昼食を食べ終えた後、クルーガーたちはアニスフィアの工房で講義を始めた。
「さて・・・では始めに、アニス様がどのように魔道具を開発しているか聞いても?」
「どうって・・・とりあえず作って組み立てて、試して、失敗しての繰り返し?」
「うそですよね・・・?」
製作過程と言うにはあまりに突拍子な物言いに、クルーガーは思わず頭を抱えた。
「試運転というのは、完成してから行うだけものではありませんよ」
「えっ、そうなの!?」
「えぇ。本来であれば、道具とは部品ごとに試運転を行い、異常がないか確認してから組み立てを行うものです。ついでに言うなら、精霊石を用いるのであれば、どれほどの魔力量でどれだけの効果を発するのか、また使用する精霊石の量や質でどれだけ効果が変わるのか。その測定も必要になります。魔力量に関しては感覚的なものになりやすいですが、おおよその基準を決めれば問題になりません」
「え~、でもそれはやってるよ?」
「ですが、精霊石
「ま、まぁ・・・」
「道具として組み立てた場合、回路によっては効果が増幅したり減衰する場合があります。特に増幅する場合では、先ほどまで話に聞いたように暴発の可能性もあります。例としては、あの台座がそうでしょう」
「あ~・・・たしかに、温度調整でよく失敗してたかも・・・」
「なるほど・・・では、まずはあれの改良から始めてみましょうか」
そういうことで、クルーガーたちは台所へと向かって台座を解体した。
「なるほど・・・改善点はわかりました」
「ほんと!?」
「えぇ。上手くいけば、小型化もできるでしょう」
クルーガーの言葉を聞いて、アニスフィアは目を輝かせる。
歳相応の立ち振る舞いにクルーガーは思わず微笑みをこぼしながら、調節ネジの部分を指さした。
「この部分ですが、熱の上昇と減少の機能を持っていますね?」
「うん。上昇の部分が上手くいかなくてね~」
「では、上昇の機能を取っ払いましょう」
「え?」
「付ける機能は起動・・・いえ、点火ですかね?点火と減少、この2つで十分です」
「そうなの?」
クルーガーの指摘が予想外だったのか、アニスフィアはキョトンとしながら手元を覗き込んだ。
「アニス様はこの台座をお作りになった際、焚火を想像しながらお作りになりましたか?」
「え?えっと、う~ん・・・まぁ、そう、かな?」
「たしかに焚火であれば、一度弱めた火を強くするには新たな燃料が必要となります。ですが、この魔道具であれば違う考え方で調節できます」
「例えば?」
「そうですね・・・強いて言うなれば、蓋でしょうか。点火時の魔力は最大で魔力を注ぎ、調節は注ぐ魔力の量を調節して行うようにします」
そう言いながら、クルーガーは2枚の板を扉のように置いた。
「この2枚の板を調節機能としましょう。この閉じている状態が停止状態とします。いわば、蓋が閉じている状態です。そして、起動するときはこの蓋を全開に開けます」
クルーガーは板に大きめの隙間を空け、そこに魔法で風を通し、それから隙間を広くしたり狭くする。
「そして、調節は蓋の開け閉めで行います。こうすれば、暴発のリスクは格段に減るでしょう。少なくとも、起動時を除けば暴発はほぼ起こらないはずです。さらに、機能を絞ることで小型化も容易になるでしょう」
「お~!すごい!すごいよ!よし、今から改良するね!」
そう言って、アニスフィアは風のように走り抜けていった。おそらく、工房に行ってさっそくクルーガーのアドバイスを元に保温装置を作り直すのだろう。
クルーガーは元気なものだとその後ろ姿を眺めていると、イリアがジッと見ていることに気付いた。
「・・・なんでしょう?」
「いえ、お礼をと思いまして。姫様にあのように接していただける方は、城内にはほとんどいません。姫様とよく関わっている冒険者などはいらっしゃいますが、あのように魔道具について的確なアドバイスを出せる方は今までいませんでしたから」
「そうですか・・・なら、私もこの国では異端に近いのかもしれませんね」
「それは・・・」
「構いませんよ。元々、私は流れの旅人、それも国外の魔法使いです。今さらでしょう」
つまり、クルーガーもアニスフィアと共にこの貴族に嫌われる覚悟がある、ということだ。
だが、元々旅人のクルーガーはその場その場での立場や評価に興味が薄いため、そもそも気にしない、というのが大きいが。
それでも、それ以上に、
「あのお方は、いずれこの国に必要な存在になるでしょう。それまでに支えるのも、私の仕事です」
「・・・つまり、姫様を王位に据える、と?」
「今はまだそこまで言いません。ですが、いずれこの国にも改革の風が必要になる。その時に、否が応でも先頭に立つことになるでしょう」
「あなたは・・・」
イリアは、微笑むクルーガーの横顔に何か得体のしれないものを感じながら、どうにか言葉を紡いだ。
「あなたは、いったいどれだけ先を見ていられるのですか?」
「さて、どうでしょうね」
イリアの問いを、クルーガーは曖昧にはぐらかした。
「どれだけと言っても、先ほど言ったことがいつのことになるかまでは私にもわかりません。ですが、聞いた限りの情報から、ある程度であれば起こり得る可能性をいくつか導き出せます。その可能性の1つとして、アニス様が必要になる場合がある、というだけです・・・ですから、せめてそれまでの間、アニス様には元気でいらしてほしいのですよ」
「・・・あなたの言ったことが本当かどうか、私には見当もつきません。ですが、もし姫様に害をなすのであれば、私は容赦いたしません」
「そのつもりは欠片もありませんよ。アニス様といる方が面白そうですからね・・・それにしても、ずいぶんと過激な物言いですね」
「当然です、私は姫様のメイドですから」
「たしかに、メイドとしての義務に則るのであれば、それもそうですね」
最後のクルーガーの含んだ言い方に、イリアは反応を返さなかった。
それから、この日は2人の間で言葉を交わすことはなかった。
* * *
「じゃじゃーん!見て見て!」
翌日、工房から出てきたアニスフィアは
「これは・・・例の台座の改良版ですか?ずいぶんと小さくなりましたね」
「まぁね!これならどこでも持ち運べて簡単にお湯を沸かすことができるよ!」
自分でも会心の出来だったのか、説明しているアニスフィアは晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「それじゃあ、さっそく父上に報告しないとね!」
「陛下に、ですか?」
「陛下も姫様の魔学には期待している部分もありまして、姫様が新しいものをお作りになったら陛下にご覧になってもらい、表に出すかどうか決められるのです」
「なるほど」
納得してから、クルーガーはあることに気付いた。
「・・・そうなると、私も同席した方がよいのでしょうか?」
「うーん・・・一応、ついてきてもらえる?父上の反応も気になるし」
「アニス様がおっしゃるのでしたら・・・そうですね。そうしましょうか」
こうして、初めての共同作業による発明品のお披露目に同席することになった。