とある賢者の教導奇譚   作:リョウ77

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今回はというか、今回もジャブです。
バイトが死ぬほど忙しくて、凝ったもの書く余力が残ってませんでした。
まぁ、変なテンションで新作も衝動的に同時並行で書いてたってのもありますが。


令嬢を見極める賢者

「はぁ・・・まったく、私までこんなことをすることになるとは・・・」

 

数日後、いよいよレイニ・シアンの謁見の日が訪れたのだが、今回はいつものような個人的なものではなく他貴族も招いた正式なもののため、クルーガーも化粧などで身なりを整えることになった。

本当はそのような場に参加したくなかったというのが本音だったが、オルファンスやシルフィーヌから少しでも情報が欲しいからという理由で参加するよう命令されたため、クルーガーは従うしかなかった。

クルーガーが準備を終えて部屋から出ると、シルフィーヌとアニスフィアが扉の外で待っているところだった。

 

「準備はできたようですね」

「えぇ。待たせてしまったようで」

「なんか、ちゃんとしてるクルーガーって新鮮な気がするね」

「普段がちゃんとしていないと言っているようにも聞こえますが・・・まぁ、そこはいいでしょう。私も、今回の謁見で相応の働きを見せねばなりませんから」

「やはり、貴方にも思うところがあるということですか?」

「少なくとも、ただの痴情のもつれだなんて単純なものではないでしょう。それを見極めるのが、私の役割です」

「どうやら、私から言うことは何もないようですね。頼みましたよ、クルーガー」

「承知しました」

 

シルフィーヌに一礼をしてから、クルーガーは侍女に連れられて謁見の間へと先に向かった。

中に入ると、すでに王族とシアン男爵親子以外の参加者がすでに集まっていた。

今回の謁見は内容が内容であるため、参加するのは婚約破棄騒動に関わっている最低限の貴族と護衛で、その護衛もオルファンスの腹心ばかりで固めている。

今回の謁見は、オルファンスらとしても本気ということだろう。

強いて問題点を挙げるとするならば、

 

「見よ、最後に現れたのはあの男だぞ」

「陛下に重用されているからと図々しい」

「やはり旅人風情は礼儀というものを知らないらしい」

 

クルーガー、というよりクルーガーとアニスフィアに対して敵対的な貴族も混じってしまっているということだろうか。

さすがにこの場で何か大それたことをやらかすとは思っていないが、それはそれとして鬱陶しくはあるためクルーガーは内心でため息を吐いた。

 

「クルーガー殿、ずいぶんと遅い到着ですな」

「これはごきげんよう、シャルトルーズ伯爵」

 

その中で、恰幅の良い銀髪の壮年の男が歩み寄ってきた。

名はシャルトルーズといい、魔法省の長官を務めている。

ありていに言えば、アニスフィアとクルーガーとはどうあがいても相容れることができない不倶戴天の敵同士だ。

アニスフィアたちに嫌味を言った回数は数知れず、研究成果や魔物の素材を妨害目的で買い取ったことも珍しくない。

そんな男がこの場にいるのは、魔法省の長官という相談役としての地位からだ。

だが、その地位もクルーガーによって脅かされているため、ある意味ではアニスフィアよりもクルーガーを敵対視しているというようにも言える。

 

「到着が遅くなってしまったことは申し訳ありません。支度に時間がかかったというのもありますが、向かう前にアニスフィア様とシルフィーヌ様に呼び止められまして、少し話をしていたのです。ですが、謁見の時間には間に合っておりますので、問題はないと思われますが」

「貴殿はもう少し自身の立場というものを理解した方がいい。いくら王族から信頼を得ているとはいえ、貴殿は陛下のご慈悲で滞在させてもらえているだけの、国民ですらない根無し草なのですから。立場を弁えないのであれば、いつかこの国にいられなくなるかもしれぬでしょうなぁ」

「そうなってしまっては寂しいですね。ですが、私は元より旅人です。その時は、再び放浪の身に戻るだけのこと。割り切ることくらい難しくありません。あぁ、ちなみに聞いておきたいのですが・・・貴方のおっしゃる“王族”に、アニスフィア様は入っているのでしょうか?」

「ッ」

「もしそうでないとしたら、弁えるべきは貴方の方でしょう。王位継承権を放棄しているとはいえ、アニスフィア様も王族です。もしや良からぬことを画策しているのではないかと考えてしまうのは、私の思い込みでしょうか」

 

侮蔑を隠そうともしないシャルトルーズ伯爵と、何を言われても動じずに返すクルーガー。

この二人の会話は、いつもクルーガーが主導権を掴んでいる。

 

