世界の歌姫には旅をさせよ   作:ベロベロベ

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ウタ、人魚姫と外出する

 

ルフィ達が竜宮城に招かれる少し前。魚人島は現在、大きくざわついていた。

 

「ケヒヒヒ·······!ウップ!ここは楽園だなぁ~~!」

 

自らの腹をポンッ!と叩きながら、濡れ髪のカリブーは下卑た笑みを浮かべる。

ここは人魚が集まる入江。陽樹イブからもたらされる太陽の光を受けて煌びやかに輝くこの場所で、肝心の人魚達は一人として見当たらない。

その原因はこのカリブーにある。彼のヌマヌマの力によって人魚達は彼の中へと沈められてしまったのだ。

 

そして同時刻、先程までルフィ達の居たマーメイドカフェもまた、かなりの騒ぎになっている。

人魚達の誘拐。そしてマーメイドカフェのオーナー、マダム・シャーリーの占いの結果。

これら二つが騒ぎの原因だ。

 

「つまりマダム。あなたは確かに見たのですね?麦わらの一味がこの魚人島を滅ぼすという、未来を·······!」

「え、ええ。見ました。見えたのは、事実·······!」

 

カフェの従業員の一人である人魚から差し出された水を飲み、気持ちを落ち着けるシャーリー。

やはり水晶など見なければよかった、と後悔する彼女を見つめながら、リュウグウ王国の皇子であるフカボシは顎に手を当てる。

 

「困りましたね。入江で拐われた人魚達も彼らの仕業という意見も多い。そしてマダムの占いの精度は我々も聞いています」

 

せっかく妹のペットを助けてくれた恩人として招待しようと思っていたのに、これでは罪人として城へと連行しなくてはならない。フカボシは母との約束を思いだし、実に残念そうに首を振った。

 

「で、でもあの子達はそこまで悪いようには見えなかったのですが·······!」

「騙されるな!そうやって良い顔をして近づいて、人魚達を拐っていった海賊達が今までどれほどいると思ってるんだ!」

 

彼らと直接触れあった人魚が皇子に意見するも、それは即座に他の魚人によって切り捨てられる。

この大海賊時代が始まって以降、こういった事件は決して珍しいものではなくなってしまった。

人魚は地上では非常に高く売れる言わば希少種。

行き当たりばったりで安定した収入の無い無法者が彼女らを売って金の足しにしようというのは至極当然の事として既に認識されている。

麦わらの一味は『人間』であり、『海賊』。

魚人島は海賊達が落とす金で成り立っている観光地である、と地上では認識されているが魚人や人魚にとって、人間の海賊とは恐怖の象徴なのだ。

 

「·······わかりました。やはりこの一件、我々が対処致します」

 

入江には最早誰もおらず、彼らはカリブーの存在に気づいていない。

魚人島で長年積み重なってきた人間達への恐怖と疑念が麦わらの一味へと向けられていた。

 

 

■■■

 

「うええええええ~~~~~ん!!お兄さまぁ~~!お父さまぁ~~~~!!」

 

しらほしの泣き声が硬殻塔に響き渡る。その巨体故の相応の音量を誇る泣き声にウタとルフィは耳を塞ぎ、その場から動けなかった。

 

「うるせ~~~!ごめんって!お前のメシだって知らなかったんだよ!」

「ルフィ、多分それだけじゃない·······!」

 

いきなり部屋に知らない人間が入ってきて、更に自身の体をまさぐられたのだ。女として、恐怖を感じないほうがおかしいというもの。

ウタは彼女を泣き止ませようと言葉を大きく張り上げる。

 

「ホントにごめん!すぐに出ていくから·······」

 

しかし彼女の巨大な泣き声にかき消され、ウタの声は届かない。

もう一度眠らせてしまおうか、と考え始めた所で突如ルフィが飛び上がった。

 

「ふんっ!」

「········え?」

「え?何?は!?」

 

