烏丸超常探偵事務所の超常事件簿   作:ゲーマーN

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第12話 聖域の扉

 大勾玉の間に入るためには金色の鍵を2つ用意する必要があった。一階外周部に鍵の掛けられた扉が存在しており、その扉を開いた先には地下の部屋に続く穴が空いている。その部屋にはレバーが二つあり、向かって右がその部屋の、左が大勾玉の間への扉を開くレバーとなっている。

 部屋を出て、そのまま直進すれば大勾玉の間にへ続く二重扉がある。一枚目の扉は金色の鍵で錠を外し、二枚目の扉は先程のレバーで解錠済み。

 最後に、石造りの門を潜り抜けるとようやく大勾玉の間に辿り着くことができた。

 

「これで5つ…後は、」

 

『聖域に向かうだけですね。次は中央部にある聖域の入口に案内します』

 

 繰り返す時の中で幾度となく影の回廊を踏破した健二すらも辿り着けなかった未踏領域。それが黒猫の本体の居る聖域である。聖域に入るには5つの大勾玉を回収した上で、封印された聖域の入口に辿り着く必要がある。

 黒猫によれば、ループ中に一度だけ健二は聖域の入口付近まで来たことがあるという。だが、その入口の仕掛けで命を落としてしまい、次のループからはその仕掛けを避けるようになった。

 

 聖域の入口は、深淵の大勾玉のように深い穴を落ちた先に存在しており、その穴は普通の人間では即死……よくて瀕死の重傷を負うほどの高さであるという。

 それは遠藤健二も穴の底を探索することを断念するはずである。ゲームのキャラクターはどれほどの重傷を負ったとしても、システムが設定する通りの動きをすることができるが、生きた人間である彼が瀕死状態で動けるはずがない。

 

 元々、霊魂の淵叢はその前に踏破することになる深淵の倍は攻略難易度の高い場所である。階上階下の三層構造となっており、単純な探索では済まなくなっている上に、徘徊者以外にも探索の邪魔をする敵性体が数多く存在している。

 その中でも、特に厄介なのは緑色の球体の姿で回廊を徘徊している彷徨う魂だろう。戦闘能力は大したことないが、その性質は厄介極まりないものである。

 

 霊的存在である彷徨う魂は通常の物理攻撃を無効化してしまう。そのため対霊能力を持つ特殊武器、或いは超常の力による攻撃が必須となる。この時点で普通の人間には無理ゲーレベルだが、本当に厄介なのはこの先である。

 

 単に近くにいるだけでコンパスを無効化する上に、球体状の見た目が、苦悶に歪む人間の顔というかなりエグい見た目に変化する。健吾が見れば卒倒するような最悪のビジュアルである。おまけに、この脅威に憑依されるとかなりの体力を削られることになる。不幸中の幸いは、それが一度で即死するほどのダメージではないことだろう。

 それでも、体力の回復方法が、偶に落ちている【赤い液体の小瓶】頼りの健二には致命的だ。

 

 尤も、回復能力を持つ大悟達には霊属性持ちの面倒な敵程度の存在でしかない。【念力】、【紅蓮】、【疾風】などの超能力で一蹴できる。他の徘徊者と一緒くたに薙ぎ払いながら、黒猫の【ナビゲート】で聖域の入口を目指す。その道中、残り2枚のメモを手に入れた。

 

『                    4

 

 それ以来、子連れの女は度々村に降りてきては、子供用の衣服や食料を買っていった。

 女は通貨の代わりに赤や緑色に輝く宝石を置いて行ったという。

 村人は彼女を煙たがったが、置いていく宝石は見事なものだったため取引には応じた。

 

 女は子供をたいそう可愛がっている様子であったが、

 村人は日に日に不安を募らせていった。

 

 「もし、あの子供が人の子でなかったとしたら、母親に酷い仕打ちをした村人に復讐しに来るのではないだろうか?」

 当時10代だった安喜さんをはじめ、誰もがそう思っていたという。

 

                    補足

 

 安喜さんと、当時の村を知る他の方の証言から

 女が置いて行った宝石とは、勾玉のことだと推測される。

 翡翠や琥珀で作られる古代の装身具であるが、それをどうやって入手したかは謎である。  』

 

『                    7

 

 少女が成長し、十歳ほどになったであろう頃。

 親子は相変わらず山奥にひっそりと暮らし、偶に女が村に降りて必要なものを買っていくだけで

 それ以上村に干渉することも無ければ、村人が親子に干渉することも無かった。

 

