石を投げればヴィランに当たる   作:るるる

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 今日も今日とてすこぶる絶好調!

 晴れ渡る空! かなり辛い筋肉痛! そして校門前に集まるマスコミ!

 

「マスコミ?」

 

 おやおや、どうしてそんなに大人数で学校前をたむろするんだい。生徒諸君らはとっっても嫌そうな顔で、間を抜けてってるし。普通に業務妨害で訴えられるくね? バカなの?

 まぁ、平々凡々な俺に話しかけるような輩はいないと思うが、億が一、話しかけられたら面倒だな。別ルートを通って校内に入りたいところだけど、入口あそこしか知らねーし。

 考えろ、考えるんだ。今ここで最善の方法は何か。はっ! 俺は石っころだと信じこめばいいんだ! 俺は石……道端に落ちた石ころ……誰にも認識され――。

 

「一言いいですか!」

 

 ふっ、やれやれ。俺からあふれ出る美少女オーラは、石っころの擬態程度では隠し切れなかったということか。

 いやまてよ。真面目な話、俺はヒーロー科所属。十中八九目当てはオールさん関連ことだろうし――連日連夜ニュースで見てない日はない――普通科と見分けることができるならば話しかけてきても何らおかしくわねーな。とすると……あ。ボタンの数かぁ。普通科と違って肩についてるボタンの数が一個少ないんだった。つまり、石になることより肩隠すようにリュック背負えば良かったと。バカなのは俺だったか。

 捕まったものは仕方ない。大人しく猫かぶりますか。

 

「急いでるので、本当に一言だけですけど大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。では――」

「わが社から――」

 

 男性と女性の記者さんの声がかぶり、瞳が笑ってない笑顔で足を踏み合っている。こ、怖いな。

 

「ポニーテールがすてきなお姉さん。何を聞きたいのですか?」

 

 事態収束の為に最初に話しかけた方に声をかけると、露骨に勝ち誇った顔するやん。かっわ。

 

「オールマイトが教鞭をとっているということですが、どういった雰囲気で接して来るのでしょうか?」

「オ、オールマイト先生のことですか」

 

 前説もなしにズバッと来たなー。なんて答えるのが正解だろうか。記憶を掘り返してみても、めちゃくちゃ怒られた事と、秘密がばれたら殺されるのではという恐怖心しかねぇんだが。

 

「と、とてもいい先生ですよ。えー……アメリカンで」

「はい」

「強いて言うならアメリカンで」

「えーっと?」

「やっぱり何と言いますか、アメリカンです」

 

 許してくださいっ、アメリカン以外の良くも悪くもない評価なかったんですっ。だからそんな『え、まじでそれしかないの? だってあのナンバーワンヒーローのオールマイトが教鞭をとってるんだよ?』みたいな目で見るのは止めろぉ!

 

「では、失礼しますね」

 

 相手がポカンとしている間に一礼してから、ダッシュで逃げた。脇目もふらずに逃げた。教室に着くころには顔が熱くてしょうがなかったが、これは急いだせいである。断じて、断じて! 恥ずかしかったわけじゃないからな!!!

 後日、生徒からの印象はアメリカンなオールマイトという見出しのスマホニュースを見かけた。耳郎からアwメwリwカwンwと笑われ、他のクラスメイトもちょっと笑ってた。

 俺はその夜、枕を濡らした。

 

 

 

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。ビデオと成績見させてもらった」

 

 相変わらず小汚い我らが担任は、席順に一言ずつのプチ講評を始めた。ランダムでやられるのも嫌だけど、じわじわ迫ってるのはそれで心臓の負担が……。みんな結構ディスられてるし、結果期待できねぇ。

 

「怨響」

 

 ヒェッ、ついに呼ばれたッ。

 

「突然の事態でビビったのは分かるが、居るのは分かってただろ」

「フッ」

 

 こらあ! 隣の奴ちょっと笑ってんじゃねーぞ!

 

「個性の使い方は粗はあれど悪くはなかった。過信するなよ」

「はい!」

 

 くっそぜってぇ許さねぇ、どうせ耳郎も怒られるくせに。

 

「耳郎。安全地帯からの援護で気が緩み過ぎだ。余計な喋りが多い」

「プッ」

「敵と味方の位置を常に把握できていたのは良かった。今後も活かしてけ」

 

 さっきの仕返しとばかりに笑ってやると、澄ました顔でドスルーしやがった。ムカつく!! これ以上墓穴を掘りたくないから矛を収めるけど、覚えてろよマジで。

 

「さて、HRの本題だ。急で悪いが」

 

 え、なに、今度はどんな無理難題を吹っ掛けられんの? やなんだけど。

 

「今日は君らに学級委員を決めてもらう」

 

 ほっと一息、まて、この流れは…来るっ――。

 

「「「学校っぽいの来たーー!!!」」」

「学校っぽいの来たーー!」

 

 一泊遅れたが、今回はビッグウェーブに乗れたぜ! これで俺も、陽キャ集団ヒーロー科の仲間入りだな!

