石を投げればヴィランに当たる 作:るるる
「始めようか有精卵共!!!」
オールさんがめっちゃ張り切ってらっしゃる。よく、テレビで見るより実物の方がインパクトがあるとかいうけど、ちっさいころに見たニュースのころの方が迫力あったな。ただのワザップ情報か。
「今回やるのは対人訓練! 君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!」
学校公認のボコり合いじゃーん。これが入学して二日目のカリキュラムとか草。
「状況として、ヴィランがアジトに核兵器を隠し、ヒーローはそれを確保しようとしている!」
設定がアメリカンなのに、小さい紙を見ながら説明するのはダサいなオールマイト。
「ヒーロー組は制限時間内にヴィランを捕まえるか核兵器を回収する事。ヴィラン組は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえる事。捕まえる時に使用する道具は、この捕縛布で両手を縛ることさ!」
簡単に言っちゃえばどっちの陣営になっても殴れば勝ってことだよな。
「コンビ及び対戦相手はくじだ!」
急に来た庶民感。メガネが「適当なのですか!?」とか言ってるのを横目に、さっさと前に出る。
「オールマイト先生、引いてもいいですか」
「もちろん!! ガンガン引いてこう!」
えーっと、番号はGか。どこのどいつかな、俺と組めるという名誉を掴み取ったのは。
「G……」
聞き覚えのある声に、ガバッと振り返り彼女を覗き込む。
「あっれー?? もしかして耳郎さんが私のペアですかぁ??」
「うわっ……ほんとサイアク」
「そんなひどい! クラスで3番目に強い私と同じチームなんて、勝ったも同然じゃないですか」
「一番じゃ無い時点で微妙だから」
「贅沢言わないでくださいよー」
「はぁ……」
思いっきり頭を抱えられると、流石に泣くぞコラ。
全員が引き終わると、オール先生がHEROとVILLAINと書かれた箱を一つずつ持ってきた。
「最初の対戦相手はこいつらだ!! Aがヒーロー!! Dがヴィラン!!」
うわっ、よりにもよって害悪劣悪幼馴染が相対するとか、絶対ろくなことになんないじゃん。
「続いて、二番目の対戦相手はIがヒーロー!! Gがヴィラン!!」
2番目にきたか。一番目よりはましだけど、もう少し後の方が嬉しかったという本音。
さてはてIコンビは誰かなーっと、視線を巡らせると梅雨ちゃんと目と目が合う。隣にはIカードと手袋が宙に浮いていた。
1戦目が終わり、2戦目が俺らのターンなのでさっさと建物を駆け上がる。
「さっきの凄かったよなー、あんな豪快にビル壊されちゃうと、2番手の期待が重いっつーか……どうかした?」
「別に」
「もしかして緊張してる〜? ヘイヘーイびびってる〜」
イヤホンガールの耳たぶが静かに浮かび上がり、照準が自分を向いた瞬間、速度を上げて逃走。
勢いのまま最上階に上がれば、部屋の中心に核がどーんと設置してあった。せっかくなんでペタペタ触ってみるけど、これが結構軽くて持ち運び仕放題。今の内に移動させてもいいな。
「はぁ、はぁ……アンタ、早すぎ……」
核から手を離して振り返ると、イヤホンガールが不機嫌そうに肩で息をしていた。
「作戦はどうする? 特になければ、俺が突っ込んでって、耳郎さんの索敵によるサポートに回ってもらおうかと」
「……それでもいいと思うけど、相手は梅雨ちゃんだよ? 個性バレしてるじゃん」
「それと、透明ガールも居るな」
個性バレしてなければ、とっとと透明ガールを捕獲して2対1に持って行けたと考えると惜しいことをしたもんだ。
「安心安全ノープロブレム! 身体能力では勝ってるんで!」
昨日の50m走では梅雨ちゃんは自分よりも遅いことは把握済み。お昼ご飯の時に聞いた話から、瞬発力と舌の攻撃に注意すれば大丈夫っしょ。透明ガールの方はこれといった記憶はないし、俺より身体能力は劣ってるハズ。
「耳郎さんが居場所を伝えて、俺がパパっととっ捕まえる。どうよ?」
「身体能力だけでは太刀打ちできないのが個性でしょ」
「まぁまぁ、ダメだったら気合いで何とかする!」
「はぁ……分かった。一つだけいい?」
「どうぞ」
彼女は少しだけ耳を赤くしてから言った。
「耳郎さんって呼びにくいでしょ。耳郎でいいから」
「え? まじで――」
『2チームとも準備はいいかな!!! 5秒前!』
オールさん……タイミングが悪すぎるって。なんならワザとか、おいコラオイオイ。
『3……2……1! 屋内対人戦闘訓練スタート!!!』
「仕方ねぇ、ちょっと田んぼの様子見てくる」
「何言ってんの?」
これがジェネレーションギャップならぬ、ワールドネーション……長いしめんどいからいいや。
制限時間は15分。優位なポジションを取られないように、さっさと1階まで駆け下りてく。せっかく上がったのに……。
『1階、窓側の方から2人入ってきた』
「ナイスサーーーチ! あと10秒ちょいで1階に着くんで、ヨロ」
『オッケー、任せて』
想像以上に頼もしいな。ゲームの世界だったらマップとかに敵の位置がわかったりするけど、リアルじゃそんな便利グッズなんてないわけで。
とか考えてたら1階に到着。柱に隠れて耳を澄ますけど、特に話し声とかは聞こえてこないな。
『怨響の位置から右奥に2人が……歩いてる? というか、何か探してる感じ』
まさか裏の裏の裏を読んで、1階に核を置いたととでも思ったのか? まあでも、ちょうどいいな。2人揃ってんだったら、一気に仕留める。
「いくぜ」
『油断しないでよ』
「もち」
速攻梅雨ちゃん狙いで柱の陰から勢いよく飛び出し、耳郎の言われた通りの位置に駆け出す……あれ?
