烏丸超常探偵事務所の超常事件簿   作:ゲーマーN

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第10話 雑誌記者の記録

「…これで4つですね」

 

『これで、あと1つで聖域の封印を解くことができます』

 

 この世界の最深部に向かうために湖に空いた穴に飛び込んだ大悟達は、足元を水が満たす長い回廊を只管に駆け抜けて船着き場のような場所に辿り着いた。

 そこには、ヒグラシの回廊や深淵でも目にした石造りの門が存在しており、その先には笑い般若の面と4つ目の大勾玉が置かれていた。大勾玉を回収した一行が石造りの門から外に出ると、役目を終えた般若の間は閉じられる。

 

「黒猫さん、この船に乗りますか?」

 

『はい。私の力で次の階層……霊魂の淵叢まで皆さんを送ります』

 

「皆さん、黒猫さんが次の階層に送ってくれるみたいです」

 

 黒猫を胸に抱える楓が黒猫の言葉を翻訳してくれる。船着き場には一隻の木造和船が止められており、この船で次の階層に向かうことになる。全員が乗船したのを確認すると、楓の胸元から飛び降りた黒猫が船首に立ち、風も水の流れもないのに船は動き出した。

 赤い鳥居を通り抜けた先は薄暗い洞窟のようになっており、その洞窟の中を船は自分の行くべき場所を知っているかのように独りでに流れていく。

 

 霊魂の淵叢。淵叢とは、物事の寄り集まる所のこと。この世界で命を落とした者達の霊魂は最終的にそこに流れ着き、黒い着物の少女による母親復活の儀式の糧となる。

 黒猫曰く、この霊魂の淵叢に黒猫の本体の居る聖域に繋がる封印された扉が存在しており、その扉を開くためには5つの大勾玉が必要らしい。黒猫の言葉を理解できない健二はこの聖域に続く扉を見つけることができなかったそうだ。

 

 霊魂の淵叢に辿り着くまでには今しばらくの時間がかかる。それまでの間に、大悟達は二人から託された荷物の中身を確認することにした。何十年もの年月の中で健児が集めた大量の道具類は霊魂の淵叢を探索する上で間違いなく役に立つことだろう。

 一方、健二の荷物の中で凛太郎が興味を抱いたのは数枚のメモだった。ヒグラシの回廊でも見かけたメモの残りに目を通していく。

 

『                1950年9月3日

 

 8月上旬、大型特集の記事のネタを探していたところ、興味深い話を耳にした。

 今から73年前、1877年に起きた「蛭南村の神隠し」と呼ばれる事件のことだ。

 蛭南村は現在、過疎化と高齢化が進んでおり、近々近隣と合併するという山間の小さな村だ。

 

 謎の集団同時失踪事件として迷宮入りしている同事件だが、当時の唯一の目撃者であった安喜さんは「化け物が村人を連れ去った」と証言していたらしい。

 しかし警察には、事件のショックによる記憶障害だと判断され、相手にされなかったという。

 

 この話に興味を惹かれた私は、既にご高齢になった安喜さんに詳しい話を聞くため

 9月1日、蛭南村へと赴いた。

 

 化け物と言っても、せいぜい大きな熊か何かだろうと思っていたが

 安喜さんの口からは想像していた以上の話が飛び出した。

 

 この記録は、その際の対談で得られた情報に加え、

 後のリサーチで得られた情報を基にした注釈をつけ

 時系列に沿って整理したものである。                        』

 

 どうやら、このメモは当時雑誌記者だった遠藤健児が自らの取材記録を纏めたものであり、彼の失踪の切欠でもある『蛭南村の神隠し』のことが記されているようだ。

 川沿いに並ぶ灯籠の灯りでは小さな文字を読むのには光量が心許ないため、スマホの灯りを頼りに取材記録の内容を読み進めていく。ヒグラシの回廊で目を通した1ページ目は飛ばして、2の数字が振られたページを手に取る。

 

『                    2

 

 少女の両親は桑食川の氾濫の際に亡くなったため身寄りがなく、村人は少女の扱いに困ってしまった。

 そこで、古くは山岳信仰の地であったこの村では、少女の力を山神様から授かったものとし、

 「少女を山神様の御使いとして、大切に崇める」という名目で、少女を山奥の廃れた社へと住まわせた。

 