ルフィが飛び上がり、そして弾き飛ばした物。

それは一輪の薔薇が刻まれた巨大な斧。

それがしらほし目掛けて凄まじい回転と共に飛んできたのだった。

 

「いきなり何なんだ!?」

「どうして斧が·······?」

 

怒るルフィと戦慄するウタを見つめるしらほしは既に泣き止んでいる。

そしてドンドンと激しいノックが聞こえてくるや否や、二人を掴み自らの背後へ隠した。

 

「姫様!如何なされましたか!?」

「········いえ、何でもありません。ごめんなさい、少し怖い夢を見てしまいまして········」

「·······そうでしたか。申し訳ありません。警備の者の手違いで」

 

勢い良く扉を開けて入ってきたのは右大臣。

自らの部下の失態を謝りつつ、城で起きた騒動についてをしらほしへ連絡する。

 

「それと、先程メガロの恩人として招き入れた麦わらの一味ですが·······、今しがた皇子達から人魚誘拐の犯人である疑いがかけられています。先に招いていた三刀流の男は既に牢獄へと放り込み、残りの者も現在軍隊で取り囲んでいる最中。船長の麦わらのルフィ、そして隣にいた赤白の少女だけは見つかっていませんが·······、発見次第捕らえますのでご安心を」

 

そこまで言い終わった所で、右大臣は首にかけた懐中時計を見る。

既に五分が経過している。国王との約束の時間だ。これ以上扉を開けておく事は出来ない。

では失礼、と言い残し、右大臣はそそくさと退出していった。

 

「ふうっ!·······ねぇちょっとルフィ!まずい事になってない!?」

「ん?そうか?」

「そうでしょ!何?あんた達人魚誘拐したの!?」

「してねぇ」

「たったら今の報告は何!?」

「しらねぇ」

 

呑気にバクバクと料理に齧り付くルフィにウタは怒鳴る。

仲間が捕まったというのに、ルフィは全く気にすることなく食事をしている。

とてもウタには信じられない光景だった。

 

「ちょっと!知らないじゃないでしょ!······聞いてんのルフィ!?」

「わかんねぇもんはしょうがねぇだろ。とにかく俺は腹へってんだよ」

「だから!そんな事言ってる場合じゃ······ああもう!食うのをやめろ!」

 

怒りが頂点に達したウタはルフィが齧っている肉を取り上げようと彼の首を掴んだ。

 

「おいやめろよウタ!これは俺の肉だぞ!」

「これはお姫さまのでしょ!」

「俺が先にとったんだ!」

「そんな子供みたいな事言わないで!」

「あ、あのお二方·······お、落ち着いてくださいませぇ」

 

「「うるさい!!」」

 

肉を巡って大喧嘩する二人の間に割って入るしらほし。しかし完全にヒートアップしている二人がそんな言葉でとまる筈もなく。

二人は溜まりに溜まった怒りの熱をしらほしに向けて、放出した。

 

「ふ、ふえぇ·······。そ、そんなに怒らないで下さいませぇ·······。お二人とも怖いお方·······!」

 

再び目から涙を滲ませる彼女に、二人の喧嘩はとまった。

 

「ご、こめんね!泣かせるつもりはなくて、ただちょっと········」

 

そう言ってルフィの方に目を向けるウタ。ルフィは相変わらず肉を食い散らかしながら彼女へ抗議の声をあげる。

 

「だから!俺はホントにしらねぇって!!」

「·······ホント?」

「ほんと!」

「·······わかった」

 

彼の本気の怒りを聞いたウタは大人しく怒りを引っ込める事にした。

彼女とて信じたくはなかった事だ。

あの気の良い人達がそんな事をする筈ない、と自身を言い聞かせる。

 

「ごめん、ルフィ。お姫さまもごめんね?怖がらせちゃって」

「い、いえわたくしは········。それよりそちらのお方のお仲間が城に捕まってしまった、とおっしゃられていましたが········」

「ん?ああ気にすんな。お前らじゃあいつらをホントに捕まえるのは無理だ」

 

