とある賢者の教導奇譚   作:リョウ77

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来たる災厄

レイニの調査について、クルーガーは結局オルファンスへの報告を保留することにした。

というのも、王城内は未だに婚約破棄騒動のごたごたが落ち着いておらず、聞き取りは行われているもののどれが正しい情報なのかもわからない状態だ。

その中で、レイニの心証が一方的に悪くなるような情報を与えてしまっては、正しい調査が行われずにレイニが諸悪の根源であると決めつけられる可能性もある。

そのため、王城内がある程度落ち着いてちゃんとした調査が行われるようになるまでは独自に調査を続けるということにし、報告を後回しにした。

また、収音魔法の関係であまり長く王都を離れることもできないため、手詰まりになってきたという理由もある。

そういうわけで、手持ち無沙汰気味になったクルーガーは再び離宮に顔を出すことにした。

のだが・・・

 

「じゃあクルーガー、相手よろしくね!」

「はぁ、わかりましたが・・・」

 

現在、クルーガーとアニスフィアはそれぞれマナ・ブレイドを構えて対峙していた。

タイミングが良かったのか悪かったのか、アニスフィアはちょうど剣の型稽古を始めようとしていたところであり、ちょうどそのタイミングでクルーガーが声をかけてしまったため、型稽古が手合わせへと変わったというわけだ。

 

「まぁ、手合わせの相手をするというのは、今さらどうこう言うつもりはありませんが・・・アニス様の場合、対人で変な癖がつくのはあまりよろしくないのでは?」

「それはそうかもだけど、やっぱり一人で振るより、誰かに見てもらいながらやった方が効率的じゃない?」

「・・・なら、私が断る理由もありませんか。では、いつも通りアニス様が打ち込んで私が防御する、ということでいいですね?」

「オッケー!じゃ、よろしくね!」

 

クルーガーがため息をつきながらも刀身を出現させたのを確認してから、アニスフィアから遠慮なく踏み込んだ。

振り下ろされるマナ・ブレイドを、クルーガーもまたマナブレイドの刀身で受け止め、だが受け切らずに流していく。

本来、マナ・ブレイドの刃は魔力で出来ているため鍔競り合いには向いていないのだが、クルーガーは今まで積み上げてきた技術を駆使して斬撃を受け流すことで、マナ・ブレイド同士での打ち合いを可能とした。

それに対し、アニスフィアの剣術は基礎は騎士団で学んだものだが、型としては実戦で磨き上げてきた我流であり、その相手は基本的に魔物だ。そのため、急所めがけて鋭い一撃を放つ(ついでにできるだけ良い素材を手に入れられるように攻撃箇所を見極める)ことを得意としている。

対極と言える剣術を扱う2人だが、基本的にクルーガーが有利を保っている。『柔よく剛を制す』というだけでなく、魔法を使えないアニスフィアは身体能力強化を使えないため、クルーガーが身体能力強化を使ってしまえばアニスフィアの優位も意味を為さない。

そのため、基本的にクルーガーとアニスフィアが手合わせを行う場合、アニスフィアが一方的に攻めたて、クルーガーがそれをいなすことになる。

 

「ここまでです」

「っはぁ!また負けたぁ!」

 

そして、アニスフィアは制限時間以内に有効打を与えることができず、クルーガーの勝ちとなった。

今回もまた勝ちきれなかったアニスフィアは、不貞腐れるように地面へ寝転がった。

王族としてはしたないにも程があるが、この程度は珍しくもないため、たしなめる代わりに今回の手合わせについての評価をした。

 

「ですが、身体能力強化無しでも十分動けるようになっています。小物であれば、()()無しでも十分でしょう。私も素の状態ではアニス様の相手は難しいかもしれませんね」

「だったら、その条件でやってもいいんじゃない?」

「それを言ったら、魔物の身体能力は基本的に人間のそれを凌駕しています。特に戦い慣れした魔石持ちは、ごく稀ではありますが小手先の技術を扱うこともあります」

 

魔物の中には、魔石と呼ばれる特殊な素材を体内に有している個体が存在する。

魔石を持っている魔物は魔力を有しており、固有魔法を扱うことができる。

通常の魔物とは一線を画す実力を持っているため、二つ名が与えられ懸賞金をかけられることもある。

 

「さすがに人間相手と勝手は違いますが、いつでも格上を相手取るつもりで挑む方がよろしいでしょう」

「はいはい。言われるまでもないよっと」

 

アニスフィアの文句も言ってみただけだったようで、素直にクルーガーの忠告を受け入れた。

と言うより、アニスフィアも言われるまでもなく分かっていることのため、クルーガーの方もまた言ってみただけだ。

 

「それで、どうされますか?」

「ん~、休憩したらもう一本!」

「分かりました。では水分補給を・・・」

 

そう言って、クルーガーが魔法で水球を生み出そうとすると、不意に空を見上げた。

アニスフィアも釣られて空を見上げると、伝書鳩が頭上を飛んでいた。

 

「あれ、ギルドの伝書鳩だ」

「そのようですね。何かあった、ということでしょうか」

 

2人の言うギルドとは、冒険者ギルドのことだ。

基本的に魔物の相手は王国の騎士が務めることが多いが、それでも数に限りがあり、現場に着くまでにはどうしても時間がかかるため、現場で即時的に対応できる組織と人員が必要となる場合が多い。

その役割を担うのが、有志の民間人に訓練・教導を施して魔物に対する戦力とする冒険者ギルドだ。

パレッティア王国において、基本的に冒険者が斥候を担いつつ、可能であれば討伐。もし冒険者だけの手に負えない事案が発生すれば、冒険者が足止めをしつつ近くの騎士団が出動、冒険者と連携をとって対応をとることになっている。