 しかし、ある日事件が起きた。

 少女が可愛がっている猫がいるらしいと知った村の少年数人が、

 その猫を突き止めて殺してしまった。

 

 数年前に、親子が神通力を操る化け物だと教え込まれた村の子供達は、

 彼女達を人間としては見ていなかった。

 しかし、危険意識はそれほどなく、面白半分で猫を殺したらしい。

 

 その日、数年ぶりに少女が山から下りてくると、鬼気迫る様子でその少年達を探し回った。

 その様子を見た村人は、すぐに少年達を匿い、家の中から遠巻きに少女を見ていた。

 

 すると、やがて女が山から下りて来て少女に駆け寄った。

 女が少女を宥めると、親子で山に帰っていったという。                 』

 

 事情を知るほどに、少女に同情する気持ちが大きくなるのを姫子以外の三人は感じていた。8ページ目の「猫を殺した~」という記述に嫌な予感はしていたものの、村の子供達の無垢故の残酷さには見るに堪えないものがある。

 姫子にすれば、この程度の悲劇など飽きるほど見てきたものの一つでしかない。3000万年以上前から存在する彼女は、長い歴史の中で数え切れないほどに人間の「闇」を見てきた。

 

 その人間の闇にも負けないほどに薄暗い回廊を探索していた一行は、中央の柱にレバーが一つだけぽつんと設置された部屋に辿り着いた。床一面が金属製の格子になっており、そこに開いた穴からは全く何も見えない深淵の如き闇が広がっている。

 恐る恐る部屋の中に足を踏み入れた四人は、部屋の中央にあるレバーへと近付いていく。

 

『このレバーを引くと勾玉のある地下に落下します。その途中の壁に通路が空いていて、その先に聖域の入口に続く鏡が置いてあります』

 

「…この下に、ですか…」

 

「それなら勾玉を回収してから聖域に向かうことにしようか」

 

『お願いします。私の居る場所に辿り着くにも勾玉が5つ必要になるので』

 

「了解。丁度、次で5つだな」

 

 では早速、と何の躊躇いもなくレバーを引く大悟。直後、足元の格子が開き、四人と一匹は空中に放り出される。そのまま全員が落とし穴の底に叩きつけられる――その寸前。

 

「【念力波】!!」

 

 技能:【念力波】

 九条大悟 :MP 14- 5= 9

 

 ふわり、と落下速度が緩やかになる。【念力】で自分達の肉体に干渉することで、地面に叩きつけられるのを防いだのだ。これもまた【念力】のちょっとした応用である。

 見上げれば、少し高い位置の壁に開いた穴から蝋燭の灯りが見える。恐らくは、あの先に聖域の入口があるのだろう。【よじ登り】技能を持つ楓以外がこの壁を登るのは難しいところだが、そこは【念力】で十分に補うことができる。

 

 まずは、聖域に向かう前に勾玉を回収しよう。そう考えた大悟が周囲を見渡すと、真っ暗な通路の奥に勾玉の放つ翡翠の光を見つけた。その勾玉の方を懐中電灯で照らす。そこにはあまりにも悍ましい光景が広がっていた。

 地面から無数の竜蟲がウニョウニョと生えている。以前、巨大生物の調査依頼を受けた際に巨大ムカデや巨大ゴキブリを見たことがあるが、その時に勝るとも劣らない嫌悪感を覚えてしまう。

 

 判定:《正気度》ロール(0/1)

 榊凛太郎 《正気度》55 → 12 成功

 秋本楓  《正気度》55 → 49 成功

 

「薙ぎ払います! 【烈風】!!」

 

 技能:【烈風】

 秋元楓  :MP 12- 5= 7

 

 尤も、デカいだけのミミズに臆するような大悟達ではない。荒れ狂う【烈風】が全ての竜蟲を根元部分から薙ぎ払う。それで地面の下にいる後半身は息絶えたものの、地上にいる前半身はその生命力の高さからバタバタと蠢いている。

 このままでも出血(?)が原因で命を落とすだろうが、それを待つのも時間の無駄である。地を這う竜蟲の群れに凛太郎はスッと右手を向けた。

 

「【煉獄】!!」

 

 技能:【煉獄】

 榊凛太郎 :MP 12- 6= 6

 

 放たれるのは、足元の水場ごと視界の全てを蒸発させる【煉獄】の炎だ。灼熱地獄が竜蟲の群れをその体液から肉片の一つまで焼き尽くす。肉の焼ける異様な臭いが四人の鼻を刺すが、顔を顰めつつもその場で耐え抜いた。

 炎が消えていく。燃え盛る大火が霧散していくその中に細長い黒い影が浮かび上がり、すぐにその影はまるで風化するようにパラパラと崩れ去っていく。

 

「これで勾玉は回収完了ですね」

 

 凛太郎達は生き延びた! 凛太郎達は50の経験値を獲得!