確かに、とウタは深海でクラーケンに出会した時を思い出す。

深海でありながらあの太い触手を容易く斬り裂いたゾロと蹴りで触手を焦がしたサンジ。ルフィも含めたあの三人は戦闘においては素人同然のウタからしても凄まじいとわかるものだった。

 

「あなた様方がメガロの恩人でいらっしゃったのですね。先程は大変な非礼を、どうかお許しください」

「いいよ気にすんな」

「お名前は·······ルフィ様、と·······」

「私はウタ!歌で新時代を造る女よ、よろしくねお姫様!」

「はい·······。わたくし、ネプチューンの娘の、しらほしと申します」

 

ルフィとウタを手に乗せ、少しぎこちないながらも笑顔を見せるしらほし。

ルフィは彼女の手から飛び降りるとまた食事に手をつけ始めた。

そんなルフィを尻目にウタはしらほしに自身の疑問をぶつける。

 

「ねぇしらほし。さっきの斧、アレ何?」

「ああアレすげー勢いだったよな。どんな怪力のやつが投げてきたんだ?」

 

ルフィが見聞色の覇気で察知出来たのは迫り来る斧のみ。

投げ手の存在は知覚出来なかった。

つまりあの斧は相当遠くから投げられている事になる。

勢いが衰えたようには見えない程、絶大な力で投げられたという事だろうか。

 

「犯人は、バンダー・デッケン9世というお方です。昔あの方からの求婚をお断りして·······それ以降、わたくしは恨まれているのです·······」

 

何でもそのデッケンという者は悪魔の実の能力を得ているらしい。

マトマトの実の必中人間。彼によって『的』に定められた者は彼からの攻撃に自力で避ける事は出来ない。

何らかの障害物で隔てる必要があるらしく、彼の的として狙われたしらほしは危険故に硬殻塔からの出入りを禁じられていた。

 

「もう、十年になります」

「「十年!?」」

 

それは途方もない月日だ。

ルフィがシャンクスと出会い、海へと繰り出すまでの期間と全く同じ。

力のなかった彼が海賊として相応の力をつけるまでの時間、彼女は一人この狭い塔の中で過ごしてきたという。

 

「·······そっか。大変だったねしらほし」

 

そしてウタもまた彼女の頬に手を当て、優しく微笑む。SSGの映像電伝虫を拾うまでのおよそ九年。

彼女もまた外の世界の一切を知らずに育ってきた。

不本意にも外界から切り離されてしまったしらほしを、彼女は他人とは思えなかったのだ。

 

「ですからわたくしの話し相手はメガロだけで·······大切なお友達なのです」

「なるほど。だから宴までやってくれるって言ってたんだ」

「それで、ウタ様はお歌をお歌いになられるのですか?」

「うん。そうだよ。今までも結構ライブとかやってたんだけど·······知らないかな?」

「も、申し訳ありません·······。わたくし、お外の事は何も知らなくて·······」

 

心底申し訳なさそうに俯くしらほし。ウタはそんな彼女に大丈夫、と笑顔を向けると手を叩き、彼女に提案する。

 

「じゃあ今ここで、一曲歌ったげるよ!」

「まあ、よろしいのですか?ぜひ聞いてみたいです」

「OK!新規ファンのために、最高の曲をプレゼントしちゃおう!」

 

ウタはしらほしのベッドに飛び移ると目を閉じて、大きく息を吸い込み、歌い出す。

躍動感溢れる声色に乗せて歌うは彼女の名を世界に知らしめた代表曲。

力強く、優しく、美しい。まさに世界の歌姫に相応しいその歌声にしらほしは夢中になった。

まるで全身から力が沸いてくるかの様な、情熱的な歌。

時間にして僅か四分程度ではあったものの、彼女にとって何時間にも感じられるほどに楽しく、素晴らしい時間だった。

 

「·······まるで夢の様でございました。素晴らしい歌声をお持ちなのですね、ウタ様」

「ありがとうしらほし!」

 

