チリン、と風鈴が小さく音を立てる。赤い着物の少女と向かい合うように、大悟達は赤い座布団の上に腰を下ろした。姫子は胡座をかいており、残りの三人は少女同様に正座で座っている。
「私はヒガナ。えっと、私の姉にはもう会いましたよね」
「あの黒い着物を着た女の子のこと、だよね?」
「はい、その通りです。彼女の名前はヒバナ。私の双子の姉です」
赤い着物の少女は自らの名を告げる。ヒグラシの回廊でも彼女達が双子とは聞いていたが、瓜二つの顔の作りからして、彼女達は一卵性双生児の姉妹に違いない。
当時の日本には双子忌避の風習が存在していた。双子が生まれることを「一度に二人も三人も産むのは犬猫の仲間」などの意味から「畜生腹」と忌み嫌う地域が多かった。こういった双生児に対する偏見は昭和30年代頃から薄れてきたと言われている。
その当時、女手一つで双子を育て上げた女性は本当に立派な母親だったのだろう。幼少の頃に山奥に厄介払いされた彼女が周囲の習慣や価値観に染まっておらず、双子を育てることに心情的な抵抗が無かったのだとしても、二人の子供を育て上げるのは大変だったはずだ。
無論、彼女の伴侶、双子の父親が共に家事育児をしていた可能性もあるにはあるのだが、ここまで父親に関する記録がない以上は、彼女一人で子供たちを育て上げたと考えるのが妥当だろう。
「お前、この世界に来る前からアタシ達のことを知ってたな? それはどういうわけだ?」
「私には、生まれつき千里眼という力が備わっています。母から受け継いだ能力です」
「千里眼…!?」
「ほ、本当ですか…!?」
「はい。遠く離れたものを透視したり、稀にですが、未来に起こり得ることも見えます」
姫子の追求に対するヒガナの答えは驚くべきものであった。
本来、千里眼とは千里先など遠隔地の出来事を感知できる能力であり、即ち「空間」を飛び越える能力と言い換えることができる。だが、彼女のそれは「時間」をも飛び越える。空間と時間、その両方を飛び越えるなど超抜級の異能力と言っていい。
姫子の知る限り、空間と時間、この二つの権能を併せ持つのは、外なる神
「あなたたちのことは、遠い昔、夢で見ました。夢の中であなたたちは、バラバラになった私たち家族を再び一つに結びつけてくれた。そして、遠藤健二さんがこの世界に迷い込んだ時、夢が予知夢であったことを確信しました」
「健二さんが…?」
「夢の中では、彼があなたたちをこの世界に導いたからです。そこで私は、彼を見守ることにしました。彼と一緒に迷い込んだ、この子を通して……」
膝の上に乗せた黒猫の尻尾の付け根部分をポンポンと撫でるヒガナ。にゃあ、と黒猫は心地よさそうに目を閉じた。彼女は優しげな笑みをしていたが、次第にその表情は暗くなっていく。
「……ですが、最後まであなたたちがこの世界に現れることはありませんでした。27の人柱に囚われたお母さんの後を追い、奈落の底にヒバナも消えていきました。その光景を目の当たりにした私は、かつてのヒバナのように、その内に眠っていた力を目覚めさせた。【時渡り】の力を」
「【時渡り】…そうか、ループを起こしていたのは君だったのか」
この世界は同じ時間を繰り返している。本来、一日目の今日で脱出できるはずだった健二を閉じ込めていたのは、彼をこの世界に招き入れたヒバナではなく、彼を元の世界に帰そうとしていたヒガナだった。姉と同じように家族を救いたいという思いで彼女は奇跡を成し遂げた。
「最初は、何が起きたのか自分でも理解することができませんでした。ですが、三回目の今日で全てを理解しました。かつてヒバナがこの世界を作り出したように、私もまたこの世界の時の流れを巻き戻したのだと」
それは、神の領域に手をかけた奇跡だった。
否、神ですら、これほどの偉業を成し遂げるのは難しいことだろう。
世界創造と時間逆行。
どれほどの思いがあれば、そんなことができるのか。
「この能力で巻き戻すことができるのは一日だけ。私は今日という日を永遠に繰り返し、あなたたちが来るのをずっと待っていました。私の身動きが取れない今、状況を打開するには、あなたたちに賭けてみる以外にはありませんでしたから」
「身動きが取れない?」
「長い話になります……」
