石を投げればヴィランに当たる 作:るるる
誰か、助けて。ほんとマジでヘルプミー。原因の一端は俺にあるのは分かっているけど、1人くらい俺のことを助けてくれたっていいじゃねーか。
恐る恐る横目で隣を伺えば……。
「ああ゛?」
不機嫌丸出しの爆発ヘアーが睨んできて、さっと視線を戻して前を向く。ほんと何で隣の席がお前なんだよ! まだ知り合い以上友達未満の奴の方がよかった!
なぜこの席に座って居るのか、時を遡れば十数分くらい前の事。
「今日のヒーロー基礎学は、災害水難何でもござれ。
初めての救助訓練!!
コスチュームを使用してもしなくてもいいぜー的なことを言われて、みんながどんどん更衣室へ着替えに行く中、教室で一人考え込む。俺のコスチュームは戦闘となったとき、個性の発動を阻害しないから問題ないんだが、救助ってなったらどうなんだろな。動きやすさで言えば、体操服の方が圧倒的にラク。かといって、これから先ずっとコスチュームを着て活動することを考えると、早めに慣れておいた方が良いよな。なーんてことをあーだこーだ考え込み……。
結局、コスチュームのままで行くか! と決めて、時計をみたら集合時間3分前。
脳が正確に認識すると、ここで心臓が一時停止&再生と同時に心の中で絶叫。恥なんて殴り捨て、誰もいない教室で自身最高記録で着替え終わり、猛ダッシュで集合場所に駆け込んだ。
目的地に着くとみんなバスに乗車している中、隣には般若のような担任こっちを見つめている。膝ガックガクで謝罪(ほぼ土下座)をした甲斐なく、とっても低いトーンで『補修増やしとく』というありがたーいお言葉を頂戴したぜ……。
へとへとになりながらバスの中に入ると、ものの見事に爆発ヘアーの隣以外埋まっているという状況。泣きっ面に蜂とはこのことを言うんだなと、目を窄めて着席した。
にしても、爆発ヘアーはみんなから苦手意識もたれてるんかね。少なくとも好印象を持たれてないのは、ひしひしと伝わってくるが。
ちなみに俺は嫌いじゃないぞ、好きでもないけど。
「ハァ……」
バス前半組が羨ましい。俺らと違って二人席じゃなくて横並びだから、気を使わなくていいもんな。
「私、思ったことをなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
コミュ症を発揮というか、相変わらず女性に対しての免疫ねぇーなアイツ。悪いことは言わないから、下の名前呼び作戦は諦めた方がいいと思うぞー。
「あなたの個性、オールマイトに似てる」
――ゴンッ!!!
わいわいとした空気が一瞬、静まり返ってこちらに視線が飛んでくる。
涙目で額を抑えながら、大丈夫ですとOKサインを出せば、困惑はあれどすぐにさっきの喧騒へと戻っていった。本当に泣きっ面になれってわけじゃねーよ、くそが。
「痛い……」
手すりにおでこがクリーンヒットしたせいでめっちゃ痛い。おでこを摩っても全然痛みが引かん。
梅雨ちゃん、心の準備ができてない内に、爆弾発言の投下は勘弁してくださいよ。
「てめぇは何してんだ」
「すごい急カーブだったね」
「あ゛?」
「ね」
「ああ゛?」
空気読めやぁ!!! そこは、そ、そっか(目逸らし)の一言で済ませろや!
