石を投げればヴィランに当たる   作:るるる

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 開いていた窓から吹き込んできた風が、彼女の髪をふわりと靡かせる。少し長い前髪から覗いて見える藍色の瞳と歪な笑みに、緑谷は声が詰まって言葉が出なかった。

 緑谷出久にとって怨響美蓮の第一印象は、とてもきれいな人。特に青み掛かった長髪は一際目を引いた。3年間同じクラスではあったものの、話したのは業務連絡程度。最近になってやっと、挨拶を交わすくらいにはなった。

 クラスでは率先して何かをするということはなく、静かに見守っている補佐的な立ち位置。一つアドバイスを求めれば、現実身がある意見を出してくれて、下手したら先生よりも頼りになる存在。

 運動もできて、勉強もできて、雄英を目指していると知った時には自然と納得した。緑谷が雄英を目指しているとばらされた時だって、あざ笑うことなかったからかもしれないが。緑谷にとって彼女以上に適任者はいないとすら思えた。

 だから、そんな彼女が浮かべてる笑みは過去の記憶と酷く相違していて、気持ち悪い。

 

「……一年前に覚醒して、前例の無い事だからってあんまり言わない方がいいって、医者に言われてたんだ」

 

 事前に作っておいたセリフを、声が上擦らいないよう意識して伝える。それでも罪悪感から左に視線を向けてしまった。

 

「そっか。お医者さんから言われたんだったら仕方ないね。ごめんね? 問い詰めるような言い方しちゃって」

「だ、大丈夫! 僕こそごめん」

 

 意外にもあっさり納得するものだから、少し呆気にとられる。

 

「うーん、だったら一つ提案なんだけどさ」

 

 気がつけば、彼女はいつもの安心感を与える柔らかな笑みに戻っていた。

 

「多分だけど増強系の個性だよね?」

 

 間違っていないから緑谷は頷くと、そっかー、と彼女は呟き首を摩る。

 

「私も増強系だからさ。一緒に個性の特訓してみない?」

 

 その提案は、みんなから遅れていることに焦りを感じている緑谷にとって魅惑の味がした。けれど一瞬感じた違和感は、いつまでも消えることは無く、曖昧に返事をすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 春はあけぼの。ほのぼのとして過ごすべしが春限定の俺のモットーだ! ……まぁ、それはさておき。

 入学早々起きた合理的虚偽による除籍宣言から1日後。リカバリーガールという名のおばあちゃんに綺麗すっかり癒してもらい、全開全力絶好調! おかげで授業中に書いた落書きは芸術作品並みの出来だ。お弁当を食べるのを後回しにして、ゆっくりじっくり眺めているのも一興。

 

「素晴らしい……」

「何やってんの?」

「どうもこんにちは、耳郎さん。さっきの授業の復習をちょっとね」

「……」

「……ちっす」

 

 爽やかボイスをやめ、素の挨拶で返す。その隙に、ノールックでノートを仕舞い込んだ。神速を超える速度は、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「ノートに落書きしてたでしょ?」

「なんでバレた!?」

「隣の席だからでしょ。バレバレだから」

 

 くっ、真横に刺客がいるなんて盲点だった。もしかしてコイツ、俺が思ってる以上にできるな。

 

「アンタ、昼はどうすんの?」

「んー? お弁当だけど、それが何か?」

 

 もしかして、一緒に食べたい感じか。いやー、だったら照れちゃうなー。モテ期? モテ期きた? でもなぁ、心に決めた人がいるからなぁ、耳郎ちゃんには申し訳ないけど、告白はNGというかなんというか。 タイプではあるが、それ以上は興味無しいしなー。

 

「梅雨ちゃんがアンタも弁当だったら、一緒に食べたいって。ウチは嫌なんだけど」

「またまた〜」

「怨響は学食っと」

「ジョークジョーク! つーか、梅雨ちゃんは?」

「相澤先生のとこ。5分しない内に帰ってくるって」

 

 虚言先生に用事があるって新手の物好き? 新たな疑惑が浮上したが、それよりも飯メシ。お弁当を出すためにカバンの中を漁りつつ、後の席を確認しても人影無し。

 

「上鳴さん居ねーし、梅雨ちゃんの席はここでいいよな」

「いんじゃない?」

「どうしてもっつーなら、耳郎さんが座っても良いんだぜ?」

「刺すよ?」

「ひぃ!?」

 

 彼女の耳から伸びたプラグが、俺に狙いを定める。あれ、待って。延長線上にあるのは俺の眼球なんですが? まさか本気でやるつもりか、コイツっ。

 

「あら、楽しそうね……ケロッ」

 

 丁度帰ってきた梅雨ちゃんの後ろにサッと隠れて、梅雨ガードを発動!!