互いに笑顔で語り合う二人。特に外の世界の知識が皆無のしらほしはウタに非常に多くの質問を投げ掛けた。

"太陽"、"森"、"毛の生えた動物"。どれもこの深海で暮らす彼女にとっては幻の存在。

エレジアでの景色、ファンとの交流と日々を事細かに語るウタとそれを目を輝かせて聞くしらほし。

体躯や見た目は大きく異なるが、それでも二人は本当に仲の良い姉妹の様に見えた。

ルフィもそんなウタを見つめ、にかっ!と笑う。

 

「ウタはしらほしの姉ちゃんみてぇだな」

「ん~?まあ、私は昔あんたの面倒みてあげてたからね」

「なに言ってんだ。おれがお前の面倒見てやってたんだぞ!」

「はぁ?馬鹿な事言わないで!あんたが無茶ばっかりするから私が見てやってくれって、シャンクスから頼まれてたんだからね!」

 

些細な事で再び喧嘩を始める二人。そんな二人をしらほしはほんの少しだけ、羨ましそうな表情で見つめていた。

 

■■■

 

「よしお前ら、ここ出よう!」

 

しらほしの食事を完全に食べ終えた直後、ルフィは唐突に話を切り出した。

 

「えぇ!?い、いけませんそのような!わたくしが出てしまったら、城の皆様のご迷惑に·······」

 

しらほしも外に出たいという気持ちは強い。しかし外は危険だ。またいつ斧が襲ってくるかわからない。それに今は何やら城でもトラブルが発生している。

そんな事を理由に添えて、彼女はルフィと提案を断ろうとする。

 

「大丈夫だって!また何か飛んできたら俺が吹き飛ばしてやるから!」

「で、でも·······」

「ねぇしらほし。少しくらいいいんじゃないかな?あんたにこんな機会滅多に訪れないだろうしさ、ね?行きたい場所があるんじゃない?」

 

ルフィだけでなくウタすらもそんな事を言ってくる。

しかしあまりにも優しすぎる彼女にとって、自身の身を案じてくれる者達を困らせる様な事をする踏ん切りが中々つかない。

が、出ていきたいのもまた事実。

そんな相反した感情に苛まれた彼女はまたしても泣き出してしまう。

 

「う、海の森には行きたいですが·······うぅ、でもぉ、うええぇぇ········」

「おい!なんで行きてぇ場所言っただけでなくんだよ、ったく·······面倒くせぇやつだなー」

「め、面倒!?わたくしそんな酷い言葉言われた事が········」

「ああごめんごめん!ルフィももうちょっと言葉選んでよ!」

 

だってよー、と口を尖らせるルフィ。

ここで塔壁が揺れた。

恐らくはバンダー・デッケンなる者の仕業であろう。

しかも今度は何発も何発も、何かが衝突する音がする。

凄まじい音に思わずしらほしは頭を抱えて蹲る。

 

「また投げてきてんのか!?質悪いやつだな!」

 

しらほしの身体が恐怖で震える。発露しかけていた外への恐怖がまたぶり返してしまう。

そんな彼女にルフィは笑いかけ、大丈夫だと力強く言い放った。

 

「おれに任しとけ!良い考えがあるんだ!」

「え゛、ルフィの考え?」

 

そんなそこはかとなく不安になる様な台詞を口にするルフィ。

彼は自信満々にその考えを口にした。

 

■■■

 

時は少し遡り、ルフィ達が硬殻塔を出ていく数分前。

竜宮城に招かれていたナミ、ウソップ、ブルックの三人は頭を抱えていた。

周囲には血を流した兵士達が鎖で縛られ、床に投げ出されている。

それだけでなく右大臣や左大臣、挙げ句の果てには国王であるネプチューンすらも縛り上げている。

端から見れば間違いなく、彼らは一国の城を占拠した大悪党である。

ウソップとブルックはこの状況を作り上げた者を指差し、怒りの声をあげた。

 

