烏丸超常探偵事務所の超常事件簿   作:ゲーマーN

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第24話 裏S区

奇悧悦哢(きりえる)は、厳密に言うと幽霊とか怪異とかそういうものではありません。人間の肉体と精神に取り憑く悪魔のような存在なんです」

 

 そう告げる中島は、心の底から這い上がる恐怖に顔を死体のような土気色に染めていた。

 

「……なるほど。それが原因で、お前は俺を襲ったわけだな」

 

「はい、そうなります。私も祖母からそうしろとしか教えられてませんでしたから。お祓いする時には笑いながら相手を追い出すんですよ」

 

 そこで一度言葉を切った中島は、「こっちは余裕だ、お前如き怖くも何ともないってね」と説得力の欠片も感じられない奇悧悦哢(きりえる)への恐怖に満ちた表情で言葉を続けた。

 

「そんな風に憑かれてる者を叩いたり、罵声を浴びせたりすると、憑いているモノが逃げ出すって感じなんですよ」

 

「……いい迷惑だ」

 

 余計なお世話、と言わないだけ氷室も言葉選びには配慮した方である。氷室が「お祓いをしてほしい」と望んだわけではないというのに、本当に効果があるのかも疑わしい民間療法を施すというのは、無用の親切、親切の押し売りというものだ。

 そもそも、氷室は怪異を撃退するために【菊川市S区】を訪れたのである。怪異の方から来てくれるというのは好都合であり、怪異を追い払う中島の行動は有難迷惑以外の何物でもない。

 

「……私達が住んでいる地域がどうして裏S区って言われてるか知ってますか?」

 

「裏……? 新S区ではないのですか?」

 

「年寄りは今でも『裏』呼ばわりしてますよ。昔からずっと『裏S区には近寄るな』って」

 

 健吾の当然の疑問に対して、中島はこの辺りの地域が裏S区と呼ばれる理由を語り出す。

 

「裏S区は部落差別とか余所者とかそういう集まりではなく、昔からこの地域に住んでいた者達の集まりなんですよ。えっと……ナメラスジとか、聞いたことないですか?」

 

「知ってはいます。縄筋、または魔物筋…魔物の通り道とされる場所のことですね」

 

「霊道や鬼門と言った方がわかりやすいわね」

 

 ナメラスジという言葉には首を傾げる大悟だったが、苦笑いしながら補足してくれた礼子のお陰でようやく理解が追いついた。霊道と鬼門、この二つに関しては大悟にも知識がある。

 霊道とは、霊或いは不浄の者が通るとされる霊の通り道のことである。また、鬼門は丑と寅、即ち北東の方位・方角のことであり、日本では古くから鬼の出入りする方角とされている。両方ともに人ならざる者の通る場所を意味している言葉だ。

 

「まあ、そういうわけで……この辺りは元々霊感のある家系が多いんですよ。そして、それが原因で発狂する奴も珍しくはない。だから、『いきなり何をするか分からない』ってことで除け者にされた人達が寄り集まり、何時の間にかそういう集落・部落になっていったわけです」

 

「つまり、今俺に憑いている奇悧悦哢(きりえる)は、裏S区特有の怪異というわけだな」

 

「そうなりますね。まあ、実は私も見たんですが……屋上からあの若者が飛び降りるところを」

 

「なに…?」

 

「彼も裏S区の出身者なんですよ。どうやら、奇悧悦哢(きりえる)に追いかけられていたようで……」

 

 氷室は、意識を失う間に起きた出来事を思い出す。建物の外から大きな音が聞こえてきたので確認してみると男性の遺体が倒れており、その直後にエレベーターから件の怪異が降りてきた。あの怪異は、建物の屋上から飛び降りた被害者を追いかけてきたのだろう。

 しかし、それだけでは説明がつかない疑問が残っている。そのことに関しても、有識者の中島から詳しい情報を聞くことにした。

 

「……アレはなんだ? 死んだはずの人間が、自分の遺体の下に駆け寄ろうとしていた」

 

「あ~……。死んだ人間は、自分が死んだことが分からないってことが多いみたいなんですよ。だから、自分自身が其処に居たから取りに行こうとしたのかな? ……ですからね。そこであなたたちが邪魔をしたから、呪いをかけられたんですよ」

 

「邪魔……? そんなことをした覚えはありませんが……」

 

「俺達が何時アイツの邪魔をした?」

 

 健吾と氷室が口を挟むと、中島が突然、ドンッ! と卓袱台に拳を叩きつけた。

 

「お前ら、エレベーターを呼んだだろ? ピンって音が邪魔なんだよ」

 