ヒガナはその根源を語り出す。それは、あまりにも救いようがない神隠しの真相だった。
「私たちは、蛭南村という小さな村から少し外れた山奥の、廃墟となった社で生まれ育ちました」
神通力をその身に宿す女性の子供が双子だったという記録は残されていない。それはつまり、当時の村人が二人目の存在を知らなかったことを意味している。彼女達の暮らしていた社はそれほど辺鄙な場所にあったのだろう。
恐らくは、女性がひた隠しに隠していたのも村人に露見していない理由の一つだろう。明治期当時の双子を忌避する風習を考えれば、村人に双子の存在を隠蔽するのは当然の判断と言える。
「私は母から千里眼を受け継ぎましたが、ヒバナには何の力もなく、普通の女の子でした」
「え、ウソ……ついてない…!?」
「あの日が来るまでは……ヒバナは、本当に普通の女の子だったんです」
他人の嘘を見抜く力がある凛太郎には、その言葉が嘘でないのは一目で見抜くことができた。
この時の凛太郎の驚愕と心の混乱は表現のしようのないものだった。ヒガナの言葉は、それこそ自らの超能力の不具合を疑うほどに信じ難いものだった。凛太郎はてっきり、ヒバナも生まれながらに神通力をその身に宿す異能者と考えていた。その行使を見た者がいたからこそ、「幼子が危険な神通力を使った」等という噂が広まったのだと考えていたのだ。
だが実際には、ヒバナは神通力等の異能とは縁のないどこにでもいる普通の女の子だった。蛭南村で広まっていた噂は根も葉もないものであり、幼い頃の彼女達が危険な神通力を使ったなどという事実はどこにも存在しない。
火のないところに煙は立たないという言葉がこの日本という国には存在している。火がなければ煙も立たないように、事実がなければ噂も立たないはずで、噂が立つのは、その原因となる事実があるはずであることを意味している。
蛭南村の住人は、火のないところからこの悪意に満ちた噂を村に広めたのだ。比較的平和な現代日本で生まれ育った凛太郎は、人間の底すらない悪意を見誤っていた。
「母はその能力故に村人から忌み嫌われていて、私の身を案じた母は、私に山を下りることを禁じていました。そんな私と母のことを、ヒバナはいつも一番に想ってくれました」
幸せだったあの頃のことは今も鮮明に思い出すことができる。山奥の廃れた神社とその周りだけが彼女達の世界だった。一生忘れることのない、今は遠き、あの日の思い出。幼い頃の情景を思い出して、ヒガナは思わず微笑んでしまう。
「ヒバナは本当に優しかった。『お母さんとヒガナは、不思議な力のせいで辛い思いをしているから、だから私が守る』と言って、何かある度に無茶していました」
このまま幸せな日々がいつまでも続けばいい……そんなことを思いながら、彼女達は穏やかに過ごしていた。しかし、彼女達の日常はある日突然に終わりを告げた。
「ある日、私は村の少年達が川で鉄砲水に流される事を予知しました。それを聞いたヒバナは、少年達を助けようと急いで川に向かった…でも、ヒバナの警告は聞き入れられなかった。母の子であるというだけで、ヒバナも村人に嫌われていました」
「それで、取材記録の9ページ目の出来事に繋がるわけですね……」
「はい。少年達が数人がかりでヒバナを痛めつけると、すぐに鉄砲水が押し寄せ、少年達を飲み込みました。ヒバナだけは奇跡的に難を逃れましたが…それが村人の誤解を生みました。村人には、ヒバナが仕返しをするために不思議な力を使って鉄砲水を呼んだように見えたようです」
記録の9ページ目には、少年達が少女のことを突き飛ばしたところ、轟音と共に鉄砲水が押し寄せて、少年達を襲ったらしいと記されている。その状況で一人だけ生き残ったとすれば、村人がそう考えるのも無理のないことだろう。
しかし、自分達を忌み嫌う村人達を救おうとするなどお人好しにもほどがある。長い間、人間の歴史を見てきた姫子は呆れたような顔でそのことを指摘した。
「よくもまあ、そのガキ共を救おうとしたもんだな」
「それは…そうですね。あの日、私が余計なことを言ったりしなければ、家族が引き裂かれるようなことも、ヒバナが苦しむようなことはなかった」
「…それはどうだろう」