「おいやりすぎだぞゾロ!」

「そうですよ!ちょっとは反省してください!」

 

少しばかり赤黒く染まった刀を拭きながら、ゾロは彼らに対して負けじと怒鳴り返した。

 

「うるせぇ!元々おめぇらが始めた戦いだろうが!共犯だ共犯!」

「俺は何度も頃合いを見て逃げるよう言ったぞ!」

「どうやって逃げるってんだ!外は深海だぞ!そもそもルフィのやつはどこいきやがったんだ!アイツも来たんじゃねぇのか!?」

「俺だってわかんねぇよ!」

 

縛られている兵士の一人に宝物庫のありかを聞いている分別わきまえないナミを取り押さえつつ、ウソップはおろおろと周囲を歩き回る。

一方のブルックは自棄を起こしたのかいきなり歌い始めた。

色々と滅茶苦茶になってしまった今、わかる事は一つ。最早麦わらの一味は、この魚人島にはいられないという事だけだ。

とにかく出航の準備を整えねばならない。

しかし、コーティング等の問題をどうやって解決するか、ウソップが悩んでいたその時。

突如として門の前に訪れた者がいる、という事を知らせるチャイムが鳴り響いた。

鳴らした者はフカボシである。一向に門が開かない事を訝しんでいると突然彼が知らない男の声が響く。

 

「もしもし。誰だ?」

「お前が出るな!フカボシ皇子~~!お助け下さい~~!」

 

スピーカーの向こうから聞こえてくる右大臣の声からただならぬ事態だと、フカボシは悟る。

その予想通り、ゾロはネプチューン達を人質とし、返して欲しくば自らの要求を飲めと彼を脅した。

 

「必要な物はコーティングした俺達の船。そして残りの船員だ」

「······わかった、すぐに用意する。ただし人質は全員、無事に解放してもらうぞ!

 

────そしてゾロ君。この状況で伝えるのは大変不本意だが·······ジンベエへの義理を欠くわけにはいかない」

 

ジンベエ。かつての戦争でルフィと戦いを共にした魚人にして、元王下七武海の海賊。

ルフィからその名を聞かされていたゾロは、フカボシに彼からルフィへの伝言を話すよう促した。

 

「一つは『海の森で待つ』、もう一つは『ホーディとは戦うな』だ。確かに伝えたぞ」

「········わかった必ず伝える」

 

海の森とやらもホーディなる者も、彼にはまるでわからない事だったが決してふざけている訳ではないという事はゾロにもわかった。

故に、了解の旨を簡潔に伝えた。

 

「よし、後はまあ待つだけで·······!?」

 

マイクを置き、仲間達へと向き直るゾロ。

その直後、突如として竜宮城内に凄まじい衝突音が響き渡る。

一度だけではない。何度も何度も繰り返し。

ゾロ達は困惑する他なかったが、ネプチューン達は何かを悟った様に慌て出した。

彼らからすればこんな事が出来るのはバンダー・デッケンを除いて他にいない。

 

「これは、デッケンの仕業か!?おい海賊達!兵に変わって硬殻塔と様子を見てくるんじゃもん!」

「はあ?何で俺達がそんな事を·······だいたいお前は人質だろうが」

「黙れぇ!しらほしは大事なわしの一人娘!何かあったら貴様らを断じて許さんぞ!あいつは訳あって常時命を狙われておるんじゃもん!」

 

一人娘。その言葉に真っ先に反応したのはブルックだ。彼にとって人魚姫は憧れ。ハイテンションで硬殻塔まで走っていく。

 

「人魚姫ーー!パンツ見せてくださぁーーい!!」

『ふざけるな!』

 

何とも不埒な目的で突っ走るブルックに城の衛兵達は大慌てだ。このままでは別の意味で人魚姫が危険に晒される。

 

「待たれい!ガイコツ!縛ったままで良い、私も連れていけ!元々硬殻塔は私の管轄!姫様に何かあったとあっては!私は死んでも死にきれぬ!」

 