 そんな戦闘終了メッセージを思い浮かべつつ、竜蟲の群れが守っていた勾玉を回収する凛太郎。

 これで、聖域に居る黒猫の本体の下に向かう準備を全て終えることができた。聖域の封印を解くための大勾玉は全て回収しており、聖域の祭壇に納める分の勾玉も確保することができた。

 

 後は聖域に向かうだけである。

 

 大悟の【念力波】で聖域に向かうための通路に飛び移った大悟達は、鍵の掛けられた二枚の扉を強引に破壊して通路の奥に突き進む。破砕音を聞きつけた徘徊者が上から落ちてきたが、気にすることもなく般若の面を背後に飾られた移動用の鏡に触れた。

 すると、大悟達の視界を()が染め上げる。この世界を満たす嫌な気配が薄れていき、水の腐った臭いが遠のいていく。その転移は、これまでの転移とは明らかに別物だった。

 

 

 

 光が消えると、そこは深淵のような木造建築の中だった。背後には四人が通ってきた鏡が安置されており、正面には二つの燭台に挟まれるように引き戸が設置されている。

 

 引き戸の先には石畳が敷かれており、石燈籠の並ぶ階段の上には赤い鳥居がある。壁の代わりに階段の左右には滝が流れており、水飛沫が階段の方にまで飛んでくる。濡れた階段で足を滑らせて転落しないように気を付けながら大悟達は階段を登っていく。

 鳥居の先には小高い祭壇のような場所があった。その上にある円形の台座の5つの窪みに、大勾玉を1つずつ嵌めていく。

 

「凄い仕掛けです!」

 

「ですね。こんな仕掛けはゲームでしか見たことがありません」

 

「海底神殿でも見たことがあるような……」

 

「あー……確かにそうですね。あそこは魔物との戦いのイメージの方が強いので……」

 

「魔物じゃねぇ。アタシ達は神だって言ってんだろーが」

 

 目の前にある石の大扉の紋章のような部分がギギギと錠を回すように動き出し、百八十度回転したところで石扉が左右に開いていく。ガタンと重々しい音を立てて完全に開いた石扉の先に、聖域へと続く道は存在していた。

 曼殊沙華、彼岸花の咲き誇る花畑を大悟達は歩いていく。石燈籠の灯りだけでなく発光する彼岸花の花弁が大悟達に進むべき道を示してくれる。

 

「この鏡が……」

 

『はい。その鏡が聖域の入口です』

 

 赤い鳥居を抜けた先、花畑の中央に置かれた鏡こそがこの影の回廊の聖域に繋がる門だった。大悟達は、互いに顔を見合わせると聖域の入口である鏡に触れた。

 夜の花畑を光が満たす。彼等の視界が白一色に染まると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 空気が変わる。気が付けば、大悟達は美しい木造の建物の一室に立っていた。

 

 直前まで探索していたのがボロボロの霊魂の淵叢だったこともあり、床材や壁材に木目の美しい木材が使われたこの回廊からは神聖な雰囲気すら感じてしまう。なるほど、この場所を聖域と呼んでいるのにも納得が行く。

 部屋を出ると、正面には4つの赤鳥居が並んでいる。その下に掛けられた橋を渡った先には、これまた美しい色合いをした白塗りの壁と、違和感を覚えるほどにボロボロの障子があった。

 

『あと少しです。ここから真っ直ぐに私の下に案内します』

 

 大悟は黒猫に促されるままに穴だらけで黄ばんだ障子を開ける。

 

 少女のこと……

 黒猫の本体のこと……

 この世界のこと……

 

 大悟達は、隠された真実に迫ろうとしていた。




九条大悟
Lv  31
HP  50/50
MP  14/14
SAN 65/65

榊凛太郎
Lv  31
HP  48/48
MP  12/12
SAN 55/65

秋本楓
Lv  31
HP  48/48
MP  12/12
SAN 55/60

小鳥遊姫子
Lv  31
HP  48/48
MP  21/21
SAN 76/90

所持品
・混沌の神楽鈴×6
・金色の鍵×沢山
・ひかり石×沢山
・爆竹×沢山
・古いカメラ×沢山
・コンパス
・勾玉×5
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