どこか自嘲するような苦笑いをするヒガナに、これまでの情報を纏めていた大悟が声を上げた。
「多分、君達が何もせずとも村人達は鉄砲水を君達の仕業と考えたはずだ」
「どういうことですか?」
「昔話では、川の氾濫は八尾の狐が神通力で起こしたものだった。思うに、蛭南村では災害の類を人ならざる者の仕業であると考えていた。可愛がっていた猫を殺された復讐として、君達が鉄砲水を起こしたと判断したはずだ」
「そんな……それなら、私たちはどうすれば……」
「逃げることは…村人から、逃げることはできなかったんですか?」
楓の言葉に、ヒガナはうなだれるように首を横に振った。
「……その時間はありませんでした。母の千里眼で、その日の夕方には、大勢の大人がやって来ることがわかりましたから」
「腕に覚えのある男性28人による山狩り…逃げ切るのは流石に無理がありますね」
「だからお母さんは、その前に私たち二人を山奥に隠そうとしました。ですが、ヒバナはそれを断りました。私とお母さんを守るんだと言って…私の存在は知られていませんでしたから、ヒバナが残れば私は安全に山に隠れられる。そのことはヒバナもわかっていました」
何の力もない少女がいたところで何ができるわけではない。ヒガナとヒバナのお母さんは二人で一緒に逃げるよう必死に説得したが、ヒバナは決して逃げようとはしなかった。かけがえのない家族を守るために、今できることを精一杯やろうとした。
「お母さんが説得するもヒバナの意志は強く、私一人で山奥に隠れることになりましたが…二人のことが気がかりだった私はこっそりと林の奥から様子を伺うことにしました」
「そう言えば、草叢から妙な視線を感じたって取材記録に……」
雑誌記者の記録。その10ページ目には、「化け物を出せ」と囃し立てる村の男達に怖気づいた安喜さんが、隠れようとした草叢から妙な視線を感じたらしいと記されていた。その草叢には何もいなかったというが、別の草叢に隠れ場所を変えたのが真相のようだ。
「やがて村人が社を取り囲み、大勢の怒声がヒグラシの声を掻き消した。村人達は口々に叫びました。『化け物の子が村の子供を殺した、化け物を出せ、仇を取ってやる…!』、と」
「本当の化け物はどっちだか」
姫子は、そんな言葉を吐き捨てた。最近、多くの人間の「光」に触れてきた彼女には、見慣れているはずの人間の「闇」が、ひどく気持ち悪いものに思えて仕方がなかった。
「母は社の中にヒバナを匿うと、表に立ち一歩も引きませんでした。『優しい私の子が、人を殺すことなどあり得ない。何かの間違いだ』と言い続けていました。でも、そんなやりとりはいつまでも続かず…痺れを切らした村人たちは、遂に大勢で母に襲いかかりました」
《でも私に言わせれば、人間の方がよっぽど質が悪いわね》
この場に健二がいたのならば、深淵でヒバナの口にした言葉を思い出していたことだろう。人間の方がよほど質が悪い。彼女は人間の醜さ、汚さをその身を以て知っていたのだ。
「鍬や鉈で打たれ、母が悲鳴を上げるとヒバナが飛び出してそれを庇った…ヒバナの顔は恐怖で強張っていて、それでも必死に母の前に体を投げ出しました。でも、」
そこで口を噤み、深い後悔の念を滲ませた表情と声音で続きを吐き出した。
「ただの少女だったヒバナは、大勢の大人の前には無力だった。村人たちは力任せにヒバナを抑えつけると、村の子供の仇だとばかりに、ヒバナの両目を潰したんです。血に染まり、力なく横たわる母の姿……それが、ヒバナの目に映った最後の光景でした。きっと、言葉にならない程の恐怖と悔しさだったでしょう」
「……ッ」
胸中に、憤怒が渦巻く。凛太郎は奥歯をギリッと噛み締めて、それを懸命に堪えなければならなかった。ここでそれを吐き出したところで何の意味もないことはわかっていたからだ。
「でもその時、ヒバナの中に眠っていた力が目覚めました。ヒバナの体が強烈に光り輝き、その光が辺りを飲み込んでいくと、辺り一帯の空間と時間を捻じ曲げ、切り裂き、別の世界を形作った。それが、今私たちがいるこの世界です」
この世界は、幾多の人を傷つけてまで、たった一人の大切な人を守るために存在していた。それはとても自分勝手で、しかし、純粋で真っ直ぐな少女の思いだった。単純な善悪では片付けられない、家族を守るという、その強い思いがこの世界を作り出した。