「「「「……!?」」」」

 

「お前らなぁ、見ちゃダメだろ? 俺はいいがお前らはダメだろ? 見るなよ、俺を見るなよ」

 

 中島の豹変ぶりに、大悟達は思わずビクリと肩を跳ね上げた。唐突に、何の脈絡もなく、高圧的な態度・口調になるその姿は狂人か何かにしか見えない。事情を知る大悟達ですら異常者に見えるほどなのだから、一般人からすれば、尚更に気味が悪いことだろう。

 

「なぁ? おい、聞いてるか? おい?」

 

「もしや…来てるのですか?」

 

「あ、はい。すみません。ちょっと来てたので聞いてみようと思ったんです。本当に申し訳ない」

 

 元の口調に戻すと、中島は「申し訳ない」と謝罪の言葉を繰り返す。中島の謝罪と弁明に、付き合いきれない、という内心を隠すことなく「事情は理解した」と返事をした氷室は、共に中島の話を聞いていた三人に視線を巡らせる。

 

「……行くぞ」

 

 ただ一言、それだけ口にした氷室の後を追うように大悟達は中島家を後にする。四人が玄関を出ると同時に中島の笑い声が聞こえてきた。理由を理解していても、人が家を出た直後に「あはははははは!」と笑い声を上げる様は気分が悪くなる。

 

 判定:《正気度》ロール(0/1)

 浪川礼子 《正気度》70 → 55 成功

 烏丸健吾 《正気度》55 → 73 失敗(SAN55→54)

 

 その哄笑に、健吾は身体全体に寒気が走るのを感じていた。苦手とする霊を見た時の恐怖とは異なる、生理的嫌悪感を伴う精神的または知識的恐怖に健吾の精神は少なからず侵されていた。

 

「ははははは! あはははははははは!!」

 

 

 

 その後、S区の調査を再開した一行は区の西側に向かうことにした。と言うのも、大悟と礼子が健吾の悲鳴を聞きつけたのは、丁度、二人が区の西側の調査を進めていた最中のことであり、まだ四人が調査していない未調査箇所が残っている。

 まずは、その未調査箇所から調査をすることにした一行は、中島家を出てすぐ西がL字の曲がり角になっていたので、その道を西側の壁沿いに真っ直ぐ北上することにした。

 その先にある交差点を西方向に進む女の子の姿に健吾は「おや?」と声を漏らし、氷室は腕を組み表情を険しくする。別行動を取っていた二人の反応に、大悟と礼子が訝しげな表情になる。その様子に全く気付いていない健吾と氷室は、確認するようにその女の子の情報を口にした。

 

「たしか、あの子は公園にいた……」

 

「また一人か……あの母親には後で強めに言っておくか」

 

「あら。二人の知り合いなの?」

 

「先程、公園で見かけまして……どうやら、お父上が亡くなったらしいです」

 

「なんですって?」

 

「ということは、まさかあの子の父親が噂になっていた……」

 

 その説明を聞き、大悟と礼子はあることに気付いてサッと顔色を変えた。二人には、父親を亡くした家族に覚えがあった。大悟と礼子の様子がおかしいことに気が付いた健吾は、二人に視線を向けると、大悟の口にした「噂」に関して問いただす。

 

「……噂ですか? それは一体、どういうものなのですか?」

 

「一週間前に一人、四日前に二人。そして今日、井森家の主人が亡くなったらしいです」

 

「それは……!?」

 

「なるほど……その三人目の被害者があの子の父親というわけか」

 

 たった一週間、それだけで四人もの犠牲者が出ている。これ以上、この怪異の…奇悧悦哢(きりえる)の犠牲者を増やすわけにはいかない。今日中に、遅くとも明日には決着をつける。それを改めて決意した氷室が歩き出そうとした、その時。

 

「きゃあああああっ!!」

 

 西から(・・・)、女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 

「今の悲鳴は!?」

 

「急ぐぞ! あの子が危ない!!」

 

「はい!」「ええ!」

 

 氷室の指示に、残りの三人は何の迷いもなく弾丸のように走り出した。四人が交差点を西の方向に曲がれば、直進方向には道の中央を塞ぐ警察車両と見覚えのある青年が立っている。顔に焦りの色を浮かべた青年は、四人の姿を見るや氷室の名を呼んだ。

 

「氷室さん! 今、そこの廃工場から女の子の悲鳴が!!」

 

「小暮、お前はここで待機だ! 怪異が逃げてきた時はお前がその怪異を始末しろ!」

 

「了解しました!」

 

