「ふむ・・・つまり、クルーガー殿の提案を元にアニスが作った、ということでいいのだな?」
「はい、父上」
王城内にある執務室にて、クルーガーとアニスフィアはオルファンスに件の魔道具を披露していた。
オルファンスは魔道具の性能もさることながら、原案はクルーガーによるものだということを聞き、腕を組んで考え込んだ。
「・・・そうか。やはり、お主をアニスにつけたのは間違いなかったようだな」
「光栄でございます」
「お主はもう下がってよい。私はアニスと話すことがあるのでな」
「わかりました。それでは、失礼いたします」
そう言って、クルーガーは頭を下げて執務室から出て行った。
それを確認してから、オルファンスはアニスフィアに問いかけた。
「それで・・・アニスよ。お前はあの男をどう見る?」
「そうですね・・・いい人だとは思いますが、それ以上のことはなんとも・・・」
「ふむ・・・つまり、悪意のようなものはないと?」
「それに関しては、大丈夫だと思います。ただ・・・」
「ただ、なんだ?」
「・・・年齢の割に、知識が深く広いというか、妙に落ち着いているとは思います。旅をしていたというわりには礼儀作法に通じていますし、こんなんですけど、王女と一緒にいてもまったく気後れしてませんし」
「自分で言うか・・・だが、たしかにそれもそうだな。クルーガーのことはどれだけ聞いた?」
「以前に住んでいた場所のことは聞きました」
「たしか、東の果て、と言う話だったな?」
「えぇ。カンバス王国のさらに先、と言っていました」
「そうか・・・調査に向かわせようにも、それも難しいか・・・」
クルーガーのことについて再び考え込むオルファンスだが、アニスフィアは内心では別のことを考えていた。
それは、先ほど言葉に出そうとしてやめたこと。
(・・・父上、やけにあの人のことを信頼しているような・・・?)
もちろん、オルファンスも正体がわからない旅人ということで警戒心を持っているのは間違いないだろうが、他と比べればその警戒は緩いと言える。
アニスフィアもクルーガーのことは気に入っているが、どちらかと言えば他人として見ている。言ってしまえば、旅芸人の芸にはしゃいでいるようなものだ。
だがオルファンスの場合は、長年の友人や家族とまでは言わずとも、少なくとも自分の娘の相談役としては問題が無いと考えているようにも見える。
ただ一度会った、いや、ただ一目見ただけの間柄で、それは異常とも言えた。
(別に、彼が何かをした様子はない・・・いや、一目見ただけで何かできるはずもないと思うけど・・・魔法の類じゃないよね)
アニスは生まれつき魔法を使えないし、精霊の気配も感じることができない。だが、魔力なら感じ取れるため、魔力の有無で魔法の兆候を感じとることもできなくはない。そして、少なくともアニスフィアから見てクルーガーは魔法を使っているようには見えなかった。
(話し方?でも、それだと私にだって影響があるはずだし・・・なら、洗脳とか催眠術?いやいや、変な番組とか漫画の見過ぎでもあるまいし)
実は、アニスフィアには1つ秘密がある。
それは、前世の記憶があるということ。
前世の記憶と言っても、前世の人格と入れ替わったわけではなく、あくまで知識だけが存在している。
彼女が編み出した魔道具も、前世の記憶を頼りに作り出したものだ。
とはいえ、今回ばかりはその前世の知識も役に立たないが。
(う~ん・・・彼が何者かわかるまで、このまま一緒にいる?それはそれでちょっと怖いけど・・・まぁ、現状それ以外にできることがないよね)
たしかに不安要素はあるが、今のところ悪意らしいものは感じないのも確かだ。アニスフィアが彼を気に入っているのも事実であることから、この場は「とりあえずいいや」で片付けることにした。
* * *
(さて、どうしたものか・・・)
一方その頃、思いがけず暇になったクルーガーは王城の中をさまよっていた。
(王城の構造は把握しておきたいが・・・今の身分でうろつくと角が立つか。いざとなればどうにでもなるが、あまり不信感を募らせるわけにもいかない。一度離宮に戻ろうか)
