烏丸超常探偵事務所の超常事件簿   作:ゲーマーN

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Interlude 1
第17話 ユゴス出版


 2016年 6月 28日(火)

 神津市 東区 烏丸超常探偵事務所

 

「――というわけで、新しく事務所で働くことになった彼花(ヒバナ)さんと彼岸(ヒガナ)さんです」

 

狐堂被花(コドウ・ヒバナ)よ」

 

狐堂彼岸(コドウ・ヒガナ)です」

 

 翌日、探偵事務所に帰ってきた大悟達は事の顛末を所長である健吾に報告した。被花と彼岸の事情を知り、健吾は探偵事務所で働くことを提案した。というのも、百年以上前の人間である被花と彼岸には戸籍が存在しておらず、現代日本では普通の職業に就くことが困難だったからだ。

 また、チカラを持つ人材は稀少ということもあり、超抜級の異能者である二人を身内に引き入れておきたいという思惑も健吾にはあった。

 

 相談の結果、彼女達は烏丸探偵事務所の一員として働いていくことになった。周りの人間が人ならざる者に理解があることと、善行を積むのに丁度いい環境だったことが就職の決め手である。超常現象を専門とするこの探偵事務所ならば、自分達の力を最大限に活かすことができる。

 自分達のような半端者を見つけられるかもしれない、というのも二人が烏丸探偵事務所に所属することを決心した理由の一つである。

 

「では、大悟君から自己紹介をお願いします」

 

「はい。改めて、僕の名前は九条大悟。二人共、今後ともよろしく」

 

「榊凛太郎です。この仕事は4年くらいしてるんで、困ったことがあったら俺に聞いてください」

 

「秋元楓です! 空手をやっています! 私はまだ1年ほどですが、お二人のお手伝いができるように頑張ります!」

 

「アタシは小鳥遊姫子だ。真名は別にあるが…お前らには聞き取れねーだろうからな」

 

 まず、狐堂姉妹と顔見知りの四人が自己紹介をする。姉妹の中には母親譲りの人ならざる者の血が流れているが、半分は人間であるため姫子の真名を認識できない。そのため、姫子は人間としての名前を彼女達に告げた。

 

「経理の高野恵里です」

 

「浪川礼子です。”治す”チカラを持ってるから、怪我したら言ってね」

 

「烏丸健吾と申します。困ったことがあれば、お気軽に話してください」

 

 続いて恵里、礼子、健吾の三人も簡単な自己紹介をする。自分のデスクに座る恵里と礼子は笑顔で新入りの二人を迎え入れる。女の子の仲間が増えることを心から歓迎していた。

 そして、最後に所長の健吾が自己紹介を終えたところで狐堂姉妹はペコリと頭を下げた。

 

「「よろしくお願いします」」

 

「一緒に頑張りましょう!」

 

「目指すは最強ですね!」

 

 新しい環境に緊張や不安を抱えている姉妹を安心させるように凛太郎は笑いかけた。その隣では楓がむんっ! と力瘤を盛り上げる。尤も、タンクトップの上にジャケットを着ているので、本当に彼女の力瘤が隆起しているのかは分からないが、これが彼女なりのやる気アピールだ。

 全員の自己紹介が終わり、一息ついたところで健吾は狐堂姉妹と大悟の三人へ視線を向けた。

 

「では早速ですが、大悟君にはお二人の案内をお願いします」

 

「案内…?」

 

「ええ、お二人はこの町に来たばかり。何処にどんな施設があるのかも分かっていません」

 

「……ああ、なるほど。姫子の時と一緒ですね?」

 

「はい。被花さんと彼岸さん、お二人には今の世界を知ってもらう必要があります」

 

 これまで影の回廊で生きてきた被花と彼岸にはともすれば姫子以上に常識がない。藍子の中で人間の生活を見て見てきた姫子は最低限の常識を持ち合わせていたが、百年以上も隔離された世界にいた二人にはその最低限の常識すらない。

 一から――否、零から今の世界を教えなければならない。この案内には、その第一歩として現代の日本を知ってもらうという目的が存在していた。

 

「わかりました。それなら、ついでにユゴス出版の方にも行ってきます」

 

「お願いします。…被花さん、彼岸さん」

 

「なにかしら?」

 

「なんですか?」

 

「無理のないように、ご自分のペースで大丈夫ですからね」

 

「…はい」

 

「わかりました」

 

「ふふっ。大悟君も付いています。ゆっくりと少しずつ慣れていきましょう」

 

