「…あ、そうだ! 聞いてよリンちゃん!」
「なんだよ、やっぱ手伝うか」
富士山の近くの、麓キャンプ場でゆっくりと時間を過ごしていたところ、斉藤の差し金によりなでしこが襲撃してきた。大量の食材と土鍋を持参してきて、夕飯を振舞ってくれるとのこと。
その準備の最中、なでしこがいきなり声を上げた。なんだろう、また野クルへの誘いじゃないだろうな。
「会ったの! お兄さんと!」
「…へぇ、なでしこ、お姉さんだけじゃなくてお兄さんもいるんだ」
だからどうした、と言いかけたが、とても楽しそうだったので雑に扱うのはやめた。それでも、別になでしこの家族関係をビッグニュースみたいに聞かされてもな。
「ちがうよー! あの、本栖湖でキャンプしてたお兄さん!」
あぁ、そっちか。やっぱ意外と近くに住んでたのかな。見覚えがあるのも、町のどこかで出会ったのだろうか。
「南部町のあたりをランニングしてたんだよ。声かけたらね、止まってくれたの。連絡先も交換したんだー!」
「いや、ランニングの邪魔してやんなよ」
走ってそこそこ疲れているところに、この元気っ子のなでしこの相手はなかなか辛いだろう。
「あ…そうだったね。謝っておこ」
なでしこはスマホを取り出して文字を打ち始めた。
…少し気になる。スマホを覗き込むと、メッセージアプリでやり取りをしていた。
『この前はいきなり声かけちゃってごめんなさい!!』
名前は、海津友希…かいづともき、かな?
「た、大変だよリンちゃん…既読付いたけど返事こないよぉ…」
確かに気難しそうだったし、なでしことは相性悪いかもしれないな。
「…まぁ、落ち着けって」
別にココア貰っただけの関係なんだから、そんなに悲観しなくてもいいんじゃないかと思ったが、その純粋さもこいつの良いところなのだろう。人懐っこいのは結構だが、悪い男に騙されそうな感じがするから気をつけてほしいな。
「よーく聞け、お前ら。我々、野外活動サークルはようやく部として認められることになるだろう。それを記念して、本格的に『冬キャン』の準備に取り掛かる」
息が白くなるような寒さの中、野クルで焚き火を囲み、あきちゃんが腕を組みながら私とあおいちゃんに演説するように喋る。やっと、キャンプができる! …あれ、サークルから部になるんだ。
「野クルじゃなくなっちゃうの? あきちゃん」
「まぁ、そうだな。これで広い部室をゲットだ!」
あきちゃんはグッとサムズアップをする。私が入ったからサークルじゃ無くなるのかな。 …でも、野クルじゃなくなるってことは何になるんだろう。野ブ…なんか語呂悪いなぁ。
「ほら、前に言ったやろー? 部員が四人になると、部として認められるんよ」
不思議そうな顔をする私に、あおいちゃんが教えてくれた。そういえば…初めて野クルに行った日にそんな話をしていた気がする。
「そーだったね。もう一人の子ってだれなの?」
野クルに入ってからしばらく経つが、あおいちゃんとあきちゃん以外は見たことが無い。
「あー、そーいやー言ってなかったなぁ」
「幽霊部員なんよ。ユキちゃん言うんやけどな? 私とあきが幼馴染ゆうんは言ったことあるやろ? その子もなんよ」
へぇ、ユキちゃんかぁ。でも、なんで来ないんだろう。二人の喋り方的に結構仲が良さそうなのに。
「あいつ、陸上部と兼部してんだよ。だからあんまりこっちに来てくれないんだよ」
「まぁ、名前貸してくれてるんよ。結構凄い子でな? 全国大会とか出る子やから、忙しいみたいや」
「そうなんだ…凄い子なんだね!」
まだ見たこともない『ユキちゃん』を褒めると、二人は自分のことのように嬉しがる。本当に仲がいいんだなぁ。会ってみたいなぁ、ユキちゃんに。
ユキちゃんは陸上が大好きなのだろう。全国大会…凄い頑張ってるから、野クルにこれないんだろう。
「いつか合わせてやるよ。多分呼んだらきてくれんだろ」
「今回の冬キャンにも私から誘ってみるわ」
どんな子なんだろうなぁ、ユキちゃん。二人と仲良しなら、私も仲良くなれるかな…