世界の歌姫には旅をさせよ   作:ベロベロベ

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ウタちゃんは多分航海術くらいは持ってるんじゃないかなぁ。
仮にも赤髪海賊団に居たわけだし。


ウタ、幼馴染みの現状を知る。

 

「なにぃ!?」

 

ゴードンの驚愕の声がウタの鼓膜を震わせる。

 

「だ~か~ら~!旅に出るんだって!」

「だ、駄目だ!あぁ、いや······どうしてそう思ったんだい?」

 

額から流れ出る汗を吹きながら彼は問いかける。ウタがこんなことを言い出すと想定外だった。

彼女にとってはライブとファンの交流こそが生き甲斐であると、そう思い込んでいた。

しかし彼女は元々自由を尊ぶ海賊の娘。いずれこんな日が来る事は自明だったのかもしれない。

何よりもゴードンがそう思い込んでいたのはウタウタの実の力に対する恐怖によるものが大きい。

咄嗟に否定の言葉が出てしまったのも、結局はそういうことだった。

 

「私、思ったんだ。このままじゃ駄目だって。私の歌の力はまだまだ弱い。もっと鍛えなきゃならない」

「しかし、それなら今のままでも良いだろう?」

「ううん、ホントはね、それだけじゃないの」

 

ウタという少女は聡明だ。何故ゴードンが赤髪海賊団に罪を被せたか、今ならわかる。

まだ幼かったウタに、家族を失ったウタにこれ以上の苦しみを味会わせないためだ。

哀しそうに微笑む彼女の姿を見て、彼は察する。

 

「ウタ、まさか君は·······」

 

彼が紡ごうとした言葉はウタによって遮られる。

 

「正直、わかんないんだ。私にとって海賊がどういうものか」

 

世間では海賊は紛れもない悪。彼女もまた、自身にそう言い聞かせてきた。

しかし、どれだけ封じ込めても収まらなかった感情がある。

シャンクスへの感謝と謝罪。

かつて共に海賊に憧れた幼馴染みの存在。

 

海賊が嫌いだ。ファンの皆を傷つけるから。世界を恐怖に陥れるから。

海賊が好きだ。食い、戦い、歌う。自由を体現したあの様に、彼女は憧れた。

このような矛盾した感情ではいけない。海賊を嫌う資格も、好む資格もない。

それがウタが出した結論であった。

 

「だからハッキリさせたいんだ。私が海賊をどう見るべきか。新時代を造るために!」

 

彼女の瞳には強い決意の炎が浮かんでいる。全身から発せられるオーラにはかつてのシャンクスと同じ荘厳さが宿っていた。

 

「···························わかった。わかったよ、ウタ」

「ホント!?ありがとうゴードンさん!」

 

ウタは跳び上がり、ゴードンに強く抱き着いた。

 

「だが、大丈夫なのかい?ここは偉大なる航路(グランドライン)だ。並の航海術ではとても渡っていけない。海賊も相応の実力者ばかりだぞ」

 

偉大なる航路(グランドライン)。北、南、西、東。四つの海に属する海賊達全ての憧れの海。そして一切の常識が通じない魔境。

間違っても少女一人で飛び出していく様な場所ではない。

しかしウタの自信に満ちた瞳は曇らなかった。

 

「そんなの知ってるよ。私だって色々勉強してきたし、ほらちゃんと指針だってあるんだから!」

永久指針(エターナルポース)·······」

「これに沿って進めば大丈夫なんでしょ?目的地に辿り着くだけなら私にだって出来る!」

 

どこからそんな自信が出てくるのかは皆目見当もつかないが、しかし不思議と彼女なら何とかしてしまうのではないか、という感情がゴードンの胸中に満ちていく。

故に彼は頷いた。

 

「何かあったらすぐに連絡してくれよ?」

「わかってる!ゴードンさんもファンの一人!悲しませたりなんか絶対にしない!」

 

■■■

 

「よしっ!」

 

空は快晴。今日は絶好の船出日和だ。

船は旧エレジア城にあったものを使用させてもらうことになり、資金に食糧、水も万全。

ライブ用の映像電伝虫も完備し、後は出発するだけだ。

 

「じゃあゴードンさん!行ってきまーす!!」

「ああ!気をつけるんだぞーーーっ!」

 

風を帆に受け、船は進んでいく。

永久指針(エターナルポース)が示す先は海底一万mの楽園、魚人島。

海賊達にとっては偉大なる航路(グランドライン)後半の海新世界へと繋がる玄関口。

この海トップクラスの名所であるその島へと辿り着くには特殊なシャボンで船を覆うコーティングが必要となる。

そのために最初に目指すはシャボンディ諸島。

 

「へぇ~、ヤルキマンマングローブか········うぶ!?」

 

突如として一枚の紙がウタの顔面に貼り付いた。

それは新聞。

世界の誰よりも速く情報を調べあげ、どこよりも広く普及させる世界経済新聞。

ウタは貼り付いたそれを乱暴に剥がし、苛立ちの声をあげる。

 

「何よもう!」

 

既に新聞は濡れてグショグショ。文字のインクも滲んでしまって一部を除き、よく見えない。

しかし写真だけは大部分を占領しているからだろうか、わかりやすく見えた。

 

「んー?

 

 

 

···········ええええぇぇぇーーーー!?」

 

その写真に載っていたのは忘れる筈のないあの顔。

時折「逃げたい、救われたい」といった感情に苛まれた際に思い出していたあの顔。

なぜか()()麦わらを被っているけれども、その顔は紛れもなく彼女の大事な幼馴染みだった。

 

「ルルルル、ルフィ!?」

 

『麦わらのルフィが冥王レイリー、海峡のジンベエと共に突如としてマリンフォードに出現!謎の16点鐘。これは世界への挑戦状か!?』

『"麦わら"モンキー・D・ルフィ。DEAD OR ALIVE(生死問わず)。懸賞金四億ベリー!』

 

しかしその幼馴染みは世界に喧嘩を売る大悪党になっているではないか。

ウタは自身の目玉が飛び出る錯覚を覚える程に仰天した。

もしかしたら舌も波打っていたかもしれない。

 

 

「·······会わなきゃ」

 

ウタの全身に形容しがたい程の激情が駆け巡った。

シャンクスへ抱いた感情と同等か、それ以上。

彼が悪い海賊になった事への憤怒。彼が憧れの海賊になれた事への喜び。彼がシャンクスの麦わら帽子を被っている事への疑問。

渦巻く幼馴染みへの様々な感情を、彼の名前に変えて放出する。

 

「ルフィーーーーーーーーーー!!!」

 

あの夜の真実を知ってから早一年。

ウタが漕ぎ出すこの年は、麦わらの一味が再会を誓った年と同じであった。




エレジアはグランドライン前半の終わりのほうってことにします
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