幼馴染がキャンプを始めるらしい。   作:ひーらぎ@1341

7 / 7
映画が配信されてモチベ向上。実は7割は出来てたけどサボってました。


七話

 

「…おかえり」

 

 ユキさんに背負ってもらいながら、リンちゃんの所へと戻ってきた。少しずつお肉を焼き始めていたようで、美味しそうな匂いが鼻へと入る。

 

「ユキ。その、さっきはごめん」

 

「別に何も悪いことしてない。…食べよ」

 

 私を優しく下ろして、皆んなでシートに腰を下ろす。二人の間に何かあったのだろうか。でも、ユキさんは全然気にする様子を見せなかったから、そんな大きなことじゃ無さそうかな?

 

 

「あ、私お鍋作るねー」

 

 土鍋につゆを入れて、白菜、長ネギ、お豆腐、にんじん…そしてメインの鱈を入れて、火をかける。やっぱり、お鍋は簡単に作れて美味しいから良いよねぇ。

 

「ひゃっ…!」

 

「うお、大丈夫か? ちょっと炭減らすか…」

 

 豚串から滴った油が引火したのか、火柱が上がる。ユキさんが上げた悲鳴は少し可愛かった。

 

 

 

 

 

 

「美味しい〜!」

 

 お鍋は身体の芯からあったまり、寒い冬には最高! リンちゃんは豚串から串を抜いてご飯に乗っけて食べている。私も真似しようかな〜

 隣には、お鍋のスープをすするユキさんがいる。相変わらず、あまり表情は変わらない。口に合ったかな…?

 

「各務原さん。 ……すごく、美味しい」

 

「……うんっ! いっぱい食べてねっ!」

 

 良かったぁ…。 熱いものを食べたせいか、ユキさんの頬が少しだけ赤くなっていた。

 

 

 

「そういえばここ、ボートでも荷運びできるらしいよ」

 

「えっ、本当!?」

 

「寒いからやだ」

 

「まだ何も言ってないよ〜!」

 

 リンちゃんを誘う気だったのはバレバレだったようで、先制して断られてしまった。残念だなぁ、ちょっとやってみたかったんだけど。

 

 

「…焼き終わったよ」

 

「おおっ、最後は炭火焼きハンバーグだあーっ」

 

 ハンバーグには、鉄板で一直線に焼き目が付いていて食欲をとても掻き立てる。これを食べたらお腹いっぱいかなぁ。

 

「うっぷ…私、一口でいい…」

 

「…各務原さんは、そっち」

 

 二個あるハンバーグを、一個をユキさんとリンちゃんでシェアし、もう一個は私が貰う。

 ……うまいっ! とっても柔らかいお肉から、噛むたびに肉汁が溢れてくるよ! 

 

 

「…はーっ、食べたぁーっ!」

 

「ご馳走様でした」

 

 お夕飯が終わり、寝るまでのまったりタイムだ。リンちゃんはお腹いっぱいのせいか、お顔が少しまんまるくなってしまったように見える。ユキさんは…うん、いつもの綺麗なまんまだ。

 

「ふぅ…炭も残ってるし、焚き火でもするか」

 

 グリルの中には、炭が未だにごうごうと燃え上がっている。リンちゃんはトングでそれをつまんで地面に置き、その上に薪をくべた。すぐに火がついて、焚き火の完成だ。

 やっぱり焚き火をしている時が、一番キャンプをしていると実感できる。

 

 

「ユキさん、キャンプ…楽しいね」

 

「……うん」

 

 少しだけ微笑んでくれた。

 

「ねぇユキさん。…あおいちゃん達と、キャンプしないの?」

 

 私の質問に、ビクッと体を跳ねさせた。そして三角座りの姿勢で、顔を太ももに埋めた。しばらく無言が続いて、ようやく顔を上げたユキさんは、少し涙ぐんでいた。

 

 

「…私……わかんなくて」

 

 

 


 

 

 

 

「よっ、ユキ」

 

