なるべく原作コピペみたいにならないよう努力しますが、できれば大目に見ていただけると幸いです。
精霊契約者。自分が目指そうとしている領域にいる人物。
まさかこのタイミングで屋敷に現れると思っていなかったユフィリアは、サロンでグランツが茶を淹れている最中もなんと言えばいいのかわからず口を開くことができなかった。
なぜ屋敷に来たのか、なぜ屋敷の中が不自然なほどに静まり返っているのか。
聞きたいことは山ほどあるが、そのきっかけが掴めず視線をグランツとリュミへ交互に向ける。
それに気づいたグランツが、リュミにお茶を淹れながら疑問の一つに答えた。
「案ずるな、屋敷の者たちが起きてこないのはリュミ殿の仕業だ。この方は悪戯好きだが、害意はない」
「えぇ。仲良くしましょう、お嬢さん?」
そんなことを言いながら、リュミはクスクスと笑いユフィリアの方を見る。
その言葉に嘘はないのだろう。
だが、ユフィリアを見つめる黄金の瞳に心臓を掴まれるような感覚を覚えてしまう。
これもまたリュミの悪戯なのだろうが、あまり洒落にはなっていない。
グランツも静かに息を吐きつつ、すぐに本題に入ることにした。
「それで、本日は当家にどのような御用ですか?」
「見定めと、警告よ。まさか兆しを感じたのがグランツの娘だなんて、運命を感じるけど」
「・・・見定め?私をですか?」
ある意味では国王よりも雲の上の存在である精霊契約者が、自分に何を見出し、見定めにきたのか。ユフィリアにはまるで見当がつかない。
だが、グランツにはおおよそ察しがついているのか、目元を押さえるように指を添えて深々と息を吐いた。
「・・・皮肉なものですな」
「皮肉と言えば皮肉かしら?でも、私だってこれでも驚いてるのよ?ドラゴンが飛んできたと思ったら、空を箒で飛んで挑む子がいたと思ったら、杖で一緒に飛んだり後ろになったりした子に兆しが見られるなんて」
「・・・あの戦いを見ていたのですか?」
「えぇ、そもそも私は黒の森に住んでるもの。それでも遠目だったけど」
黒の森は魔物が蔓延る未開拓地であり、奥に進めば進むほど強さも跳ねあがる。
およそ人が住むのにふさわしくない立地に住んでいることに驚きを覚えるが、特に不自由しているわけでもなく人との接触を最低限にするためなのだと説明されればそれ以上は何も言えなくなってしまう。
ユフィリアもリュミが得意な相手ではないと気づき始めたため、今度はユフィリアから本題を尋ねた。
「それで、私の何を見定めに来たというのでしょうか。兆しとはいったい、何のことですか?」
「それはね、あなたが私の同類になるかどうかってことよ」
それを聞いたユフィリアは、思わず腰を浮かばせた。
リュミの同類。その意味は1つしかない。
「つまり、それは・・・精霊契約者ということですか?」
「そうよ。あなたは十分資格を持っている」
「資格・・・」
「精霊契約に至るには条件と資格がいるわ。そこに至れるのはほんの一握り。だから精霊契約者は数が少ないし、簡単に増えることもないわ」
「精霊契約とは、どのようなものなのですか?」
リュミの続きの話には耳も貸さないほどの勢いで、ユフィリアは身を乗り出しながら問いかける。
それに対し、リュミは変わらず笑みを浮かべたまま、
「教えない」
「・・・は?」
一言で拒絶を示した。
ユフィリアもまさかの返答に口を開けたまま固まってしまう。
その様子にリュミはそっとため息を吐きながら、自らが来た理由を明かした。
「私はね、あなたが精霊契約を成し遂げてしまわないよう、素質があるなら引き止めるために来たのよ」
「それが・・・警告ですか?」
「警告なのは間違いないけど、それはまた別の話。でも、見定めと同じくらい大事なことなのは間違いないわ。グランツにも関わる話だもの」
「私も、ですか?」
ただでさえリュミの真意がわからず頭の中が疑問で満たされているところに、さらにグランツにまで関わる警告というものが想像できず余計に混乱してしまう。
そして、それはリュミの言う“警告”を聞いて、さらに深まることになった。
「えぇ。あなた達が今まで頼りにしている“賢者”、あの男の言うことを真に受けてはダメよ」
賢者。アニスフィアならばドラゴンから聞いていたが、ユフィリアはその名に覚えがなかった。
だが、身近に存在する頼りしている男、という条件に当てはまる人物に心当たりがあった。
「その賢者というのは、クルーガーのことでしょうか?」
「クルーガー・・・今はそう名乗っているのね」
その名を聞いたリュミの表情が、僅かに変化した。
今までのつかみどころのない余裕のある表情ではなく、憐憫と嫌悪が入り混じったものへと。
だが、それは目の前の2人に同時に向けられているというより、ユフィリアとグランツに憐憫を向け、クルーガーに嫌悪を抱いているかのようなものだった。
だが、ユフィリアにはその理由がわからない。
クルーガーはたしかに、いつも自分たちに助力を惜しまなかった。