「未練は何してんの? おでこ赤くなってるじゃん、大丈夫?」
後方の席に座ったイヤホンガールこと耳郎が、若干の笑みをこぼしながら聞いてくる。うっせバーカ。
「大丈夫。バス乗り慣れてなくて」
「乗り物にすら乗ったことのない人の動きだったけど」
前世原始人並の耐性のなさ。バリバリ現代人だったよ、くそったれ。
「チッ、澄まし面。これ使えってろやカス」
ボロクソ言いながら渡されたのは、“ヒンヤリ気持ちいい!”がキャッチコピーの汗拭きシート。
「いいよ別に、訓練終わった後にすぐに使いたいでしょ?」
「間違えて持ってきたから邪魔なだけだボケ」
「でも」
「身体弱いくせにイキってんじゃねーよダボが」
彼は言うだけ言うと頬杖をついて、窓の方を向いてしまった。
「じゃ、遠慮なく」
経験則から、キレさせる以外の方法でこっちを向かせることはできない。なので大人しく貰っておく。けど、バス内で使おうものなら、補修が増やされる気がするからやめておく。せっかくもらったし、授業終わりにでも使っとくか。
本当、もう少し言動をやわらか~にすれば、モテそうなのになもったいないねーな。
「もしかして二人って浅からぬ縁だったり?」
突然、後ろの席からグイっと金髪が覗き込んできた。
稲妻模様の独特なメッシュが入った金髪に、瞳も金色でつり目がち。ヒーロースーツにも稲妻模様が描かれてるから、雷系の個性を全面的にアピールしている。
名前は確か、上鳴電気とかいったっけ。教室で爆発ヘアーと絡んでるのをたまに見かけるくらいで、俺とは喋ったことないな。てか、お前がこっち座れよ。そしたら耳郎の隣に座れて辛うじてましだったのに。
「そうですね、中学校が一緒なんです。因みに彼も同じですよ」
爆発ヘアーが返事を返すわけがないので、代わりに返答する。ついでに、後からばれることだしと、緑谷の方も指を指しておく。
「まじ!? 3人も出たとか、どんなやべぇ学校だよ!?」
よくよく考えてみると確かに。言動以外は天才、オールマイトジュニア、最強美少女の俺を輩出した学校だもんな。結果だけで見ればだけど。
「つーか――」
「おい、もうすぐ目的地に着くぞ。準備しておけ」
「「「ハイ!!」」」
雷ヘアーとの会話が強制的にシャットダウン。
「それじゃあ、続きはまた今度で」
せっかくなんで怨響可愛い奥義、ニッコリスマイルをプレゼント。
しかし、雷ヘアーに対して効果はいま一つだったようで、余裕のスマイルを返しやがった。やっぱりコイツ、チャラ男だな。
「すっげーーー!! USJかよ!!?」
誰が叫んだかは分からないが、激しく同意。
入り口付近が一番高く作られているおかげで、この場所から辺り全体を一望できる。ぱっと見渡しただけでも滝から水がドッバー流れてるわ、マンション宅がゴーゴー燃えてるわでなんかすっげぇ。こんな贅沢な施設を授業の一環だけど自由に使えるとか、雄英マジで強すぎんだろ。
「あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です」
夢中になってみていたら、なんか宇宙服っぽいヒーロースーツをきた奴が登場してきた。貴殿がこんなすごい場所を作ったのか……? 天才かよ。
「その名も
USJじゃねーか!
「スペースヒーロー『13号』だ!」
「どうぞよろしくお願いします。えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ。
皆さんご存じだとは思いますが、僕の個性は”ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
「ええ。しかし――簡単に人を殺せる個性でもあります」
わくわくとしていた空気が一瞬にして静まり返る。
まぁ、確かにそうだよな。俺の個性なんか、石を投げた先が子供だったら最悪殺人犯。今頃ヴィランとして指名手配されてたかもしれねぇ。
「みんなの中にもそういう個性はあるでしょう。
この授業では人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな。
以上! ご清聴ありがとうございました」
周りから拍手喝采、俺も自然と手を叩いていた。ヒーローといえばオールさんとか、物理的に炎上しているエンデヴァーとかが浮かぶけど、殴るだけがヒーローじゃねーもんな。
よし! 楽しさ半分、真面目に半分、頑張りまっか!
「そんじゃあまずは……」
息を吞んだ担任の視線の先を見ると、黒い靄が渦巻き既視感のある手が見えた。
「一塊になって動くな!!」
「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「違う!! あれはヴィランだ!!!!」
「ヴィラン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
「先生、侵入者用センサーは!」
「もちろんありますが……」
「反応しねぇなら、そういうことができるヤツがいるってことだな。バカだがアホじゃねぇこれは。何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
「13号! 生徒を任せる!」
「わかりました!」
「早く非難を!!」
「させませんよ」
ぼんやりと思考に霧がかかったようで、頭がぜんっぜん回らねー。怖がってる? この俺が?
よくわかんなくなってきた。なんだっけかな。なんだっけ。
「初めまして、我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」
視界がモノクロだ。あれー? 個性発動してたっけ。視界の高さは変わってねーし。
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
「だめだどきなさい二人とも!」
あ、思い出した。パソコンスリープのまんまだ。帰ったら充電切れしてそうだな。いっけねいっけね。
「皆!!」
多分このことじゃねーよなーとか物思いにふけりながら、渦の中に飲み込まれ――。
――瞼を上げると、燃え上がる炎が目に飛び込んできた。
「あっつぅ!!?」
いっっっった!!?
