幼馴染がキャンプを始めるらしい。   作:ひーらぎ@1341

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六話

 

 なでしこのお姉さんの車で、海津さんの家にやってきた。その理由は、3人で焼肉キャンプをすることになったからだ。…なでしこと二人だと思ってたのに、なぜなんだ。別に良いんだけど。

 

 連絡を入れて、車の外で待つ。そして扉が開けば彼女が現れる。

 

「背、高…」

 

 隣の桜さんがそう呟いたのが聞こえた。そりゃあ妹と同い年の子と聞かされて出てきた子が、そこそこの高身長である自分よりも身長が高ければ驚くだろう。私となでしこが小さいのもあるだろうが。

 

「…海津友希です。今日はよろしくお願いします…」

 

「えぇ、よろしくね。ユキちゃん」

 

 もはや同級生だな、こりゃ。

 

「…志摩さん、だっけ」

 

「は、はいそうです」

 

 私を静かに見つめる海津さん。同級生なのに、年上にするようについかしこまってしまう。そして、なぜか威圧感を感じる。何を喋るのか、ドキドキしてしまう。

 

「……今日は、よろしく」

 

「よ、よろしく…」

 

 何を言うと思ったら、ただの挨拶じゃないか。なんか…やりにくいな。同級生に遠慮はしたくないけど、だからって軽々しい態度はやっぱ取れないしなぁ。

 

 っていうか、なんで海津さんを誘ったんだろうな。…ていうかなでしこ、まだ海津さんが初心者キャンパーってこと知らないんじゃ…

 

 そんな懸念を抱きつつも、全員車に乗り込んで出発した。目的地は、四尾連湖のキャンプ場だ。

 

 ………いや、気まず! 隣同士座ってるけど、全然しゃべれねー…何喋ったら良いかもわかんないし…お菓子貪ってないで助けてくれなでしこ…! 

 

「あ、リンちゃん。食材買ってくスーパーってどこ?」

 

 ありがとうなでしこ、お前は命の恩人だ。

 

「ぁ、ああ。この先にゼブラっていうスーパーがあるよ」

 

 こんな僅かな会話でも、少しは繋ぎになるだろう。

 …私となでしこ、席変わった方が良いんじゃないか? あいつなら海津さんとも話せるだろ。スーパーで降りたら交代してもらおうかな。

 

「…志摩さんは、野クル、入ってるの」

 

「え? いや、違いますけど。…海津さんは入ってるんだっけ」

 

「…一応ね」

 

 …ぜんっぜん話が広がらない。なんだこの地獄みたいな空気は。くっそー、私はなでしこみたいにすぐ仲良くなれるようなコミュ強じゃないんだぞ。

 

「スーパー、あれかなー」

 

 やっとスーパーが見えてきた。なんか大した距離じゃないのに、めっちゃ長く感じた。

 

 

 

 

 

「お肉何買ってく?」

 

「豚バラ、カルビ、豚トロ、ロース、タン…」

 

 焼肉キャンプだ、遠慮はいらない。何もかも買って食いつくそう。

 

「あ、私豚トロ好きー。ゆ…海津さんは?」

 

「だいたい何でも。…鶏肉とか」

 

 確かに、アスリートは鶏肉っていうイメージだ。…食事とかこだわったりしてるのかな。だとしたら、雑なキャンプ飯とかって嫌がったりする…のかな。

 

 そんなことを考えていると、スーパーの肉売り場にやってかた。そこの一角に、『モリモリ、焼肉コーナー』があったのだが…バラとカルビしかない。

 

「普通は夏だもんね、バーベキュー…」

 

 マイノリティー殺し…くっ…。私の焼肉計画が全部崩れた…

 

 

 と、私が悲しんでいる間に、二人は次から次へと籠へと豚串や焼き鳥を放り込んでいた。…炭焼きだし、そういうのも良いかもな。

 海津さんも、こだわりのアスリート飯! みたいなのじゃ無さそうで良かった。

 

 

「………っ! し、志摩さん…これ…」

 

「ん…お金?」

 

 なでしこが出来立てのお惣菜に釣られる最中にレジへ向かう私たちだったが、海津さんが私に数千円を渡してそそくさとどこかへ行ってしまった。なんなんだ全く。

 

「リンちゃーんってあれ、ユキさんは?」

 

 手にメンチカツを入れた袋を持って戻ってきたなでしこ。…いない時はユキさんって呼んでるんだな。

 

「なんか、どっか逃げてったぞ」

 

 肉の詰まった買い物籠と、預かった千円札をヒラヒラと見せつけて、海津さんの奇行を伝える。二人で不思議に思いながらレジへ向かう。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 ん…? この顔は見たことがある。確か野クルの…犬山さんだったか。

 

「志摩さんと二人でキャンプ、楽しんでなー」

 

「いや、二人じゃむぐっ!」

 

「うん! 写真いっぱい撮ってくるよー!」

 

 なでしこにいきなり口を抑えられた。なでしこまでもが奇行に走るとは…いや、度々やってるか。

 しかし、犬山さんもギョッとした目で見ていたぞ。

 

「なにするんだよ、全く」

 

「う、うーんと、ユキさんにお願いされてて…」

 

「お願い?」

 

「うん。あきちゃんとあおいちゃんにはキャンプしてるのは秘密にして欲しいって」

 

 何でだ。てゆーか、あの二人となんか関係あるのか、海津さん。

 

「えっと、二人とユキさんは幼馴染なんだけど…」

 