 しかし、時代と共に廃れていった山岳信仰は、その時既に失われており、少女に給仕するものなどいなかった。

 こうして、信じてもいない神様の使いとして少女を祭り上げ、体よく山奥に厄介払いしたのである。

 

                    補足

 

 この社は、およそ350年前にこの地を治めた大名が、戦の勝利祈祷のために建立したものである。

 しかし、大名は戦に負けて滅ぼされ、主のいなくなった社は蛭南村の住人によって、

 細々と修繕が加えられ、維持されてきた。

 しかし、時代と共に信仰心は薄れ、少女を住まわせた当時は

 何かあった時に使用する村の施設としての意味合いが強かったようである。        』

 

「……」

 

 読み進めるごとに凛太郎の顔は険しくなっていく。元々、神通力をその身に宿した少女に共感を覚えていた凛太郎は、村八分にされた少女に高校時代の自分自身を重ねてしまう。孤独を感じた時に経験する苦しみは身を以て知っている。

 しかし、以前に見た5ページ目と8ページ目に記載された内容によれば、大人になった彼女には自らの血を引く娘がいたはずだ。ならば、その父親に当たる彼女の伴侶も当然存在するはず。

 

「……………………え?」

 

 そう考え、次のページに目を通した凛太郎は困惑の声を上げた。

 

『                    3

 

 それから時は流れ、誰もが少女のことなどを忘れていた、ある日のことだった。

 まだ足もおぼつかない幼子を連れた女が山から下りてきた。

 

 誰も見たことのない美しい女であったが、その人並み外れた独特の雰囲気は誰もが覚えていた。

 それはかつて村人が山奥に厄介払いした少女だった。

 

 村人は、女の横を歩く幼子は誰の子であろうかと不思議がったが

 村の男の誰にも覚えはなく、ますます気味悪がった。

 

 「あの子は人の子なのか?」

 「もしかしたら人の子ではないかもしれない」

 「山神様の子か、それとも得体の知れない何かか」

 

 様々な憶測が飛び交ったという。

 

 出所は定かではないが、幼子が危険な神通力を使ったという噂が広まった。

 母も過去に神通力を使って村人を不安にさせたことも、村人は覚えていた。

 噂が噂を呼び、いつしか親子は「化け物」と呼ばれ影で恐れられるようになった。     』

 

 そこには、在るべき姿が記されていない。神通力を宿す彼女に娘が存在するのならば、その父親である男も必ず存在しているはず。なのに村人の中にはその男は存在しておらず、仮に余所者であるにしても村人の誰もが存在を認知していないのは明らかにおかしい。

 まさか、村人の根拠のない憶測通りに山神様の子というわけでもあるまいし――と、そこまで考えたところで凛太郎の視線は姫子へと向けられた。

 

「あぁ?」

 

 この世界に神は実在する。人々に救いの手を差し伸べる善神ばかりでなく、むしろ人々の恐怖と混沌を糧とする悪神ばかりであるが。少なくとも凛太郎の知る神とはそういうモノであるが、人々の為に力を奮う善神が存在する可能性も十分にある。

 勿論、人間の男が彼女の伴侶である可能性の方が高いだろうが、彼女の伴侶の正体が山神様ではないと言い切ることが出来ない程度には、凛太郎は世界の裏側/真実に触れていた。

 

 或いは、4ページ目に彼女の伴侶に関する情報が記述されているかもしれない。メモの中から4ページ目を探す凛太郎だが、どうやら健二の回収したメモの中には4ページ目は無いらしく、記録の続きを読むことは叶わなかった。

 肝心なところで……と、心がささくれ立つのを感じたものの、無いものは仕方がないと割り切って5ページ目の続きである6ページ目を読むことにした。

 

『                    6

 

 「最近、化け物の子が村に入り浸っている」

 「今は楽し気でまだ良いが、あいつはまだ子供だ。いつ、どんな拍子に本性が現れるか分からない」

 

