とある賢者の教導奇譚   作:リョウ77

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最近になってブルアカにハマってきました。
まぁ、ゲームの方はプリコネとウマ娘でキャパ限界なんで、初期のデータ残ってるとはいえ再開する予定はないですが。
ハマった経緯も、Xで解像度高い呪術パロ画投稿してる人見つけたからで、きっかけはどちらかと言えば呪術寄りですし。
でもメイン・キャラ関係なくストーリー見てるだけで満たされるのが良き。
ちなみに、今の推しはヒナです。髪に顔うずめて吸いたい。


正体に気が付く王子

その夜、パレッティア王国にて一大事件が起きた。

シャルトルーズ伯爵と息子のモーリッツ、そしてアルガルドによる王位簒奪未遂事件だ。

アニスフィアたちが講演会をしている間、アルガルドが離宮を急襲してレイニの心臓から魔石を引き抜き、それを自身に埋め込むことで自らをヴァンパイアと化させて魅了魔法による支配を企んだのだ。

事の発端は、モーリッツがレイニの存在に勘づいたところから始まった。レイニの魅了を受けた自身の状態に違和感を覚えたモーリッツが、禁書庫からヴァンパイアの研究資料を見つけることでヴァンパイアの存在が発覚、そしてヴァンパイアの魅了や不死性に目を付けたシャルトルーズ伯爵がさらなる権威を手に入れるために学園でレイニとアルガルドを接触させるよう手回しをした。だが、アルガルド自身もモーリッツと同じように魅了を受けた自身に違和感を抱いたことでレイニの正体に気付き、逆にアルガルド自らが協力を持ちかけたことで婚約破棄騒動に繋がった。

だが、結果的にその計画は失敗に終わった。

クルーガーによるシャルトルーズ親子の捕縛やアニスフィアとの決闘で敗れたことが大きな要因だが、それ以外にもアルガルドが魅了魔法を使えなかったという点も存在する。

無理やり魔石を移植した影響か、あるいは魔石を埋め込む際に死に近づいたことで生存本能が働いたからか、アルガルドは再生能力しか持っていなかった。

とはいえ、王位簒奪の計画を企てたことや自身がヴァンパイアという異形の存在に成り果てた事実に変わりはない。

そうして、今回の件の主導者であるアルガルドは王位簒奪の罰を表向きの理由としたヴァンパイアの生態調査のために辺境へと追放されることになった。

シャルトルーズ伯爵とモーリッツは国王にレイニの存在を秘匿してアルガルドを焚きつけ王権を脅かしたとして死罪が言い渡され、血縁者や協力者にも重い罰が言い渡されて粛清の嵐となった。

当然、長官が起こした事件が魔法省に与えた影響も大きく、しばらくは代理の決定なども含めて混乱が続くと見られている。

また、アニスフィアはアルガルドを止めるためにドラゴンから託された技術を使用した反動から昏倒してしまい、その流れでオルファンスとシルフィーヌにもその技術が知られることとなってしまった。

刻印紋。

体内に摂取することで身体能力強化の魔法を扱えるようにした魔薬とは違い、ドラゴンの魔石を粉末にして混ぜ込んだ塗料を体外に入れ墨として刻むことでドラゴンの魔力を扱えるようにしたものだ。

これによって、アニスフィアは魔石を摂取しなくても刻印紋を起動させるだけでドラゴンの魔力を扱えるようになったのだが、魔物の力をより直接的に人体に流し込む人道的な観念はもちろん、パレッティア王国では罪人の証といて刻まれる入れ墨を王女が自身に刻んだという倫理・社会的な観念から見ても問題しかない所業にオルファンスは卒倒してしまい、シルフィーヌは良い笑顔で「アニスが起きられるようになったら一報いれるように」と言いつけた。

ちなみに、共犯者であるティルティやクルーガーらはお咎めこそなかったものの圧倒的なオーラを振りまくシルフィーヌからの説教をくらうことになった。

 

 

* * *

 

 

様々なことが起きた講演会から数日経った夜。

独房の中で追放を翌朝に控えたアルガルドに来客が訪れた。

 

「夜分遅くに失礼いたします、アルガルド様」

「・・・いや、構わん。今の私は罪人だ。変に気を遣うこともないだろう」

 

手枷を付けられているアルガルドは、俯いたままクルーガーと言葉を交わす。

今夜のクルーガーの訪問は誰にも許可をとっていない完全な独断によるものだが、今のアルガルドはそのことを気にかけるつもりすらなかった。

 

「こうして、面と向かって話をするのは久しぶりですね。私がアニス様の相談役になった7年前以来でしょうか」

「姉上もそうだったが、派閥からして迂闊に接触するわけにはいかなかった。仕方のないことだろう」

 

