とある賢者の教導奇譚   作:リョウ77

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3日連続投稿の2日目です。
今回も前話に続く原作要素強めの回です。次から本気出します。


証明される魔学の価値

今回の講演会はユフィリアが主導しティルティとクルーガーが補佐を務める形で準備をしてきた。ちなみに、アニスフィアは一度口を出し始めると止まらなくなるため途中からティルティとクルーガーによって追い出されている。

 

「・・・まさか本当にクルーガーとティルティまで参加するとはね」

 

そして講演会の当日、会場へと向かう道中でアニスフィアは意外な同行者2人に対してそのようなことを言った。

 

「私はユフィリア様の大舞台を特等席で見物したいだけよ」

「私としても、今回の講演会による影響がどれほどのものか気になりますので」

 

本来であれば2人に招待状は届いていないため参加できないのだが、各々の興味のためにユフィリアの協力者という形で同行することになった。ちなみに、イリアとレイニは招待状が届いていないということもあって離宮で待機している。

とはいえ、アニスフィアにとってティルティはともかくクルーガーが補佐を務めるというのは頼もしいことでもあるため、敢えてそれ以上の言及はしなかった。

クルーガーもそれ以上のことは何も言わず、代わりに直前の一悶着について話題を変えた。

 

「それにしても、先ほどは冷や冷やしました。まさか、ユフィリア嬢がシャルトルーズ伯爵にあそこまで突っ込んだことを仰るとは思いませんでしたよ」

 

実は、会場に向かう道中で一行はバッタリとシャルトルーズ伯爵と出くわしていた。

その中で、ユフィリアがアニスフィアと魔法省の関係について切り出したのだ。

アニスフィアと魔法省の不仲は周知の事実ではあるが、それは暗黙の了解のようなものであって表立って指摘されることはない。というより、話題に出した時点で魔法省側に与さなければアニスフィアと同じ状況に立たされるということでもあるので、中立の貴族やアニスフィアと親しい騎士から話題に出すのは憚られるという一面もあった。

それを、令嬢とはいえ公爵家の人間が真正面から指摘するというのは、爆弾以外の何物でもなかった。

結果的に言えば、あからさまに険悪な雰囲気にはならなかったものの“アニスフィアを信じている”ユフィリアと“アニスフィアを受け入れられない”魔法省の対立が浮き彫りになったため、一歩間違えれば講演会の前に一波乱が起きてもおかしくはない状況だった。

 

「すみません。ですが、講演会の中で言うつもりのことでもありました。ですので、講演会の最中に険悪な空気になるよりは、と思ったのですが・・・」

「まぁ、結果的に牽制にはなりましたので、これ以上私からあれこれ言うつもりはありません。ただ・・・」

「ただ?」

「随分と変わられましたね。婚約破棄の前であれば、あのようなことは仰らなかったでしょうに」

「・・・そうですね、そうかもしれません」

 

婚約破棄前までの自分自身を噛みしめるかのように、ユフィリアは目を伏せながらクルーガーの指摘を肯定した。

以前までのユフィリアであれば、シャルトルーズ伯爵の言うことに思うことはあれど、それを口にすることはなかっただろう。

ユフィリア自身もそのような変化に戸惑いがないわけではないが、それ以上にその変化をもたらしたアニスフィアに恩を感じていた。

 

「叶うのであれば、今回の講演で他の貴族にも同じような変化が表れれば、と思いますが・・・」

「さすがに今回だけでは難しいでしょう。ですが、きっかけになる可能性は高いです。自信をもっていきましょう。アニス様もよろしいですか?」

「あ~、うん、まぁね」

 

ユフィリアから向けられる真っすぐな感情にアニスフィアは思わず照れるが、講演会がもうすぐ迫っていることを思い出してすぐに気を取り直す。

そして、案内人に誘導されてとうとう講演会の会場の中へと入った。

会場には多くの貴族が集まっており、アニスフィアたちを値踏みするように見る貴族が多い中で、思っていたよりも熱心に話を聞こうとしている姿勢の貴族も少なからずいた。

とはいえ、本題は講演会のため、人間観察はほどほどに切り上げて意識を切り替える。

 

「皆様、ご機嫌よう。本日の講演を務めさせていただきますアニスフィア・ウィン・パレッティアです。本日はこの講演会を開いていただき、大変うれしく思っております。今日は、先日私が討伐したドラゴンの素材、その使い道についての講演となります」