 狐堂姉妹のどこか初々しい姿に、大悟も思わず笑みを零してしまう。

 

「二人共、大船に乗ったつもりで僕に任せてほしい」

 

「沈まないでくださいよ?」

 

「大丈夫ですよ」

 

 大悟と健吾の会話を聞いていた凛太郎が苦笑いする。彼にとって、二人の会話はあまりにも聞き覚えのあるものだった。何せ、約二ヶ月半前に凛太郎も全く同じ会話をしたのだ。大悟が烏丸超常探偵事務所に初出勤した日、4月11日の月曜日、この場所で同じ会話を。

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってらっしゃいです!」

 

 あの日は、自分も「行ってらっしゃい」と同僚たちに送り出される側だった。今回は自分が同僚を送り出す側になったことに少しだけ感慨深くなりながらも凛太郎はその言葉を口にした。

 

「行ってらっしゃい!」

 

 

 

 と言うわけで、神津市を案内することになった大悟はまずユゴス出版に向かうことにした。探偵事務所から徒歩十数分の駅前にユゴス出版の建物がある。その道中で大悟はユゴス出版について被花と彼岸の二人に説明することにした。

 

「ユゴス出版は、異形の存在の写真を集めている企業なんだ」

 

「異形の写真を…?」

 

「ホラー雑誌を出しているところで、偶に超常写真を渡しているんだ。烏丸所長としては不本意なことらしいけど、ウチの事務所は貧乏だから……資金調達のために止むを得ずって感じかな」

 

「…そういうことですか。それで、皆さんは徘徊者の写真を撮っていたわけですね」

 

 彼岸は合点がいったと大きく頷いた。あの回廊を探索中に徘徊者の写真を撮っていたのを不思議に思っていたが、そのユゴス出版という企業に写真を渡すためだったのか、と。

 

「徘徊者と言えば……どうして、能面だったんだ?」

 

「…面の形は、私の神通力が具現化したものなの。人によって個性があるように、宿している力も人それぞれ、だから見た目も違ってくる。形は特に決まってなくて、その人の印象に残ったものが形になるらしいのよ」

 

「それで君の場合は能面だったわけか」

 

「ええ。昔住んでた社の廊下に、あの面が掛けてあったのを見て、それがすっごく怖かったの。その時、私にとって神通力は母を不幸にする忌まわしいものでしかなかったから、そのイメージが重なったみたいね」

 

「ああ…確かに能面って不気味だからなぁ……」

 

 人間は、人間に似ているものに好感を示すという性質がある。その見た目や動作がより人間らしくなるほど好感・共感は増していくのだが、ある時点で突然、それが嫌悪感に変わる。右肩上がりだった好感度がガクンと谷底に落ちる。人間の外観や動作と見分けが付かなくなると再びより強い好感に転じ、人間と同じような親近感を覚えるようになるのだが、その間の好感度が断崖のように急降下する一点を谷に喩えて「不気味の谷」現象と呼ぶ。

 

 要するに、人間に似てるけど、人間ではないという違和感が不気味さを感じさせるのだ。

 

 能面はまさに、生きているヒトのような顔をしているのに、生きているヒトではないという、この不気味の谷に当て嵌まる代物なのである。彼女達の暮らしていた社がどのような場所なのかは分からないが、ヒグラシの回廊のような場所だとすれば被花が怖がるのも無理はない。

 むしろ、人間としてごく自然な反応であるのだが……大悟と被花の会話を聞いていた彼岸は、クスクスと笑い声を漏らした。

 

「どうしたの?」

 

「えっとね、被花がその面の前を通る時、いつも私に、一緒に来てって、泣きついてきたんですよ」

 

「泣いてないじゃない!」

 

「いつもお母さんと私を守るって威勢張ってるのに、厠に行く度に、手を繋いであげないと通れなくて……」

 

「う、うるさい! 昔のことでしょ!」

 

 うふふ、と被花と彼岸は笑い合う。こんな口喧嘩すら彼女達には楽しくて仕方がないようだ。

 百年以上もの間、引き離されていた被花と彼岸はこれまでの穴を埋めるように、独りではできなかった様々な出来事を姉妹と共に心の底から楽しんでいた。彼女達のその笑顔を見る度に、頑張った甲斐があったと大悟も自然と笑顔になる。

 

「本当に仲良しだなぁ。やっぱり、家族っていいものなんだなぁ……」

 

「大悟さんの家族はどうしてるんですか?」

 