 その青年、小暮紳一は廃工場の門に1枚の御札を貼り付ける。その御札は、特務課の一員である金森雛子が【制作】したものであり、内と外の間、区の境界に結界を貼る効力を持っている。不浄の者を許さない巫女の結界は、通常の怪異に突破できるものではない。小暮が霊光銃を取り出すのを確認した氷室は、再び、女の子の悲鳴が聞こえてきた方向に脇目も振らず駆け出した。

 すると、先頭を行く氷室は廃工場の奥に二つの人影を見つけた。一つは女の子。そしてもう一つは、その女の子を廃工場奥部の建物に追い詰める生ける屍の後ろ姿だった。

 

「あ、開かない!? いや! こ、来ないで!!」

 

 女の子は建物の中に入ろうとするが、まるで何かで塗り込めたように扉は微動だにしない。恐怖を煽るように、一歩ずつ、ゆっくりと生ける屍は女の子の下に歩み寄っていく。その足音に女の子が恐怖の声を上げた。

 パァンッ! と発砲音と共に一条の閃光が生ける屍の変形した後頭部に突き刺さる。ぐらりと頭部を傾かせた生ける屍は左頭頂部から血を流しつつ背後を振り返る。

 

「……おい!! お前の相手は――」

 

「キリキリキリキリ……!」

 

 ドガンッ!!

 

「きゃあっ!!」

 

 技能:【紅蓮】

 生ける屍 :MP ??- 4=??

 

 氷室の言葉を遮るように生ける屍は背後の建物のパイプラインに火球を撃ち放つ。それほど遠くない場所で起きた爆発に女の子は悲鳴を上げる。口元を歪めた生ける屍は、そのまま左掌を女の子の方に向けた。

 

《いえ、どうやら例の怪異が僕達のスマホを破壊したようですね》

 

《……連絡手段を断つだけの知能はあるというわけか》

 

 生ける屍に人質を取るだけの知能があることは容易に想像できたはずなのに、迂闊に生ける屍の前に飛び出した自分の愚かさに氷室はギリッと奥歯を噛み締める。

 

「キーリキリキリキリ……!」

 

「お前……!!」

 

 不気味な笑い声を上げる生ける屍に氷室は腹の底から怒りの声を絞り出す。そんな氷室を嘲弄するように巨大な火球を作り出した生ける屍は、氷室とその背後に立つ三人に火球を撃ち放つ。情け容赦なく、生ける屍から解き放たれた【煉獄】の炎は――

 

「「【絶対防御】!!」」

 

「【ゼペリオン――」

 

 ――内側から斬り裂かれる。

 

 技能:【煉獄】

 生ける屍 :MP ??- 6=??

 

 技能:【絶対防御】

 浪川礼子 :MP 15- 5=10

 烏丸健吾 :MP 12- 5= 7

 

 連携技能【絶対防御】。本来、仲間全体に防御障壁を展開する【守護】を、【念力波】で一人に収束させることで、何者にも破らせない絶対防御を具現化する健吾と礼子の連携技能。

 その内に身を潜めることで【煉獄】の業火から身を守った大悟は、自らの光の中から引き抜いた闇薙で炎を内側から斬り裂く。技後硬直と想定外の事態に固まる生ける屍に、一息の内に距離を詰めた大悟が闇薙を振るう。

 

「――スラッシュ】!!」

 

 技能:【光線】

 九条大悟 :MP 14- 9= 5

 

 技能:【銀の兆し】

 九条大悟 :MP  5+ 1= 6

 

 技能:【光を継ぐもの】

 九条大悟 :SAN65- 1=64

 

 剣閃の軌跡に一筋の残光が輝く。【ゼペリオン光線】と同等の光が込められた必殺の斬撃は、生ける屍の頭頸部を周囲の空間ごと斬り裂いた。

 尋常の生命であれば――否、超常の生命であろうと致命の一閃。だが、元々死体である生ける屍は頭部を喪失した程度で行動不能に陥ることはない。すぐさま背後を振り返り、背中を向ける大悟に両腕で掴みかかり――

 

 

 その前に、大上段から振り下ろされた光の斬撃が、生ける屍の胴体を真っ二つに割っていた。刀身から溢れ出る光の奔流が、生ける屍を断面から消滅させていく。残心を取る大悟の前に、T字に光り輝く紫の残光が浮かび上がる。

 

「ふぅ…」

 

 大悟は光の中に闇薙を収めると静かに女の子の方を振り返る。ビクッと肩を震わせる女の子を安心させるように笑顔を見せたあと。

 

「大丈夫だよ。悪いオバケはお兄さんが退治したからね」

 

 もう脅威は存在しない。その事実を、子供にも伝わるように簡単な言葉で説明してみせた。

 

