次話の本編ストーリーまでの繋ぎにするためでもありますが、ウマ娘が新シナリオとかシービーガチャとかイベントてんこ盛りでちょっと執筆どころじゃなかったんで。
ちなみにシービーは170連で出ました。
ユフィリアがアニスフィアが住む離宮に移ることになり、その流れでクルーガーも離宮への訪問を自粛すると同時に婚約破棄騒動に関する調査を行うことになったのだが、関係者への取り調べを行うわけではない。クルーガーは客観的に見れば限りなく部外者に近い存在であり、尋問官としての経験があるわけでもないため、学生とはいえ貴族が口を割ろうとしないのは目に見えている。
だからといって、ユフィリアに関しても離宮での生活に慣れさせるために訪問は控えなければならない。
そうなると現在のクルーガーは割と暇な立場になるのだが、何もしないというのも治まりが悪い。
そのため、クルーガーはクルーガーで独自に調査を進めることにした。
「ふむ、ここなら人目は付かないな。多少目立つかもしれないが、見られなければ問題はないか」
そう呟くクルーガーが現在いるのは、王城の屋根の上だった。
クルーガーが目論んでいる情報収集のためには、できるだけ目立たず、なおかつ王城の中心に近い場所である必要があった。
その結果、選んだのは屋根の上だったのだが、高い分一度バレれば目立つため、出来るだけ早く事を済ませることにした。
「風を伝い、音を束ね、声を紡ぎ、私の下へ」
クルーガーが言霊を紡ぐと、手元に小さな風の球が現れ、その球に向かって風が吸い込まれていく。
吸い込まれる風は埃を動かすのがやっとのようなひどく弱いものだが、それでも確実に存在していた。
クルーガーが編み出したオリジナルの魔法の1つであり、名前はないが強いて言うのであれば“超高性能収音魔法”だ。風を用いて音や声を自動で集め、数日程度であれば保存することができる。そして、集められた声は魔力の波長に変換することで耳ではなく直感的に(脳内に直接話しかけるアレのようなもの)取得することができる。
維持するには声の取得時に追加で魔力を注ぐ必要があるが、一晩寝れば回復する程度のため大した問題にはならない。
また、出力が低いことで魔法の探知に引っかかりづらいという利点もある。
これを、王城の敷地内全域をカバーするように展開した。王族の部屋やその他機密性や防音性の高い部屋の声までは拾えず、仮に声を拾えても場所まで割り出すことはできないが、それを差し引いても十分なほどの情報が集まるはずだ。
「動作は・・・問題ないな」
魔法が問題なく作動していることを確認したクルーガーは、人目につかないように屋根から飛び降りる。
そして、城門を抜けて城下町へと向かった。
「さて・・・まぁ、何もやらないよりはな」
現在、婚約破棄騒動の件で城内は慌ただしくなっており、何か怪しい行動があればすぐに疑われるような状態になりつつある。そのため、本人にしろその使用人にしろ、婚約破棄に関わった貴族が今後のことについて話すとするなら、城の外で行う可能性もある。
とはいえ、パレッティア王国の貴族は基本的にプライドが高いため、身分を隠して市井に下りるような真似をする貴族がどれだけいるかは分からないが。
あるいは、アニスフィアがよく身分を隠して(髪色でバレてしまうことがほとんどだが)城下町に下りているため、それと同じような真似をするなど耐えられないという貴族の方が多そうな気もするが。
そうでなくとも、婚約破棄の件は戒厳令を敷いたため当事者たち以外には伝わっていないが、万が一にも国民に伝わっている可能性を拭うためにも城下町に下りることは決して無駄ではないだろう。
今度は収音魔法を畜音ではなく直接脳内に届ける形で発動する。
リアルタイムで情報を整理するために範囲を狭くし、収音魔法の範囲外については風を巡らせてエコーロケーションのように周囲の様子を把握する。
とはいえ、これで探ることができるのは城下町全体から見ればわずかな範囲。何か情報を得るためには、相当な根気と運が必要になるだろう。
(・・・これではまるで、何もしないのが落ち着かないだけの人間のようにしか見えないな)
城内の収音は続けるにしても、城下町を探り続けるのは非効率極まる。