「伯父さんは怪医家の仕事をしてるよ」

 

「怪医家?」

 

「怪異を”診る”ことができる医者、それで怪医家。幾つもの心霊事件を解決した人なんだ」

 

 尊敬の眼差しをする大悟を見て、ふと被花はある一つの疑問を抱いた。しかし、その疑問が言葉になる前に、大悟は目的地に到着したことを彼女達に告げた。

 

「着いたよ。ここがユゴス出版だ」

 

 そう言うと、大悟はユゴス出版の看板を掲げた二階建ての白い建物に足を踏み入れた。その後を追いかけた被花と彼岸が目にしたのは、取材記録等が並べられた幾つもの本棚と、パソコンが置かれた作業用のデスク。そして、パソコンと向き合うように座る青い髪の女性だった。

 扉が開く音で入口に視線を向けた青い髪の女性は、被花と彼岸の顔を見ると驚いたような表情をする。その視線が大悟に向けられると、彼女は納得したような顔になった。

 

「小山さん、お久しぶりです」

 

「あ、九条さん、来ていただいてありがとうございますー」

 

「他の方は?」

 

「まだ編集長が出張中なので私一人だけです。いい加減に帰ってきてほしいんですけどねー」

 

 と、疲れた顔で青い髪の女性は口にする。

 

「…ところで、そちらのお二人は? 探偵事務所の新しい職員ですか?」

 

「はい。本日付けで烏丸超常探偵事務所で働くことになりました狐堂彼岸です」

 

「…狐堂被花よ」

 

「彼岸さんに被花さんですね。はじめまして。私はユゴス出版の小山美雪(コヤマ・ミユキ)と申します。お見知りおきを」

 

 姉妹と美雪がお互いに自己紹介をしたのを確認した大悟は、鞄の中から何枚もの写真を入れたクリアファイルを取り出した。ペラペラと捲られたクリアファイルのページには、大悟達が影の回廊で遭遇した徘徊者の写真が収まっている。

 

「今日はこの子たちの紹介と、超常写真の提供に来ました」

 

「ありがとうございますー。最近、読者さんからのご提供が少なくなってまして…皆さんだけが頼りだったんです。では、見せていただきますねー」

 

 提供された写真を1枚ずつ丁寧に確認していく美雪。徘徊者の写った写真を確認する目つきは真剣そのものであり、見るだけで正気を奪われる異形の写真を見定めていく。それを平然と出来るだけの精神力を彼女という人物は持ち合わせていた。

 小山美雪。烏丸超常探偵事務所の調査員のような異能こそ無いものの、彼女もまた超常現象に関わるだけの何かを持った人間だった。

 

 神楽鈴の徘徊者   1000円

 走り廻る徘徊者   4000円

 泣き声の主     1000円

 忍び寄る徘徊者   4000円

 警鐘の徘徊者    2000円

 千里眼の徘徊者   2000円

 憎悪を振りまく影 10000円

 面蟲         500円

 大蜘蛛        500円

 竜蟲         500円

 彷徨う魂       500円

 報復の獣     15000円

 

「以上、合わせて41000円でよろしいでしょうか?」

 

「わかりました。それでお願いします」

 

「ありがとうございますー。使わせていただきますねー」

 

 徘徊者の写真と引き換えに一万円札4枚と千円札1枚を受け取った大悟は、合計5枚のお札を仕事用の財布に入れる。この財布は、探偵事務所の仕事で使用する経費を入れるためのものだ。電車代等の交通費もこちらの財布から出している。

 四万もあれば、一度の仕事の写真提供代としては十分すぎるほどである。しかし、今回の一件で発生した阿地市までの交通費を考えると、この金額も決して高いものではない。

 

「正直、もう少し色を付けて欲しかったところですが…」

 

「すみません。こちらも予算が厳しいので、あまりお出しすることができなくて……」

 

「不景気ですからねぇ…」

 

 はぁ、と不景気を嘆く二人は長嘆息する。

 

「…あっ、そうだ。そんな九条さんにオススメの仕事があるんですが……」

 

「オススメの仕事ですか?」

 

「とある会社のアルバイトです。ライトを消すだけの仕事なんですが…興味はありませんか?」




九条大悟
Lv  31
HP  50/50
MP  14/14
SAN 65/65

狐堂彼花
Lv  30
HP  32/32
MP  22/22
SAN 90/90

狐堂彼岸
Lv  30
HP  32/32
MP  18/18
SAN 70/70
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