「・・・まさか。我ら魔法省は陛下の相談役。そのご息女に危害を加えるはずがないでしょう」

「それはよかった。私はアニスフィア様の相談役ですから、もしアニスフィア様の御身に何かあってはいけません。それが他の貴族によるものであればなおさら。アニスフィア様は寛大な御方ですから、魔法省の方々と余計な諍いは起こさないに越したことはありません。できることなら、良好な関係を望みたいものです」

 

笑みを崩さずにそうのたまうクルーガーに、シャルトルーズ伯爵は何とか舌打ちをこらえてクルーガーから離れていった。

それからほどなくしてオルファンスやアニスフィア、シルフィーヌも謁見の間に現れ、謁見の時間を待つのみとなった。

そして、謁見の間の扉が開かれ、とうとうシアン男爵とレイニ・シアンが現れた。

シアン男爵は濃い茶髪に灰色の瞳をギラリと鋭くした、元冒険者というのがよくわかる風体の大男だった。そんなシアン男爵は見るからに緊張しきった様子で、その大きな体も心なしか縮こまっているようにも見える。

反対に、レイニは艶やかな黒髪に灰色の瞳を伏し目がちにし、儚げで憂いに満ちた表情は薄幸の美少女と呼ぶにふさわしかった。

 

「シアン男爵。そしてその娘、レイニよ。よくぞ参った。面を上げよ、発言を許す」

「はっ!この度は我が不肖の娘が大変なご無礼を!どうか、どうかご寛恕を!」

 

オルファンスから面を上げての発言を許されたにも関わらず、シアン男爵は頭を下げたまま謁見の間が響くほどの声量で慈悲を乞い始めた。

オルファンスから再び諭されたことで幾分か平静さを取り戻したものの、それでも緊張は解けないまま、オルファンスからの質問に答えていく。

その姿からは悪意や害意のようなものは微塵もなく、ただただ王族への申し訳なさで張り裂けそうになりながらも自身の娘の身を心から案じている、ただ一人の親そのものだった。

そのような様子を見る限り、シアン男爵が何かしらの策を弄しているようには見えず、婚約破棄の件については本当に無関係であることがうかがえた。

そのことがわかったのか、オルファンスの視線が次に婚約破棄の中心人物でもあるレイニに向けられた。

 

「レイニ・シアン。面を上げよ」

 

オルファンスから命じられ、レイニはゆっくりと顔を上げた。

その目に光はなく、緊張こそしていれど感情の光は見えないまま。

そんな面持ちであるにも関わらず、あるいはそんな庇護欲をそそるような姿だからこそか、すでに一部の貴族の目がレイニに惹かれていた。

 

「発言を許す。率直に問うが・・・お主はアルガルドと情を交わしていたのではないか?」

 

オルファンスの問い掛けに、周囲の注目がレイニへと集まる。

 

「・・・いえ」

 

そんな中で開かれたレイニの口から出た言葉は、たったその一言でこの場を支配したかのように謁見の間に響き渡った。

シアン男爵のように声を張り上げているわけではないにも関わらず、レイニの声は平等に謁見の間にいる人々の耳に届いた。

 

「とんでもないことでございます。私はとてもそのような身に余ることは考えておりません。アルガルド様を好ましく思っていた、と言わなければ嘘になります。ですが決して、王家の未来を暗澹とさせるようなつもりはまったくございません」

 

謁見の間にいる誰もがレイニの言葉に聞き入り、僅かな挙動すら見逃せないと言わんばかりに言葉も発さずただただレイニに見入る。

長いようにも短いようにも思える沈黙を破ったのは、気を取り直したように咳ばらいをしたオルファンスだった。

 

「・・・そうか、そなたの言葉に嘘はないようだ」

(なるほど、そういうことか)

 

場の空気が穏やかに『レイニは悪くない』という雰囲気でまとまっていく中、クルーガーは惑わされることなく違和感に勘づいていた。

クルーガーですら、オルファンスやシルフィーヌに信頼を得るために、アニスフィアの危ないところを救ったという事実やアニスフィアと共にいることによる利益を提示する必要があった。

それにも関わらず、レイニという少女はたった数言でこの2人から『この令嬢に悪意はない』という信頼を得た。

そして、それはオルファンスとシルフィーヌだけでなく、謁見の間にいる全員がそのような認識でまとまっていった。

まるで、この場ではレイニが最も正しいと思い込んでいるかのように。

 

(精神を操る・・・いや、認識に作用する魔法か。問題は、その発動方法。周囲の精霊が変質した形跡はない。だとすれば・・・)

 

今起きている現象から、クルーガーは次々と推測を組み立てていく。

だが、仮にそれが正しかった場合、ちょっとどころではない騒動が起きるだろう。

できるだけ穏便に済ませるにはどうするのがいいか。

最良の選択を思考し続け、オルファンスへと意見を具申しようとした次の瞬間、

 

「ブェックションッ!!」

 

謁見の間に、アニスフィアの盛大なくしゃみが響き渡った。

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