 

「委員長やりたいです! ソレ俺!」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30㎝!」

「リーダーやるやるー!」

「ウチもやりたいっス」

 

 だからといって委員長はやりたくないです、うん。こやつらを引っ張って行く自信とか微塵も湧いてこねぇよ。

 

「静粛にしたまえ!! 多を牽引する…」

 

 あーだ、こーだ言い始めたメガネ。正直興味ないんで、バレないようにそーっとカバンからスマホを取り出して。

 はてさて、トゥイッターでも適当に見ますか。推しは特に呟いてないな。あんまりおもしろくないけど、トレンドでも見てって、うわっ、バイク事故がトレンド入りしてんじゃん。んーと? ヴィランから逃げてる最中に前方不注意で……。

 

「怨響君、投票してもらってもいいかな?」

「え? あぁ」

 

 目の前にドアップメガネ。慌ててスマホを隠したが、バレてないよな? 気付いた様子もないし、大丈夫っぽいな。周りを見れば、投票用紙かなんかに書いて教卓に置いていた。

 

「私は投票しないよ。したい相手はいないし、する気もないから。白票って事で大丈夫?」

「君が構わないならそれでもいいが」

「それとも、自分に入れて欲しいの?」

「そんなつもりは断じてない!」

 

 彼はカクカクした動作で全力拒否すると、そのまま集計しに戻っていった。

 投票結果は、まさかまさかの緑ヘアーが委員長。副委員は八百万さんという、可愛い人。

 俺の知らないところで、緑ヘアーは人望あるなんて衝撃プライス。中学時代を見ている俺からしたら、だいぶ、というか大変心配なのだが。まとめるという事柄からねじれの位置にいませんか? オールさんのこともあるし、頼むから学級崩壊しないでくれよ。

 

 

 

 

 

「学食だけど一緒に来る?」

「まぁじ? 弁当持ってきちゃったよ。また明日、絶対必ず誘ってくれや!」

「分かった、分かったから!」

 

 耳郎にグイグイ予定を押し付けてから教室を出て、近くにあった自動販売機でミネラルウォーターを一本買った。本当は昨日の筋肉痛で弁当を作ることができなかったけど、食欲もわかないから断った。

 うじうじ悩むのは性に合わないけど、何つーかなぁ……。きっちぃんだよなぁ。

 周りの喧騒を置き去りに、廊下の窓際近くを一人で歩く。

 うつむく視線と思い出すのは昨日のこと。と言いたいとこだが、正直どうでもいい。知らぬ存ぜぬを通せば、こっちに飛び火することないだろうし。教師らに言ってもグルだから、記憶消そうね☆って言われるのが関の山。そもそも気にしない、関わらない。完全拒絶が一番危ないから、疑われない程度に最低限の距離を保つ。誰にも言わなきゃ知らないのと一緒なんだよ。

 

「ふぅ……」

 

 最近というか、実技試験で個性を使ってからやたらと前世()のことを夢に見る。もう15年以上も前の事だから、記憶が薄れまくりの美化されまくりで信憑性皆無の記憶。

 夢の中で繰り返し見ているけど、起きたら焦燥感だけが残って気持ちわりぃ。あと一歩踏み出してれば何とかなったような、こう、もやもやとした具体的にはわかんない何か。

 一つ分かるのは、思い出さない方が幸せなんだろうなと。個性を使うまで想起しなかったんだから、必死に忘れようとしてたことだろうし。でも、なんか、すっげぇ、辛い……。

 

「ヨッシャ!!! 気分一新!!」

 

 思いっきり頬を叩いて、前を向く。空元気でも何でも、笑うから楽しい! 解決しないことを悩んでてもしょうがねぇ! 大丈夫だ俺! 何とかするから、何とかなる!!

 立ち止まってても仕方ないので、ぶらぶらと目的地もなしに歩いていたら、マスコミが集う校門が見える位置までやってきちまったぜ。

 

「フッ、人がごみのようだ」

 

 お昼になってもいるとか、いい加減家に帰った方がいいんじゃない。てか、開いていたはずの門がコンクリートの扉で閉じられていた。

 ふと、違和感を感じて扉の下を見ると――亀裂が入ったと認識した次の瞬間には、コンクリートが崩れ落ち“ソレ”と目が合った。

 1秒にも満たない勘違いとして処理できるほどの短い時間、それなのに脳裏にべったりくっついて離れない。崩れ落ちる一瞬の中で黒い靄と中から覗く骨ばった手。見えるはずがないのに、その奥から強烈な悪意を感じて、手のひらからペットボトルが滑り落ちる。

 キャップを占めてなかったせいで水を地面にぶちまけ、上履きに染み込んでいくがかまっていられる余裕なんてない。全身が恐怖という金縛りにあい、瞬き一つもできずにひたすらに門があったところを凝視する事しかできなかった。

 学校中に警報が鳴り響き、『セキュリティ3が突破された』だとかなんとか聞えてきてからやっと唇が動かせた。

 

「……今からでも入れる死亡保険あるかな」

 

 結局、チャイムが鳴るまでその場から動くことはできなかった。

 もちろん、担任には怒られた。そしていつまにか学級委員が、緑ヘアー(触れてはいけないあの人)からメガネに代わっていた。

 どういうことだってばよ。

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