 

アニスフィアの前口上に、会場からちらほらと拍手があがる。

「思ったより拍手が多いだけマシだな」と頭の片隅で考えながら、アニスフィアはあらかじめ壇上に用意していた魔女箒を手に取った。

 

「さっそくではございますが、さっそく講演を始めさせていただきたいと思います。ドラゴンの素材の使用用途を説明する前に皆様にご覧になっていただきたいものがございます。風の精霊石を使った飛行用魔道具、魔女箒です。この魔女箒があれば、人は空という未踏の領域へと踏み出すことができます」

 

それからアニスフィアは魔女箒の利点や課題について説明するが、形式のために起こっていた先ほどの拍手とは違ってごく一部の例外を除いてその話を熱心に聞いている貴族は存在しなかった。

とはいえ、これは最初から予想していたことでもある。

予定通り、講演をアニスフィアからユフィリアへと受け継いだ。

 

「アニスフィア王女の助手を務めさせていただいております、ユフィリア・マゼンタです。ここからは魔法使いの観点としての説明も交えるため、不肖ながら私が説明を引き継ぎたく思います」

 

ユフィリアが前に出た途端、会場が小さくどよめいた。

その大半が動揺と困惑によるものだが、中には“魔法使いの観点としての説明”という言葉に期待を膨らませた者も少なからず存在した。

 

「先日ドラゴンと交戦した際、私も魔女箒による飛行を体験しておりました。この経験により、私は魔法による飛行の可能性を見出しました」

 

そう言いながらユフィリアが風魔法で空を飛ぶと、先ほどよりも強いざわめきが沸き上がった。

 

「見事にまぁ、目の色変えちゃって」

「とはいえ、こちらにとって都合のいい展開であることに違いはありません。今が押し時ですね」

 

小声でアニスフィアの時と露骨に反応が違うことを皮肉るティルティを窘めながら、クルーガーは本命のための準備を始める。

 

「ご覧のように魔法による飛行は可能ですが、魔力消費や制御の難しさなどから非常に高い技量が求められます。習得するにはシルフィーヌ王妃様や我が父と並ぶ腕前が要求されるでしょう。一方、魔女箒ですがこちらは使用者の資質を問わないという点で非常に優れていますが全体的な技術が未熟であり、形状から乗り心地は悪く安定性や安全性に欠けるためこちらも誰もが使える代物ではございません」

 

魔法による飛行が困難であると知った貴族たちは落胆の息を吐き、魔女箒のことを一瞬褒められたアニスフィアも直後にダメ出しを喰らって思わぬ精神的ダメージを受けた。とはいえ、形状に関してはほぼ100%アニスフィアの趣味で作られたものなので、利便性の面でダメ出しを受けるのは仕方のないことではあるのだが。

 

「そこでドラゴンの素材です。ドラゴンの翼はあの巨体を浮かばせる特殊な力場を発生させることがわかりました。そのドラゴンの素材を組み込むことでより安全な飛行用魔道具を作ることができないか、そうして考案した魔道具の資料がこちらです」

 

そうして、ユフィリアの発言のタイミングで映写機の魔道具の前で待機していたクルーガーが会場内が暗転すると同時に起動させ、ユフィリアが高らかにその魔道具の名を宣言した。

 

「馬に乗るような安心感で、空を舞うドラゴンように自由に飛行する。それがこの“エアドラ”です!」

 

映写機に表示された画面には、水上バイクに近い形状をした乗り物が映し出されていた。

これこそが、ユフィリアが提案しクルーガーとティルティからアドバイスを加えたことで生み出された、新たな飛行用魔道具の姿だった。

 

「エアドラは馴染みのない形をしておりますが、乗馬の要領で乗りこなせます。また、研究が進めば量産や貨物の運搬ができる展望もございます。それを実現するためにもドラゴンの素材は必要不可欠となります」

「・・・なるほど、確かに箒で空を飛ぶのは珍奇なものだが・・・」

「乗馬の応用が利くとなれば親しみが持てますな」

 

(魔女箒よりもウケがいい・・・)

(当然です。趣味で好きなものを作ることを否定するつもりはありませんが、これからは広めたいのであれば万人に受け入れられやすい造形を心がけてください)

(私の心を読まないでもらえるかな・・・!?)