 大人たちの間では、いかにして少女を刺激せず、村に近づけさせないかが議論された。

 そして、少女が友達がいなくなれば、山から下りてくることはなくなるだろうという結論が出された。

 

 その日から、村の子供達は少女を避けはじめ、数日経つと少女に近づく者はいなくなった。

 

 それでも少女は、両手いっぱいの山菜と果物を手に、山から下りてきたが

 ついに誰からも相手にされなくなると、泣きながら一人で山へ帰っていった。

 

 それ以来、少女が山から下りてくることはなくなった。                 』

 

「ま、よくある話だな」

 

「うわあッ!?」

 

 突然、横から聞こえてきた姫子の声に凛太郎はひっくり返りながら悲鳴を上げる。そんな彼の様子を気にすることもなく、独り言を言うように姫子は【人間】を語る。

 

「人間は自分を何よりも大事にする生き物だ。だから自分とは違う、或いは自分を含めたその他大勢とは異なるものを目の当たりにすると、すぐにそれを集団で排除しようとする」

 

《ま、お前ら人間なんてそんなもんだ。見た目と自分が一番大事なんだろ?》

 

 以前、敵対した時に■■■■■(クティーラ)が口にした言葉を思い出す。

 

「信じる神が異なることによる排除、国籍や肌の色、生まれが異なることによる排除、言葉が異なることによる排除、病を抱えていることによる排除、見た目の差による排除、持っているものの差による排除……人間の本質は「闇」だ。この結論に否定の余地はねぇ」

 

「それは……」

 

 金色の双眸を光らせる姫子の言葉を否定することなど凛太郎には出来ない。何せ、彼自身が人間の「闇」に苦しめられた経験がある。人間の本質が「闇」……それは、紛れもない事実だ。

 

「けど、だからこそ……人の「光」は尊く、美しい。姫子だって、それは知っているはずだ」

 

「…ああ、そうだな」

 

 大悟の言葉に、姫子は、静かに瞳を閉じる。

 

《お前は小鳥遊藍子を助けられなかった。残るのはそれだけだ。一生、心に引きずってろ》

 

《――!!》

 

 今度は、姫子の脳裏に大悟達と対峙した時の記憶が過ぎる。小鳥遊藍子の体を依り代に神の肉体を具現化させた彼女の言葉に、藍子を大切にする恵里の心は一度は折れかけた。

 

《このやろおおおッ!!》

 

《兵庫さん! 彼女にはまだ聞きたいことが――》

 

《うるせぇッ!!》

 

《藍ちゃん!!》

 

 だが恵里は、身を挺して異界の化け物であるはずの■■■■■(クティーラ)を庇った。超能力者ではない彼女では致命傷となる弾丸をその身で受け止め、瀕死の状態にあった■■■■■(クティーラ)を守り抜いた。

 

《…なん、で……こんなこと……した、かは…わからない、けど……、ごめん…ね…》

 

《……》

 

《…まだ…間に、合う…?》

 

《……?》

 

《今から、じゃ…ダメ…? たす、ける…の…》

 

《……》

 

《がん、ばる…から…。…ダメ…?》

 

《なん、で…アタシに…聞くん、だよ…。好き、に…しろ、よ…》

 

《あり…がと…。藍、ちゃん》

 

 実際には、■■■■■(クティーラ)の肉体が小鳥遊藍子そのものではなく、小鳥遊藍子の肉体を模倣したモノであることが直後に判明するのだが、「闇」の存在であるはずの■■■■■(クティーラ)が偶には温かい光も悪くないと考えたのは、紛れもなくこの時だった。

 

《…同じもんでも、こんなに味が違うのか…初めての味だが、結構美味いじゃないか。丁度、同じ味に飽きてたところだ》

 

 ■■■■■(クティーラ)の本質が変わった訳ではない。人間の精神を貪り食う邪神、その事実は永劫として変わることはない。それでも、彼女は世界を狂気に満たすだけの存在では無くなった。その奇跡を成し遂げたのは、人の心にある「光」だ。

 

「…俺達が、彼女達の「光」になることが出来ればいいんですが……」

 

 そう呟きながら、凛太郎は残りの2ページに目を通す。

 

