ウマ娘論考   作:┗┻━( ・`ω・´)┻┛

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特別講義「中央トレーナー」の後日談


余談
余談「セイちゃんの意趣返し」


「ありゃ、誰かと思えばユージンさんじゃないですか〜」

 

 放課後、セイちゃんお気に入りスポットの一つに先客が居た。心地良い陽気と木影から流れる涼やかな風が気持ち良い一角で、ごろりと横になる猫を撫でる一人の見知った男。私はその後ろから声をかけた。

 

「ん、セイちゃんか、週末の特別講義以来だな」

 

 ユージンと呼ばれた男は、顔だけを上げてこちらに笑いかける。その笑みは屈託がなく、あの日の鬱憤が残る私としては見るだけで意趣返しの一つや二つしたくもなる。私はよっこいせっと、という掛け声と共に男の隣に座り込んで、猫に手を伸ばして首筋を撫でてやる。

 

「こんなところでサボってて良いんですー?」

「まさか、息抜きの時間だよ。セイちゃんこそ練習は?」

「私も息抜きですとも。みーんな、ばっちばちで怖いんですから」

 

 私の手に顔を擦り寄せる猫はとても可愛い。そっと後目に羨ましそうに見てくる男を確認すると、私は得意げになってしまう。

 

「ほー?まぁ、そのばちばちした空気にもう慣れたなら充分じゃないか」

「お褒めに預かりましてー、ご褒美くれてもいいんですよ?」

「ご褒美?お菓子なんて持ってたかな?」

 

 さりげなく猫を抱き上げて、横座りに直す。そこから視線を上げれば、遠くには芝生が見えた。走ってるのは未来の宿敵たち。私が()()()()()()()()()が経って、地元では一番だった自分の立ち位置が見えてくる。じゃあ、他の人は私たちをどう見ているのだろうか。

 顔を横に向けた、視線の先にいるトレーナーは間違いなく見識が深い。噂に轟く問題児たちを担当しながら、相談室を預かる立場。そしてその立場のせいか彼は他人に相当甘い。だから、私も他の子がしている様に素直に甘えてみせた。

 

「話が聞きたいな〜、例えば誰がトレーナーの間で噂になってる、とか?」

 

 男は苦笑を浮かべながらも、私の膝の上で横になる猫に手を伸ばした。

 

「簡単に言うがな、ここ数年は十年に一人の逸材クラスが溢れ返ってるんだぞ」

「えー、もしかしてセイちゃんって、運が悪かったりします?」

「でも、勝って笑えるならその方が上等だろ?笑えなくなったら面倒見てやるさ」

 

 私は困った顔して首を傾げて見せたのに、男は牙を剥くように笑って見せる。見透かされてる様な気恥ずかしさと共感から、やっぱり笑ってしまう。ただ誤魔化されるのは癪だったので、片手で相手の袖を引いて揺すり、催促する。

 

「そーれーでー?折角なので教えてくださいよー」

 

 そうすると彼は少しだけだぞと言って、話題に上がる私の同級生の話をしてくれた。特に友達のキングが留学生二人と並んで高く評価されてると言うのは面白くて、次にあったら彼女に教えてあげたくなる。そして何よりも、私の前評判は何もないと言うのが良い。自然と口元が緩む。

 

「こんなところだな。さて、そろそろ俺は仕事に戻るか」

 

 彼が撫でる手を止めれば、猫はちらりと目を開けて彼を見た。彼はその一瞥に、名残惜しそうに腰を上げようとする。

 

「もー行っちゃうんですか?」

 

 だが私は意趣返しを忘れていない。名残惜しさに、さらに追い討ちをかけるように上目遣いで見上げて、握ったままの袖をもう一度引いてみる。

 

「……他人に見られたら、俺の芦毛スキー疑惑が深まるからやめてくれ」

「えっ、そんな趣味なんですか……?」

「断じて違う」

 

 男が逡巡の末に捻り出した言葉とそこに含まれていた渾名にビックリして、私は彼の袖を離した。勿論そんなヒトだとは思っていないが、少しだけ目を細め、冷たい視線を向けて更に揶揄ってみる。そこにとても早口の否定が返ってくるとますます楽しくなってしまって仕方ない。

 ただ話し込んだのも事実なので、私自身は話し足りないが、掌を両肩より上げて「冗談ですよー、でも人に見られたら疑われちゃうかもですねー」なんてトドメをさしてから男を見送った。

 

 その場に残ったのは私と身体を休めている猫と静寂だけ。眠るにうってつけの好きな場所、好きなもの、好きな時間。なのに不思議と気分が高揚して眠る気にはなれなくて、私は日が暮れるまで横になって雲のない空を見上げていた。




Tips (独立)相談室
 中央トレセン学園は二千人を越す生徒を擁し、その殆どがプロアスリートとして活動を行う。しかし、生徒たちはあくまで思春期の子供である。また彼女たちを導く立場のトレーナーや教官たちが、子供たちの将来に()()()()()()()()という秋山理事長の発案により新たに設置されたのが独立相談室である。
 従来は保健室付属のカウンセリングルームが、生徒のメンタルケアを中心に請け負っていた。これに対して、相談室は当初二つの役割を期待された。一つ目は相談者や学内で発生している問題の調査・解決を担うこと。二つ目はトレーニングやレース、備品などカウンセリングでは回答できない相談が他のトレーナーに出来る場であること。これに加えて、設置者である秋川理事長からの意向を実行する役割を持つ。
 結果として、相談室に持ち込まれる事案は学園全般に渡る。しかし、相談内容は制度紹介や別途担当・部署への仲介、歓談によって解決することが多いため、総合世話係などと揶揄されることがある。しかし、相談室に在籍するのは都合上一人のみで、この人物が隣接したトレーナー室ともども私物化し勝手を働くため、擁護するものは少ない。
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