石を投げればヴィランに当たる   作:るるる

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 雄英の教師並びにその関係者が集い、一つのモニターを見つめていた。

 

「実技総合成績出ました」

 

 1位から10位までが発表され、ロボットを倒したことによるヴィランP。他の受験者を助けたことによるレスキューP。その二項目で評価されている。

 反応は人それぞれあるものの、共通していたのは今年は豊作であるという高揚感。下手したら現3年生を超えるかもしれない期待感に、ほとんどの者が口角を釣り上げていた。その中でも、特に注目が集まったのは二人。

 

「救助p0で1位とはなあ!!」

 

 爆豪勝己。ヴィランPは驚異の77P。他が40や50台で終わっているのに対して、圧倒的な数値といえるだろう。

 

「仮想ヴィランは標的を捕捉し近寄ってくる。後半につれて他が鈍っていく中、派手な個性で寄せ付け迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」

 

 強い個性なだけじゃない、本人の冷静に状況を見極める判断力があってこその結果。

 

「対照的にヴィランp0で7位」

 

 緑谷出久。順位は落ち込んだものの、レスキューPは今回トップの60P。

 

「最初は典型的な不合格者だと思ってたのに、まさかアレに立ち向かっていくとは……」

「思わずYEAHって言っちゃったからなー」

 

 ワイワイと騒ぐそんな中。相澤消太だけは静かに10位の人物を見つめていた。

 

「YEAHって言っちゃったしなー」

 

 ヴィランp1、レスキューp55、怨響未練(おんきょうみれん)。黒をベースにやや青み掛かった長髪を流し、つり目の藍色の瞳。スタイルの良さと顔立ちから、一見クールでお淑やかな印象を受ける。けれど、プレゼント・マイクの言葉にすぐに反応できる対応力、片足でロボットを蹴り飛ばした脚力。10分間街を駆け抜ていける体力と、攻撃をすべてよけて見せた柔らかさ。それらを並べられれば、ただのお姫様ではないことはうかがえる。そして何より、緑谷によって印象は薄れたが0pヴィランをぶっ飛ばしたこと。

 

(何故、あんな非合理な方法を選んだ?)

 

 ただ一つ不可解なのがヴィランを一体しか倒さず、他の受験者を助けることだけに専念していた。レスキューポイントについて説明がされていた場合、選択肢としてはありえなくはないのだが。

 

(ただの観光客か、最初以外敵を倒せないワケがあったか)

 

 最後に出した個性は、女性の個性としては好ましくない見た目とはいえど、他にも似たようなものは沢山いる。ヒーローを目指しているならあの破壊力は強みであり、イレイザーヘッドのようにアングラヒーローとして活躍する道を選ぶなら、十二分ともいえる。

 一定期間に一回しか出せない個性だとしても、持ち前の脚力を使えば、あるかもわからない可能性に賭ける必要がない。

 

(入学してくれば分か――)

 

「YEAHー!!!」

 

 同僚の大声に顔を顰める。これ以上この場で思考することを諦めた相澤は、一度寝袋に深く潜ると5秒もしないうちに眠りについた。

 

 

 

 

 

 気絶した後、雄英の医務室で「はっ! 知らない天井だ!」なーんて人生でやりたいネタリストを一つクリアしつつ、あれから数週間が経った。なお、助けたガールとは連絡先を交換することができませんでした。ロボットが強すぎるせいです、あーあ。じゃあその数週間何していたかというと、個性の反動の影響で動けないですと噓をつき、悠々自適にインドア生活を営んでいるってところ。

 なーんて毎日ダラダラ過ごしていたら、結果日当日がやってきました。 しかぁし! 家ではしゃぎ倒そうものなら、マザーにあーだこーだ言われるのは目に見えてる。故に、はやる気持ちを抑えるためにレッツジョギング。その帰りに、家の前に郵便局員を発見。手に持ってた物を思わずかっさらい、マイマザーにボコボコにされるということはあれど、無事(?)に結果通知が届いた。

 

「受かれ受かれ受かれ受かれ受かれ」

「さっさと開けなさい。まどろっこしい」

「マザーは黙ってて! 今、念を送ってるところだから」

「はぁ」

 

 いつもだったらさっさとしなとか言って拳を振るうマザーでも、今だけはため息つきつつ待っていてくれて、なんだうれしい気が……。あ、でもさっきめっちゃ殴られたわ。前言撤回。くそばばぁ。

 

「受かっててください!」

 

 ペーパーナイフで封を切ると、中から変な機械が転がり落ちてヒーロー科と書かれていた。

 

「これちゃうわ」

 

 もう一通あった方を手に取ろうと手を伸ばし――

 

「いったぁ!?」

「まずはこっちでしょ」

 

 はー、さっきの前言撤回する前の気持ち返してほしいわ。仕方ないから機械を拾って起動すると、オールマイトがドヤ顔でヒーローポーズを披露しているというよくわからない映像が流れた。