「誰もいねぇぞ!!」
『避けて!!!』
「へっ?」
気がついた時には、目の前に例の捕縛布が迫って――。
蛙吹の投げた捕縛布はきれいな弧を描き飛んでいく。
(ケロっ!)
蛙吹が勝利を確信した瞬間、怨響は気の抜けた表情からは考えられないほどの勢いよく後ろに下がり、投げた捕縛布が空を切った。
(ミスっ)
動揺する蛙吹の後ろから、すかさず葉隠が怨響の足を掴めば二人は体勢を崩して地面に倒れ込んだ。
「梅雨ちゃん!!」
瞬時に切り替え、持ち前の脚力を持ってして一気に距離を詰めると今度は確実彼女の手首を絡め込んだ。
後はもう片方の手に付けるだけで怨響は失格となり――。
「しゃらくせえ!!」
あと一歩のところで怨響は勢いよく絡まった方の手を振い、蛙吹はコンクリートの壁に打ち付けられる。
意識が飛ばなかったことが不幸中の幸いと、すぐに壁と同化してその場から離れた。
「え!? なにこれ!? 絡まりすぎだろ!?」
彼女は自分の右手に付いた捕縛布を剝がそうと躍起になるも、それは完全に絡みついて数秒そこらじゃ結び目は解けない状態になっていた。
もちろんその隙を逃すはずもなく、蛙吹は後ろから葉隠は前から攻める。
葉隠は怨響の絡まった捕縛布から伸びた部分を掴み強く引っ張って、自分に意識を向ける。
「力の差ァ……わかってますかァ?」
怨響が右手を引き切る前に素早く放すことで、蛙吹二の前にならないよう回避した。
蛙吹は二人のやり取りの時間で完全に後ろに回り込むと、葉隠の分の捕縛布を手に持ちがら空きの左手に向かって投げつけ――。
「見えてなくてもこっちは聞こえてるんだよォ!!」
彼女がたった一歩踏み込むだけで、またもや捕縛布は力なく宙を舞った。
「俺に勝とうなんざ、18年早いんだよ!!」
『割と行けそう』
「うっせ」
右手に絡まった捕縛布の伸びた部分も巻き付けとく。さながら即席サポーター。
といっても膠着状態。どうしたものか。
『後ろ!』
「テンクス!!」
耳郎のサポートでなんとか攻撃は避けることができる。いっその事、相手が持ってる捕縛布をボッシュートしたいところだけど、ぱっと見は布のくせに絡みつき性能えぐいんだよな。下手に掴んだり踏みつけようものなら、一気に絡まりそうでリスキー。身動きが取りづらい状況で二人から抑え込まれたら、いくら筋力差があるからって対処できる自信がない。
「今何分!?」
『ちょっと待って、丁度5分経ったところ』
「後5分か! ありがとう!」
『は? 何言って……そういうこと』
見えないということは対処に一歩遅れる。その点に慣れ始められたら、絶対どこかで負けるっ。何か打開策を……。
『個性は使わないの?』
「使えたら苦労してないーーあっぶね!?」
目と鼻の先を横切った捕縛布に心臓がキュッとなった。油断大敵、ノット思考停止。後ろばっかりに気を取られず、前もしっかり見ないと。
それでも、この状況を好転させるにはやっぱ個性使うしかねぇよな。
「仕方ねぇ!! 男は度胸!」
『女でしょ』
「ん!」
やっべ、忘れてた。今はそのことおいといて。
「さーてと、俺の個性を解禁する!!」
マントを靡かせ、獰猛に笑い飛ばした。