 

「ゴー! 私の代わりにゴー!」

「怨響っ」

「これはどっちについた方がいいのかしら?」

 

 一も二もなく、こっちについてくれると嬉しいな!

 

 

 

 

 

 耳郎プラグにビビりちらしつつ、3人で飯をむしゃむしゃ食う。出会って2日故に、大して中が良くないワイらが盛り上がれるのはやっぱり個性の話。大々的に話せるのは、ヒーロー科ならではな気がしなくもねぇけど。

 

「私は跳躍と壁に貼り付けるのと、舌を伸ばせるわ。最長で20mほど。後は胃袋を外に出して洗ったりーー」

「胃袋!?」

「えぇ。他には毒性のある粘液を出すことができるわ。といっても、少しピリピリするだけだけど」

「はへー、んじゃ、耳郎さんの耳は何が出来るの?」

 

 今んとこ、眼球を刺されかけるぐらいの使い方しか見ていないんだが。このままだと二つ名が、眼球刺しのイヤホンガールとかになりそう。

 

「刺したら、どんな分厚い壁があっても音が拾える」

 

 耳から伸びたプラグに指を絡ませながら答えてくれた。

 

「はぁーん、索敵にツヨツヨだね」

「後は刺せばそこから爆音を出せる」

「ひぃえ!?」

 

 もし刺さってたら、眼球炸裂してたじゃん!? こっわ、なにそれこっわ。

 

「未練ちゃんはどんな個性なのかしら?」

「身体能力強化系!! 昔で言うところの、ギネスブック真っ青の記録を叩き出せるよ!」

「……それだけじゃないでしょ?」

「これ以上は友好度が足りないのでダメです!」

「なにそれ」

「それは残念ね……ケロッ」

 

 言わないことに対して罪悪感があるが、胃袋を取り出して洗うより結構グロい内容しな。可愛いJK共には教えられないってもんだぜ。

 さーてと。話題も尽きたことだし、さっさと飯食っちまうか! 

 最後まで取っておいた俺特製のだし巻き卵を口に放り込む。かつお節と昆布からしっかりとった一番出汁を、贅沢にも卵2個に対して50ccも使う。たっぷりと水分が入ったことにより、ひっくり返すのは至難の業であるが、卵だけでは演出できない舌で切れる程の柔らかさのためなら苦労はいとわない。一口嚙めば、辛うじてせき止めていた卵の器から出汁があふれ出しのどを潤す。そこに加わるほのかな塩味と、白だしの風味。

 んん、やっぱうめぇ! お弁当にだし巻き卵は欠かせないな!

 

「めっちゃおいしそうに食べるじゃん……」

「今度、耳郎さんの分も作ってこようか?」

「別にいい」

「梅雨ちゃんだけに作ってくるね!」

「それは嬉しいわ……ケロッ」

 

 素直な梅雨ちゃん可愛すぎ。天然の癒しスポットとしてもやっていけるって。それに比べてイヤホンガールときたら……ツンデレスポットは要らんよ。

 

「あー、もったいないなー。このおいしさを堪能できないなんてー」

「……」

「無言でプラグを向けないで! 怖いんだって!」

 

 

 

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

 昼休みが終わり、午後の授業が始まった。オールマイトが突撃したのは横に置いといて……。正直怒られた時の印象が強すぎて、あんましオールさんの視界に入りたくない。

 若干寝ぼけながら聞いていると、ヒーロースーツという単語が聞こえて、一瞬で覚醒する。どうやら次の授業で、待ちに待ったヒーロースーツを使うとのこと。無駄にハイテクな様相で出て来たヒーロースーツのカバンを片手に、一も二もなく更衣室に駆け込んだ。

 一番乗りで部屋に着き、恐る恐るカバンのロックを解除。中には丁寧に折り畳まれた軍服に帽子が入っていた。

 

「かっくぃ……!!!」

 

 俺の個性の性質上、どんなに厚手をしていても隙間さえあれば関係ないので、ロマンだけを貫かせてもらったヒーロースーツ。

 テーマは軍服。帽子は黒を基調として、海上自衛隊を参考に鳥を模した帽章がついている。白い布の手袋と黒い革のブーツ。首が隠れる高さの襟が付いた長袖。腰ベルトにはヴィラン用の拘束具と警棒を携えている。髪は結ばずにそのまま帽子を被り、マントは肩の固定具でしっかり止めて、バサッと靡かせてみせた。

 

「んんんっ!」

 

 いざ、鏡の前に立てば、かっこよすぎで語彙力が吹き飛んだ。ここだけに関して言えば、まじでヒーロー科来てよかった!! 国からの公認されたかっこいいコスプレをできるんだぜ? たまんねぇよなオイ!

 

「うし、行くか!」

 

 もう少しいろいろなポーズを取っていたいとこだが、ほかの人に見られるのは嫌なので、とっととその場を立ち去った。

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