石を投げればヴィランに当たる 作:るるる
受験票を片手に会場に入ると、視界には入りきらないほどの大きな講堂が広がっていた。そしてほぼほぼ満席状態で埋まってて、もう少し早く来ればよかったと若干後悔中。
広い割には狭いスペースを謝りながら席に向かうと、緑ヘアーと爆発ヘアーがいた。何の嫌がらせだよ、ほんとマジで。しかも二人ともピリピリしてるし……今日くらい仲よくしたらどうなんだ。幼馴染じゃなかったの?
「どーもこんにちは、二人共」
女の子っぽい感じで、高い声を意識しながらのイチ殺スマイル。どうよ、これが今まで築き上げてきた努力の結晶。
「・・・。」
「あ゛? チッ、てめぇも参加かよ」
おっとぉ、試す相手を盛大に間違えた。一人は黙秘、一人は喧嘩腰。にしても、入学当初から変わらない態度の悪さ。本当にヒーロー目指す気あるのかなぁ? 文句を言いそうになるが、乙女のプライドでぐっとこらえて、いまだに黙秘してる人の隣に腰を下ろす。リュックは……椅子の下に置いとけばいっか。
「お、おはよう」
「おはよっ」
あ、やっと声かけてくれた。視線のさまよいっぷりが半端ないが、俺みたいな美少女に隣に座られちまったらしょうがねーよな。
「えっと、緊張とかしてないの?」
「ん? 別に第一志、ゲフンゲフン!」
危なっ。第一志望じゃないなんて言った暁には、絶対爆発頭が食って掛かってくることは容易に想像がつく。ここはそれっぽいこと言ってごまかしとくか。
「今まで頑張ってきた自分を信じて、後は全力で頑張るだけだから」
「すごいね!」
とてもキラッキラの瞳で頷かれ、ミジンコ並の罪悪感で心が痛む。まぁ、1秒もすれば忘れるけど。
半分意識を飛ばしながらプレゼント・マイクによる爆音の解説を傾聴。うるさいっちゃうるさいけど、寝れないほどじゃない。適度な声のボリューム、トーンとかはプロって感じで、ラジオパーソナリティを務めてることだけはある。そのことを知ったのはブツブツつぶやいてる人のせいですが。
説明を要約すれば、でっかい0p以外のロボットを倒しまくれよってこと。俺には関係ない話だし、後は落ちるためにも頑張るとしますか。
「あ、ああ、あの!」
「どうしたの?」
「ががが、頑張りましょう!」
「……うん! お互いに頑張ろうね!」
ロボットダンスしながら行ってしまった。体ガッチガチだが大丈夫かって、ずっこけてるし。言わんこっちゃねーな。
それにしても、頑張りましょう……か。
「どけや澄まし顔」
「ねぇ、爆豪さん」
「あ゛?」
なんやかんやで話を聞いてくれるところは優しいんだよな。っていうよりかは律儀?
「彼、どうして“無個性”なのにあんなにも自信があるの? ロボットの話を聞く前だったら納得がいくけど、幼馴染として何か知らない?」
「ケッ、知るかボケ」
「そっかぁ、ありがとう」
彼も知らないんじゃ誰も知らないか。今になって個性が出たか、なんらかのチート、ドーピング。それともただの妄想癖? はー、まじでわっかんねぇーな。考えても仕方ないとはわかってるけど、気になって仕方ない。
「お前……」
「ん?」
「ッチ、何でもねぇ」
「え? とても大変気になるんですが?」
「ンでもねぇよ、カスが!」
「酷くない!? 何もしてないよね!?」
「死ね!」
結局、会場が途中まで一緒の道だから、結構な暴言を吐かれ続けて内心げっそり。お礼に、心の底から落ちることを祈っとくわ。
自分お気に入りの体操着に着替えて、軽くウォーミングアップ。手首、足首ほぐして、軽く股入れ……は女の子っぽくないからやめとこ。首回しをしながら周りを見渡せば、各々が好きなように精神統一を行っているけど……結構、かわいい子多いな。
『ハイ――!』
正確に聞き取ることなく反射的に駆けだすと、驚いた顔でみんながこっちを見ている。視線は置いといて、近くにいたヴィランを手始めに蹴り飛ばした。確か1pだっけ? 見事に壁に激突し、ひしゃげた部分には俺の足跡がくっきりと残ってる。
くくく、これでフライングによる違反行為として脱落じゃぁ!
『どうしたあ!? 実践じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!!?』
あれ? もしかして大正解ひいちゃった?
みんなも慌てた様子でこっちに向かって駆け出している。とりあえず、あれだな。波にもまれる前に走り出せ!
きっと多大な労力で作られた街が、ロボットによって崩壊させられていく中を駆け抜けていく。これなんて言うSF映画? もちろんヴィランは倒さず横を通り過ぎて。ぶつかりそうになったとしても俺の脚力と関節の柔らかさをもってすれば、当たることなんざ万に一つもない。
そうやってずっと走り続ければ3分、5分と時間が過ぎていき……。
『あと1分10秒~』
最初の失敗はあれど1点だけじゃ、どうあがいたって受かることはない。だからそう、このまま走り続けて行けばノープロブレム。
「THOOMー!!!」
なーんて思っていた時期もありました。
「なんじゃあこりゃあ!?」
ビルを丸まる一つ破壊してド派手に登場。0pロボットだーー!
