石を投げればヴィランに当たる   作:るるる

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『最初から使ってよ』

 

 せっかくかっこつけたのに、すーぐ茶々入れやがって。まぁ、俺の心は日本海並に広いから、許しちゃうけどな。

 それはさておき、昨日は流すイメージで個性を使ったら、ノットグッドだったわけで。当たり前の話、今までは纏うイメージでやってきたんだから成功する方が天才的よ。ちょー有名なコント師でもバラエティーに出たらいまいち面白くないのと一緒……多分ちげーな。

 

『前と後ろ同時に来る!』

「オケ」

 

 オーバーに飛ぶ事で避けつつも、思考は止めない。

 彼女らはヒットアンドアウェイ戦法で周りをうろちょろしている。耳郎が出来るのは、攻撃が来るよーくらいの大雑把な指示。正確に認識することはできないから、思いっきり拳振るっても当たらないどころか、相手に隙をプレゼントしちまう結果になる。マジで一回くらい姿を現してくれたっていいのによ。

 天才的な頭脳を回転させ、たったの数分で考え付いた作戦はこうだ。見つけられないなら、広範囲に無作為に捕縛するように個性を使えばいい。たとえ透明人間であっても、四方八方から飛んでくる攻撃に対しては、為す術もないだろう。

 とまぁ、ここまで考えたはいいものの、ぶっちゃけどうやればいいのかはわからん。何なら考えることが多すぎて動きが止まりそう……。

 やめだ、やめ。別に頭の中でこねくり回す必要ねーよな。今やってるのは実践形式のただの練習試合。たとえ負けちゃったとしても、黒歴史がさらに増え、当分いじられるだけ。全力でご遠慮していただきたいけど、やってみないで中途半端に失敗するよりは100倍まし。

 でも、可能なら成功してくれよ!!

 

「黒装!」

 

 いつもと同じ様に心臓から黒いモヤとなって力がが溢れ出す。同時に聞こえてくる声には無視を決め込む。

 痛みで思考を邪魔されないように、呼吸を意識することで和らげる。

 

『二人共離れたけど、何かした?』

 

 全身に纏うのではなく周りを、俺以外全てを纏え。不完全なソレが周囲を掴み取ろうとする手となり、空中に舞っては消えいく。

 こんな状態じゃだめだ、もっと細部まで意識を伸ばせ。纏うだけじゃなくて全ての物、者、モノ。余すことなく掴み取る強欲さで……。

 その時、俺の声と黒装の声が呼応するような、そんな感覚がした。

 

「今だよな!! 黒装縛封!!」

 

 心臓付近ではなく足元から明確に顕現した黒紫色の手が、俺を主軸として全方向に伸びでる。対象なんてありゃしねぇ。手を伸ばした先にあるすべての物体に絡みつき、覆いつくす。一番近かった柱に巻き付き、天井にへばりつき、果てには蛙吹と葉隠を捕縛した。

 ぎりぎりと締め上げ……二人の意識が落ちたのを確認しないと――。

 

「が……あ」

 

 黒装を抑えきれず瞬く間に霧散し、全身の力が一気に抜ける。

 落ちていく視界の中、 俺は口角を吊り上げた。視界が晴れた部屋には、ヒーローが2人、地面に転がっていた。

 

 

 

 

 

 ふっと目が覚めると、見覚えのある白い天井。視線を巡らせても白いカーテンが壁の役割を果たしていて、周りの状況は一切わからない。

 

「……知ってる天井だ」

 

 のどが乾ききっていたようで、全然声量が出ない。

 気が付いたんだが、試験の時と保健室って同じだったんか。なんなら同じベッドだよなココ。運命感じちゃう?

 

「――ってのにもう三度目だよ!? 何で止めてやらなかったオールマイト!!!」

 

 病室とは思えないほどの怒声が聞こえてきた。もしかしなくても俺の事かな。リカバリーガールの治癒方法は記憶から消し飛ばしたいけど、飴ちゃんくれるし俺のために怒ってくれるしなんて優しいんだ。

 

「申し訳ございません。リカバリーガール……」

「私に謝ってどうするの!? 疲労困憊の上、昨日の今日だ! 一気に治療してやれない! 応急手当はしたから、点滴全部入ったら日をまたいで少しずつ活性化してくしかないさね!」

 

 アレ? もしかしなくても俺の事じゃねーな、点滴差してないし。一瞬でも勘違いしちゃうとか、はっず。

 

「全く……”力”を渡した愛弟子だからって甘やかすんじゃないよ!」

「返す言葉もありません……」

 

 とっさに口を手で覆い、驚きを必死に抑える。

 んーーーーー????? ちょちょちょ、ちょって待ってくれい。力を渡したってなんだ? 力ってことは十中八九、個性のことだとは思うけど。あのナンバーワンヒーローの個性は渡せちゃうタイプなの? いやいやまさか、ありえないって〜。

 