 

『私が投え』

 

 ぶちっと画面を切り、改めてもう一方の方を――

 

「いっつ!? すぐに暴力に訴えるのやめろや!」

「確実に受かってるでしょ! なんで最後まで見ないの!」

「はぁ? どうあがいたって受かってるわけねぇだろうが!」

 

 ロボットを1体だけ倒して受かるなら、みんな受かってるっつーの。

 

「こんな凝った機械が同封されてるわけないでしょう!?」

「量産型お祈りマイトに決まってるんだろ!? 経営科の方が気になるんだからこっち見せろや!」

 

 殴られない距離をとると同時に、もう一通の方を手に取ってウキウキで封を切る。

 

「どーかなあ!」

 

 開いて長ったらしい文章を読み飛ばしてみれば、みれば……。あ、あれ? 合格の前にいらない文字がついてるんだが。

 

「なんか、あれ。おっかしいなー。かの有名な雄英でも印刷、ミス、とか……」

 

 紙の上に雫が落ちて滲んだ。

 手が震える。脳に今までの記憶が無意識に浮かんでは消えていく。

 

「あれぇ? 雨漏りぃ? ジョギング行ったときは晴れだったんだけどなぁ?」

 

 喉が震える。この世界に生まれて、自我が芽生えて、前世を思い出して。母親がくそおやじと離婚して、必死に働いてくれて俺を育ててくれた。前世があったから、どんな思いでどんなに苦労しているのかもわかった。

 

「やっぱりさぁ。中古物件はダメだねぇ。水道管事態に問題があるんじゃねーの?」

 

 偏差値70越えの経営科に入るために必死に勉強していた日々。ヒーローの方が儲かるのは知っているけど、安全じゃないから。強い個性が出てきた時も心は揺らがなかった。

 

「私が、出世払いで、ローン、払うから……新築にしようって……」

 

 ヒーロー科と経営科の試験科目は全くもって違う。ヒーロー科には実技試験があるように、経営科にはお金についての特別科目が存在している。ベクトルも違えば難易度は高いけど、必死こいて勉強した。

 安心安全でお金稼いで、楽させる為に。でももう、できなくなってしまって。

 

「ごめん……ごめんなさい」

「未練……」

 

 ヒーロー科を目指すって聞いた母の嬉しそうな笑顔に、言い出す勇気が湧かなくて。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 また苦労させることになってしまって。

 

「ごめんなさい……」

 

 いくら謝ったって、涙で破れた紙をぐちゃぐちゃに握りしめても、結果は何も変わらなかった。

 

 

 

 

 

 マイルームの床に寝ころぶと、ひんやりしていて気持ちいい。このままどこまでも沈んでいきそうな錯覚すら覚える。

 明日からどうしようかな。一応滑り止めの試験が少し先にあるし、勉強しないとかぁ……だりぃな。明日は一日中遊んで明後日から頑張ろ。

 

「未練?」

 

 扉の向こうからマザーの慌てた声が聞こえてきた。

 

「なんですかあ? 床浴楽しんでる最中なんですがあ?」

「とっとと出てきな!」

 

 バンッ! と、鍵がかかっているはずの扉が蹴破られ、推しのフィギアの棚に激突!!?

 俺のコレクションがあ!!?

 

「何すんじゃババア!?」

「アンタこれ!」

 

 ババアから剛速球で投げられた物体を、顔面当たるすれすれのところでキャッチ。まじであっぶねぇなおい。てかこれ、さっきの量産型お祈りマイトの奴か? いまさら何でこんなものを。

 

「それを今すぐ見な!」

「は、はぁ?」

 

 心の中で指を立てるが、言葉に出したら米の代わりにもやし入れられそうだし。黙ってスイッチをポチっとな。

 

『私が投影された!!』

 

『怨響少女、君は素晴らしいことに筆記点数1位!』

 

『しかし、実技は1点。合格とは言い難い……が』

 

『ここは雄英高校ヒーロー科! 倒すだけじゃない、救ってみせるのもまた一つのヒーロー像!!!』

 

『一人の少女を助けるために0pヴィランに挑んだ君を、排斥しちまうヒーロー科なんて存在しないって話だよ!!』

 

『レスキューP!! 我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力!! 審査によって怨響美蓮プラス55P!!』

 

『合格だよ』

 

『雄英は君を待っている』

 

 そっと優しくいざなわれた言葉が、耳を通して脳に届く。涙は出なくて、なんていうかこれは、腹の底から沸き立つような……歓喜。

 

「よっしゃああああ!!!!」

 

 何かよくわかんないけど受かってたあ!!? レスキューPってなんだよってツッコミたくなるけど、正直もうどうでもいい!! 経営科なんて知らねーよ!! 受かってることこそが神!!

 

「うおおおおおお!!! 雄英高校サイコー!!!」

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