 ある放課中、数少ない友人である千明が私の元へ訪れた。小学校から現在、高校まで一緒である。

 

「あたしな、部活を立ち上げようと思うんだよ。野外活動部っていうんだけどなー?」

 

 まだ入学したてだというのに、凄まじい行動力。内気な私を、小さい時からずっと、手を引いてくれていた。

 

 野外活動部…。中学の時にも、キャンプをしたいというような事を言っていた気がするから、恐らくそういう事だろう。

 

「ユキは部活…は陸上部だよなぁ〜」

 

 小学校四年生の時から身長が伸び始めた私は、その高身長が活かせるからと千明の勧めで陸上部に入った。そして中学でも続け、その時は全国に出るぐらいの実力だった。成り行きで始めてしまったけど楽しかったし、本気でやっていた。

 

 でも、本気でやればやるほど時間は取れなくなった。千明と話す機会も無くなって行った。もっとも孤独を感じていたのは私だけだろう。千明には他にも友達がいる。私とは違うのだから。

 

「あ、やべ。またな!」

 

 授業の始まりを告げる鐘の音がなり、急いで戻る千明。

 

「……誘ってれても、良いのに」

 

 いちいち面倒臭い私は、自分から何かを発言することはできなかった。

 

 

 

 

 

『名前だけ貸してくれ! 頼むっ!』

 

 千明から、ある夜に連絡が飛んできた。野クルを部活に昇格させたいから、部員を増やしたいそうだ。

 

『ほとんど行けない』

 

 こちらの部活も、そろそろ一年生が大会に出れるようになってくる時期だ。手は抜きたくなかったから、とても野クルに顔を出す時間はない。

 

『別に来なくても良いんだよ。在籍するだけで良いから、どうだ?』

 

 それは別に私じゃ無くても良い。その辺の人を捕まえれば良い。一度そう考えると、少し辛くなった。

 

 私が忙しいのを知っているから、付き合わなくても良いと言ってくれている。でも、来てくれと言って欲しい。

 

「…私…最悪」

 

 千明の心遣いだというのに、それを不満に思い不機嫌になっている。……あぁ私、何がしたいんだろ。

 

『好きにすれば良い』

 

 顔出せる日は出すよ、みたいな気の利いた事は言えない。私はそんなに、 器用でも、素直でも…ない。

 

 

 

 

 

 

 そこから数ヶ月、千明やあおいとは殆ど喋らなかった。気づけばもう十月、こんなに時間が経っていたのかと驚いた。

 

 陸上の大会は冬には姿を消す。もちろん来年に向けて練習を詰め込む時期であるが…夏に比べ時間は圧倒的に余っている。

 

 初めて、野クルに顔を出しに行こうとした。荷物を背負って、部室棟の中の一室の前へやってきた。中からは千明とあおいの声が聞こえる。ノブをつかもうとした。

 

「………」

 

 久しぶりで、どんな顔をして会えばいいのか、何を話したらいいのか、そう考え始めたら怖くなった。そのまま、踵を返して立ち去った。

 

 二人が酷いことなんて言うわけがない。私を受け入れてくれる筈だ。でも、二人の優しさに甘えているみたいで、嫌だった。

 

 

 

 

 

 

「……きつ」

 

 自宅で見つけたテントを持って、キャンプ場にやってきた。

 

 どうにか張ろうと四苦八苦するも、とても完成する気配が見えない。

 このテントは、確か小学生の時に一度だけ家族でキャンプした時のものだ。暑さがしんどくて、その一回以後もう我が家でやることはなかった。

 …ファミリー向けだから、一人で立てるのは想定されてないのは当たり前なのだが、なんで気づかなかったんだろう。

 

 ネットで調べて、必要なものは揃えたと思ったのに。一番大事な寝床が作れなければ全部ガラクタ同然だ。

 

「あの…て、手伝いましょうか…?」

 

 頭を抱えていると、後ろから声をかけられた。振り向くと、ここに来た時に目にした、私より一回り…いや、2回りほど小さい子がいた。中学生ぐらいだろうか。

 

