ウマ娘論考   作:┗┻━( ・`ω・´)┻┛

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特別講義「中央トレーナー」#6

「生徒に関わりが深そうなトレーナー全般の話はこんなところかな。臨時トレーナー制度はここで話す様な事ではないし、委任制度も滅多に使われない。あーとーはー……」

 

 話すだけ話して、男は卓上に置かれている冊子をパラパラと流し見でめくっていく。マイクを持ったまま話しているから独り言も筒抜けだが、当の本人は気がついていないらしい。この様子だと終わりかと思い、黒板の横に飾られてる時計を見上げる。

 男が話を止めてしまったからか、生徒たちの集中も切れる頃合いだからか。伸びをしている生徒もいれば、終わったと思ってペンを置いている生徒もいる。普通の授業を思えば、私の集中も持った方だろう。

 

「ふむ……残り時間で話し切れる話題がないな。はっはっは、困ってしまった……。そうだな、またトレーナーの話でもしてお茶を濁すかな!」

 

 男も集中が切れたのか、自身の額を手の甲でコンコンと叩いて。短い思案の末に思いついたことを、その過程も洗いざらい話していた。

 

(うーんー、質問があれば個別でいいかなぁー。眠くなってきちゃった)

 

「これにて講義自体は終了する。レポート題材は理想とするトレーナー像について。テキストにはトレーナー契約についてなど、まだまだ題材は残ってるから持ち帰って自習してくれ。以降は自由参加の余談だ、時間が来たら切り上げる。帰る者は他にも講義してる部屋があるから静かに帰るように!」

 

 早口に連絡事項を伝えて、男自身も卓上の上に置いてたであろう物を雑に鞄に放り込む。気の早い生徒は——私もだが——立ち上がり、至福の時間を味わおうと出口に向けて歩き出そうとして。

 

「では残る諸君、マルゼンスキーとそのトレーナーの話かミスターシービーとそのトレーナーの話か、どちらが聞きたい?」

 

 後ろから撃たれた気分で壇上を返り見る。今、この男は何と言った?

 

「マルゼンがシービーか、どちらも有名だろう?今は卒業したTTGの下の世代、学園最古にして最新のスーパーカーと史上三人目の中央三冠達成者にして天衣無縫の体現者。本格化を終えても、今なおドリームトロフィーリーグで皇帝と鎬を削り合う二人とそのトレーナーの話をしようと言ったんだ」

 

 生徒たちに騒めきが走る。帰ろうとしていた生徒は一人、また一人と席に着き始めた。この人はどうしてこうなのだろう。悪戯に成功した様な、口角の吊り上がった笑みが憎たらしくて仕方がなくなる。

 

「決まらなそうだな、ではそこで立ったままのセイウンスカイ。選んでいいぞ」

「……えぇっ!?セイちゃんがですか!?」

 

 しくじった。周りを見れば全員が全員着席してて、私一人が取り残された様に立っていた。周りの視線が男から私に集まる。度肝を抜くのは好きだが、無闇矢鱈に注目されるのが嫌いな私にとっては窮屈さを感じる。本当にこの男には何か意趣返しがしたくなるが……この場では難しいだろう。

 

「じゃあ、マルゼンさんのお話が聞きたいかな〜って、思いますね!」

 

 視線から逃れる様に早々と答えを決めた。しかし何も考えずに決めるのは私の主義にも反する。何方も手が届かない様な天才の話だと切り捨てず、脚質から益になりそうな方をパッと選んでみた。

 

(でも気侭に過ごすシービーさんの話の方が合ってたかなぁ)

 

 ただ思案を巡らし切らない決断もまた私の好みではない。一抹の後悔とモヤモヤとした気持ちを胸に抱きながら、近くの空いている席に改めて腰を据えた。その頃には誰もが前を向き、先程までの集中を切らした姿を見せていない。

 

「良し。では早速だが、ド派手な服を着たヒトミミに心当たりはあるか?」

「ヒトミミにしては華やかだが、老化の隠せない感じの……そうだな、ダンストレーニングを行うレッスン室に度々現れるがあったことはないか?面倒見てる委員会までは忘れてしまったが。オバサンって言ったら激昂して締め上げてくる感じの」

 

「えっ」

 

 聴衆のどこからか声が漏れ出た。知らない人はキョロキョロとしてるが、私もその特徴には覚えがある。()()()に引っ張られてレッスン室に行ったら現れて、解らない様に緩めてた共通勝負服の襟元を締め上げられ、この方が良いわなんて一方的に言われた上でダンスレッスンを始めたお、()()()()。記憶との一致に空いた口が塞がらない。

 

「彼女がマルゼンスキーの担当で、ヒット曲『テールランプが導いて』を売り出した全国単位で人気となった元ソロアイドルだ。私たちが生まれるより前の話で、私にも実感はないがね」

「それに前職が芸能出身って言うのは珍しくない。トレセン学園生徒はアイドルにして金の卵だ。それを育て、奪い合うのに業界が絡んでくるのは当然。ただ彼女はちょっとそこら辺とは毛並みが違った」

 

「彼女は後ろ盾や柵を持たない。アイドル引退直後に失踪し、その十数年後に突如として中央の門を叩いた。字句の通り、鳴り物入りでやってきた女傑だ」

「この話が今から二十年前、それからマルゼンスキーを担当するそれまでの間に、個人で担当した六人ともが重賞に勝利し、うちG1勝利者が二人だったか。マグレなしの天才だ」

 

「軽い説明はここまでにして、マルゼンとトレーナーの話をしよう」




Tips ヒト女とウマ娘
 アイドルと言えばウマ娘という風潮がある。これはトゥインクルシリーズの影響も大きい。だが、それ以前に、容姿は元より肺活量を始めとしたアイドルとしての素質をウマ娘の方が高水準で備えているからである。
 当然ヒトのアイドルも存在するが、ウマ娘水準を満たすヒトは一握りであり、その一握りの存在が頂点に立つことは夢のような話とされた。
 ウマ娘とヒトでは販売戦略も異なり、特にヒト側がウマ娘を意識した売り出し方をするのが特徴的である。具体的には男やウマ娘に対して、『か弱い』や『守ってあげたくなる』と言った庇護欲を誘う売り方が目立つ。これは現代の一般女性の恋愛戦略にもよく見られる傾向となっている。
 またレースの如何でメンバーの変わるURAのライブとは異なり、特定のメンバーを集めてグループアイドルとし、中でも気軽に会いに行ける身近な可愛さのアイドルグループという触れ込みで売り出されたAKB48はトレセン学園のデビューウマ娘たちと同等の人気を誇った。
 ヒトの女性がウマ娘に対抗策を持って挑むのは歴史上にもよく見られる。そもそもウマ娘の容貌は古代の頃より大きく変化していないとされ、遺跡から出土する遺骨の再現や壁画、石造と様々なモノから裏付けられている。さらにウマ娘の容貌が昔からヒト種の好む造形をしており、ヒト種の容姿も古代から時代を経るにつれてウマ娘のように洗練されていくという報告も存在する。この様にウマ娘という存在はヒトの女性にとって、驚異的な競合相手であり、世界各国でウマ娘に対抗する女性文化が生み出された。身近な国の例を挙げれば平安美人や纏足が代表的である。
出典:ヒト娘 vs.ウマ娘 Vol.4恋愛編
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