「この世界は、家族を守るという、ヒバナの強い思いが作った世界。その思いは無意識に、この封印された聖域を作り出し、私を閉じ込めました。もう家族が誰にも傷つけられないように……」
「無意識に? ということは、まさか……」
「はい。ヒバナはこの聖域のことも、私がこの世界に居ることも知らないでしょう」
ヒバナとヒガナ。二人の少女は同じ世界にいながら長い時を別々の場所で過ごしてきた。ヒバナは、ヒガナが生きていることも、この世界に居ることも知らなかった。だからこそ、ただ一人の家族を救うために、殺人という凶行に手を染めた。
「そして、ヒバナは母を復活させるために、この世界に人を誘い込み、殺し始めた。心優しいヒバナにとって、それがどれだけ耐え難いことだったか……閉じ込められた私には成す術がなく、ここから見ていることしかできませんでした」
「……ヒガナちゃん」
「……ヒガナちゃん」
「……ヒガナさん」
「ヒバナが苦悩する様子は壮絶で、思い出したくもありません。良心に苛まれる度に、何度も何度も自らの心を押さえつけ続け…やがて人としての良心を彼女の胸の奥底へと封じ込めました」
その良心が漏れ出したのが一巡目の出来事なのだろうことは大悟達にも想像が付いた。大抵の者達は面を被った瞬間に自我を失うというのに、何十年もの間、この影の回廊に自我を保ったまま潜伏していた遠藤健児。
その血と魂を受け継ぐ遠藤健二の魂は、それ相応の力を秘めているはずだ。少しでも多くの力を欲していた一巡目のヒバナが、彼を見逃すような真似をする理由がない。
「……すみません、少し話が長くなりました。ですが、あなたたちには真実を知っていて欲しかったんです。ヒバナのことを知り、ヒバナのために憤りを覚えたあなたたちには」
「「「「……」」」」
「母の復活は失敗します。今の内に何とかしなければ、取り返しのつかないことに……」
その時、世界が震動した。
「時間がない……一緒に来てください!」
ヒガナの顔の上に浮かんだ焦燥の色を見て、大悟達は一も二もなく了承の意を示した。
導かれるままに鏡に触れた大悟達は夕陽の差し込む木造建築の一室に辿り着いた。何かに弾かれたように飛び出したヒガナの後を追い、川の上にかけられた渡り廊下を真っ直ぐに駆け抜ける。その先には、黒い着物の少女……ヒバナが立っていた。
「ヒバナ!」
その声を聞き、ヒバナは驚いたように後ろを振り返る。
「あなた…ヒガナ…? どうしてここに……」
「私もずっとこの世界にいて、この人たちが助けてくれたの。でも、詳しい話は後」
「そう…あなたたちが…」
ヒバナは、どこか嬉しそうな表情で見えないはずの目を大悟達に向ける。しかし、長い時を経て妹と邂逅を果たした喜びにもすぐに陰りが生じた。
「お母さんは今、とても苦しんでいる。私のせいで、お母さんはあんな姿に……」
「ヒバナ…」
「私がなんとかする…ヒガナは隠れていて」
「私も手伝う」
「ダメよ、危ないから隠れていて」
「私も手伝う!」
「ダメよ、言うことを聞いてちょうだい……」
「ヒバナの言うことは、もう聞かない! あなたはいつもそう! 全部一人で背負い込んで!」
それは、彼女たちの母親がヒバナを説得していた時の再現だった。今のヒバナは、村人たちに殺されることを覚悟の上で、子供たちを逃がそうとした母の姿と瓜二つだった。だからこそ、ヒガナは、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「でも、あなたまで失ったら…私…」
「昔から私はヒバナに守られてばかりだった。その度に、ヒバナばかり傷ついて……もう嫌なの、何もしないで、隠れてばかりで、後悔したくないの」
「ヒガナ…あなた…」
「それに、私たちのお母さんじゃない。二人で一緒に助けましょう」
ヒバナの体を抱き締めるヒガナ。その温かい感触に、ヒバナは凍りついた心が解けるのを、或いは止まっていた時が動き出すのを感じていた。
「……ありがとう。でも、」
「わかってる。私たちだけの力で、お母さんを止められるかどうか……」
