とある賢者の教導奇譚   作:リョウ77

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今回は短めです。


改めまして

「と、いうわけでして、アニスフィア王女殿下の相談役になる運びとなりました。改めまして、クルーガーと申します。以後、よろしくお願いいたします」

「よろしくー!」

 

翌日、城内に部屋をあてがわれたクルーガーはさっそくアニスフィアに挨拶に向かった。

アニスフィアは城内ではなく、敷地内にある離宮で生活をしていた。おそらく、他の貴族と距離をとるためだろう。

 

「それで・・・何か私に聞きたいことはありますか?」

「うーん・・・じゃあ、あなたの話を聞きたいな」

「私の、ですか?」

「うん。あなたのことを知らないと私も何を聞けばいいのかわからないと思うし、あなただって私のことを知らないとなんて答えればいいかわからないでしょ?」

「それは・・・たしかに、そうですね」

「よし!じゃあイリア、お茶を用意してもらってもいい?」

「かしこまりました」

 

イリアと呼ばれたメイドが、お茶を淹れるためにその場から離れた。

 

「では・・・」

「あーそれと!私のことはアニスでいいよ?これから長い間お世話になるだろうし」

「いえ、さすがにそれは・・・」

「私は王位継承権も放棄してるし、離宮(ここ)でいろいろと研究とか開発をやりたいんだよね。堅苦しいのはあまり好きじゃないし。どうしてもって言うなら、王族の命令ってことで」

「・・・わかりました、アニス様」

 

(・・・これは、かなり我と灰汁が強いな)

 

それが、改めてアニスフィアと対面したクルーガーの正直な感想だった。

良くも悪くも王族らしくない。というより、悪い意味の方が強めで王族らしくない。

さすがに相手は選ぶだろうが、それでもほぼ初対面の相手にこれだけグイグイ迫るとは思わなかった。

あるいは、それほどまでにこの国では孤立している、という見方もできるが。

 

「それじゃあ・・・あなたはどこから来たの?」

「そうですね・・・具体的にどこから、と言われると難しいですね。私の故郷は国に帰属しているわけではありませんから。名前もない秘境の集落で、東の果てにあります」

「ってことは、カンバス王国の人?」

「いえ、そうではありませんね。カンバス王国のさらに向こう、と言うべきでしょうか」

 

ちなみにカンバス王国とはパレッティア王国の東側の山脈を越えた先にある国のことで、そのほとんどが謎に包まれている。

もしかしたらカンバス王国のことが聞けるかもしれないと期待していたのか、アニスフィアは少ししょんぼりしていた。

 

「カンバス王国もそうですが、私が育った集落はかなり排他的かつ閉鎖的でして。集落の規模しかない国、と言ってもいいかもしれません」

「じゃあ、その国?里?にはあなたの他にも魔法使いがいるのかしら?」

「えぇ。規模が小さいので数はパレッティア王国には及びませんが、ほとんどの者が魔法を扱えます」

「それはすごいわね!もしかして、あなたの集落のご先祖様にも精霊契約者がいたのかしら?」

「かもしれません。とはいえ、文献はほとんど残っていないので確証はありませんが」

「そうなの?」

「大災害によって文献の多くが紛失した、と言われています。紙も魔法のために使うことが多いので、口伝として残っているだけです。それも何十年も昔の話なので、もしかしたらどこかで歪んでいる可能性もありますね」

「へぇ~・・・」

 

それからも、少女は様々なことをクルーガーに尋ねた。

途中でイリアが持ってきた紅茶と茶菓子で休憩を挟みながら、年相応の少女のように質問攻めしてくるアニスフィアにクルーガーは一切嫌な顔をせずに答えた。

そして、アニスフィアからの質問が終わる頃には日も真上に昇っていた。

 

「ふぅ・・・少し長く話し過ぎましたね」

「そうだねぇ。イリアー!お昼ごはんの用意をして!」

「かしこまりました」

 