右大臣は決死の表情でブルックへと叫び声をあげる。

彼のその姿は傷だらけの状態も相まって死地へと向かう戦士を彷彿とさせた。

 

「·······わかりました。共に参りましょう!いざ!人魚姫の、パンツを見るために!!」

「アホ抜かせぇ!!貴様と一緒にするでないわ!やめろよ!?絶対に!」

「あ、フリですか?」

「違うわ!!」

 

大広間から硬殻塔の距離は距離にしておよそ1km。

それを僅か数十秒で走破してしまうブルックに右大臣は驚くやら呆れるやらだ。

絶対に姫に不埒な真似はさせん、と鋼鉄の決意を抱く右大臣。

しかしそんな事を言っていられない様な現状が、彼とブルックの目の前に広がっていた。

 

「·······これは」

 

ブルックが戦慄の声をあげる。その光景はまさしく狂気と呼ぶに相応しい。

何人もの血に濡れた『人間』の海賊達が硬殻塔の壁にもたれ掛かっている。

動いている者も何人か存在するが、約半数はピクリとも動かない。

頭が潰れ、とても言い表せない、そんな状態になっている者すらいた。

 

「今回の投擲物はいつもの槍や斧ではなく、人間の海賊·······!?なんと卑劣な!おのれバンダー・デッケン!外道なり!」

 

魚人や人魚の中には人間に対し、否定的な考えを持っている者も少なくない。

右大臣もかつての悲劇の事もあり、完全には人間を信頼出来ていない。

しかし幾ら人間を好きになれずとも、この光景を許容する程、彼は堕ちてはいない。

歯を食い縛り、この残虐にして陰険な攻撃を仕掛けてた者への怒りを燃やす右大臣。

しかしそうも言っていられない。

生き残った海賊は彼らへと剣を向けている。つまりこれは姫への嫌がらせであると同時に、竜宮城へと敵兵を送り込んだということだ。

 

「おい·······お前ら!竜宮城と魚人島を繋ぐ連絡廊······ハァ········その開閉スイッチはどこにある·······」

 

その海賊は息も絶え絶えであり、腕はあり得ない方向へと曲がっている。

指はひしゃけて剣を持つ事すら儘ならないであろうにも関わらず、必死の形相でブルック達へと斬りかかる。

 

「ちょっと!何なんですかあなた!?·······大丈夫ですか、その怪我!」

「うるせぇ·······、早く教えろ!でないと俺達は、殺される········!ハァ·······ホーディの野郎に、殺されちまうんだよ········!」

「知りませんよ、そんなの!」

 

例え相手が手負いであろうと武器を向けるのならば容赦は出来ない。

甘えを見せた者から死んでいく、海賊の鉄則だ。

これ以上近づくのなら────、とブルックは杖に仕込まれた刀を抜く。

その直後。

 

硬殻塔と壁が突如砕けた。

 

「行けぇ~~~~~!サメ~~~!」

「ねぇルフィ!これ本当に大丈夫!?」

「シャ、シャ~~~~~!·······ウップ」

 

出てきたのはメガロ。そしてシャボンに身を包んだルフィ、そしてウタである。

 

「え、ルフィさんにウタさん!?」

 

メガロの身体は異常に膨らんでいる。

しかしそんな事態を気にしていられない。襲いかかる海賊達の対処に気を取られ、いつもなら気づくであろう違和感をあろうことか右大臣は見逃してしまった。

 

「姫!ここは危険です!すぐに········んなぁ!?」

 

人魚姫が居るはずの内部はすでに藻抜けの空。

中には綺麗に食べられた料理を乗せた食器がそこらに散らばっているだけだ。

つまりこれは、この緊急事態に畳み掛ける、更なる緊急事態。

 

「姫様が······しらほし様が誘拐された~~~~~!!」

「えええぇぇぇぇぇ!?」

 

一国の姫の、誘拐事件である。

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