 

魔女箒と比べて明らかに貴族たちに受け入れられていることに複雑な気持ちを抱くアニスフィアに、クルーガーが風魔法でアニスフィアだけに聞こえるように声を届けた。

結局のところ、いくら有用でも第一印象で受け入れられるかは見た目が重要になってくる。

アニスフィアの中では「魔法使いは箒で空を飛ぶもの」というイメージが強くあるが、そのような物語が存在しないパレッティア王国では箒は基本的に清掃のために使うものであり、空を飛べると言われても見た目が掃除道具であれば乗ろうと思うはずがなかったのだ。

それに比べれば、ユフィリアのエアドラは馴染みのない造形ではあるものの「馬の代わり」と説明されれば貴族たちに受け入れられるのも当然の話だった。

今回の講演でアニスフィアもそのことを学ぶことができたと判断したクルーガーは、講演も終わったということで映写機の電源を落とすために近づこうとする。

 

「ドラゴンの素材の使用用途については以上となります。そして、皆様にはもう少し時間をいただきたく思います」

(・・・ん?)

 

だが、ユフィリアが話を続けたことで動きを止めざるを得なかった。

本来の予定であれば、必要なことは説明したということで終わりの挨拶に移る予定だった。

今回の講演は、一部の保守派からは相変わらず受け入れた様子は見られなかったものの、それでも予想よりは評判も良かったためこれ以上講演を続ける理由はない。

内心で首を傾げるクルーガーたちだったが、次のユフィリアの放った言葉に3人とも度肝を抜かれることになった。

 

「飛行魔道具の有用性については、先ほど私たちが説明した通りでございます。ですが、魔法省の方々はアニス様の発明が精霊や神々への冒涜ではないかと疑念を抱かれてはいないでしょうか?」

(・・・ん?え?今それやるの?マジで?)

 

ユフィリアが放った超弩級の爆弾にクルーガーは思わず困惑し、アニスフィアも公の場で放たれたこの発言に動揺しながら止めた方がいいのかオロオロし始める。ティルティも思い切り噴き出しはしたものの、笑いを堪えているあたり抱いている感情は他の2人とは違うようだったが。

そんな3人を差し置いて、ユフィリアは言葉を続ける。

 

「たしかに、アニス様の発想は既存にない大胆な、言い換えれば余人には理解できないものに見えるでしょう。しかし、身近で見てきた私には魔学は精霊信仰とは形が異なった精霊たちへの敬意の表れであると思えるのです」

 

この場で発するにはあまりにも刺激的な内容にクルーガーは鋭く会場の反応を確認した。

だが、中立的な立場の者はおろか、魔法省に所属している貴族までもがユフィリアの言葉に静かに耳を傾けていることに、少なからず驚きを覚える。

 

「世を知り、理を知り、魔法を知り、その全てが合わさり魔学は生まれています。魔学とは学問であり、決して信仰や伝統を蔑ろにするものではありません。むしろ魔学とは、今まで我らが受け継いできた伝統と叡智があってこそ生まれたものなのです。私は、アニス様がこの国に生まれてきたことこそ、誇るべきものだと思っています」

 

そう言って、ユフィリアはアニスフィアの方を振り向いて優しそうに微笑む。

そのことにアニスフィアは思わず目の奥が熱くなり、クルーガーもその光景を微笑みながら眺め、ティルティはからかい混じりの笑みを浮かべる。

そして、ユフィリアは再び会場の方を向いて語り始めた。

 

「どうか異端と決めつけないでください。アニス様が精霊の加護を賜らなかったのは、無才だからではなくその才を精霊がお認めになったが故なのだと、皆様にお伝えしたく思います。私は思うのです。今こそ変化と共に我らは歩むべきなのだと。ここまで歩んできた礎と共に、皆様と共に未来を目指したく思うのです。今日は、その良き未来への第一歩となればと思うばかりでございます」

 

ユフィリアが最後にそう締めると、ゆっくりと拍手が起こり、次第に会場内に響き渡るほどへと大きくなっていった。

そんな中、シャルトルーズ親子が拍手をせず険しい表情を浮かべていることに気付いていたのはクルーガーだけだった。

 

 

* * *

 

 

