ウマ娘論考   作:┗┻━( ・`ω・´)┻┛

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特別講義「中央トレーナー」#3

「デビュー済みの諸君も殆どは選抜レースでトレーナーに見初められたと思う。あるいはチーム独自の選抜があったかもしれないが、その脚を見ずにトレーナーが担当を決めることは余程でない限りはない」

 

 興が乗ったのか、マイクを持たない方の手でひらりひらりと仰ぐ男は少し視線を泳がせて一瞬考える。そしてわざわざ胸元で手を組み、背中を心持ち丸めてしおらしくした風に振る舞い始めた。

 

「まず一つ目のパターンだ。()()()()()()()()()()()()()()、どんな人がトレーナーなのか。誰の手を取るのが正解なのか。どこのチームに入れば良いのか」

「そして二つ目のパターン。()()()()()()()()()()()()()()、選抜レースに勝てる自信がない。誰にも声をかけられなかったらどうすれば良いのかわからない」

 

 しかし劇的に抑揚のつけられた台詞は、多くのウマ耳を惹きつけた。

 

(大根役者だなぁ〜)

 

 なんて思いながら私はのそりと身体を起こす。男もわざとらしい振る舞いを止めていた。

 

「まず肯定する。この二つの考えはどちらも正しい」

「パターン1から話がトレーナーと違ってウマ娘に次はない以上、慎重になるのは当然だ。これはトレーナーも分かっているから、まずその場で急かして契約を迫るなら明らかに訝しんでいい」

「次に、一見して成果を出してるトレーナーでも適性による得意不得意がある。良し悪しはともかく、トレーナーが自分の持つ適性を前提にプランを立てるタイプは方針の不一致に陥り易い。トレーナー視点では何かしらの才覚を見出したのだろうが、それがウマ娘の望むものではないケースだ。契約破棄もこのケースが一番多いと思う」

 

 黒板に書かれた適性の二文字に派生して、脚質四種・距離四種・バ場適性二種が書かれる。さらに加えて中央のレース場十種にバ場状態四種を書き連ね、それぞれに向き不向きがあると強調した。

 

「勿論、君たちが自認する適性が正しいとは限らない。だが!目指す夢があるならば、それがふわっとした夢でも自分の考えをハッキリ伝えなければならない。一緒の目標に向かっていけるかは必ず確かめろ」

 

 声が一瞬大きくなった。そこから語気が少し強くなる。まるで見てきたかの様な断定口調で話す様子はどこか必死さを感じさせ、目が離せなくなる。

 

「軽く纏めよう。トレーナー選びの大前提は信頼関係を築けるか、だ。時として信頼関係はトレーナーとしての技能を上回る。次に注目するべきはトレーナーの得意分野」

「特に得意分野は適性に限らず見ておいた方が良いな。例えばトレーニング指導が得意なのか、作戦立案が得意なのかとかな。ここら辺は、本当にこの中央が魔窟扱いされる所以だが……後に回そうか、私が熱くなりすぎたな、すまない」

 

 粛々と話を進めていった先で少し言葉回しが緩くなる。男は目を瞑り、指先をトントンと腕の上で遊ばせてから自分を省みた様で、申し訳なさそうに頭を下げた。だが、上げた顔の,目の中の、熱は消えてない気がする。

 

「ケース2だ。選抜レースに勝ったから勧誘されると言うわけではないとうのを覚えておいてほしい。選抜レースで目的とするべきは自分のベストな走りで勝つことだ。根性があるからと最下位を取るトレーナーも居る」

「それでも取られなかった場合は基本的に次の選抜を待つか、運良くチームが募集をかけるのを待つのが基本だ。しかし、担当枠の空いてるトレーナーを逆スカウトすることでトレーナー契約を結ぶことは一応、出来る」

 

 次に男は目尻を下げて何かを憂いて見せる。話すことを少し躊躇ってから。

 