他人行儀のように言葉を交わした後に、クルーガーはアルガルドの言葉を待つように口を閉じる。

それを感じ取ったアルガルドは、初めて会った時のことを思い出しながら口を開いた。

 

「・・・お前は、『自分の手の中にあるものを忘れてはならない』と、そう言ったな」

「えぇ、そうですね」

「・・・俺は、姉上の力になりたかった。姉上が笑顔で魔学の研究を続けられるようにしたかった。それこそが、俺の望みで、いつまでも俺の手の中にあった想いだった。その結果が、これだ。こうして人の道を外れた俺は罪人として裁かれ、姉上にすべて押し付けることになってしまった・・・俺のしたことに、意味はあったのか・・・?」

 

自らの罪を懺悔するようなアルガルドの告白を、クルーガーは静かに聞き入れる。

そして、最後の質問に答えるため、クルーガーは口を開いた。

 

「えぇ、安心してください。アルガルド様のしたことには、ちゃんと意味がありました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なっ・・・!?」

 

思わぬ返答、明らかに変わった雰囲気に、アルガルドはバッと頭を上げる。

ヴァンパイアと成ったことで赤く変色したその瞳には7年前に会った時と変わらないクルーガーの姿が映るが、アルガルドにはそれがドラゴンやヴァンパイアよりも恐ろしい何かに見えた。

 

「ふむ、()()()()()()()()()。さすがはヴァンパイア、といったところですね。レイニ嬢もそうでしたし、侮れないものです」

「貴様、何者だ・・・?!」

「私が何者か、ですか。ここでアルガルド様に言ったところで意味はないのですがね・・・いえ、それを言えば私がここにいること自体に意味がありませんし、今更ですか」

 

今まで見せていた紳士のような柔らかな物腰も、教師のような威厳も今のクルーガーからは欠片も感じず、ただただどこか人からかけ離れた気配に、アルガルドは思わず立ち上がり後ずさって距離を取る。

そこでようやく、アルガルドは夜にいきなり訪問してきたにも関わらず衛兵の気配を感じないことに気付いた。

 

「あぁ、見張りの兵士には少し眠ってもらっています。後遺症もありませんのでご安心ください」

「・・・何をしにここに来た」

「別に何も。強いて言うなら、癖のようなものです。とはいえ、このまま何もせずに帰るというのも私の矜持に反しますし・・・そうですね。せっかくですので、アルガルド様の質問を3つまで簡単に答えましょう。講義をできなかった分の駄賃です」

 

クルーガーからの思わぬ申し出に、アルガルドは必死に頭を回す。

ここでクルーガーから核心に迫ることを聞き出せたとして、それをアニスフィアやユフィリアに伝える時間はほとんど残されていない。

そもそも、「やはり効きませんか」という言葉とオルファンスやシルフィーヌが違和感を感じることすらなく信頼を寄せている事実から、ヴァンパイアの魅了を凌駕する洗脳の類の術を使える可能性が高い。下手に情報を流してした場合、それに対してクルーガーが過激で大胆なことをする可能性が存在することを考えれば手紙などで知らせることも現実的ではないだろう。

その上で、最低限渡せる情報を得るための質問を選択した。

 

「1つ目の質問だ。クルーガー、貴様は何者だ?」

「ずいぶんと抽象的な質問ですね。あまり詳しく話すと長くなってしまいますが・・・他者からは主に“賢者”と呼ばれています。たまに“悪魔”と呼ばれることもありますが」

「“賢者”だと・・・?」

 

その呼び名に、アルガルドはあることを思い出した。

それは、禁書庫に収められているある古い文献。いつから存在するか分からないほど風化しているその本には、パレッティア王国の建国にまつわる話がつづられていた。

パレッティア王国は初代国王が精霊と契約を交わして精霊契約者と成ったことがきっかけになったのだが、その禁書には一般に知られている童話には描かれていない人物が存在していた。

曰く、救われない民と報われない生活、それを強いられる現実を嘆いた初代国王に、とある旅の魔法使いが精霊契約の秘儀を授けた。

曰く、その魔法使いは他にも初代国王に様々な知恵や知識を授け、パレッティア王国の建国に大きく貢献した。

曰く、パレッティア王国の建国と同時にその旅人は姿を消したが、その功績を称えて初代国王はその魔法使いをこう呼んだ。

すなわち、“賢者”と。

何故か表舞台からはその存在を抹消されているが、クルーガーがその“賢者”と同一人物なのだとすれば、クルーガーは最低でも500年は生きているということになる。

これだけでも衝撃的な事実だが、さらに情報を引き出すためにアルガルドは質問を続けた。

 

「・・・2つ目の質問だ。貴様は、姉上で何を企んでいる?」

「何も。付け加えるなら、アニス様で何かを企んでいるのではなく、アニス様以外の全てで企んでいる、というのが正しいでしょう」

 

