「む、思ったより反応芳しくないな。私の語り下手が出てしまったか。私が芦毛のウマ娘ならな、
芦毛のウマ娘関係なくないですかと何人もが首を捻る。そんな様子を不思議そうに彼も首を捻る。腕を組んで少し悩んで見せてから、またひらりと掌を返して。
「うん、真面目に面白く講義をしよう。ここからようやくテキストに戻る。採用後の話だな。採用の
チョークで資格得点+面接評価点+研修評価点=初期評価と書いていく。
「そして採用後に採用時研修というものが六ヶ月間組まれる。この期間に全体研修と学園が指定するトレーナーのもとで、トレーナー見習いとして初期研修を行う。そして、先輩トレーナーが働きや理解度を評価して研修評価点とする」
「この初期評価が一定以上であれば、その時点から一人立ちして担当を持つことが許される。評価が足りなければ、他のトレーナーの下に組み込まれ追加で研修だ。この時、メインになる先輩トレーナーをチーフトレーナーと呼び、下につくトレーナーをサブトレーナーと言う」
一人のヒトを黒板に描いて、その下にウマを横並びでいくつか描いていく。さらにその下にヒトを一つ描いて、上にくるウマと線で結ぶ。一番上のヒトにチーフ、下のヒトにはサブと書き込まれた。余り上手な絵ではないが、そこそこに分かりやすくはある。
「チーフ一人につき、研修サブが複数人になることもある。実質の師弟関係であり、明確な上下関係がある。チーフが担当するウマ娘のうちの一人をサブが主に担当し、チーフがまとめて指導することになる。そしてチーフから免許皆伝が出たら、ようやく一人前として独り立ちだ」
「ちなみに現在は一人でチームを持つのが基本とされているが、昔は一人のチーフの元で複数人のサブトレーナーが協力してチームを運営するのが普通だった。業界用語になるが、複数人運営が主だった時代はチーム名に星座の名前が冠されたことから当時を
後半は全く聞いたことのない話だから少しだけメモを取る。もしも自分がチーム名を決めるなら、魚座から取りたいなんて希望を頭の片隅にやった。話はまだ続くらしい。男が息を入れてから口を開く。
「補足するが、
「また昨年のファーストの様に、アオハル杯のチームに
ファーストの話題で、入学当初に授業で見た樫本トレーナーを思い出す。私とは間違いなく相性が悪いが、多くの生徒から不器用で可愛い人という認識を持たれていた。何よりも彼女はアオハル杯で実力を示した、らしい。当時のキャロッツにこそ敗北したが、彼女の優秀さは折紙付き。その樫本さんを例外に置いても一人でチームの面倒を見るのはやっぱり無理ではないか。
(ん〜ただチームのセンパイから話を聞けるのもオイシイと思うんだよね〜ぇ……)
個人付きかチーム持ちか、どちらが良いのかと悩んでしまう。男はその考えを見透かしていたかのように話を続けた。
「サブトレーナーとよく混同されるが、トレーニング補助者についても説明しておこう。トレーナーには安全管理義務が存在する。これは危険なトレーニングを行うウマ娘たちに注意・指導を行うものだ」
「この延長線で担当のウマ娘トレーニングに支障が出ない範囲だが、監督者不在でトレーニングするウマ娘の補助・監督を行う役をトレーニング補助者という。自主トレーニングやチーム内で別々にトレーニングを行う場合は世話になることも多いだろう。」
「トレーナー間で先に予定を擦り合わせて、それぞれ監督を頼むケースも存在する。勿論、現地で頼んでも余裕があれば引き受けてくれるし、お節介を焼きに来る奴もいる。ただし、彼らがしてくれるのは補助と注意だけだ。トレーニングメニューへの過度なアドバイスやレース指導を担当外に無断で行うのは越権行為、不適正指導にあたる。それらの相談は自担の許可を得てからか、制度案件だな」
男は出来ることを黒板に羅列して丸印を描き、出来ないことを羅列してバツ印をつけた。男の黒板の使い方が悪いだけに黒板を丸々板書するのは効率が悪い。だから、自分に必要そうなところだけをテキストに書き込んでいく。それにしてもトレーナーには仕事や義務が多いこと。
(トレーナーさんたちってブラック〜。私ならすぐ逃げちゃいますよ)
Tips 携帯電話の普及が与えたトレーニングへの影響
日本で携帯電話サービスが始まったのは1987年だが、当時の携帯電話はウマ耳に対応していなかった。また1985年に登場していたショルダーフォンも高額であり当時は流行せず。ウマ娘たちにも携帯電話が普及するのは1990年代に入り、技術が向上するのを待たねばならない。
携帯電話の普及前は、固定電話が主流な遠方との連絡手段である。そのためトレーナーが担当ウマ娘と共に遠征に出向いてしまうと定時連絡でしかやり取り出来なかった。この理由を筆頭に、当時はトレーナーが一人でチームを運営すると育成の質が低下するとされ、複数人でチームを運営することが普通であった。
現在は裁量権の拡大や過度な上下関係の払拭を兼ねて、複数人で一チームを運営することは滅多に見られなくなった。携帯電話の普及といった技術革新はトレーナーの負担を減らし、育成の幅を広げるトレーニング革新でもあったのだ。
出典:ウマ娘たちのトレーニング革新