講演会が終わってからは立食パーティーに移り変わり、いったん4人は分かれて各々の時間を過ごし始めた。

ユフィリアは他貴族から続々と話しかけられ、ティルティはちゃっかり食事を堪能している中、アニスフィアとクルーガーはそれぞれ会場の端に移動して壁のシミとなっていた。

動きがあったのは、立食パーティーが始まってしばらく経った時のことだった。

会場の隅で貴族の出方を伺っていたクルーガーは、シャルトルーズ伯爵の息子であるモーリッツがアニスフィアに話しかけているところを目撃した。

アニスフィアは嫌そうな顔を必死に抑えながら離れようとするが、モーリッツはしつこくアニスフィアに付きまとう。

 

(ふむ、そろそろか・・・)

 

次の瞬間、遠くから『ギイィィィィンッ!』と甲高い音が鳴り響いた。

それはアニスフィアが離宮に仕掛けた警報装置であり、つまり離宮に何か良くないことが起こっているということに他ならなかった。

突如鳴り響いた謎の音に会場内がざわめく中、クルーガーは人混みの間をすり抜けるように移動してアニスフィアの下へと駆け寄る。

 

「あぁ、王女殿下!暴れないでください!誰ぞ!誰ぞここに!王女殿下がご乱心である!!」

 

人混みを抜けてアニスフィアの下へたどり着くと同時に、モーリッツが大声でアニスフィアの乱心を抑えるようにと人手を呼んだ。

それが、アニスフィアの一線を越えるきっかけになった。

アニスフィアはガシッとモーリッツの腕を掴み、ギシギシと力を込めた。

 

「・・・いい加減にしろ!離せってっ、言ってんでしょうがッ!!」

 

力任せにモーリッツを投げ飛ばしたアニスフィアからは魔力が溢れ、徐々に形を成していく。

その姿に、近くにいた貴族は震えた声で畏怖と共に呟いた。

 

「ド、ドラゴン・・・!」

 

非常時とはいえ、この場で出すつもりのなかった力を放出してしまったことにアニスフィアは歯噛みするが、そうしている暇はない。

 

「アニス様!」

「っ、クルーガー!」

 

クルーガーの呼びかけに、アニスフィアが反応して視線をクルーガーに向ける。

そのタイミングを狙ったのか、あるいはただの偶然だったのか、半ば狂乱しているモーリッツはアニスフィアへと向けて魔力による砲弾を放った。

アニスフィアは反応が一瞬遅れて咄嗟に防ごうとしたが、その間に入ったユフィリアが魔力弾をアルカンシェルで弾いた。

突然の介入に一瞬面食らってしまったが、空いている手にはマナブレイドが握られているのを見たアニスフィアの判断は一瞬だった。

 

「ユフィ!離宮側の窓へ!」

 

アニスフィアの指示にユフィリアは即座に従い、アニスフィアの手を掴んで窓へと走りだそうとする。

だが、その2人の道を塞ぐかのように何人かが杖を構えて立ちふさがる。

それをティルティが闇魔法による拘束で立ちふさがった貴族を捕らえようとした次の瞬間、

 

「余計な手出しはしないでもらいましょう」

 

カンッ!と杖を床に叩く音が響くと同時に、会場全体を極寒の冷気が覆い尽くした。床には氷が張りめぐらされ、バランスを崩した貴族たちは次々と転んでいく。

だが、アニスフィアたちの周囲には一切氷が存在せず、問題なく走り抜けることができた。

 

「アニス様、ユフィリア嬢。ここは我々が抑えます」

「っ、お願い!」

「お任せしました!」

 

手短に感謝を言葉を送った2人は、ユフィリアによる飛行魔法で窓を突き破り離宮へと向かっていった。

それを確認したクルーガーは、改めて周囲を囲む貴族たちへと向かい合う。

 

「さて、では足止めといきましょうか。ティルティ嬢は下がってください」

「あら、さっきは“我々”って言ってたのに、私は仲間外れかしら?」

「いえ、この場全員を足止めするよりも暴れた後のティルティ嬢を抑える方が面倒くさいので、できれば大人しくしていてください」

「はっきり言うわね・・・」

 

一見すればこの場にいる他の貴族を馬鹿にしているようにも聞こえるが、クルーガーの言葉に一切の誇張はない。

体質のせいで魔法の発動が困難なティルティだが、闇魔法に関してはユフィリアに匹敵するほどの才覚の持ち主であり、暴走覚悟で魔法を行使すれば1人でこの場を制圧できるほどの力の持ち主なのだ。

