石を投げればヴィランに当たる   作:るるる

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 雄英高校登校初日。自分の身長を優に超える扉の前で、大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。これから夢の高校生活が始まると思うと、心にグッとくるものがあるな。

 オープン・ザ・ドア!!

 

「ゲッ」

「えっ?」

 

 わーおびっくり。件のイヤホンガールが、驚いた表情でこちらを凝視してる。初めての環境で右も左もわからない中、知っている顔に会えたのはうれしい。が、入試の際に思いっきり素を曝け出した気がしなくもない。

 そこで俺が取るべき行動は……無かった事にすることだ。

 

「おはよう! 貴方も受かってたんだね! 良かった~」

「何その気持ち悪い喋り方」

 

 やっぱり無理か〜w

 笑顔を取り繕っているが、頬が痙攣しそうになる。流石に今のは俺でも気持ち悪いと思ったが、口に出さないことも大切だろぉ!? そんな人には最終奥義を使うしかあるまい。

 

「ハーゲン1個」

「……2個」

 

 視線が合うと静かに頷きあった。

 

「ケロッ。二人は友達なのかしら?」

「んーと?」

 

 突然話しかけられ、驚くままに視線を向ければカエルっ子がいた。ほんとにザ・カエル。抹茶寄りの緑の長髪に、まん丸おめめと大きなお口。猫背に手をプラプラとさせてるのが可愛い。

 

「ごめんなさい。蛙吸梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「これからよろしくね、梅雨ちゃん。私の名前は怨響未練。好きなように呼んでね」

「耳郎響香。ウチも好きな風に呼んでいいよ」

「じゃあ、イヤホンガール」

「それ以外で」

 

 俺が第一印象で決めたあだ名が速攻で却下されてしまった。そこはかとなく辛い。

 

「ふふっ、仲良いのね」

「でしょ!」

「どこが? たまたま試験会場であっただけだし」

「えー、瓦礫から助けてあげたじゃん。こう、私が来た! って言って、そしたらイヤ……耳郎さんが救世主って目を潤ませて」

「そんなことがあったのね」

「ないから」

「あれー? そうだったっけ?」

 

 もしかしてこれが噂の女子トークというやつか! いや~、女子としての風格が板についてきちゃったかな~。プロとまではいかないけどセミプロレベルかなー、なんつって。

 

「澄ましヅラあ!! てめぇも居たのかよ!!!」

 

 扉が割れそうなほどに思いっきり開けて割り込んできたのは、爆豪勝己こと爆発ヘアー。

 急に殴り込んでくるのやめて欲しい。今盛り上がってる最中だったのに。

 

「おはよう、元気だった?」

 

 不機嫌さはおくびも出さずに、どんな時も笑って愛嬌を振りまくように。

 

「ンでお前がここにいやがんだ!!」

「まぁまぁ、落ち着いて。これから一緒に授業を受けていく仲間たちの前で、そういう暴言はよくないんじゃないかな?」

「ああ゛!? てめぇがそもそもコッチに来なければよかった話だろうが! この経営科志望が!!」

「は? なんで――」

「君たち! 教室で騒ぐのは止めないか! 他のクラスメイトの迷惑になる!」

 

 疑問をぶつける前に部外者によって遮られた。お前の声が一番うるさいよと文句を言いたいが、火に油は注ぎたくないので黙っとく。 青いショートヘアーに眼鏡。制服には皺もなく眼鏡にも汚れは無い。見聞きするからに真面目ちゃんだな。

 そしていつの間にか、俺は蚊帳の外で言い合いがヒートアップしてやがるぜい。

 

「てめーどこ中だよ端役が!」

「ボ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

「聡明〜〜? クソエリートじゃねぇか!ぶっ殺し甲斐がありそうだな!」

「君ひどいな!? 本当にヒーロー志望かい!?」

 

 それについては激しく同意。ヴィランの方が似合ってるだろ、絶対。またまた扉が開く気配を感じて振り返れば、見覚えのある緑ヘアーが居た。

 

「は、はぁ?」

 

 あれ、君、えっ……無個性だったよね? どうやってあのロボットによって崩壊された街をくぐり抜けてきたんだ。 自信あるな〜とは思ってたけど、本当に受かったとは。

 確かに母校から3人合格者が出たとは聞いてたけど、興味なさすぎて何型のハゲになるか予想ゲームしてたのが仇となったか。結論としては、Mハゲになりそうで終わりました。もう俺女だから、ハゲと関係ないしー。将来安泰だしー。現役の男どもは永遠の髪の呪縛に悩むがいいわ!

 

「お友達ごっこしたいなら、他所へ行け」

 

 今度はなんですか、って。寝袋?