そのため、パレッティア王国における冒険者の地位は決して低くなく、高位の冒険者であればシアン男爵のように貴族に召し上げられることもある。

そして、アニスフィアもまた、自らの実験材料の確保のために冒険者ギルドに冒険者として登録しており、冒険者として高位の金級(ゴールドランク)冒険者として活動している。

ちなみに、身元を保証できる者がなく登録ができないはずのクルーガーも、王族として身元を保証することで半ば以上アニスフィアに巻き込まれる形で冒険者ギルドに登録しており、クルーガーもまた金級(ゴールドランク)になっている。

 

「よっと・・・へぷしゅん!」

「どっ、どうされました?」

「なんだろ、なんか急に・・・それよりも、今はこっち!どれどれ・・・」

 

伝書鳩を腕に乗せるのとほぼ同時にアニスフィアがくしゃみをしてクルーガーが軽く驚いたが、アニスフィアは気にせずさっさと伝書を受け取って内容を確認する。

すると、アニスフィアの動きがピタリと止まり、文面のある一部分を凝視した。

 

「あ、アニス様?」

「・・・ふっ、ふふふっ、あははははははっ!」

 

アニスフィアの様子を不審に感じたクルーガーが尋ねようとすると、いきなりアニスフィアは大声で笑い始め、近づこうとしたクルーガーが思わずドン引きしてわずかに距離をとった。

 

「こうしちゃいられない!今すぐ出発の準備をしないと!クルーガーも早く!」

「いえ、何があったんですか?」

「これを見て!んじゃ、私はさっそく準備してくるねー!」

 

ギルドからの伝書をクルーガーに押し付けたアニスフィアは、クルーガーが止める間もなく猛ダッシュで離宮へと向かっていった。

いつも以上にハッスルしているアニスフィアの様子に、クルーガーは嫌な予感を覚えながらも言われた通りに伝書の内容を確認した。

 

「どれどれ・・・『ドラゴンの出現、及びそれに伴うスタンピードの発生』・・・!?」

 

スタンピードとは、ある条件によって魔物の大群が人の住んでいる街に向かってあふれ出てくる現象のことだ。

それ自体は、頻繁に起こるわけではないが、特段珍しくもない。

問題となるのは、その発生理由。

一つは、縄張り争いの敗北や急激な食料の減少によって、住処を失った魔物が新たな住処を目指して町や村に近づいた場合。

もう一つは、魔物の群れがそろって逃げ出さなければならないような()()が現れた場合。

今回の場合は後者だが、その大物があまりにも問題だった。

ドラゴン。それはすべての生命の頂点に立つ存在であり、“生ける天災”とも言われている。

その最たる理由が、空を飛べることにある。

鳥型の魔物も空を飛べるが、攻撃のためには地表近くに降りてくることが多いため、攻撃の隙に討伐することができる。

だが、ドラゴンは高高度を維持したまま村や町を壊滅させることができる戦闘力を持っている。さらには、固い甲殻や強い生命力、莫大な魔力を持っているため、並の人間は当然のこと、一流の魔術師ですら手に余る存在だ。

 

「なるほど・・・手あたり次第高位ランクの冒険者に招集の伝書を飛ばして、少しでも戦力を増強しよう、というわけか。とはいえ、相手がドラゴンとなると・・・あまり数は期待できないか」

 

それはドラゴン相手にしり込みして行きたがらない、というのもあるが、それ以上に時間が問題だった。

空を飛べるということは、それだけ移動速度にアドバンテージがあるということでもある。仮に招集を受けて現場に向かったとしても、すでにどこかに飛び去った後となる可能性が高い。

逆に言えば、空を飛ぶ術を持っているアニスフィアとクルーガーは増援に行ける可能性が極めて高く、さらにドラゴンと空中で戦うこともできる。

それでも、普通に考えれば王族を死地に放り込むことなど許されるはずもないのだが・・・

 

「・・・アニス様、止めても聞かないだろうな」

 

今のアニスフィアは、これまで共に過ごしてきた中でもトップクラスに昂ぶっていた。

唯一ドラゴンを抑えることができる人物であるという自覚があるから、と言うだけではない。

ドラゴンとは、ほとんどがおとぎ話の中でしか語られないほどに希少な存在だ。今回の機会を逃せば、生きている内に会える可能性は絶望的だろう。

だからこそ、この機会を逃すまいと躍起になっているのだ。

もしオルファンスがアニスフィアの暴走を耳にすれば卒倒することになるだろうが・・・

 

「まぁ、止めないでおこう。どうせ止まらないだろうし」

 

説教については、甘んじて受け入れるしかない。

とはいえ、このまま傍観というわけにもいかないため、クルーガーも出立の準備をするために離宮に向かった。

 

「あっ、クルーガー!こっちは準備できてるよ!」

「今回はよろしくお願いします、クルーガー」

 

離宮の前に着くと、アニスフィアに加えて、なぜかユフィリアまでアニスフィアの後ろから抱きつくような形で魔女箒にまたがっていた。

 

「えっと・・・ユフィリア嬢?事情をお聞きしても?」

 

そう尋ねるクルーガーだったが、アニスフィアと共に防寒用のローブを羽織っていることと初めて見る剣を腰にぶら下げていること、何よりも覚悟を決めた眼差しをしている様子を見て、なんとなく予想はついていた。

そして、それは当たっていた。

 

「私も、アニス様と共にドラゴン討伐に向かいます」

 

ですよね。

そんなことを考えながら、クルーガーはより激しくなるだろう説教を予感して思わず天を仰いだのだった。




転天コミック5巻購入しました。
話自体は雑誌とかで追ってましたが、漫画で追加されたおまけもまたおもしろいですね。
なにより、カバー裏のおまけが特によかったです。何がとは言いませんが。
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