烏丸超常探偵事務所の超常事件簿   作:ゲーマーN

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新21話 新S区

 2016年 6月 30日(木)

 菊川市・新S区

 

 大悟達は、土地勘のある氷室の運転で移動することになった。警察官らしく交通ルールとマナーの遵守を意識した安全運転をする氷室は、赤信号で車を停めたところでポツリと呟いた。

 

「……真っ昼間から見回りか」

 

 怪異の伝染。三ヶ月前の『怪異症候群』を彷彿とさせる異常事態に、あの事件の関係者として氷室の声色と表情が険しいものとなる。また、市民から多くの犠牲者が出るかもしれない。特務課に所属する警察官として、それだけは阻止しなければならない。

 それなのに、上司の中川から民間人との協力を命じられた氷室は困惑していた。一体全体、あの男は何を考えている、と訝しまずにはいられない。

 

「氷室さん。今の内に確認しておきたいのですが……」

 

「どうかしたか?」

 

「僕達はどう動けばいいですか?」

 

 その声で氷室は思考を打ち切り、健吾からの質問に意識を向けることにした。中川の考えなど自分には分かるはずもない。下手の考え休むに似たり。余計なことを考える時間があるのならば、今起きている怪異事件の解決に集中するべきだ。

 

 そのためには三人の協力者と緊密な連携を取る必要がある。幸いにも氷室は民間人と共に怪異事件を解決した経験があり、他の警察官ほど民間人との共闘に抵抗がない。勿論、他の警察官と比べればのことであり、氷室自身、民間人が怪異事件に首を突っ込むのを良しとしていない。

 本来、怪異事件を解決するのは自分達特務課の役割であり、そこに民間人を巻き込むべきではないというのが氷室等の考えである。

 

 尤も、民間人の協力を完全に否定しているわけではない。新聞記者であり、オカルトジャーナリストの加賀剛(カガ・ツヨシ)や、オカルト研究をしている民俗学者の霧崎翔太(キリサキ・ショウタ)に、怪異事件を解決するために協力を要請することもある。

 それは、前述の二人が高校時代からの友人というのもあるが、彼等二人が怪異事件と真剣に向き合い、堅実に霊的世界を捉えている探索者だからこそ。

 

 まずは、協力者達の為人を知ることから始めるべきだろう。そう考えた氷室は、質問に答える前に幾つかの確認をすることにした。

 

「その前に、あなたたちに何ができるのかを教えてほしい。方針を決めるのはそれからだ」

 

「分かりました。まず、僕達は超能力や霊能力と言った特殊なチカラを持っています」

 

「……超能力か。具体的には、どんなことができる?」

 

「僕は【アナライズ】という分析能力を使えます。それ以外には、対象を雷で攻撃する【雷撃】等の攻撃系の能力や、【堅牢】や【守護】で障壁を展開することができます。全体的に見て、攻撃型の後衛と言ったところですね」

 

 烏丸健吾。烏丸超常探偵事務所の所長である彼は【ロジカル】という固有技能と、対象の個体情報を分析する【アナライズ】という超能力を保有している。

 この内、固有技能の【ロジカル】は封印状態を無効化する体質、或いは精神性のこと。

 分析能力の【アナライズ】はよくあるステータス鑑定系の能力とは異なり、分析対象の弱点・攻略法等を解析することができる。

 

「私は治癒能力を持っています。あとは、弓矢で後方から援護するのが私の役割ですね」

 

 浪川礼子は回復特化の超能力者だ。一応、弓矢や【念力】で攻撃することもあるが、基本的には後衛で回復役に徹している。

 味方一人の状態異常と生命力(HP)を回復する【治癒】、味方一人の状態異常と生命力(HP)を完全回復する【快癒】、味方全体の生命力(HP)と封印状態を回復する【活力】の三種類の治癒能力と、障壁を展開して味方全体に状態異常・正気度(SAN)減少を防ぐ【加護】を施すのが主な役割だ。

 

「僕は、攻撃と回復の両方ができます。元警察官の師匠に体術の類を叩き込まれたので、前衛で戦うこともできます。と言うよりも、基本的には前衛を担っています」

 

 そして、探偵事務所組の中で唯一の前衛が九条大悟である。【光輪】や【光線】、彼の使用する超能力は殺傷能力が高すぎるため、人間等を相手にする時は【格闘技】で対処している。その【格闘技】は元警察官の師匠に仕込まれたものだ。

 また、【治癒】で仲間を回復することもできる。万能とは言えないが、前衛にも後衛にも対応できるオールラウンダーだ。

 