 

「ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 寝袋の中から取り出した飲むゼリーをジュッと一瞬で飲み干す。1秒チャージをして気が済んだのか、ヌーっと立ち上がった。

 

「ハイ。静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」

 

 ボサボサ頭に無精髭。栄養が足りてないのか、正気の薄い眼が俺達を値踏みする。首には包帯みたいなのが緩く巻かれて、服は全身真っ黒。全体的に整えられておらず、不衛生な感じがして、関わりたくないタイプの人間。どこの何担当なんだ。この時間帯に来たってことは担任説もあるけど、補佐的な立場の人であってくれ。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 クソがぁ!! せめて衛生的な人が良かった!!

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 えへぇー……初っ端からお外で授業かよ。

 

 

 

 

 

『個性把握テストォ!?』

 

 クラスメイト全員が息を揃えて言うもんだから、こっちの方が驚きだわ。

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

 ヒーロー業ブラック過ぎて草。ヒーローの前に一学生っていうこと忘れてませんか。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

 忘れ去らせてそうだなコレ。雄英教師は鬼畜なんか? 

 

「ソフトボール投げ、50m走、反復横跳び……中学のころからやってるだろ? “個性”禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均をとり続けている。合理的じゃない」

 

 そう言うと、どっかからソフトボールを取り出した。

 

「爆豪。中学の時ソフトボール何mだった?」

「67m」

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ、思いっきりな」

 

 先生から手渡された爆発頭は、白い縁の中心に立つと、中学生時代いやというほど見た獰猛な笑みを浮かべる。なんで一番の問題児に渡しちゃったんだよ!!

 

「んじゃまぁ――死ねえ!!!」

 

 ………………………………ほーら、ろくなこと言わないしやらないじゃん。爆破によって投げられたボールは砂埃をまき散らし、空の彼方へ飛んでいく。その余波で、5分で整えた髪がめっちゃ乱れた。

 あ、待って今の突風で目に砂が。ちょあ、めっちゃ痛い。目がぁぁぁ、目がぁぁぁ! どこかにお水ありませんかあ!? なんか除籍とかなんとか、大切なことを言っている気がしなくもないけど、それどころじゃねぇ! うっすら見えたのは、先生が髪の毛を掻き上げてドヤ顔して……その前に水、水!

 グラウンドの近くにあった水道水で目を洗っているうちに、みんなが個性を使って楽しそうに50m走をしてやがる。俺以外は平気だったとは、さすがは雄英ヒーロー科。

 

「未練ちゃん、大丈夫?」

「天使!!」

 大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。

「多分だけど、逆じゃないかしら?」

 

 口元に人差し指を持っていって首を傾げてる。なんだこの可愛い生物。

 なーんて考えてるうちに前の人が爆走している。さっきの眼鏡が本体君は足にあるターボを吹かして疾走。てか、速すぎ!?

 やれやれ、俺も、やれやれ、本気を出しましょうか、やれやれ。

 

「次!」

 

 一自分の脚を最大限使って、一気に駆け抜ける。腕を全力で振り、より一歩、さらに一歩早く、前へ進め!

 

『ピッ、4秒13』

 

 よっしゃキタコレ〜!!

 俺が人生で出した記録の中で、一番速く無いか!? はー、自分自身に惚れ惚れしちゃうわー。

 

『ピッ、5秒58』

「ケロッ」

 

 1秒ちょっと遅く、梅雨ちゃんもゴールイン。

 

「早いのね、少し妬いちゃうわ」

「まぁー、増強系の個性だからね。ここで負けたら私のプライドがね、傷付きますしね」

「そうなの、それは失礼したわ……ケロッ」

 

 その後も着々と項目をこなし、記録を叩き出していく。増強系の俺にとっては有利なもんで、クラス内平均点は超えてるかと。 さっきから増強系とは言ってますが、厳密には違うもので。

 個性名「黒装(こくそう)」。かなり厨二病なネーミングセンスだけど、個性を判断する医者がクッソ適当につけたらしい。調べても詳細がわからなくて、黒を装備するから黒装だとか。正確な色は黒紫だし、装備というより纏うだろと愚痴りたくなるが置いといて。

 どういう原理で身体能力が向上しているかはわからないけど、仮説として1つ思いつくのは黒装のあの破壊力を支える器だから。 例えば、毒を持ったカエルが自分の毒で死なないように。銃弾を放つ拳銃が撃った衝撃で壊れないように。必ず強い力には耐えれる器が存在している。

 それに倣えば、力を耐えうる身体を持っていてもおかしくない。その結果が通常の人間より大幅な身体能力の向上。っつっても、小さい頃は個性が体に合わな過ぎて、よく体調を壊してたがな。

 

「無限!? すげえ!! 無限が出たぞー!!」

 

 ボール投げが行われて、無限を出した人物が現れたらしい。

 

「わーぉ、まじかぁ」

 