『                    9

 

 先の事件以来、村人は益々不安がった。

 「いよいよ化け物の少女が復讐に来るかもしれない」と。

 

 それから数日後、夏の暑さも落ち着いてきた、ある日

 村人の不安は現実のものとなった。

 

 少女が山から下りてきて村人の少年3人を神通力で殺したというのだ。

 殺されたのは、猫を殺した少年達だった。

 

 安喜さんがその時の目撃者から聞いた話によると

 少女は村に流れる桑食川で遊ぶ少年達に近づいて、何やら話しかけたという。

 少年達は「化け物」だと囃し立て、少女を突き飛ばしたところ

 突然の轟音が響き渡り、鉄砲水が押し寄せ、彼等を襲ったらしい。

 

 少年達は濁流に巻き込まれ、下流で発見された。

 その体は大岩に揉まれ、もはや人の形を留めない、無残な姿へと成り果てた。

 一方、少女はというと、不思議にも無傷であるどころか、濁流が少女を避けて流れていたそうだ。

 

 目撃者は「とうとう化け物が本性を現した」と、その様子を村中に知らせて回った。    』

 

『                   10

 

 少女の人ならざる力を目の当たりにした村人は

 

 「早くあの化け物の親子をなんとかしなければ、次は誰が殺されるか分からない」

 「村の子供を手に掛ける、残忍な化け物だ」

 

 と次々に声を上げ、その日の夕方には腕に覚えのある男性28人が集まった。

 この中に当時19歳だった安喜さんも入っていた。

 

 村を守るため、男達はクワやサスマタを手に、山奥の社を取り囲んだ。

 

 「化け物を出せ」

 「殺してやる」

 

 そんな怒号が飛び交っていたが、女が表に立ち、少女を匿って白を切っていた。

 その様子に男達は次第に苛立っていった。

 この時、安喜さんは怖気づいて、少し離れた草陰に隠れてしまったらしい。

 (安喜さんが隠れようとした草叢から妙な視線を感じたらしいが、何もいなかったという) 』

 

「光になれるさ。だって、僕達はそのためにここまでやって来たんだ」

 

 気が付けば、船着き場のへりに辿り着いていた。

 船を降りた四人の視線の先には、岩壁に挟まれるように建てられた建築物が見える。

 石灯籠の間を通り抜け、水に濡れた木製の扉に手を掛けた。

 

「さぁ、行こう!」

 

「はい!」

 

「押忍!」

 

「おう!」




本来、原作では『1930年9月3日』に記述された『雑誌記者の記録』ですが、今作では『1950年9月3日』に日付を変更しております。

現代の日本では初産平均年齢が約30歳というのを当てはめると、影廊の主人公の誕生が1960年前後。本編開始(2016年)時点で56歳前後と結構な年齢になり、その年齢の人物があんなアグレッシブに行動することができるとは思えません。
そこで祖父である男が神隠しに遭った年代を1950年に変更することで、主人公の年齢を大幅に変更することにしました。これで主人公の母が初産平均年齢で主人公を産んだとすれば、主人公は1980年前後の生まれということになり、主人公の年齢もまた36歳ということになります。
更に、主人公の誕生は遅かったということにして、今作では影廊の主人公の年齢を26歳ということに設定しました。

主人公   :遠藤健二             現在26歳
主人公の母親:遠藤貴理子 40歳前後に出産   現在66歳
主人公の祖父:遠藤健児  26歳に不老に    現在92歳 肉体年齢26歳
主人公の祖母:遠藤神奈  26歳に出産     現在92歳 存命



九条大悟
Lv  31
HP  50/50
MP  14/14
SAN 65/65

榊凛太郎
Lv  31
HP  48/48
MP  12/12
SAN 55/65

秋本楓
Lv  31
HP  48/48
MP  12/12
SAN 55/60

小鳥遊姫子
Lv  31
HP  48/48
MP  21/21
SAN 78/90

所持品
・混沌の神楽鈴×6
・金色の鍵×沢山
・ひかり石×沢山
・爆竹×沢山
・古いカメラ×沢山
・コンパス
・勾玉×3
・特別な勾玉×4
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