「前衛一人に後衛二人……なるほど、前衛と後衛が丁度二人ずつになるわけか」

 

「それはつまり、氷室さんも前衛で戦うということですか?」

 

「ああ。怪異と戦う時には格闘術と、怪異撃退用の【霊光銃】という特殊な銃を使っている」

 

 氷室の所持する【霊光銃】は対怪異用の特殊武器であり、通常の物理攻撃が通じない霊体にも攻撃を通すことができるが、怪異以外の存在には何の痛痒も与えられない。そのために怪異以外と戦う場合は【格闘技】で対応している。

 基本となる戦闘スタイルは「【格闘技】を主とする」という点で大悟と類似している。二人の違いは、超能力と霊光銃、遠距離攻撃の方法と回復能力の有無だろう。

 

「……よし、ここは二人一組に分かれるぞ。全員で行動するのは効率が悪すぎる」

 

「分かりました。では、組み合わせはどうしますか?」

 

「九条さんと浪川さんで一組。烏丸さんには俺と行動を共にしてもらう」

 

 本来、治癒能力を有する大悟と礼子は別々にするべきだ。氷室もそれは承知しているが、今回は戦力の合計値という観点で組分けをした。霊光銃はそれほど威力が高いわけではなく、一体の怪異を倒すのに複数発の弾丸を撃ち込む必要がある。それ故に治癒能力よりも、共に怪異を攻撃できる戦闘力をパートナーに求めたのだ。

 

 尚、実は健吾も【恵み】という味方全体の生命力を回復する超能力を行使できる。どの組分けでも回復持ちが分かれることは確定しており、偶然にも氷室は最良の組分けをしたことになる。健吾が氷室の組分けに何も言わないのは、それが理由である。

 

 そうこうしている内に氷室の運転する車は新S区にある駐車場に辿り着いた。後ろ向き駐車で自動車を停車させると、隣の車にドアをぶつけないように気を付けながら大悟達は車を降りる。そして、予定通り二人一組に分かれると、【菊川市S区】の調査を開始した。

 

 氷室と健吾は、区の北側から調査を進めることにした。すると、すぐに二人は出入口が一つしかない閉鎖的な公園に行き当たる。今日日、珍しく様々な遊具が設置されているその公園には、ステンレス製の滑り台の傍の砂場に幼い女の子の姿があった。

 

「……平日の昼間から一人遊びとは感心しないな」

 

「はい。今のこの町に子供一人というのは、流石に心配ですね。ご両親はどちらに……」

 

「あの子に聞いてみるか」

 

 氷室は、砂場で一人遊びする女の子に歩み寄る。その足音で気付いたのか、女の子は氷室と健吾の方をさっと振り返った。女の子を怖がらせないように、氷室は女の子に優しく話しかける。

 

「やぁ、こんにちは。いい天気だね」

 

 ピク、と女の子は肩を震わせる。

 

「おかーさーーーん!! おかーさん、助けてーー!!!」

 

 その直後、女の子は悲鳴を上げた。予想外の反応に呆然とする氷室を横に置き、人好きのする笑顔を浮かべた健吾はその場に腰を下ろすと、泣き喚く女の子に目線を合わせて話しかける。

 

「落ち着いてください。この人は、悪い人ではありません。こう見えて正義の味方なんですよ」

 

「嘘だッ!!! お母さんが言ってたもん! 知らないおじさんに声を掛けられたら大声で逃げなさいって!」

 

 実際、成人男性二人が女の子を囲い込む様子は不審者そのものである。親の教育が行き届いた子供故の当然の反応だった。尤も、心配から声を掛けた二人からすれば堪ったものではないが。

 

「――奈々ちゃん!!」

 

 その時、公園の入口から一人の女性が駆け寄ってきた。桜色のエプロンを身に着けたその女性を見て、女の子は嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「お母さん!」

 

「こんなところにいたの……今はお家に居なきゃ駄目でしょう?」

 

「だって、ジッとしてられなくて……」

 

「よかった。親御さんがいらしたんですね」

 

 ふぅ、と氷室は安堵の吐息を漏らす。一方の女性の方は、自分の娘を取り囲む謎の成人男性二人を目の前にして、あからさまに警戒するような険しい表情を見せる。

 

「……あなたたちは?」

 

「菊川警察署の者です。本日から見回り強化ということで、現在このS区内を巡回中でして」

 

「そうですか。ウチの奈々がご迷惑をお掛けしました」

 