 

「なんのつもりだ、クルーガー」

 

そんな傍から見れば余裕の態度を崩さないクルーガーに、シャルトルーズ伯爵が怒気と怨嗟を込めて問いかける。

 

「なんのつもり、ですか。どちらかと言えばそれはこちらの台詞ですが・・・まぁ、私から問いただしたところで大して意味はありませんか」

「私が質問しているのだぞ、旅人風情が!!」

「そう荒立てないでください。別に大したことではありませんよ。姉弟喧嘩に水を差すような野暮はさせない、というだけです」

 

クルーガーの言葉に、その場のほぼ全員が疑問符を浮かべる。

アニスフィアとの姉弟関係など、アルガルドしかいない。なぜこのタイミングでアルガルドとの姉弟喧嘩の話になるのか。

その意味を理解できたのは、納得した表情で頷くティルティと顔面を蒼白にしたシャルトルーズ親子だけだった。

 

「きっ、きさま、なぜ・・・!?」

「それは言ったところで栓のない話でしょう・・・そういうわけですので、シャルトルーズ伯爵、ならびにご子息のモーリッツ様には国家転覆の疑いがございます。大人しく拘束されるのであれば手荒な真似はいたしません」

「なっ、それは本当なのですか!?」

「どういうことですか、シャルトルーズ伯爵!」

 

クルーガーの言葉を聞いて、周囲の貴族に動揺が走る。

魔法省長官が王族に対して弓を引くのかと問いただそうとするが、シャルトルーズ伯爵の怒声によってかき消される。

 

「黙れッ!!口から出まかせを言いおって!やはり魔学など異端そのもの!魔学こそが王国を揺るがす毒物なのだ!何をしている!早くその2人を捕らえよ!!」

 

もはやなりふり構わずに怒鳴り散らすシャルトルーズ伯爵に近くの貴族は困惑するが、上司の命令には逆らえないのかクルーガーとティルティを包囲するように動き始めた。

 

「くっ、はははは!」

 

次の瞬間、突然クルーガーが笑い始め、貴族たちが動きを思わず止めた。

ティルティもまた、初めて見るクルーガーの姿に目を丸くする。

 

「何がおかしい!!」

「いえ、実に滑稽だったもので。あなた方はアニス様に感謝するべきなのでしょうが・・・言ったところで意味のないことですか」

 

錯乱するシャルトルーズ伯爵に、クルーガーはその表情に軽蔑と嘲笑を浮かべる。

 

(あぁ、本当によかった。どうやら期待通りだったようだ)

 

ユフィリアの講演と演説が終わった時、シャルトルーズ親子は拍手をするどころか険しい表情を浮かべていた。

あの時それを見たクルーガーが感じたのは、安堵だった。

 

(まさか心変わりでもするのかと冷や冷やしたが、余計な世話だったな。これなら()()()()に事を進めることができる)

 

ユフィリアの突然の演説に肝を冷やしたのは、何も魔法省とアニスフィアの関係が余計に拗れるのではと心配したからではない。むしろシャルトルーズ親子がユフィリアの演説に絆されることで今後の予定が狂うことを恐れていたのだが、結果的にそれは無用な心配に終わった。

 

(さて、アニス様の踏み台にふさわしくなれるよう、せいぜい道化を演じてくれよ、シャルトルーズ伯爵殿)

 

笑いをおさめたクルーガーが、一歩前へと踏み出した。

たったそれだけのはずなのに、謎のプレッシャーを感じた貴族たちは思わず一歩後ろへと下がる。

ただの旅人、そのはずなのに、まるで得体のしれないモノを前にしているような、あるいは先ほどのアニスフィアから立ち昇ったドラゴンのオーラを目撃したような感覚に陥った貴族たちは怖気づいてしまう。

そんな貴族たちをあざ笑うかのように、クルーガーは口元に笑みを浮かべながら宣言した。

 

「本当は私の流儀ではないのですが・・・特別講義の時間です。今回は特別に、あなた方にも賢者の叡智を授けてさしあげましょう」




本当はコミックの方にあったユフィリアと伯爵のやり取りも書こうかと思ったんですが、思った以上に長くなっちゃいそうだったのでカットしました。
そりゃあアニメも詰め込みきれずに一部飛ばし気味になっちゃうわけだ。だって内容が濃すぎるんだもの。
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