アニスフィアの指示を受けて、イリアは再び台所へと向かって昼食の準備を始めた。

そこで、クルーガーは見覚えのないものを見つけた。

 

「・・・ふむ?あの台座は・・・」

「あ、気づいた?まだ試作品なんだけどねぇ」

 

そう言って、アニスフィアはイリアが台所で使っている台座、いわゆるIHコンロのようなものについて説明した。

それは魔道具と名付けられた、独力で魔法を使えないアニスフィアが魔法を使えるようにするために編み出した道具の一つで、火の精霊石を用いて鍋やポッドなどを加熱できるというものだ。

そして、これらの物を生み出す技術、その土台や知識をアニスフィアは『魔学』と呼んだ。

 

「できれば保温とかもできるようにしたいんだけど、まだその辺の調節が難しくてねー」

「過去にはそれで爆発を起こしたり、お風呂を沸かそうとしたら熱湯で全身火傷を負いそうになったこともありましたからね」

「ちょっ、イリア!そういうこと言うの禁止!」

「よくもまぁ無事でいられましたね・・・?」

 

果たして、いったいどれほどの武勇伝(やらかし)があるというのか。そして、怪我を負ったり、あげくに死にかけるような目にあったのか。内心でクルーガーは戦慄を覚えた。

その後、すぐに料理が完成し、昼食を取りながらクルーガーは問いかけた。

 

「一つ伺いたいのですが、その魔道具とやらを作る時はどうしているのですか?」

「えっとね、離宮に私専用の工房があったり、必要なときは街の工房に行ったりしてるかな」

「・・・動作確認はどうしていますか?」

「とりあえず作ってから確認してる」

「はぁ・・・」

 

それを聞いて、クルーガーは思わずため息をついた。

普通ならこれだけでも不敬と思われかねないが、続けてさらにぶっちゃけた。

 

「なんというか・・・頭がおかしいんですか?」

「なっ!?」

「おや、クルーガー様もお気づきになられましたか」

「イリアも!?不敬!不敬ー!!」

 

アニスフィアは必死に反論するが、残念ながらこの場には3人しかいないため、多数決でアニスフィアがおかしいと言うことになった。仮に他の人間がいても同じ評価を下しただろうが。

 

「ぶっつけ本番で動作確認とか、どう考えてもおかしいでしょう」

「でも、失敗を恐れてたら前に進めないでしょ!?」

「失敗しないための予防は必要ですよ」

「あ、あなたも父上と同じことを言うんだ・・・」

 

ここで初めて、クルーガーはオルファンスに深く同情した。

お転婆と一言では表すには度が過ぎる、まさに絵に描いた奇天烈を実物にしたような振る舞いに、クルーガーは深くため息をついだ。

だが、同時に()()()とも感じた。

あるいは、こんな破天荒だからこそ、何か自分には想像もつかないようなものを作るかもしれない、と。

であれば、ここでクルーガーがすべきことは決まった。

 

「そうですね・・・では、以降は私が監督役を務めましょう。作るだけなら事後報告で構いませんが、動作確認の際は私も同席します。また、こういった開発に必要な心構えも私が教えましょう」

「う˝っ・・・まさか、こんなものは作っちゃ駄目だ!って感じで取り上げちゃったりしない?」

「いえ、作ること自体は止めませんし、よほどでない限りは取り上げることもしません。必要なら口止めもしましょう。ただし、御身を危険に晒してばかりはいられないので、それを防ぐためのものと思ってください」

「・・・本当?」

「えぇ、約束しましょう。また、私が持ちうる知識も提供します。それがあれば、あなたが目指すものに大きく近づけるはずです」

 

より質の高い作業環境と、旅によって得た膨大な知識。この2つの餌を前に、アニスフィアは即座に食いついた。

 

「じゃあお願い!」

「では、昼食を食べ終えたらさっそく始めましょうか」

「よろしく!」

 

こうして、クルーガーによる指導が始まることになった。




現時点でのアニスの年齢はだいたい10歳前後ってところですね。
ちょうど離宮で暮らすようになったくらい?です。
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