アニスフィアに振り回されながらも悪乗りすることはあったが、自分たちに悪意や害意を向けるようなことは一度もなかった。
「あの、クルーガーのことをご存じなのですか?」
「そうね、顔見知り程度だけど。私だってあの男のことを詳しくは知らないわ。永い間、世界を放浪しながら多くの傑物に知恵を授けた賢ある者。知っているのはその程度よ」
傑物というのは、アニスフィアのような人物を指しているのか。
アニスフィアはその中でもかなり特殊な方ではあるが、同じように一つの時代を築けるような人物たちを導いてきたと考えるのであれば、やはりそれは良いことのように感じる。
だが、リュミからすればそれは違うらしい。
「たしかにあの男は、見出した者の望みを叶えるためなら助力を惜しまないわ。でもね、それが本当に最善とは限らない。時には、未来で取り返しのつかない破滅を招くこともあるの」
「・・・まさか、精霊契約もその類だと?」
「えぇ、そうよ。少なくとも、この国の信仰を信じているようではダメね」
「信じていなくても止めるけど」と付け足すが、ユフィリアの混乱は増すばかりだった。
精霊契約者であるリュミが、精霊契約を否定するという矛盾。
その答えの一つを明かすために、リュミはユフィリアに問いかけた。
「そうね・・・私の見た目に、何か違和感がないかしら?その疑問に気づいたら、理由の一つは分かると思うわよ?」
「違和感・・・?」
促されるまま、ユフィリアはリュミを観察する。
最初は分からなかったが、“普通の少女”としか思えない容姿に気付いた途端、背筋がゾッとするよな可能性に気付いた。
リュミとグランツが親し気に話していることから、この2人は知り合いなのだろう。だがユフィリアが知らなかったということは、ユフィリアが生まれる前の話だろう。
それから最低でも十数年経っているにも関わらず、リュミは自身と同じくらいの年齢の少女にしか見えない。
それはつまり、
「・・・精霊契約者は、歳をとらない・・・?」
「ふふっ・・・ねぇ、私は何歳かと思うかしら?グランツ坊や」
「存じ上げません。私たちが出会ってから、
リュミの警告を受けてクルーガーに関する違和感がないか思い返していたグランツが、一度思考を止めて言葉を返す。
それがユフィリアの推測が当たっていることを示していた。
「精霊契約者は
にわかには信じられない、というより信じたくない話だが、ここでアルガルドからの警告を思い出した。
『クルーガーには気を付けろ。今さら敵対はしないだろうが、あの男は底が知れない』
その言葉は、奇しくもリュミが言ったものと酷似している。ただの偶然と割り切るにはアルガルドの表情はあまりにも真剣だった。
それに、少なくとも『人外となることを勧めた』という点に関しては疑いようのない事実であるため、反論もできない。
『もしかしたら人の道を外れることになるかもしれない。それでも、私には叶えたい願いがあるんだ』
だが、不意にアニスフィアの顔が脳裏に浮かんだ。
アニスフィアは、人の道を外れることになってでも『魔法使いになる』という夢を叶えようとしていた。
ならば自分がここで引き下がる理由にはならない。
なにより、そこまでして叶えようとしたアニスフィアの夢を捨てさせることなど、やはり納得できないし我慢もできなかった。
その覚悟の表情を見たリュミは、深いため息を吐いた。
「・・・あぁ、嫌な目付きをしているわ、あなた」
「申し訳ありません。ですが、私は・・・」
「精霊契約はね、そう簡単にできるものじゃない。必要な資質と
老いることがない人外となってでも、叶えたい願いがあるのか。
その問いかけに、ユフィリアは僅かに考え込む。
だが、その答えは簡単に言葉にすることができた。
「王として、この国を統べる資格を得るために。精霊契約を成し遂げなければ、私は舞台に立つことすらできないからです」
そう告げてからのリュミの変化は、先ほどまでと比べて分かりやすいものだった。
いくらかの沈黙の後に浮かんだ表情は、絶望と憤怒だった。
王になるために精霊契約を成そうとするユフィリアに対する絶望、そしてその道を選ばせたクルーガーに対する憤怒。
二つの感情が交錯する中、何かを諦めたかのように脱力して背もたれに寄りかかった。
「・・・そう、王になりたいと。あの男に何かを吹き込まれたとしても、そこまで強い想いがあるのね」
「リュミ様・・・?」
「とても・・・とても残酷な話ね」
リュミの言葉に力はなく、だが伏せられた目を再びユフィリアに向けた。
「なら尚更、私はあなたを止めなければならない・・・でも、止めようと思って止められるものじゃないのよね。だから、私は語るだけ」
「語る?・・・何をですか?」
「真実を。これはグランツにも話したことがなかったわね。でも、話さざるを得なくなった。それであなた達の、あの男の過ちを繰り返さないことを願うことしかできないのだから。
・・・だから、語りましょう。歴史の闇に消えた真実、ある一つのお話を」
儚さを増したリュミは、2人に本当の物語を語った。
残酷で、救いようがない、ある男の話を。