「……助かります」

 

 せっかくなので、甘えることにした。二人でもやはり苦労したが、なんとかテントを張ることに成功した。

 そのまま別れたが、家族が近くにいるようには見えない。小さいのに、逞しいな。

 

 とりあえず、ネットで調べながら焚き火というものを実践してみる。着火剤を置いて、その上に細い枝をおく。マッチで着火剤に火をつけると、次第に細い枝にも火が移る。ここで、拾ってきた大きい薪を乗っければいいのかな。

 

 火は大きくなっていき、熱がじんわりと体に伝わってくる。テント立てでは頓挫しかけたが、こっちは上手くいってよかった。

 

「………」

 

 暇だ。話し相手もいないし、暇つぶしグッズも何もない。しかし、わざわざキャンプ場にまで来て携帯を弄る気にもならなかった。このまま、しばらくぼんやりしていよう。

 

 

 

 

 尿意を催したため、トイレへやってきた。山奥のトイレだけど、意外と綺麗で、衛生的な感じがする。前に家族で旅行した山奥は、薄暗いし臭いし汚いし有料だし…愚痴はここまでにしておこう。

 

「………ひっぐ…うぅぅ…」

 

「…!?」

 

 暗がりから、啜り泣くような声が耳に入る。…嘘でしょ、ちょっと洒落にならない。こういうのは本当に嫌いだ。…でも、トイレには行きたい。

 

「………?」

 

 声がする方をこっそりと覗き見る。……女の子か。お化けとかじゃないよね…

 

「…た、たすげ……ひっ…! ……た、食べないでくださいぃ…」

 

 私を見て助けを求めたかと思えば、直ぐに怯えた表情に移り変わった。私…そんなに顔怖いかな…

 

「…食べたり、しないけど……えっと…」

 

 ど…どうすれば良いのだろうか。私には手に負えない…助けて…

 

「…あの、どうかしました?」

 

 さっきの先輩キャンパーが背後に、若干の疑いの目を向けて立っていた。…側から見たら、私がこの子をいじめているように見えるかもしれない。

 

 

「たすけてくださいぃぃっ…!」

 

「……え、えぇ…?」

 

 2人はテントへ向けて去っていった。……なんか、誤解されてないと良いけど。

 

 ……ぅ、そういえばトイレ済ませてなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 ユキはぽつぽつと、隠していた胸の内を私たちに漏らし始めた。

 

「……どうして、こうなっちゃたんだろう」

 

 野クルの2人との距離を感じて、付き合いが上手く行かなくなった事を、とても気にしていた。

 ……やっぱ、普通の女の子だな。ちょっと内気で、恥ずかしがり屋で、素直になれないだけの可愛い女の子だ。

 

「…誘いもたくさん断った。もう何ヶ月も喋ってない。…もう…怖くて」

 

 薄らと涙を浮かべながら語る。…少し気にしすぎな気もするけどな。友情なんてモノはそう簡単に切れるモノじゃない。だが、ユキはそれを恐れてる。嫌われていたらどうしよう、自分のことなんてどうでもよく思っているのではないかと。

 

「……ユキさんは、2人のことが大好きなんだね」

 

「……別に、そんなんじゃ…」

 

 目を逸らしたユキへ、なでしこは距離を詰めて手を握った。

 

「ううん、絶対にそう。だってユキさん、そんなに悩んでるんだもん!」

 

 …そう、だよな。

 

「…仲直りしたいから、そうやって悩んでるんだろ。私はあの2人のこと知らないけどさ…友達、なんだろ?」

 

 …なでしこがユキを誘った理由がわかった気がする。何も考えてなさそうだけど、優しい奴だからな。

 

「ユキさん、一緒に頑張ろう? あきちゃんもあおいちゃんも、ずーっと待ってるんだよ!」

 

「…待ってる?」

 

「うん、野クルの部室で、ユキさんのことをずーっと待ってるよ」

 

