。
「後で反省文を書いて提出してもらうだけだ」
「ヒィィ!!?」
「話は以上だ、もう戻って良い」
鬼! 悪魔! 不潔!
「戻って良いぞ?」
怪訝な顔を浮かべる担任に対して、すぐさま返事をして立ち去りたかったけど、絶対に言わなくちゃいけないことがあった。
「1つだけご相談があるのですが。その……」
緊張のあまり喉が渇く。次の言葉を出した結果、怒られないか不安になる。
不潔先生は、葛藤している俺をじっと待ってくれていた。
「今からでも経営科に編入することは出来ますか?」
普段から表情が動かない人だから、今何を思っているのかよく分からないけど、視線が少しずれた。
俺の言ったことを咀嚼してから、不潔先生は口を開く。
「確か、経営科にも志望していたな」
「はい。あの時は実力不足で落ちてしまいましたが、もう一度勉強し直して編入出来ないかと。普通科からヒーロー科に編入出来るように、ヒーロー科から経営科に入るかと思いまして」
「前例はないが、不可能ではないだろうな。ヴィランと戦って怖くなったか?」
「……それも含めて色々と理由はあるんですが」
ヴィランと戦って怖くなかったらと言ったら嘘になる。最初なんかビビり倒してたし、後半はラリってたし。血をドバドバ吐く経験なんて二度としたくない。でも、それが理由じゃなくて。
「ただ純粋に」
瞼を閉じると、俺を助けてくれた緑色の閃光が鮮明に浮かぶ。
「向いてないなって思って」
目を開くと自分の手が見えた。
クラスメイトみたいに志があるやつらとは違う。流れに流れて入ってきちゃっただけ。
物理的には強くても、精神的にはガラス細工のようにもろくて。誰かを助けるヒーローは向いてないと思うから。
本当のヒーローはどんな脅威が目の前にあっても、自分の命があっても突っ込んでくバカじゃないと務まらない。ゴリ押しできる自信がなくなり、一度怖気づいてしまった今の俺には、多分向いてない。
「そうか」
不潔先生はそれ以上何も聞いてこなかった。
幾日か経ったある日、再試験を受けた。
それまでは教室の掃除をしたり、ヒーロー科本来のカリキュラムもこなしつつ、図書館で経営について勉強なんていう、くそ忙しい日々を送っていた。もう二度とやりたくない。
「ヒーロー科辞めるの?」
「え!? そそそ、そんなことないよ!?」
「図星じゃん」
経営科の問題用紙をサッとしまう。
「ひゅー、ひゅー」
「もう少し口笛上手くなってからやってよ」
「そういう耳郎は出来んの?」
すっごいお上手。さすが音楽のプロの子。メロディーさえも浮かんでくる。
「来週に結果が出る」
「そうなんだ」
「うん」
絶妙な空気が流れる。言わなきゃ良かったな。
「まぁ、いいんじゃない」
「えー、俺が居なくなったら寂しくて死んじゃうっ。とかないの?」
「ない」
「ショック!!」
耳郎はポケットから財布を取り出し、中身を開いて確認した。
「ハーゲン、奢るよ」
「うぇ!? いいの!?」
「偶には」
「やったぜ!!」
テストの結果が返ってきて数日後。自分の身長を優に超える扉の前に立つ。緊張で胃が死にそうになるけれど、覚悟を決めないと。
扉の取っ手に手をかけ、オープン・ザ・ドア!!
クラスメイトと担任からの視線を一斉に浴びながら、すーっと、息を吸う。それから勢い良く頭を下げた。
「遅刻してすみませんでした!!!」
「バツ掃除、追加で一週間」
「んなあ!?」
HRを終えて、溜息を吐く。
「……」
「何ですか耳郎さん。とっても素敵な笑みで、バカにしてるんですか?」
「落ちたんだ」
「うるさいですねぇ!!」
くっそぉ、本当だったら今頃受かってて、経営科楽しーとか言ってる予定だったのに。
ヒーロー科ばっかり目立っているけれど、ここは雄英高校。トップクラスでハイレベルな高校なわけで、経営科のレベルもえげつなかった。前世で経営も勉強してたらワンチャンあったかも? っていうくらいには。
「あぁ……、俺の人生計画がぁ」
「ドンマイ」
「くっそぉ……」
裏方がっぽがっぽ大作戦が台無しだ。
「元からヒーロー科の方が向いてた。それで良くない?」
「俺はヒーロー向いてないって」
「それ本気で言ってる?」
「本気も本気ですけど」
経営科に編入するテストを受けてる俺が、今更嘘は言わんやろ。
「入試でウチの事を助けてくれたじゃん」
「あれは成り行きっていうかぁ」
可愛い女の子が頑張ってたら、死ぬ気で頑張るでしょ普通。
「つーか、耳郎があんなかっこいい事しなきゃ、今頃俺は雄英じゃないどっかの高校の経営科に通えてたのに」
くっそぉ、耳郎と違う試験会場だったら良かったのに。
「ふーん」
「何でそんな嬉しそうなん?」
「別に。それよりも、次の授業は実技でしょ。早く着替えに行かないと」
「ああぁ、ヒーローやだぁ」
ヒーロースーツに身を包む。マントがオシャなのに、燃え尽きてしまったので若干背中が寂しい。
「今日は2人で協力して演習行ってもらう。組む相手は事前に私が決めておいたよ!」
アメリカン先生が、ちまっとした紙を読み上げている。
「緑谷少年と爆豪少年」
うわぁ、えげつな。あの幼馴染コンビだけは組ませない方が良いって、いつも言ってるのに。
「耳郎少女と怨響少女」
「よっしゃ!」
これは貰った! たとえどんな難題が来ても、俺たち最強コンビにかなうわけないぜ。
「後方支援は任せた!」
もう経営科に逃げることはできない。だったら全力で頑張って、最強のヒーローになって、がっぽがっぽ稼げるようになって。
「前衛はよろしく」
耳郎の隣にずっと立っているためにも。
「それでは授業STAAAAAART!!!」
今日も1日頑張りまっか!
最後までお読みいただきありがとうございました。以下、サブタイとなっております
第1話 石を投げればヴィランに当たる
第2話 可愛い子が居たらどうする? 俺はこうする
第3話 雨のち晴れ
第4話 容姿ドストライク
第5話 かっけぇ俺のヒーロースーツ!
第6話 最響コンビ結成!
第7話 新ワザ一つと秘密を追加で
第8話 アメリカンティーチャー
第9話 楽しいパーティのはじまり、はじまり
第10話 眠気覚ましの汗拭きシート
第11話 無茶、無理、無力
第12話 『俺のヒーロー』
最終話 未来へ向かって
これにて、本編は完結となります。1年間お付き合い頂きありがとうございました。
それでは、よきヒロアカライフを