 やりおったな。こうしちゃおれん、俺も少しだけ頑張りますか。個性を堂々と使える機会なんて、今まで一度もなかったしな。

 右手にボールを手に持って肩の力をふっと抜く。個性を発動するために、怨念の声に耳を傾ければ、どんどん声が反響していき、心臓付近から力の根源が溢れ出す。それを右手だけに流すようなイメージで。少しすれば周囲がキラキラと黒く光り、力をこぼさないようにポーズをとる。

 

「一投――っ!?」

 

 振り切る瞬間、右手だけが引きちぎれるような感覚に襲われて、ボールがあらぬ方向に飛んでいく。頭の中にはいつもよりも沢山の声が反響して喧しい。

 

「20m」

 

 ありゃりゃ、失敗失敗……あれ? 違和感に従って右手を見れば、かわいそうなくらいプルプルと震えて、肘から先の感覚が一切なかった。そっと流れた冷や汗はなかったことにして、左手でボールを手に取る。いっかー。俺、左利きだし。

 

「本気、出しちゃおっかな~」

「最初から出しなよ」

「君ィ……」

 

 気持ちを切り替えて投げれば、400mを超えました。もっと行くと予定だったけど、今回はこれが限界かな。次回やるときに向けて反省を胸に、ヤジを飛ばしたガールにニッコリスマイル。とってもいい笑顔とハンドサインで返してくれました。可愛いらしいですね。

 お次は、マジでどうやって入学したのが不明な、緑ボーイ。今のところ個性らしい個性は使用してないっぽいけど、舐めプかオイオイ。 

 

「46m」

 

 やっぱり入試試験でなんか小細工したんやな。小細工不要ォ!! と叫んでいた俺を見習ってほしい。なんかティーチャーと押し問答始めちゃったし、これは不正ばれたな。

 

「ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

 

 ブツブツを呟やき、完全に思いつめた顔をしていらっしゃる。クラスメイトとしては自首を進めてやりたいとこだが、目が諦めてない。

 

「今――」

 

 ボールから完全に手を放すギリギリのタイミングで彼の人差し指が赤く輝き、爆豪以上のスピードで空を切った。

 

「まだ……動けます」

 

 痛みに瞳を潤ませ、唇を必死にかみしめている姿は痛々しいはずなのに、かっけぇな。

 

 

 

 

 

 全ての項目が終わり、結果が発表された。透明なディスプレイが空中に出るって、俺からしたらオーバーテクノロジー。それはさておき、順位は3位とまぁまぁの結果。比較的相性が良かったとはいえど、あくまでも人間の超強化版なだけだから、長座体前屈で氷で押したり、物を作りまくって押したりなんて芸当はできませんからね。不正で訴えていいですか?

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 え? 何の話?

 

「君らの最大限を出すための合理的虚偽」

「「「はーーー!!!??」」」

「除籍をかけて争ってたの!!?」

「そこから!!?」

 

 何それ初耳なんですが!? もしかして、さっきのは除籍しちゃうぜのドヤ顔だったの!!?

 

「あんなのウソに決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ」

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」 

 

 いやいやいやいや、危な!? ありえないとは思うけど、億が一手をゴリゴリに抜くなんて言う舐めプをしてたら、初日からジ・エンドだった!? いやでも、合理的虚偽って言ってたから、噓だったということで。除籍という話はそもそもなくて。……ん? あ? 混乱してきた。もしかしていつの間にちょうおんぱ食らってた?

 

「おい、怨響」

「なんでしょうか?」

「これ持ってリカバリーガール(ばあさん)とこいけ。場所は緑谷についてけばわかるだろ」

「保健室利用書? いらないですよ私。特にケガしてないですし」

「ボール投げをした時から右手が動いてない。うだうだ言わずにさっさと治してもらえ」

「……わかりました。ありがとうございます」

 

 見た目に反して見えてる先生だな。それ以外はちょっと好きになれないけど。

 さて、緑頭は一体全体どこにいるのかな。っと、みんなとは反対方向に歩いているところを発見!

 

「待って緑谷君!」

「はい! 待ちます!」

「私もいっしょに行ってもいいかな?」

「もちろんいいです!!!」

 

 いちいちうるせぇ。3年間同じクラスだったんだから、いい加減慣れろよ……って言おうと思ったけど、ろくに喋った記憶ないな。

 

「個性凄かったね」

「あの……そんな……今回はたまたまうまくいっただけで……」

「ねぇねぇ、ちょっとした好奇心なんだけどさ、聞いてもいい?」

「大丈夫です!!」

 

 考えて悩むくらいならズバッと聞いちゃうのが俺流で。

 

「いつ個性が覚醒したの? 元・無個性さん」

 

 本人の大事な隠し事を暴こうとするとき、思いっきり顔がにやけるのも俺の悪い癖だ。 

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