「目がぁぁー! 目がぁぁぁぁあっ!!」
目の中に火の粉が入った。すっごい痛いし、涙が止まんねぇ。てゆーか、どこだここ!?
地面は生温いコンクリート。周りを見渡せば、等間隔に柱がぶっ立っていて天井を支えている。どっかの駐車場みたいなビル?
そしてなぜかわからないけれど、目の前で炎が燃え盛っていた。……なんで?
自慢の視力で遠くを見れば、さっき見たような景色が広がっていて。恐らくだけど、USJ中だと思われる。
あーっと、良く思いだせぇ。さっきまでパソコンをシャットダウンしていなかったことについて……いや、それじゃねぇな。
「あ! ヴィランが来たんだ!」
右手を皿にして、左手の握りこぶしでポンッと叩く。一瞬でも忘れてた脳を叩きたくなるが、取り敢えず一呼吸。
俺はこれからどう行動するべきだ? 知り合いが居れば多少は安心できるが、孤立無援状態。通信手段は持ってないし、今自分にあるのは人類最強のチョーゼツパワーだけ、っつって。……もう少しまじめに考えよう。
取り敢えずあれだ。情報が無い事には何もできない。立ち上がって、自慢のヒーロースーツについた埃を払う。柱に手を添えながら、恐る恐る下を覗いてみると、何かめっちゃ殴り合ってる人達が居た。高さから見るに、ここは3階か4階。殴り合ってるヤンキー達からは、よっぽど身を乗り出さない限りバレないはずだ。さらによく観察してみると、複数人VS複数人ではなく、一人VS複数人の構図。一人で戦ってる知らない奴は、尻尾を巧みに使ってさまざまな攻撃を凌いでいる。
……俺はこの場合どうすればいいんだ。客観的に見ても、複数人の方がヴィラン面で刃物を振り回している。
一人で戦っている方に加勢するべきか。いやいやいや、そもそも論、俺は戦うのなんて好きじゃない。痛いの嫌だし、そりゃ、将来的にはヒーローとして活動しないといけないのは分かるよ。でも、まだ高校始まってばっかなのに、ヴィラン達と殴り合いたくない。雄英高校は確かにスパルタ教育だけど、安全で命の保証が有る。
今ここで突っ込んだとしたら、俺の命を保証してくれる奴なんていない。死んだら自業自得でなじられる。まだまだ、推し活したいし、やりたいゲームが積み重なってんだ。
もう死ぬなんて二度とごめんだ。
『なんで俺の事助けてくれないんだよ!! 見えてんだろ!! 見捨てないでくれよ!!』
どうせ、大丈夫だよ。余裕で凌げてるっぽいし、下手に加勢すると逆にピンチになっちゃうかもしれないだろ。大丈夫……大丈夫。
『スマホ持ってんだろ!! 救急車呼んでくれよ!! それだけでいいから!!』
大丈夫……大丈夫だって。
『いやだ、死にたくない。もっと生きて、やりたいことがあんだよ!!』
………………。
『なんで……誰も……俺の事を――』
はっきりに覚えている。トラックに弾き飛ばされて、体がぐちゃぐちゃになっていく感触。熱くて痛くて、どんなに叫んでも誰も俺を助けてくれなかった。
今、俺がやろうとしてることは、トラックの運転手がやろうとしたことと一緒じゃねぇか。
そんなことは分かってる、分かってるけど、怖いんだよ。足が竦むんだよ。
「……いいよ別に。助けなくて。同じで別に構わねーよ」
背を向けて一歩踏み出した時、クシャっていう音がした。
ポケットに手を入れて出してみると、爆発ヘアーが渡してくれた汗拭きシート。それと一緒に懐かしい記憶が蘇った。
『俺の目標はオールマイトを超えるNo.1ヒーローだ!!』
胸を張って堂々と自信満々に言い放つ姿に、すげぇなって思ったのを覚えてる。
もし、この状況にあの暴言まみれの天才マンが居たら、ぶっ殺す!! とか叫びながら、迷わず突っ込んでいくんだろうな。自分が負けることなんて1ミリも考えないで……。
「はぁ……。めんどくせなあホントに」
汗拭きシートを一枚抜き取って顔を拭う。
ひんやりとしたお陰で暑さがまぎれ、脳みそがすこぶる良好。体調も万事オッケー。
「いっちょ頑張りますか!」