「しかし、あまり大きな声でワン・フォー・オールの事を話すのはどうか……」

「あーはいはい。ナチュラルボーンヒーロー様」

「この姿と怪我の件は雄英の教師側には周知の事実! ですが”個性”の件はあなたと校長。そして親しき友人。あとはこの緑谷少年のみの秘密なのです」

 

 個性であることが確定しましたね。どうもありがとうございました。

 ん? 待てよ、緑ヘアーが知っているということは、個性を渡したのは彼ってこと!!? つまり、無個性だった彼に、チート級の個性をプレゼントフォー・ユーして、雄英に裏口入学ってシナリオ……。

 どうしてそんな大それた秘密を赤裸々に語ってる!? 本気で止めろォ!? リカバリーガールが話をふったのも悪いけど、オールさんもしゃべり過ぎだわボケ! マジでやめろ!! 言わないでおくんなましの一言で済むだろ!! こんな誰でも入ってこれる保健室で、そんな日本トップクラスどころか世界レベルの秘密を語るなよォ!!

 

「そんなに大事かね。平和の象徴」

「いなくなれば超人社会は悪にかどわかされます」

 

 思ってんだったら、日本大荒れの秘密をペチャクチャ喋るなァ!!

 

「これはこの”力”を持った者の責任なのです!!」

「……それなら尚更、導く立場ってのをちゃんと学びんさい!!」

 

 その前に情報の授業を受講してこい!!

 名前、住所、個性の秘密は公共の場で喋らないって習いませんでしたか!!?

 

 

 

 

 

 人生の中でトップクラスのレベルで、必死になって狸寝入りをした。もうやだ、おうち帰る。帰るために教室に向かってる最中だけど。

 リカバリーガールがいないタイミングを見計らって病室を出る前。何も知らないで幸せそうに寝てる緑谷には、そっと空のチョコを一個置いておいた。中は食べて形だけ戻した奴。緑ヘアーが起きた時に、わーチョコだーって食べようとしようものなら、手に持った瞬間ぐしゃってなるがこれぐらいは許せ。

 うん、うん、さっき聞いたことは記憶のかなたに消し飛ばして置くのがいいと思います、ハイ。 こわいなー、『秘密を知られてしまったからには仕方ない。運のなかった自分を恨め。』とか言われんのか? やべぇ、こっちを見てくる全員が敵に見えてくる。あれだよあれ。大金下ろした後は、周りの人間が俺の金を狙ってんじゃないかと勘違いする現象。それの命バージョン……タチ悪っ!! もうやだ、雄英コワイ!

 おそるおそる教室の扉を開けると、一斉にみんなが近寄ってきたァ!!!? イヤーーー!!? やっぱ殺される!!?

 

「あの黒い奴がグワーってしたのすごかったぜ!!」

「う、うん?」

「俺ぁ切島鋭児郎、今、皆と訓練の反省会してたんだ!!」

 

 朱色の瞳と逆立った赤い髪。両手の拳を突合せ、ニカっと笑うとギザギザな歯が垣間見える。なんというか、全身からして暑苦しい。

 てか、2日目にしてみんなで反省会してるとか、陽キャ集団すぎて別の意味で怖いんだが。

 

「あ、梅雨ちゃん。お疲れー」

 

 これ以上絡まれると困るので、発見した梅雨ちゃんの傍へレッツゴー!

 

「梅雨ちゃん凄かったよ! 耳郎からの補助がなかったら私、あっさりやられちゃってたもん」

「やっぱり最初で決めたかったわ……ケロッ」

 

 思い返してみても初手の攻撃凄かったよな、透明ガールとのダブル透明パンチ。スマホで軽く調べたけど、カエルさんっていろんなものに同化できてたし。忍者になれるじゃん、羨ましい!

 

「思ったのだけれど。未練ちゃんは戦ってるとき、性格が変わるタイプなのね。だいぶワイルドなーー」

「わ、わー! ヴィランノ役ニナリキッテタカラカナー! 熱入リスギチャッタナー!」

 

 う、うおー、ここにこれ以上いたら、被った猫が脱走しちまう。なんだこの教室は。地雷しか置いてないの? 安心して落ち着ける場所がねぇ。

 自己紹介マシンガンを飛ばしてくるクラスメイトに、愛想笑いで返しながらさっさと自分の机に向かう。

 

「お! 緑谷も来たぞ!」

 

 わらわらと扉に集まってく陽キャ魂凄いと思う……見習う気は無いけど。

 机の中に忘れ物がないかチェックして、顔をあげると耳郎と目があった。隣には制服が浮いていて、恐らく透明ガールと喋ってたんかな。

 彼女との距離は机2個分先、どっちかが近づかないと喋りにくい微妙な距離。みんながしてるように反省会を行うのもいいけど、心も体もメンタル的ダメージが大きすぎるんよな。だがしかし、最初の助力があったからこそ掴めた勝利だし。

 

「……」

 

 いっか。別にまた明日で。

 俺は鞄を持ち直すと、会釈だけしてその場を立ち去った。

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