現に、あちこちから視線を向けられている。
その多くは王城に勤めている貴族のもので、お世辞にも好意的とは言えない。
それを避ける手段もあるにはあるが、あまり使い過ぎると周囲に不審がられる可能性がある。
そのため、今はこの視線を甘んじて受け入れながら、今日のところは大人しく戻ろうかと考えた。
(とはいえ、このまま真っすぐ戻るのも味気ない。どうせだし、庭園にでも寄るか)
だが、まるで気まぐれな風のように、クルーガーは行き先を庭園に変えた。
王城の敷地内にある庭園には色とりどりの様々な花が植えられており、訪れた者の心を癒してくれるかのようだった。
「やはり、緑に囲まれていると落ち着くな・・・」
元々旅人のクルーガーは、道中で野宿するのも珍しいことでもない。最近は王城に出入りするようになったこともあって、こうして植物に囲まれていると心が休まるようになっている。
(我ながら緊張しているわけではないだろうが、やはりこっちの方が性に合うな)
「ここで何をしている?」
庭園を見回していると、不意に背後から声を掛けられた。
振り向くと、そこには白金色の髪に青色の瞳の少年が立っていた。歳は、おそらくアニスフィアと同じか一回り下くらい。
クルーガーはその少年との面識はなかったが、それでも立ち振る舞いと容姿からすぐに何者か理解した。
「これはこれは、お初にお目にかかります、アルガルド殿下」
アルガルド・ボナ・パレッティア。アニスフィアの弟であり、次期国王である王子だ。
「あなたか。最近、姉上の相談役となった客人というのは」
「はい。クルーガーと申します。以後お見知りおきを・・・まぁ、あまり関わり過ぎると、他の貴族から睨まれてしまうでしょうが」
アニスフィアと違い、アルガルドは魔法を扱える普通の王族だ。
国内の貴族から異端として見られているアニスフィアの相談役と話すなど、周囲の貴族から良く思われるはずがない。
「それはさておき、何故ここにいるのか、ですか。そうですね、特に目的があって来たわけではありません。ですが、元々私は流浪の旅人。こうして緑に囲まれている方が落ち着くのです」
「そうか」
「ちなみに、アルガルド様がこちらにいらっしゃる理由をお聞きしても?」
「大した理由ではない。勉強の休憩に来ただけだ」
「そうですか」
アルガルドもまたクルーガーを警戒しているのか、言葉数は少ない。
これ以上ここにいるのも良くないと判断したクルーガーは、庭園を離れるために踵を返そうとする。
「では、私は離宮でアニスフィア様を待ちますので、これで・・・」
「待て」
だが、アルガルドはクルーガーを呼び止めた。
視線は花に向けたまま、アルガルドは問いかけた。
「お前は、姉上のことをどう思っているんだ?」
「そうですね・・・面白い方だと思います。私は精霊を信仰しているわけではない、というのもありますが、あのような自由な発想を持っている方は、世界広しと言えどもそうそういないでしょう」
「っ、そう、か・・・」
クルーガーの返答を聞いて、アルガルドは顔を俯かせた。
クルーガーもまた、アルガルドにアニスフィアのことをどう思っているか尋ねようとしたが、この様子を見て並々ならぬものを感じたクルーガーは、別の言葉を口にした。
「・・・私は、あなた様が抱えているものを、我が身のように感じ取ることはできません。次期国王としての責務も、アニスフィア様に対する感情も。ですが、一点だけ申し上げるのであれば・・・今、あなた様の手の中にあるものを忘れてはなりません」
「俺、の・・・」
「あなた様が持っていないものがあるように、アニスフィア様にも持っていないものがある。アニスフィア様が自らの望みを手にしているように、あなた様の手の中にも、ご自身の望みがあるはずです。どうか、そのことをお忘れなきよう」
そう言って、クルーガーは踵を返して庭園を後にした。
残されたアルガルドは、自身の両手を見つめ、グッと握りしめた。
あともう1,2話挟んだら、時間軸を原作の方に寄せようかなと。
でないと、もうしばらくグダグダ続けてしまいそうなので・・・。