馬脚を表さ(実力を示さ)ずにトレーナー契約を結ぶことを運命だと持ち上げる人もいる。無論、私もそう言った話は好きだし、それが結婚まで至った話さえ幾つもある。が、誰とも契約を結んでいないトレーナーや枠余りは曰く付きが多いのも事実だ。あまり勧めたくない」

 

 結婚という言葉にざわめき出す。かくいう私も少しだけ運命の出会いという言葉にドキドキとして、最後の方の言葉は耳に入って来なかった。ここに居るのは年頃のウマ娘たちで、何より話の出所が出所だ。極端に固い空気だった反動は抑えきれずキャーキャーという歓声と共に早った子が疑問を投げかける。

 

「その話、詳しく聞かせてください!」

「やっぱり先生も結婚を考えたりしてるんですか!?」

 

「ええい!勧めないと言っているだろう!質問は後だ!後!少しだけウマ娘とトレーナーの恋愛事情を話してやるからそれで我慢しろ!」

 

 男の焦って上擦った声に、揶揄いの良いネタを見出して私も自然と口角があがる。男はパンパンと手を叩いて騒ぎ立てる聴衆が静かになるのを待っていた。少しすると数多ある好奇の眼差しだけを残して静かになる。それを確認してから男は露骨に一息ついて見せた。

 

「ふぅ……。確かに事前アンケートでもトレーナーとの恋愛事情に関する質問は二位に大差をつけて一位だったさ、うん、わかるとも。卒業後のお付き合いなら世間様はともかく、学園は何も言うことはないんだがね」

 

「前提として、トレセン学園の起源は明治期の軍バ教育にまで遡る。当時は招魂社で行われる奉納競争に出走することが最大の名誉とされた」

「同時に、学園に集まった優駿たちを目当てに上流階級の部外者が授業参観を行い、縁談と寿退学することもまた名誉とされた。これがトレセン学園が()()()()と今にも渡って揶揄される理由だ」

 

 露骨な話題転換に目を白黒とさせた。全く知らなかった話と全く聞いたことのない揶揄だが、これは私がまだ中等部だからだろうか。話を聞く姿勢が前のめりになる。

 

「この経緯を持って、トレセン学園の校則は生徒の恋愛を禁止していない。そして同時にトレーナーや教官、教員との恋愛は黙認されている」

 

 わっと歓声があがる。

 

「しかし!選手課程ではシリーズ登録中の生徒にはプロとしての振舞いを義務付けている。だから最低でも厳重注意は免れない。ちなみに服務規程の信用失墜行為でもし捕まりでもしたら生徒は引退、大人は懲戒()解雇()だな。勿論、長らく処分者は出ていないが、な」

「ちなみに大人側は恋愛沙汰が起きれば即時報告の上で地獄の学内査問行きだ。その後、一定期間は監視処分がつく。秋山の家系とその周りが肯定的なだけで反対者は沢山いるんだ」

 

 歓声を制して現実を突き付ける。だがこれは、抜け道が幾らでもあるのではないだろうか。私は訝しんだ。

 

「勿論、ゴシップ程度は蹴散らす。気分転換に出掛けることもあるし、用品の買い出しを逢い引きと言われても困るからな。明確に尻尾を掴まれなければ言い逃れ出来るのも事実だ」

「それにトレーナーと一緒にキャラを売る選手もいる。最初から付き合ってると公言しても、キャラ付けとすれば横槍も入れられない。その分、ファンの着きにくさや誹謗中傷もあるからこれも勧めないがね」




Tips 馬脚を表すとは
意味:
 正体を表すこと、転じて実力を示すこと。
由来:
 耳と尻尾を隠してヒトの振りをしたウマ娘が、脚力を見せてしまい正体がバレた逸話を元にする。
備考:
 戦乱の時代においては暗殺を恐れて力強いウマ娘を遠ざける権力者は一定数いた。しかし、耳と尻尾を切り落とす事でヒトに化けて暗殺を遂行する猛者たちも、また存在したのだ。現代ではこの暗殺者たちが諜報を担っていた忍者と混同され、現代創作に見られる超人的な忍者活劇が見られるようになった。
出典:ウマ娘が与えた日本文化への影響
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