ならば代わりの手立てが必要になるが、城内と同じように城下町を収音するのも非効率的であることに変わらないだろう。
どうするべきかと悩んでいると、ふとクルーガーは足下を見た。
「・・・そういえば、おあつらえ向きの場所があるか」
一度クルーガーは大通りから離れ、人気の少ない裏路地を進んでいく。
そして、その一角にあるマンホールのような丸い蓋を開けて、中に入り込んだ。
「・・・さすがに少し臭いな。風で散らすか」
クルーガーが入ったのは下水道だ。
少し前まではなかったのだが、アニスフィアが提案しただいたいの構想をオルファンスが採用し、そのままアニスフィアの指揮で作られたものだ。
下水道と言っても人1人が歩ける程度の道は作られており、偶に魔物が入り込む関係でそれを討伐する人間がいてもおかしくはないが、そうでもない限り近づこうとは思わない。
まさに、人に聞かれたくない話をするのに向いた場所とも言える。
少し臭いに難があるが、クルーガーがしているように風魔法で散らせるため、貴族でも潜り込めないことはないだろう。
ここにも王城と同じように風の流れから場所を割り出して複数個所に収音魔法を設置してから、地上に戻った。
「臭いは・・・ついてないはずだが、念を入れて消臭をしておくか」
そう言いながらクルーガーは土魔法で細かい砂を作り出して全身にかけ、ローブや髪についた砂を風魔法で吹き飛ばす。
そして少し街を歩き周囲の人から変な目で見られないことを確認してから王城へと戻った。
そこで、衛兵に声を掛けられる。
「クルーガー殿、陛下がお呼びです。執務室に来られるようにと」
「ふむ?わかった。すぐに向かおう」
おそらくユフィリアの処遇について正式に決まったのだろうと当たりをつけ、言われた通りに執務室へと向かった。
「失礼いたします。クルーガーです」
「来たか。入れ」
中に入ると、オルファンスが机に積まれた膨大な量の書類と格闘していた。
「何かご用件がおありと聞きましたが、ユフィリア嬢についてですか?」
「そうだ。ユフィリアについて正式な処遇が決まった。お主にも伝えておこうと思ってな」
「ありがとうございます。とはいえ、対外的には婚約破棄については隠しつつ休養扱いにするとしても、口実が必要となるのでは?」
「うむ。そこで、アニスの助手に据えるという話をそのまま使うことにした。きっかけとしてはアルガルドらの謹慎に伴ってユフィリアに休養を与え、そこで時期王妃として王族と親睦を深めるためにアニスが預かるということにした。アルガルドらの謹慎の理由は他に用意する必要があるだろうが、これについてはまた後で決めることになるだろう」
「なるほど、わかりました」
「それで、お主は先ほどまで何をしていたのだ?町に下りていたと聞いたが」
「いえ、私の方で少し仕掛けを。今回の婚約破棄騒動、あくまでアルガルド様の独断で行った不祥事で済むのであれば、それに越したことはありませんが・・・」
「まさか、誰かに煽動されたとでも?」
「そこまでは何とも。ですが、そうでなくとも婚約破棄騒動に乗じて良からぬことを考える輩が出ないとも限りません。なので、そうした情報を集めれるようにしました」
「ふむ、そうか。事情聴取に関しては我々で執り行うが、確かにそれ以外について目を向けるのは難しいか。ならば、頼めるか?」
「陛下のご命令とあらば」
「ならば、クルーガーは今回の婚約破棄騒動について、できるだけ情報を集めよ。些細なものでも構わん。何かあれば知らせるように」
「御意。では、失礼します」
そう言って、クルーガーは執務室を後にした。
少し歩いたところで、先ほど話した内容を思い浮かべてふと呟く。
「・・・気のせいであればいいがな」
今回の婚約破棄騒動、クルーガーはどうにも納得がいかない部分があった。
アルガルドには、一度しか会ったことがない。が、ここまで思い切った愚行をするような人物だったとも思えない。
会わなかった数年の中で変わってしまった可能性も0ではないが、それだけで済ませるのは不自然だろう。
そこで、事の発端となった令嬢の名前が脳裏に浮かぶ。
「・・・レイニ・シアン男爵令嬢、か。時間があれば、そちらも調べてみるか」