 氷室が警察手帳を見せると、女性は安心したように肩の力を抜いた。警察官と信用してくれるのは有り難いのだが、これだけで無条件に見知らぬ人を信用してしまうのは些か危険な行動だ。もう少し警戒心を持ってほしい、というのが警察官としての本音である。

 

「いえ、元気があって何よりです。ですが、母親であるあなただからこそ、お子さんに対して細心の注意を払って頂きたい。……こんな世の中です。何時、何が起きるか分かりません」

 

「……そうですね。何が起きるか……」

 

 それは、親子を心配するが故の厳しい言葉だった。その言葉を耳にした女性の表情は、見るからに陰鬱なものになる。自分の注意、それだけでは説明のつかない女性の表情を見て、違和感を覚えた氷室は再度、その女性に言葉を投げかけた。

 

「どうかされましたか?」

 

「お父さんがね……死んじゃったの」

 

「奈々!!」

 

 氷室の問いに答えたのは女性ではなく彼女の娘だった。家庭の事情を無闇矢鱈に口にした娘を叱るように女性が大声を上げると、女の子はボロボロのウサギのぬいぐるみを抱きしめる。

 

「すみません。そういうことですので……失礼します」

 

 母娘は公園を後にする。その後ろ姿を見送りながら、健吾は険しい表情で自らの推理を述べた。

 

「父親の死……このS区で起きている怪異事件と無関係とは思えないですね」

 

「……同意見だ。少し、この件について調べてみる必要がありそうだ」

 

 

 

 その頃、大悟と礼子の二人は何事も無く区の南側を調査していた。今の所、超常現象の類が起きている気配は感じ取れない。それでも不意打ちを受ける可能性は否定できないので、大悟は常に警戒を維持したままS区の調査を進めていく。

 

「大悟くん、少しピリピリし過ぎよ」

 

 その様子を見かねたように、眉を顰めた礼子が口を開いた。

 

「すみません。けど、例のことが気に掛かりまして……」

 

「言いたいことは分からなくもないけど、今からその様子だと体力が保たないわよ」

 

 確かに、怪異事件に関わる以上は常に警戒を維持する必要がある。何時如何なる時でも手段を選ばずに襲い来るのが怪異という存在だ。しかし、大悟のそれは明らかに度を越していた。これでは肝心な時に精神的疲労から注意不足に陥る可能性がある。

 礼子から【精神分析(メンタルケア)】を受けた大悟はその場で大きく深呼吸をした。スーッと息を吐くと共に緊張が抜け落ちていく。

 

「ありがとうございます。礼子さんのお陰で少しだけ落ち着きました」

 

「どういたしました」

 

 うふふ、と笑みを零す礼子からは大人の余裕というものを感じ取ることができた。それは、まだ若輩者の大悟は持ち合わせていないもの。今回、一緒に行動する相手が礼子で良かったと、氷室の采配に心の中でも感謝を述べた。

 普段の落ち着きを取り戻した大悟が礼子と共にS区の調査を進めていくと、区の西側を北上する道路で道端会議を繰り広げる主婦と思しき二人の女性に出会した。

 

「このS区に引っ越してきた須藤さん。お亡くなりになったそうよ」

 

「知ってる……東側に新しく入った川野さんもそうなんでしょ?」

 

「ってことは、これで二人目?」

 

「怖いわよねぇ……」

 

 怪異事件を調査する大悟と礼子が彼女達の噂話を聞き逃すことはなかった。二人の死者。このS区で頻発する怪異事件と関係があるかもしれない。互いに顔を見合わせた大悟と礼子は、主婦二人に聞き込みをすることにした。

 

「すみません。お聞きしたいことがあるのですが……お二人がお亡くなりになった、というのはどういうことですか? 最近、この辺りに来たばかりで……」

 

 自分も主婦ですよ、みたいな顔で礼子は主婦同士の会話に入り込む。

 

「……ああ、聞いてくださる? ここへ引っ越してきた須藤さんと川野さん。どうも不可解な死を遂げたらしいのよ」

 

「不可解な死……?」

 

「ええ、二人共ここへ来てから急にお亡くなりになったのよ。それも、この一週間の間にね」

 

「一週間……」

 

 丁度、コトリバコの事件が起きた日だ。やはり、この連続怪死に怪異が関係しているのはほぼ間違いないだろう。もう少し、その不可解な死に関する詳細な情報が欲しいところだ。

 

「偶然にしても怖いですね」

 

「偶然なんかじゃないわ。今日で三人目よ……!」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 突然、後ろからやってきた主婦が「偶然」という礼子の言葉を否定するように声を張り上げた。

 