「BOOOOM!!! 」
拳一つを振るえば、あたり一帯ががれきの山と化す。まじでその破片だけで人を殺せんぞ!? 入試ってレベル超えてるんじゃんよ。
逃げるが勝ちだね、わざわざ受かる予定もないし倒してもポイントにならないやつをだれが相手する――。
「ウチに捕まってっ」
さっきの好みドストライクの子が、衝撃のせいなのか腰が抜けた誰かを必死になって助けていた。ポイントには一切関係ないのに、ただただ誰かを守ろうとしてがむしゃらに。
「まっ、俺にとってポイントなんてもの関係ないし~」
一度足が止まれば、自分の心なんてわかりきったもので。
「0p相手したって関係ねぇよなぁ!!!」
手始めに、彼女の方に飛んできたがれきを蹴り飛ばすが、これがなかなかに痛いぃ。
「アンタはさっきの変な奴!?」
「非常に訂正したいけど話はあとだ! さっさとソイツ連れて避難しろ。殿はこのお……。」
「お?」
「私が務めてや……るぞい!」
「ぞい?」
くっそ、しまりがねぇ。つい焦ると男口調になっちまうの何とかんねーかな。
っと、話している間にもロボットは近づいてきている。名残惜しい気持ちを押し殺して、0pロボットへ走っていく。
「ッシャオラァ!! 個性発動じゃぁ!!」
ドクンっと心臓が跳ね、胸からどろりとした不可視の液体があふれ出る感覚を覚える。それは服を通り抜け空気に触れると、どす黒く染まりながら全身にまとわりついていく。頭のてっぺんから足の先まで染まりきると、燃えるような錯覚を覚えると同時に、全身から力がみなぎる。
昔に写真に撮ってもらったんだが、一回りも二回りも膨れ上がった身体のせいで、160ちょっとある身長が2m近くまで伸びる。手と足には鋼鉄で出来たような爪が生え、心臓付近は螺旋状の模様が。顔にはぽっかりと目と口の部分に穴が開くが、どんなに覗いても暗闇しか見えてこない。
正しく、人間というよりもバケモノ
放出したエネルギーを補充するかのように、頭の中に流れ込む怨念の声。幾重にも重なるせいで正確になんて言っているかはわからないけど。うっすらと分かるのは『死にたい』『羨ましい』『殺したい』『憎たらしい』なんていう、僻み嫉み妬み辛みの言葉。
苦しいなんて生易しい言葉じゃ表しきれない、針で全身を奥深くまで刺された痛みが襲ってくる。
「あああああ゛!!!?」
叫んでも引かない痛みに押しつぶされそうになる。
だけど、モノクロの世界で“助けたい相手”が視界に入ったとき、気合でねじ伏せた。ここで飲まれたら、イきり散らしたただのガキ。絶対にそんな恥ずかしいことをしてたまるもんか。
「苦痛上等ォ!!」
膨大な力を足に乗せ、軽く曲げて伸ばしただけで一気に空まで飛び上がる! やばっ、少し近すぎたか?
「小細工不要ォ!!」
目と鼻の先にある可愛げのない顔面に向かって、左手を引き絞る。
「ぶっ壊れろ!!!」
握りしめた黒紫色の拳が顔面に吸い込まれ、思いっきり殴り飛ばす! 何棟のマンションやアパートを破壊して倒れ込んだ。
「くくく、どうやら俺がSF映画の主人公だったみたいだな。」
一拍遅れて体に重力が戻ってくると同時に急転直下。なーに、心配することはない。この装甲を身にまとった今、どんなに高いところから落下したとしてもノーダメノーダメ。なんなら景色見れる余裕だってあるしね。
「シュタ!」
だからそう、着いた衝撃で全力で足がプルプルしてたり、若干視界がうるんでたとしても気のせい以外の何物でもない。なんなら足の感覚が薄れてきた気がしなくもないが、断じて違うから。
『終了~!!!!』
耳をつんざくアナウンスに意識がとられて、まとわりついてたものがどろりと溶けてなくなった。あの無限に戦えると錯覚しそうになる高揚感も、何もかも。
この個性なぁ、強いっちゃ強いんだけどなぁ……反動がえぐすぎるんよ。まっ、それはさておき、巨体相手を片手でぶっ飛ばしたなんて話したら、人生の武勇伝モノやな。ガハハ。
「ふぅー、やれやれ。まぁ、なんていうか。俺の手にかかればどんな相手もちょちょいのちょいってもんで」
「何言ってんの?」
いつの間にか後ろにいたのは、さっきの耳長少女。ちらっと横目で見れば、彼女が助けようとしていた奴が医療関係者に処置を受けているようだった。
「やれやれ、この俺様の素晴らしさがわからないなんて。人生の10割損してるよ。」
「は? アンタ友達居ないでしょ」
「なっ!? いますー、友達くらいいますー」
「具体的には?」
「……そういえばさ」
「逸らし方下手か」
なんか失礼な突っ込みをされた気もしなくはないが、俺は優しいからスルーしてやろう。
「俺って君の事助けてあげたわけじゃん? 少しくらいー、なんかないの? お礼とかさー。それがー、礼儀ってもんじゃないですかー? どうなんですかー?」
「いちいち伸ばすな、うっざい……でもまぁ」
彼女は俺から目を逸らすと、照れているのか頬を掻く。
「あ、ありがと」
「へー……誠意が足りない」
「やっぱアンタ、友達一人もいないでしょ」
「はあ!?」
お前だっていないだろと叫ぼうとして、視界がぐらついた。あれっすね、足の感覚がなくなってるのは、気のせいじゃなかったみたいです。
そのままふらふらと頭が揺れて……地面が目と鼻の先に――。
「ちょっ!?」
支えてくれた腕の感触を最後に、俺の意識はフェードアウトした。