ウマ娘論考   作:┗┻━( ・`ω・´)┻┛

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特別講義「中央トレーナー」#4

「間閑話休題だ。とはいえ、何を話すのだったかな」

 

 実質、恋愛自由という話を受けて未だに生徒たちはざわついている。私だって、まだ見ぬトレーナーと恋愛するとは思ってもいないけれど、それでもそういう話を聞けばドキドキとしてしまう。だが男は無理やり切り上げて、卓上の紙束をぺらぺらとめくっていた。

 

「この学園に採用される話あたりから逸れた、のだったかな?うん、では採用について補足してから次の話に進むとしよう」

「まずこの中央トレーナーの応募条件は中央ライセンスしかない。年齢・出身・前職・学歴の一切を問わないという破格の条件だ。故に歴代では十五歳の最年少トレーナー、外国人トレーナー、四十代で新入りのオッさんなんかがいる。また卒業生やURA職員に目をつけられて引き抜かれた奴ら……自己志願で来た奴と比べて推薦組なんて呼ばれる奴らもいるな」

「よく耳にする話だが推薦組と志願組で成果に極な差はない。逆に言えば、専門的に学んできた志願者と鎬を削れる様な傑物を引き抜き続けているということだ」

 

 この話も、テキストにはない余談ではと思ったがトレーナー選びに関わりそうな話になったので意義を挟む者は出なかった。興味のある話を小出しにされて、寝るに寝れず聞き流すに聞き流せないでいる。

 

「さて、事前アンケートの質問に、なぜトレーナーがトレーニング監督以外に講義や学園の業務に従事してるかというのがあった。これは学園側が一定以上の評価を下した者に、トレーニングに支障が出ない範囲で学園への貢献を求めるからだ。生徒指導や講師の他にも広報や監査に籍を置き、補助要員として務める」

「推薦組の待遇が志願組より良いって話も、推薦組はこの貢献ありきで採用されることに由来する。もちろん、雇用後の成果次第ではその限りではないがね」

 

 徐にしゃがみ出した男は、壇の下から水の入ったペットボトルを開けて飲み始める。勢いよく半分くらい開けてから蓋をして壇上に置いた。それにちらりと時計を気にしている。

 

「失礼、喉が乾いてな。さてここで具体的にトレーナー個人の話をしようか。何、私の話なんて興が覚めることは言わない。予め本人たちに許可を取ってある話だとも、障害競走を専門する推薦組の重賞トレーナーだ」

「確かトレーナーに誘われた時の年齢は四十歳を超えていたかな。小太りで背が低くてジャージを着た、笑顔の特徴的な男性だ。よく用務員の手伝いをしているから見たことがある人もきっと多いだろう」

 

 多いだろうって、そもそも用務員さんと一緒に働いてるなら区別がつかないのでは。私と同じ気持ちを抱く生徒はやっぱりいて、首を傾げてる生徒がちらほらと目につく。一方で、あー、と何かに納得した様な素振りの子もいて気になってしまう。椅子に深く腰掛け直して、周りではなく男に集中し直す。

 

「彼の前職は郵便局員だ。郵便局は消防や警察、土木工事などに並んで多くのウマ娘たちの就職先になっているのは知ってるね?全国各地の郵便を収集し各地に運ぶだけなら空輸や陸運で済むが、それを個人宅に届けるとなれば更に小回りが効く脚と膨大な郵便を運ぶ力が必要になる」

「地方では自転車に乗ったヒトが配達というのもあるらしいが、基本的にはウマ娘たちが現地に車で大量の郵便を運んで乗り付ける。そしてウマ娘専用レーンを駆けて、各家に郵便を届けていくわけだ。一度はバイクで代用出来ないかと試験運用が行われたらしいが、人身事故や一度に運べる量の限界から断念された。ウマ娘の仕事、その代表的な一つになる」

 

 

「彼はその郵便局で管理者をしていた。確か関西の出で郵便の多い地域だったと言う。彼がそこでやってきたことはウマ娘たちへの走行指導だ。勿論、芝で走ることとは全く違うが、彼は幾つもの局を転々としながら配達成績の悪いウマ娘たちを指導して路上走行のプロにしてきた。しかも故障率は全国平均を下回らせるというオマケ付きでだ」

「それが中央を卒業して、幹部候補で郵便会社に就職した子の目に留まったのがキッカケでスカウトするに至った。当人の説得以外はスムーズだったらしいよ。最後は当時の部下たちに後押しされてこの学園に来た」

 

「ただ本人曰く、当初は全く成果が出なかったらしい。初担当は故障こそなかったが、平地競走は未勝利で終わる。担当と相談して中央の舞台で勝つことが夢だと熱弁されて、採用三年目にして障害競争に挑んだ」

「四年目未勝利戦で担当と共に初勝利を飾る。その後は成果が出ずに円満に引退した。もう十年も前の話だが、一昨年だかに初担当の結婚式に呼ばれるくらいに感謝されていたよ」

「ただ当人はな。酔っ払うと大泣きして、初担当の話をしだすんだ。彼女も才能があった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは僕が足を引っ張ったからだ。当人には一生の後悔らしいよ」

 

 軽く笑って男は言う。だがそれは傲慢だと笑ったのではないと分かるほどに優しい笑みであった。未勝利戦に勝つだけで十分に上々の成果なのだ。一年目だからその大変さを理解してなかったのか、或いは。

 

 座ってるのに、走りたくて脚に力が篭ってくる。

 

「今は担当を直接取らず、平地を泣く泣く諦めて担当替えになった子たちを指導してる。だから選抜レースで会うことは多分ない。が、優しさと人生経験が突出してて進路相談会なんかにはよく呼ばれてるね」

 

 上げて落とすがこの男の基本だと忘れていた。良い話ではあるんだけど、それでは参考にはならないなぁと脚の力が抜けてしまった。




Tips レースとウイニングライブ
 地方・中央ともにレースの勝者はウイニングライブを踊ることになっている。このライブはレース後に毎回挿まれる。観客はこのウイニングライブのチケットや限定グッズを買うために勝ウマ投票券を購入する。
 一日のスケジュールはレース準備→レース→ライブ→レース準備の繰り返しとなり、メイクデビューや未勝利戦に勝つことだけライブを踊ることが出来る。しかし、ライブを挿む分だけレース時間が削られるため、学内模擬レースよりも一日に行えるレース数ならびに出場者数は減っている。
 余談だが、年間でメイクデビューおよび未勝利戦に勝利出来るのは25%程度とされる。デビューから二年目九月頃になると未勝利戦がなくなる。契約トレーナーが新人や平地競争資格のみの場合はトレーナー契約打ち切りやトレーナー変更の話が上から降りてくる。そうでなくても引退、地方移籍、障害競争への転向あるいは格上挑戦といった話になるため多くのウマ娘たちやトレーナーにとっては一種のタイムリミットとなっている。
 また地方転戦や障害競争を経ても中央平地に残れるのは35%を下回り、オープンやリステッド競争に参加できるのは全体の3%、G1に至っては全体の1%のみが掴める栄光である。
注意喚起:
 アグネスデジタル選手として出走を予定している場合は、スタッフは担当トレーナー控え室への連絡番号を控えておいてください。特に出走予定レース直前のライブで発見した場合は速やかに担当トレーナーに連絡すること。
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