「一週間前に一人目、四日前に二人目。そして今日、ここへ引っ越してきたばかりの井森宅の旦那さんが……亡くなったらしいわ」

 

「嘘……」

 

 三人目の被害者。主婦同士(+一人)の会話を立ち聞きしていた大悟は、更に被害者が増えたことにその表情を一段と厳しいものとする。

 

「呪いよ……これが呪いなんだわ! みんな……このS区に引っ越してきた人達は、呪い殺されるのよ!」

 

 道端会議をしていた主婦二人は悲鳴を上げ、逃げ出した。三人目の主婦もまたそそくさとその場を立ち去る。残された大悟と礼子は、主婦達から聞いたばかりの情報に関して意見を交わす。

 

「怪異……まさか、これが伝染?」

 

「でしょうね。確かに、これは今の内に手を打つ必要があるわ」

 

 中川良助――怪異事件の専門部署、特務課の長である彼が協力依頼を出すのも納得である。このまま放置しておけば、被害者の総数は膨れ上がるばかり。外部に協力を求めてでも、今の内に怪異の拡大を根絶する必要がある。

 

「いやああああああぁぁぁぁぁぁああああああぁぁ!!!」

 

 改めて、この町で起きている異常事態を認識した二人が調査を再開しようとしたその時、遠くの方から絹を裂くような()の悲鳴が聞こえてきた。その声を耳にした瞬間、大悟と礼子の二人は表情を一変させた。

 

「「所長!?」」

 

 

 

 それから少し前の出来事、氷室と健吾は『ムーンハイツ菊川』というマンションを訪れていた。

 

「……ここだな」

 

「はい。怪異センサーの反応が最も強いのはこの場所のようです」

 

 調査中、特務課の高木健二と遭遇した二人は【怪異センサー】を渡された。この怪異センサーは付近の怪異に反応して、ノイズを発生させるという仕組みになっている。そして、そのノイズ音が最も激しい場所がこのムーンハイツ菊川だった。

 別行動中の二人と合流する間にここに潜む怪異が別の場所に移動してしまう可能性がある。氷室と健吾は互いに頷き合うと、合流を待たずしてムーンハイツ菊川に乗り込んだ。

 

「怪異の気配がしたのは気の所為か? ……特に異変はないな」

 

「エレベーターがありますね。とりあえず、このエレベーターで各階を調べてみましょう」

 

「そうするか」

 

 氷室に確認を取った後、健吾は建物に入ってすぐ目の前にあるエレベーターのボタンを押した。

 

 ドンッ!!!

 

 その直後、建物の外から大きな衝突音が聞こえてきた。肩が驚きで跳ね上げる。咄嗟に、建物の入口の方を振り返った氷室と健吾が自動ドア越しに目にしたモノは――

 

「……!? 何の音だ!」

 

「氷室さん! 玄関の外を見てください! 飛び降りらしき死体があります!」

 

 グチャ、と潰れた男性の死体が転がっていた。死体を中心に大量の血が広がっており、遠目にも悲惨な状態にあるのが容易に想像できる。怪異・超常事件に携わる者として、死体程度は見慣れている二人は死体の方に歩み寄る。

 

「どういうことだ? このS区で一体何が起きている?」

 

「!?!?!?」

 

 しかし、その死体の向こうから歩み寄るソレを目撃した健吾は全身をガタガタと震わせた。目の前に転がる死体と同じ姿をした半透明の男が、眼球のない真っ黒な目を死体に、建物に、自分達に向けながら歩み寄ってくる。

 異界生物等の異形の存在には耐性のある健吾だが、未だに幽霊の類は強制正気度減少が発生するほどに苦手であり、まるで旧支配者に追い詰められたように怯えていた。

 

「だ、ダメです……! あれを見ては……!」

 

 チーン、と背後からエレベーターの到着音が聞こえる。反射的に二人が振り向いた先には、人の形をした半透明のナニカが――

 

「いやああああああぁぁぁぁぁぁああああああぁぁ!!!」

 

 前門の幽霊、後門の怪異。悲鳴を上げた後、健吾はスッと眠りに落ちるように意識を失った。

 

 

 

 

CASE 2

裏S区

 

 

 

 

 




九条大悟
Lv  31
HP  50/50
MP  14/14
SAN 65/65

浪川礼子
Lv  30
HP  48/48
MP  15/15
SAN 70/70

烏丸健吾
Lv  30
HP  40/40
MP  12/12
SAN 55/55

氷室等
Lv  30
HP  48/48
MP  11/11
SAN 55/55
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