2つ目の質問の返答に、アルガルドは思わず混乱しそうになる。

てっきり、アルガルドはアニスフィアを国王に据えることで何か目的を果たそうとしているのだと考えていた。でなければ、自分が廃嫡されたことを「思惑通り」などと言わないだろう、と。

だが、よくよく考えれば、賢者の伝承にも建国と同時に姿を消したと記されていることから、クルーガーの行動原理は単に権力を得るというだけのことに当てはまらない可能性があったことを失念していたことに気付いた。

そのことに悪態をつきそうになるが、それをグッと堪えて最後に聞かなければならないことを尋ねた。

 

「・・・最後の質問だ。ならばクルーガー、お前の目的はなんだ」

「アルガルド様と同じですよ。アニス様が自由に魔学の研究をできる環境を整える、それだけです」

 

最後の返答を聞いたアルガルドは、さらに混乱しそうになった。

たしかに、アルガルドが廃嫡となった今、現在の次期国王の最有力候補はアニスフィアであり、王配を迎えるとしてもそれだけの権力があれば魔学の研究に文句を言わせないように弾圧することもできるだろう。

だが、アニスフィアのことをよく理解しているアルガルドからすれば「そんなことはない」と断言できる。

破天荒なように見えてその実、責任感が強く王族としての責務を理解しているアニスフィアは、王位継承権が復活すれば間違いなく魔学の研究やその産物の一切を捨て去る。魔学がパレッティア王国にとって劇物であると誰よりも理解しているために。

その結末を、曲がりなりにも長い間アニスフィアの相談役として共に過ごしてきたクルーガーが理解できないはずがない。

アルガルドからすれば、クルーガーのしていることは矛盾以外の何物でもなかった。

 

「やはり、アルガルド様には理解できませんでしたか。とはいえ、見えているものが違えば考えることに差が出るのは道理です。アルガルド様はまだお若いですし、今理解できないことを恥じることはありません」

 

またしても自身の思考を読まれたアルガルドの中に、手枷が壊れそうになるほどの激情が迸りそうになる。

だが、辺境への追放を翌朝に控えている今、余計な問題を起こすわけにはいかない。

鋼の理性で激情を抑え込み、ドサリとイスに座りこんだ。

 

「・・・もう事は済んだだろう。さっさと出て行け」

「私としてはもう少し話をしても構わないのですが・・・わかりました。では、人の道を外れたアルガルド様の行く先に救いがあることを祈ります」

 

どこまでも癪に障る言葉を残して、クルーガーは去っていった。

コツコツと足音が遠ざかっていくのを聞き届けたアルガルドは、大きくため息をついた。

 

(悪魔、か・・・ふっ、言い得て妙だな。賢者と言うには、あまりにも人の道を外れている)

 

悪魔は噓をつかないが、真実もまた語らない。

おそらく、クルーガーが言った目的に嘘はない。だが、それがどうしてもまともな手段とは思えなかった。

それこそ、ヴァンパイアになることを選んだ自分よりも。

 

 

 

 

翌朝、本来であれば裏門から人知れず辺境に送られるはずだったのだが、ユフィリアとレイニが見送りに現れた。

本来であれば会話など許されないのだが、ユフィリアからの申し出と護衛兼監視の騎士の心遣いもあってわずかな時間だが話をすることができた。

それだけで自分のしたことを許されたとは思わなかったが、ユフィリアから思い切りビンタされたこともあって少しだけ吹っ切れることができた。

だからこそ、言うべきか悩んでいたことを言うことにした。

 

「ユフィリア、クルーガーには気を付けろ。今さら敵対はしないだろうが、あの男は底が知れない」

「はぁ・・・?」

 

アルガルドの忠告に、ユフィリアは思わず首を傾げる。

そのことを、迂闊だとは思わない。クルーガーの術にかかっているのであれば、仕方のない反応ではある。

だが、それでも言っておくべきだと考えた。

それに、本当に言いたいことは別にあった。

 

「それと、こればかりは本当に俺から頼めたことではないのだがな・・・姉上を、頼む」

 

どうか、あの悪魔に唆されぬようにと、言葉に出来ない祈りを込めて言い残し、そのまま振り返らずに馬車へと乗り込んだ。

アルガルドを乗せた馬車は、アルガルドから託された頼みに呆然とするユフィリアを残して走り出していった。

馬車に乗り込んでからも振り返らないまま、アルガルドは辺境への長い道のりを馬車に揺られながら残していったものに思いを馳せる。

そして、クルーガーによってもたらされる未来が彼女たちにとって良いものであることを祈り、同時に祈ることしかできない自分自身を呪うことしか、今のアルガルドにはできることがなかった。

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