強大な力を得て肥大化した憎悪は、今、全ての命を食らい尽くさんとしている。もし元の世界に出るのを許せば、世界を滅ぼすほどの災厄になることだろう。これでもまだ一番弱い状態であるというのに、二人との間には絶望的な力の差があった。
ヒバナとヒガナはそっと体を離すと、大悟達の方に体と視線を向けた。ヒバナは決まりが悪そうに、けれど何かを言いたそうに、目を伏せたままもじもじしていた。
「あの……ヒガナを、ヒガナを助けてくれて…ありがとう。本当に…本当にありがとう」
「どういたしまして」
と、大悟はヒバナを安心させるように微笑んだ。
「こんなこと、言えた義理ではないことは分かっています。ですが…どうかお願いします。この面を被って、あなたたちの力を貸してください」
そう言いながらヒバナが取り出したのは、この世界で幾度となく目にしてきた能面だった。
「あなたたちは素晴らしい魂を持っています。この面に適応し、あの男のように力を使いこなせるでしょう。加えて、この面は今までの物より遥かに強力です。あなたたちの力を今直ぐに引き出せるようになっています。それだけ負荷は相当なものになります。ですが……」
上げられたヒバナの顔には、一方ならぬ決意と覚悟が漲っていた。
「その負荷は、私が全て肩代わりします」
「何言ってるの…? そんなのダメだよ! ヒバナの身が保たない、死んでもおかしくないよ!」
「分かってる。それでも……」
ヒガナが声を荒らげる。けれども、ヒバナにはそれ以外の方法が思いつかなった。
「…お母さんを助けるには二人では力不足。あなたたちの助けが必要です…」
その時、世界に轟く咆哮と共にその怪物は姿を現した。
黄昏に染まる空を泳ぐのは『金魚』のような見た目をした化け物だ。
この影の領域に集う憎悪と苦痛、恐怖の写し身。邪神の域にまで昇華された憎悪そのもの。
常人であれば、目にするだけで正気を奪われる悪夢の化身。
それは、あの海底神殿で対峙した旧支配者にも匹敵するような巨躯の怪物だった。
「時間がありません、どうかお願いします……」
ヒガナが頭を下げる。
「いや、その能面は使わない」
「そんな……いえ、当然ですね。私たちのためにあなたたちが無茶をする理由は――」
「これ以上、君達が苦しむ必要はない。後は僕達に任せてほしい」
「――――――…………え?」
「それは、どういう…………」
ヒバナとヒガナの肩を叩きながら前に出た大悟の後を追うように、彼の仲間達は困惑する二人の少女の横を通り抜けて報復の獣の前に立つ。
「行こう、皆!」
大悟が右手を前に突き出すと、その身から溢れ出た光が彼の掌中で光の翼を形作る。
その翼の名前は【スパークレンス】。超古代の戦士達が、神々と一体化するために用いた神器。
「凛太郎!」
「はい!」
「楓!」
「押忍!」
「二人の光、お借りします!」
両腕をクロスさせ、腕を大きく回すことで三人の光をスパークレンスに収束させる。
大悟を中心に広がる光の翼が、夕陽が映し出す三人の影を一つに纏め上げた。
「アタシも行くぜ! 深淵の闇よ、我が下に集え!」
呪文:【チカラの解放】
小鳥遊姫子:SAN75-30=45
同時に、三人と並び立つ姫子が【
闇の翼が左右に開き、その内部に秘めた
影を光が照らす。
影を闇が染める。
光の巨人と闇の巨人、二柱の旧き神が影の領域に降り立った。
以上の経緯を以て彼女のクラスは決定された。四尾の狐など過去の姿。
其は人間が生み出した、人類史を最も有効に悪用した大災害。
その名をビーストⅠ。七つの人類悪の一つ、『報復』の理を持つ獣である。
(尚、この形態は幼体ですらない卵である。影の回廊という卵を食い破ることで、正式に報復の獣はビーストⅠとして顕現することになる)
九条大悟
Lv 31
HP 50/50
MP 14/14
SAN 65/65
榊凛太郎
Lv 31
HP 48/48
MP 12/12
SAN 55/65
秋本楓
Lv 31
HP 48/48
MP 12/12
SAN 55/60
小鳥遊姫子
Lv 31
HP 48/48
MP 21/21
SAN 45/90
所持品
・混沌の神楽鈴×6
・金色の鍵×沢山
・ひかり石×沢山
・爆竹×沢山
・古いカメラ×沢山
・コンパス