「…私も手伝うからさ」

 

 私よりも遥かに大きい筈のユキの体は、今だけは凄く小さく見えた。この弱々しいコミュ障ガールを助けてやりたいと思うのは、…なんだろう、母性みたいなモノだろうか。

 

 

 

 

 

 

「…先に寝る」

 

「うん、おやすみユキさん」

 

「おやすみー」

 

 一足早く眠りに着いたユキ。なでしこのテントへと入っていき、静かになった。しかしなかなか寝るのが早いな。まだ9時だというのに。

 

「なんかさ、ユキって…イメージと違ったな」

 

「そうだね〜。こう…くーるびゅーてぃー! みたいな感じだと思ってたよー」

 

 前髪をサッと払い、キリッとした目つきで格好つけたような仕草をするなでしこ。確かにユキがやったら似合いそうだが、なでしこじゃとても絵にならない。

 

「まぁ、私が初めて会ったときは意外とオロオロしてたぞ。テント建てれない〜って」

 

「…きっとユキさん、キャンプの練習してたんじゃないかな。あおいちゃん達と話題とか合わせるために」

 

「あぁ、なるほど」

 

 疎遠になってしまった空白の期間を埋めるべく、なんとか追いつこうとユキなりに頑張ってたのかもな。…私がいなかったら結構ヤバいことになってただろうけど。

 

「ふぁぁ……もうこんな時間か。…寝るか、おやすみなでしこ」

 

「ふ、2人で寝ない!?」

 

「やだ、それに出ないってお化けなんか」

 

 

 

 

 

 




「…トイレいこ」

 夜中に、尿意から目が覚めてしまった。今の時刻は…2時か。

 月明かりに照らされる湖畔を眺めつつ、トイレへと向かう。山中も良いが、私はこっちの方がやっぱり好きだ。

 しばらく歩くと薄暗いトイレに着いた。ちょっと不気味だな。

「……って、うわっ…!」

 足元の段差に気づかず、躓いてしまった。硬い地面に顔面を叩きつけるビジョンが浮かんだ。

 ぽす

 ……ってあれ、痛くないし…むしろ柔らかい。

「……大丈夫?」

「うわぁっ…って、ユキ…?」

 どうやら、ユキの胸に飛び込んでしまっていたらしい。…丁度トイレに来てたのか。

「あ、ありがと」

「…ん」

 テントへと戻るユキ。…寝る前のしおらしさは何処へやら、またイケメンモードになっていた。

「…はぁ、なんでこんな気にかけてるんだか」

 まだそう喋ったこともないのに、随分と入れ込んでいるものだと不思議に思うが、悪い気は別にしないので良しとする。

 軽くトイレを済ませて、手を洗って戻ろうとする。


「………!!??」

 遠くの方から女性の悲鳴が聞こえた。そこまで大きくはないが、閑静なキャンプ場にはよく響く。

 私も身の危険を感じ、慎重かつ急いでテントへ戻る。

「ヴヴヴゥ……」

「…!」

 その道中、何かの呻き声のような物が隣から…恐る恐る振り向くと……

「ぇ゛っ……!!!」

 目の前に、デカい角を持ったバケモノが

「〜〜〜〜〜〜!」

 悲鳴はなんとか抑えたが、三十六計逃げるに如かず、脱兎の如く走った。


 ホントに出たっ、ホントに出たっ……!

 即寝袋に身を埋める。ここまでは来まい…来ないでくれっ…


 ジジッ…

「ぎゃぁっ!!」

 テントを開ける音、ここまで追ってくるなんてっ! ……あぁ、おわった…!

「し…志摩さんっ…!」

「……ぁ、れ?」

 入り口へ目を向けると、居たのは…バケモノじゃなくてユキだった。よ、良かった……!

「び、ビビらせるなよっ…」

「ご、ごめん…。その……」

 ごそりと、寝袋を担いでいる。

「い、一緒に、寝たい…」

「……そ、そうしよう…」


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