ウマ娘論考   作:┗┻━( ・`ω・´)┻┛

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特別講義「中央トレーナー」 #2

「まずは一般職業のトレーナーについて説明しよう」

 

 寝そべったまま、指先でめくった紙束に視線を向ける。ずらずらと書き並べられた文章を流し読みする。が、確かトレーニング基礎だかの教科書に書いてあった内容と被るので改めて視線を前に向ける。気がつけば男は背中を向けて、黒板に雑な字と配分で板書をしながら、片手でマイクを持って講義をはじめていた。

 

「今回の場合、正式にはパーソナルトレーナーと言うが、この単語は極めて広範な概念……っと、広い意味を持つ言葉だ」

「技術習得から肉体改造まで、プロかアマか、ヒトかウマ娘か。誰に何をどうするかで、トレーナーに求められる技術が大きく変わってくる。当然、必要となる資格も変わるな。これは資格が技術習得の保証だからだ」

 

 講義を始めた直後の挨拶とは打って変わって、彼は大きい声でゆっくりと話を進めていく。固い言葉を使ったなと自覚したら言葉を噛み砕いて言い直す。言葉足らずかと思えば注釈を付け足してくる。如何にも説明が好きというヒトの話は、その話してる方は楽しそうだ。だが、中等部の自分でも分かる話をされて高等部のセンパイたちはどうなのだろうと周りが気になってしまう。

 

「資格という制度は、資格を発行する団体への信頼が前提となる。その最たるものが国が保証する国家資格だ。国がその能力を認めますよってことだな。しかしながら、スポーツトレーナーという職業に関して、直接の国家資格は存在しない」

「柔道整復師・鍼灸師・理学療法士といった医学系の国家資格の他に、アスレティックトレーナーといった民間資格などを持って、私はトレーナーとして働くことが出来ますよ、と言った具合でトレーニングジムなんかに務めるわけだ」

 

 やっぱり話者も反応が気になるのだろうかと眺めているが、男は本当の意味で一考だにせず、マイク越しに話しかけて来る。聴衆の反応など気にしない様は、心臓に毛が生えてると言われても不思議ではなく。

 

「大事なのは、だ。仕事に対してその人物が何を出来るか、だ。健康管理を行うアスレチックトレーナーと怪我からの復帰を手伝うメディカルトレーナーは全く別物だし、身体機能の向上を図るトレーニングと技能の向上を図るトレーニングも異なる。なんならコンディション管理だってトレーニングの内に入ってくるわけだ」

「そして、その全てが高水準で求められる資格こそ政府が資本金の全額を出資している団体 日本(U)中央(R)マ娘協会(A)が発行する日本中央ウマ娘指導資格(中央ライセンス)だ」

 

 男の襟元に輝く栄光の証。それを誇示せずに語るのが逆に鼻につく。

 黒板に『トレセンのトレーナーになるには?』『トレーナーと教官の違い』『トレーナーは少ない?』という見出しに惹かれるように、眼下に並ぶウマ耳のうちの幾つかがピンと立った。

 

「このライセンスには更に細かい分類がある。一般に言う中央ライセンスは平地競争を指すが、他にも障害指導資格や馬術指導資格も存在する。また地方ライセンスとの互換性……あー、中央ライセンスを持っていれば帯広を除く地方トレセン学園でも指導出来る。帯広だけはばんえい特別資格が必要になるがな」

「中央資格はここに就職志願をするための最低条件に過ぎない。合格率が三割を下回る資格を取った上で適性検査や別途試験、面接と言った一般的な就職活動を超えて、ようやくトレーナーとして就職できるわけだ」

「ちなみに教官は中央資格を持たないが、別途規定される指導資格を持っている人たちがなる仕事だ。彼らは一人で十数人を一グループとして指導する。対多人数に特化した、ある種トレーナーとは別の精鋭になる」

 

 男はようやく振り向いて、耳を立てて興味を示してる生徒たちを見る。続けて興味が未だに持てないでいる生徒たちも見回す。

 

「そして中央はトレーナーだけで百人以上抱えている。思ったよりは多い数字だろう?トレーナーが集まるなんてことは滅多にないからな」

 

 男は乾いた半笑いを口元に浮かべて続ける。

 

トップオブトップのトレーナー(頂点の化け物)たちを基準にすれば、この数字は妥当だ。例えばチームファーストを率いる樫本トレーナーは一人であの精鋭を十五人育て上げた。勿論、一方で一人担当する事も許されてない見習いのサブトレーナーだって存在するわけだ」

「極論、トレーナーが足りるなんてことはない。一人のウマ娘に複数人のトレーナーをつけて万全を期すなら生徒を遥かに上回る数が必要になるからな」

「であれば、今現在の最適とされてる仕組みが選抜方式という事だ。トレーナーは足りていないが二百人三百人となることはないから、その脚でトレーナーを魅了して奪い去れとな」

 

 カッと靴が床を叩く硬質な音が複数から聞こえて来る。この男の悪い癖を知っているから私は前掻きまではしないが、男の言葉はこの場にいるウマ娘たちの、勝負に対する緊張を駆り立てる台詞だ。私だって柄にもなくヒリつく。なのに男は、前掻きの音に気づきながらも笑っていた。それどころか余裕そうに腕組みをして、淀みなく話す。

 

()()()()()()()()にずーぅーっーとトレーナーの特別講義をやっているのだからね。私の代になってからはまだ数年だが、興味があることはわかるさ。では、君たちの役に立ちそうなテキスト外の話をしようか」




Tips
 特別講義は補講や補習と同じく、主に休祝日や放課後の空き時間に行われる参加自由の授業である。学年を問わず科目に対応した代替授業の一環で、特定授業の代替となる補講とは異なり内容はカリキュラム外の学習が殆どとなる。これは生徒のデビュー時期が問われないため、各授業ごとに補講を行うと生徒・教員ともに大きな負担となり、トレーニングや授業への悪影響となったごとに由来する。
 内容は年間カリキュラムにて公開されており、講義形式で行うものからレポート作成、任意の時間に見れる映像授業がある。極端な例では講義に参加しながら映像授業をウマートフォンで再生し、かつレポートを書く猛者も一定数存在する。なお許すかどうかは講義者次第である。
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