「……こわかった。すごく……こわかった」

 

「…そっか。よく頑張ったね」

 

 ポンポンと大悟は女の子の頭を撫でる。安心感から力を気が抜けた女の子に、背を屈め、視線を合わせた氷室が告げる。

 

「今は一人で歩き回らない方がいい。今度はちゃんと言うことを聞けるかい?」

 

「……うん」

 

 大悟達はその女の子――井森奈々(イモリ・ナナ)と一緒に廃工場の外に出る。氷室が小暮に後始末の指示を出している横で、礼子は廃工場の門の直ぐ側にある自販機で奈々にジュースを買ってあげる。

 

「一人で遊ぶのが好きなの?」

 

「そういうわけじゃないよ。お母さん、お父さんのことで忙しいから」

 

 その返事に、戻ってきた氷室が一つの疑問を口にした。

 

「……君は、悲しくはないのか?」

 

「……よく、わかんない。だって、そんなに話したことなかったから」

 

 ゴク、とジュースを飲んだ奈々は年齢に見合わない暗い表情でポツリと呟いた。

 

「知らないところに来ると、いつもいつも嫌なことばっかり……」

 

「ここに引っ越してきたのは、お父さんの転勤の都合かい?」

 

「……どうだろう? でも、引っ越すのはこれで三回目」

 

「……振り回されて大変だな」

 

 大人の都合に子供が振り回される状況に氷室は如何ともし難い表情をしていた。個人的にはどうにかしてあげたいのだが、一人の警察官に過ぎない氷室にはどうしようもないことだった。

 今、氷室にできるのは奈々を家族の元に帰すことのみである。奈々から母親の携帯電話番号を聞き出した氷室は、再び、大悟に借りたスマホで奈々の母親に電話をかける。S区の東側で待ち合わせをした後、奈々と一緒に待ち合わせ場所へ向かう。

 

「何度もご迷惑をおかけしてすみません……本当にありがとうございました」

 

「お気をつけて」

 

「バイバイ、お兄ちゃん。お姉ちゃん」

 

 氷室は遠い目で母親と共にS区を後にする奈々の後ろ姿を見つめていた。

 

(あの子を見てると思い出す……。あの日、あの頃……一緒に遊んでいた女の子のことを)

 

 微かに頭の中を過ぎるのは遠い日の記憶。

 

(頭の隅にある、微かな記憶……)

 

 森の中で、子供の頃の自分(氷室)が着物の少女と一緒に遊んでいる。

 

「もう名前も……思い出せないな」

 

 長い年月の中で、その記憶からは欠けてはならないパズルのピースが抜け落ちていた。

 

 結果:経験値

 九条大悟 :Lv31 → 32

 浪川礼子 :Lv30 → 31

 烏丸健吾 :Lv30 → 31

 

 結果:Lv上昇

 九条大悟 :SAN64 → 65

 烏丸健吾 :SAN54 → 55

 

 

 

 その頃、廃工場では運良く消滅を免れた生ける屍の頭部がゴロゴロと転がっていた。首から下は完全に消滅したものの、頭部だけでも動くことができないわけではない。新しい身体を手に入れるために、生首は廃工場の出口を目指していた。

 

「しかし、なんでですかね……。お前達みたいな臆病者のクソッタレが、消しても消しても湧いて出てくるのは……」

 

 だが、その目論見が叶うことはない。地面を転がる生首を黒い人影が冷酷無情に踏みつける。飛び降りで変形していた頭部は、その衝撃で更にグシャリと形を歪めた。

 

「許せませんよ。潰し足りないですよ。だから、俺の目が黒い内は……死ぬその時まで、お前達を滅ぼし続けてあげます。だって、」

 

 人影は、生首の額にグリグリと銃口を押し当てる。

 

「それが最大の供養でしょ?」

 

 パァンッ! と、人気のない廃工場に一発の銃声が鳴り響いた。




【ゼペリオンスラッシュ】 消費MP9 特殊演出付き
Tの字を描きながら、【ゼペリオン光線】と同等の光のエネルギーを込めた斬撃を放つ技。
元ネタは、ウルトラマントリガーの【ゼペリオンソードフィニッシュ】と、ウルトラマンゼット・デルタライズクローの【デスシウムスラッシュ】。



九条大悟
Lv  32
HP  50/50
MP   6/14
SAN 65/65

浪川礼子
Lv  31
HP  48/48
MP  10/15
SAN 70/70

烏丸健吾
Lv  31
HP  40/40
MP   7/12
SAN 55/55

氷室等
Lv  30
HP  48/48
MP  11/11
SAN 55/55
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