 つまり逃げたのは、犬山さんにキャンプをしてるってことを知られたくなかったから、か…ますます意味がわからないな。だって、前に図書室で開いていた本はグルキャンって感じの本だったじゃないか。

 

「なぁ、なでしこ。海津さんって二人と仲良いのか?」

 

「直接話してるところは見たことないけど、きっと仲良しだよ」

 

 …キャンプ場で…色々と聞いてみるか。

 

 

 

 


 

 

 

 

「紅葉綺麗だねー」

 

「うん、丁度見頃みたいだしね」

 

 湖と、綺麗な紅葉を望むキャンプ場。うん…良い場所だ。

 

「でも、牛のお化けの言い伝えが有名らしいね」

 

 そう言ったら、さっきまでのはしゃぎ様は何処へやら。石化したように固まってしまった。そういえばこいつ、こう言うの嫌いだったな。

 

「し…志摩さん、その話…本当?」

 

「うん、丑三つ時になると湖から牛鬼の亡霊が出るとか、出ないとか」

 

「今夜は出ないでください今夜は出ないでください…」

 

 道にあった何かもわからない石碑に小銭を置いて拝むなでしこ。そして、海津さんもその隣で静かに手を合わせていた。…もしかして、お化け苦手なのか?

 

 

 

 

 

 なでしこは写真を撮りに、山の中へと消えていっため、私と海津さんがグリルに火をつける。下に着火剤を敷いて、備長炭を縦に積み上げる。

 

「ねぇ、海津さん」

 

「…志摩さん」

 

 話をしようと思ったが、逆に何かを言いたそうにしている。

 

「…その、別に…ユキで…いい」

 

 恥ずかしそうに、斜め下を向きながらそう言った。…なんか、今までカッコいい人だと思っていたけど、意外と可愛いところあるじゃん。

 

「…じゃあユキ。…その、さ。野クルの二人と仲良くないの?」

 

「…別に、悪くない」

 

「…じゃあ、好きなのか? あの二人」

 

「……嫌いじゃない」

 

 バツの悪そうな表情でそう答える。

 

 …なんか、素直じゃないだけじゃないか?

 

「そっか。 …私は、そう言う時は好きって言ってくれた方が嬉しいけどな」

 

「………ぅ…」

 

 多分…ユキはクールでもミステリアスでもなんでもない。ただの表情と感情表現に乏しい、内気な女の子だ。

 

「あっ、ちょっ…!」

 

 ユキは機嫌を損ねたのか、立ち上がって何処かへ歩いていってしまった。

 

 …やっちまった。仲良くもないのに、変なお節介をやいたらそりゃ嫌がられるだろ。何やってんだ私は…

 

 追いかけようと思ったけど、今私が行っても逆効果だろう。…少し時間を置こう。

 

 

「…あれ、火消えてる…」

 

 着火剤が足りなかったか。さっきは半分だったが…全部入れてしまえ。

 

 

 

 

「…全、然、つかん…!」

 

 着火剤を増やしても、燃え尽きても、火がつく気配は微塵も無かった。…やばい、喧嘩もして、火もつかなくて。何もかも上手くいかん…!

 

「ベテランさん呼んできたよっ!」

 

「こ、こんにちは」

 

「…!?」

 

 呆然としながら沈み込んでいた意識が、なでしこの声によって浮上する。そして隣には、見たことのないお兄さんがいた。

 

 炭に火がつかず困り果てていたのだが、成型炭をくれた。それに火をつけてから、上に備長炭をのせるのか。

 少し待っていたら火がついて、熱風が顔を襲う。

 

「じゃあこれで、キャンプ楽しんでね」

 

 ひらひらと手を振りながら、隣のテントへ去っていく。

 

「できる男…。…男、だな…?」

 

「必殺火熾し人だねぇ」

 

 自分の言った言葉に、なぜか少し違和感を覚えたのはなぜなのだろうか。なんか同じ感覚を最近味わったような気がした。

 

「あ、そういえばユキさんは?」

 

「……ぅ……その、なでしこ…」

 

 私は、さっきの事を話す。

 

「た、大変だよっ! 私っ、探してくるからっ、リンちゃんは待っててっ!」

 

 ぴゅーっとなでしこは走って行った。…頼むな、なでしこ。

 

 

 


 

 

 

 ど、どこだろう…ユキさん。結構走ったけど、全然見つかんない…。もう暗くなってきちゃったし……く、暗いっ…!?

 

「こ…こわ…」

 

 光も木で遮られて、視界も少しおぼつかなくなってきた。

 

「……ゆ、ユキさーん!」

 

 探すついでに大声を出して、少しでも気を紛らわせようとする。

 

「ユキさーん…わっ!」

 

 足元に出っぱった木の根っこに気づかず、つまずいて転んでしまった。そのまま地面に向かってダイブしてしまう。

 

「い、いてて…」

 

 すると、ガサガサっと激しい音が近づいてくる。い、猪っ…? それとも……牛のお化けっ!? に、逃げないとっ…

 でも、身体がすくんでしまって動かない。誰か助けてっ…

 

「だ、大丈夫っ…!?」

 

 私の目の前で誰かが立ち止まった。暗くて顔がよく見えないけど…ユキさんだ。

 

「怪我してない…?」

 

「……ユキさんっ!! 怖かったよぉぉ…」

 

 安心感から、ユキさんに抱きついてしまう。いい匂いするなぁ…落ち着くよぉ…

 

「…志摩さんのとこ、戻ろうか」

 

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